研修報告書 (午前の部)
「議員のコンプライアンスとハラスメント条例の作り方」(午前の部)
① 開催日時 : 2025年(令和7年)8月21日(木) 10時~13時(午前の部)
② 開催場所 : 東京都豊島区東池袋1丁目20−10 としま区民センター
③ 主 催 : (株)廣瀬行政研究所
④ 講 師 : 太田雅幸 弁護士
⑤ テ ー マ : 「議員のコンプライアンス」
⑥ 内容報告 : 以下参照
1.議員であり続けるための規律(住所要件、請負制限)
議員の失職事由
地方議員の被選挙権の要件には「住所要件」「請負制限」がある。
「住所要件」 その地域に3か月の生活実態が確認できないと失職する。生活実態とは、例えば「水道、電気、ガスなどが一般に生活する使用量を満たしているのか。」などで判断される。単に「住民票地がその町にある。」という事では「住所要件」を満たさすことはできない。
この事は、地方議員は、「地縁社会のつながりから生まれ、その地域の代表が地域課題を行政に提起し問題解決をはかる立場である。」ので、そこに住んで実情のわかる人が議員になることが合理的という観点からきている。
「請負制限」 法第92条の2に規定する政令で定める額は、300万円となっている。
「議員であり続けるための規律(住所要件、請負制限)」 → この要件、制限に抵触する → 「議員失職」につながる
2.政治家であり続けるための規律(あっせん収賄、寄附禁止等)
公民権停止事由
公職選挙法は、金のかかる選挙を排除し、選挙の浄化のため、寄付禁止を定めている。
選挙時だけでなく、平時、地盤培養行為のために、いろいろな名目による寄附が行われ、結局、金のかかる選挙となるので、選挙に関するとそうでないとを問わず、一定の例外を除き、全面的に禁止される。
議員としても、常に注意しておくべき事項である。
「政治家であり続けるための規律(あっせん収賄、寄附禁止等)」 → この禁止事項に抵触する → 「公民権停止」につながる
3.政治資金の公開
政治資金の支出の正当性
「政務活動費」は、政務に係る使途に制限されるが、「政治資金」の用途は無制限。そのため例えば「美術品」を購入することも法的には違法とは言えない。そういった事もあり「政治資金」の収支報告書の提出が義務付けされており、国民・住民の監視と批判にさらされることで自律、抑止を自らに課すようになっている。
4.議員として活躍するための規律(ハラスメント 多数決の濫用の問題を含む。)
ハラスメント関係法令
1.セクハラ、ソジハラ、マタハラ → 男女雇用機会均等法(均等法)
2.パタハラ → 育児・介護休業法(育休法)
3.パワハラ → 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
パワーハラスメント-法律上の要件-
パワハラとは
①職場において行われる優越的な関係※1を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの※2により、
③労働者の就業環境が害されるもの※3
であり、①から③までの要素を全て満たすもの
※いじめ、嫌がらせの意図や悪意は、要件ではない。 → 「そんなつもりてなかった」は弁解にならない。
※1優越的関係とは
職制上の上下関係が典型的であるが、それに限定されない。すなわち、抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものであれば足りる。
また、部下から上司などの下剋上的な優越的関係性も存在する。例えば、仕事の専門性で「その人がいないと進まない」などは、その者が部下であっても上司からすると下克上的な優越的関係となる。
では、議員と職員の関係は、どうか。
議員は、職員からみて、上司・部下の関係ではない。抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係といえるか。
↓
・首長と対等に向き合う機関(議会)の構成員であること
・民意によって選出されたという金看板から、職員は議員に対し抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い
↓
議員は、その地位が職員を委縮させ得ることを考えるべき。
優越的関係 -議員と議員の関係-
議員間においても、当選回数、会派の中における役職、地盤・支援者の強固な関係の差、年齢等から、優越的な関係が生じうる。
例えば、当選回数の多い老練な議員と初当選のフレッシュマンの議会内における関係が典型的。
※2業務上必要かつ相当な範囲を超えたものとは
次のようなものが含まれるが「業務上必要かつ相当な」の範囲は、一義的ではない。
↓
・業務上明らかに必要性のない言動(相手のプライバシーを承諾なくSNSに投稿する。)
・業務の目的を大きく逸脱した言動「間口拡大型」(相手の問題事象な対する叱責や指導を超えて、相手を能力がないと貶める発言をする。例「バカ、無能、税金泥棒など)
・業務を遂行するための手段として不適当な言動「背中までぐりぐり型」(過剰に長時間の叱責等)
↓
ただし「パワハラだ」と非難されることをおそれるあまり、言うべきことを言わないことは、議員、職員としての職責の放棄となる。
※3労働者の就業環境が害されるものとは
当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること。
↓
平均的な労働者(職員)の感じ方を標準とする。(相手の意に沿わないことがすべてハラスメントというわけではない)
ハラスメント防止のために
ハラスメントを疑う言動について指摘し合うことの重要性
・人はだれも自分の行動がみえない。「ハラスメントなんかしているはずがない。」とだれでも思い込みがある。
・同僚議員のハラスメントやそれを疑う言動をみたら、「それはダメ!」と指摘し合うことが必要。
多数決の濫用によるハラスメント
委員会において少数会派に属する議員が、「議長の発言はパワハラのように聞こえる」と発言した。議会は、これを議長に対する侮辱、名誉毀損に当たるとして懲罰決議(陳謝)をさせた。
↓
近時、議会の懲罰な対する司法審査が拡大傾向にあることを注意する必要がある。
5.地域のインフルエンサーである議員と権利侵害(名誉棄損、侮辱)
1.名誉毀損
・「Aは15年前に詐欺事件で逮捕され有罪になった。」
・「Bはいまは隠しているが実は入れ墨をしている」等の事実の適示を伴う言論を公然と行うと、たとえ、それが真実であったとしても、AやBに対する社会的評価を貶めるものである。
このような言論は、刑事法上、名誉毀損になることがある。
議員は、全人格的に批判をされる対象である。
2.差別的発言
・ヘイトスピーチ
特定の国や地域の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの一方的な内容の言動。
ヘイトスピーチを行うことは、人の尊厳を傷つける点で許されないだけでなく、幼稚な思考方法をさらけ出すことになってしまう。
3.失言
✕「女性は顔がよければ選挙に受かる。」
〇「私はLGBTと価値観を共有できない。しかし、彼らの人権は守られるべきだ。」
6.議員の「守秘義務」
1.秘密会の議事
2.監査委員の守秘義務
・監査委員が、他に漏洩しないという担保の下に、執行部に説明を求め、的確に監査をすることができるようにするため。
3.外部に開示しないこととされている情報
・守秘義務以外にも、個人識別情報、法人情報、審議・検討等情報※1が情報公開条例や個人情報保護法の開示制度の下、不開示である。
※1審議・検討等情報 -機関間の率直な意見の交換等を阻害する。-
ある条例案の立案の過程で、関係機関が、「この条文には、こういう欠陥があるよね」と発言した。議員レクのなかで、課長が、そのやり取りを紹介した上で、できる限り改善したと説明した。
↓
会派の新聞で「条例案」には、もともと欠陥があることを執行部が認めた!
と掲載。 → その機関との信頼関係にひびが入る。
7.まとめ (感想、振り返り)
午前の部で開催された研修「議員のコンプライアンス」は、地方議員が最低限知っておくべき法令の学びでした。私は、そういった知識を持たずに、または、何となく知っているというレベルで議員になりましたので、こうしてしっかりと勉強ができたことは本当に良かったと思います。
特に「1.議員であり続けるための規律」(住所要件、請負制限)のなかの「住所要件」については、法律のもととなる考え方に触れた思いでした。
「住所要件」が満たされていないと議員は「失職」します。
この定めは、地方議会の議員のみ定められています。
首長や国会議員には適用されないのです。
「それは何故か!」
地方議員は、「地縁社会のつながりから生まれ、その地域の代表が地域課題を行政に提起し問題解決をはかる立場である。」ので、そこに住んで実情のわかる人が議員になるべきという観点からきているのです。
なので単に「住民票地がその町にある。」という事では「住所要件」を満たすことはできず、生活実態が無いとダメなのです。
例えば「水道、電気、ガスなどが一般に生活する使用量を満たしているのか。」・・・などで判断されます。
「住所要件」の成り立ちを知ることで、法律がつくられる過程の一端を知ることができました。この事は、法律を理解する上でとても重要なことであると、講師の太田先生もおっしゃっていました。
議員を続けていく以上、法律を理解することは必須となります。
今後も積極的に学んでいきたいと思います