2025年8月1日(金) 東京都豊島区 としま区民センターにて(株)廣瀬行政研究所主催「自治体の防災・減災対策と議会の役割」というテーマでのセミナーを受講しました。
前半10:00~13:00(3時間)
後半14:00~17:00(3時間)
のセミナーでした。
講師は、跡見学園女子大学環境コミニティ学部教授の「鍵屋一(かぎやはじめ)」先生でした。
鍵屋先生は、板橋区役所の職員として防災課、議会事務局等の幹部を歴任されたのち現在の職に就いておられます。
秋田県出身ということで、先生自身も「言葉がなまっています(笑)」と話されましたが、ときおり出る秋田弁が私には心地良くて話しに引き込まれました。
大口町議会からは、私を含む議会運営委員会メンバー6名と委員会は違いますが同僚議員2名、合計8名が受講しました。
他議会では、石川県、奈良県、高知県、広島県、静岡県、福岡県などオンライン受講を含め全国から参加されていました。(全員で約20名)
研修報告 (前半の部 基本編)
前半10:00~13:00(3時間) 受講内容
テーマ 自治体の防災・減災マネジメント(基礎編)
1.近年の災害と予測される国難被害
2.社会の脆弱性と正常化の偏見
3.自治体の防災対策 ~要配慮者支援対策を中心に~
4.災害時の議会、議員の役割
重要事項のまとめ (前半の部)
1.「リスクコミュニケーション」をどうするのか。「人命第一」 <> 「社会活動の維持」 ・・・能登半島地震では、「人命第一」として自衛隊、消防、警察が災害発生から3週間以上も経っているのに全リソースを「捜索」に当たらせているのが日本の現状。そのため道路や橋などの復旧工事が遅れるという弊害が生まれた。
2.「車避難の問題」・・・日本は原則「徒歩避難」だが、今回のカムチャッカ半島地震による津波被害においても「車避難」が多く大渋滞を起こした。他国のハワイでも同じ現象が起こった。「車避難」による「避難渋滞」の問題は2010年で国でも議論したが、そのまま放置されているのが現状。
3.緊急時「首長」が相談するのは、議会の「議長」が良い。・・・災害時の全権限と責任は「首長」1人が担うのが日本の災害対策基本法である。そのため「首長」の判断一つで大きく変わる。「首長」は誰に相談すれば良いのか。部課長では忖度した返答になるため、議会の議長が良い。
4.「ご近所情報」は「個人情報」ではない。・・・「寝たきりの高齢者がいる。」「車いすが必要な障害者が隣に住んでいる。」などのご近所情報こそが災害時の「命」を助ける情報であり、それを個人情報として秘匿する必要はない。法律も改定されている。
5.災害被害の方程式・・・自然の外力 × 人口 × 社会の脆弱性
6.正常化の偏見・・・「自分は大丈夫。」と思う心。災害の予測が科学的にできる時代になった。備えること、知識を持つことで「助かる時代」になった。あとは「自分は大丈夫。」という正常化の偏見を乗り越えることである。
7.「福祉防災」・・・脆弱な人々も安全安心で尊厳ある「避難生活」や「自立」ができる政策。
8.「応急対策期の議会、議員」・・・「じゃまをしない」を超えて!
・活動ルール(議長への情報一元化)
・活動の道具(情報、場所、機会)
・積極的な情報提供(行政へ、市民へ)
・積極的な地域活動
9.法定上の災害対策本部・・・災害対策基本法23条 自治体が首長を本部長に、自治体職員を本部員として設置 → 議会の関与を嫌っている? !
10.「災害時の議会・議員の使命」・・・住民の命と尊厳を守る!(議会・議員だではできない) → 市町村当局と協働し、国等や国民に働きかける → 災害時でも地方自治と民主主義を守る。(このバランスをいかにとるか!)
11.「議会のサイレントタイムと再会」・・・
・災害対策本部が応急対策を実施中は、議会活動を休止
・執行機関が議会資料を作成し、説明が物理的に可能になる時期以降に再開を
・短時間で提案型質疑を
・感染症期は模範的対策を
12.「応急対策期の議員心得」・・・議員は影響力が大きく、議員による行政批判もマスコミ同様に行政と住民を分断する。 → 行政と議会・議員は、平時と異なり、一体となり、力を合わせ、同じ方向性で応急対策期を乗り越える。
研修報告 (後半の部 実践編)
後半14:00~17:00(3時間) 受講内容
テーマ 実例からみる防災対策における議会・議員の役割(実践編)
1.近年の災害と予測される国難被害
2.社会の脆弱性と正常化の偏見
3.自治体の防災対策 ~要配慮者支援対策を中心に~
4.災害時の議会、議員の役割
重要事項のまとめ (後半の部)
1.「サバイバーズギルト」 ・・・災害や事故、戦争などで、自分だけが生き残ったことに対して感じる罪悪感や自責の念
2.「財務省の裁量問題」・・・財務省の裁量に「人命」はベネフィット(期待される効果)に入っていない。
3.「重要な地域防災政策とは」・・・①住宅の耐震化+家具止めなど室内の安全化 ➁要配慮者支援 ➂防災教育
4.「津波の心配のない大口町は、全ての家屋を耐震化することで大きな減災対策となる。」・・・住宅耐震化が一丁目一番地
5.「凶器はマイホームだった!」・・・死因の83.3%が建物倒壊等による。
6.「お年寄りと若者に犠牲が集中した。」・・・壊れたのは、古い家や木造アパートだった。耐震性の弱い住宅が最大の課題。
7.「賃貸住宅は耐震性公表を」・・・熊本地震で1階が潰れた南阿蘇村のアパートは昭和56年以前に建てられた(昭和40年代)極めて弱いと推定されるアパートだった。外壁を綺麗に塗っただけで耐震化されていなかった。そのアパートの1階に入居していた大学生が圧死した。
8.「正常化の偏見 自分は大丈夫」・・・自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう人間の特性。
9.「率先避難者たれ」・・・「正常化の偏見を打ち破る。」 → 「ハザードマップを信じるな」 → 「釜石の奇跡」 → 「東日本大地震(3/11)の2週間前に行った子どもたちに考えさせた避難訓練の成果が出た。」 → 「ハザードマップで白地でも過去の大地震では津波が来た歴史があった。」 → 「子どもたちは白地よりさらに上に逃げた。」 → 「同調性バイアスで油断していた大人たちも巻き込んでみんなでさらに上に逃げた。」 → 「全員が助かった。」
10.「災害時の災害対策と個人情報」・・・東日本大震災では、安否確認という生命がかかっている状況でも、個人情報の取扱いに慎重になり自治体はほとんど外部提供しなかった。一方、南相馬市は災害安否確認とは異なる目的で保有する障害者手帳情報について、災害を理由に第3者提供や目的外利用できるかどうかを検証し、最終的には第3者提供を実施した。 → 2013年6月 災害対策基本法改正 → 市町村は「避難行動要支援者名簿」作成義務 → 災害時には避難支援等関係者に名簿情報を提供できる。この場合、本人の同意は不要(49条の11第3項)
11.「トイレは都市防災の最重要対策 人は1日に5回のトイレ」・・・トイレが使えないとマンション住民が多数避難所に押し寄せる → 自治体はマンション住民の避難所までは用意していない。 → トイレも水・食料もなければ社会不安が増大、パニックの発生も → 災害用トイレを1回分でも備蓄している人は22.2% → 4日分以上備蓄している人は4% → 備蓄しない理由は「特にない」が45%
12.「災害時の議会、議員の役割」・・・地域での支援活動 → 避難所の運営支援、在宅避難者情報のニーズ把握など、できることは何でも。 → やってはならないこと(ネガティブリスト)を規定するのも効果的(大声を出さない、職員に指示しない、市や職員の悪口を言わない・・)
13.「窓口を議長に一元化する」・・・「言ったもの勝ち」を防ぐ、職員を守る。
14.「視察の受入れ」・・・議員が視察を受入れることで、執行機関の負担を軽減しつつ、外部支援の確保をはかる。
15.「要望活動」・・・自治体職員が時間をかけて手続きを踏むよりも、議会・議員がその政治力を活かして国や関係機関に要望し、早期に対策を実施させる。
16.「復興計画」・・・復興計画を議決事件にすると、議決による正当性確保ができるが変更しづらく硬直的になる。 → 復興ビジョンのような大きな枠組みを議決し、具体策は議会質疑を通じて充実するのではどうか。
17.「オンライン議会の重要性」・・・本会議が開催できないと、最終的な意思決定が首長の専決に多くをゆだねられる。その利害得失を考える必要がある。
18.「人を健康で幸福にするのは良い人間関係に尽きる」・・・日常から「人間関係」「近所関係」が良好で、安全安心の地域づくりが災害や危機に「も」強くなる!
今回のセミナー研修は、大口町議会にまだ整っていない「議会BCP Business Continuity Plan(事業継続計画)」策定の一助とするためのものでした。
鍵屋一先生のお話しを聞いているうちに「議会BCPの形や体裁だけを整えても、全然ダメだなぁ。」と痛感しました。
「大口町が災害に遭った時、大口町議会はどうするんだ。」
その事を議員全員で真剣に議論しなければいけないと思ったのです。その上で・・・
「それなら議会BCPが必要だな。」→「災害規定で良いのでは。」→「もっと簡易な災害マニュアルで良いのでは。」→「マニュアル化しても紙で印刷しただけでは、しまってしまいここぞという時に役に立たない。常備できる災害時用のハンドブックみたいなものを作成したらどうか。」
など、色々なことを想定して話し合いを重ねていく事が大事であると思いました。
先生の資料に「議会BCP策定の順序」というものがあります。
その中では
「魂を入れる(心。対話で仲間づくり) 魂の入らない計画はただの紙!」
としてあります。
まさにその通りだと思いました。
その事をよくよく考えて進めていきたいと思います。😐