坂本 道昭 博士

指導教員名花崎 逸雄   

現在の所属:(株)ジャパンディスプレイ      

 修了年度2022   

博士論文のタイトル :液晶の分子描像からの粗視化に基づくスケーリング理論の構築と粘弾性座屈遷移機構の解明   

博士論文の内容 

層状構造を持つスメクチック液晶は,ソフトマター特有の光学的・機械的特性を発現することができるため,フレキシブルデバイスとして広く注目されている.その機械的挙動は粘弾性的であり,粘弾性係数は,非線形ゆらぎによる波数依存性,周波数依存性を持つ.このため,特異な粘弾性特性を分子レベルで解明することは重要な課題である.本論文では,粗視化分子動力学法(Coarse-grained molecular dynamics,以下,CGMD)と繰り込み群変換を用いて,スメクチック液晶の粘弾性を,実験的に検証可能な低周波領域から現在の実験では到達できない高周波領域までの幅広いスケールで,分子構造を考慮しながら正確に推定する方法を提示する.これにより,特に高周波領域での配向安定性を制御した材料設計が可能となり,超音波を用いた可変焦点液晶レンズなどの新しい産業応用が期待される. 

博士後期課程に進学しようと思った理由 

学生時代に半年間だけ博士後期課程に進学しましたが、将来の展望が明確にならず、その後は企業に就職しました。所属企業では、液晶や半導体のモデリング・シミュレーション技術の研究・開発に従事してきました。企業生活も定年まで後10年を切っており、これまでの技術成果を集約し、ソフトマターに関するモデリングについてアカデミックな立場からまとめ直し、学術論文や博士論文として発表したいと考え、博士課程への進学を決意しました。また、博士号はグローバルに通用する研究者としての称号でもありますので、博士としての地位を得ることで、アカデミックな研究と企業における研究の社会実装の両方に携わることができると考え、社会人として博士後期課程に進学することにしました。 

博士後期課程に進学して良かった事 

企業では収益を最優先とするため、研究開発といえども、ともすれば短期的な成果重視の浅い開発・研究に陥りがちです。しかし、博士後期課程では3年間(私の場合は6年間)をかけてじっくりと研究テーマに取り組むことができます。この期間を通じて、結果に至るまでの一貫した論理性を重視した最先端の研究を行うことができました。指導教官である花崎先生からは、研究過程における一貫した論理の重要性やそれを論文に表現する技術について丁寧にご指導をいただき、グローバルに通用する研究スタイルを身につけることができました。また、これらの研究成果は国際的な一流の学術雑誌に投稿、発表することができました。  

 博士後期課程在籍中に印象に残っている出来事 

企業に勤めており、所属企業とは切り離して大学における研究をしていたので、学会での発表活動には時間的な制約を受けました。北海道で開催されたMNC2018というnano materialに関する国際学会において口頭で発表したのですが、発表前日入りしてスライドを暗記し、発表が終わると東京にトンボ帰りしたことは良い思い出です。 

博士後期課程進学を考える方にメッセージ 

前述の通り、博士後期課程では、3年間(最長、6年間)じっくりと最先端の研究テーマに取り組むことができ、グローバルに通用する研究者としての能力を身につけることができます。この経験は、短期的な収益性が最優先される企業における研究・開発では得られにくいものです。所属する企業において周囲を巻き込んで集団として結果を出す組織的な人間力は重要です。しかし、日本が国際的な競争力を維持するためには、企業名に頼ることなく個としてグローバルに活躍できる素養をもつ博士研究者を増やしていく必要があると感じています。従来とは異なり、企業が若手を組織人として教育し、グローバルな研究者として育てるだけの余裕がなくなってきており、個人の研究者としての実践的な研究能力を重視するようになってきました。ですから、是非ともグローバルに通用する博士研究者としてのスキルを身につけていただき、共にアカデミック分野や企業において日本を活性化し変革していきましょう。