「ただいまー」
「あっ、天葉姉様、おかえりなさいっ」
そう言いながら、パタパタとスリッパを鳴らして樟美が出迎えてくれた。
「あーー今日もバイト忙しかったぁ……疲れたあ……」
「ふふふ、お疲れ様です。お夕飯もうできますから、座って待っててください」
「あーありがとー樟美〜」
半ば樟美に引きずられるように、部屋に入る。とりあえず樟美から離れて、洗面所で手洗いとうがいをしてくる。そして、食器とか出てないのを出しながら、「今日のお夕飯はなにー?」といつもの調子で聞く。
「今日のお夕飯は、久しぶりにシチューにしました。……ちょっとだけ、昔――天葉姉様にシルトのお誘いをして頂いた時のことを思い出しまして」
「あー……そう言えば、ちょうどこの時期だっけ」
「はい」
思い返せばもう五、六年前。最初のアールヴヘイムが解散になって、もうすっかりリリィを辞める気でいながら、特別寮に入って、そこで樟美と出会って。その時、初めて樟美に作ってもらったのがシチューだった。
その時、樟美の話を聞かなかったら、そのままあたしは樟美とシルトになりたいなんて思わなかっただろうし、そもそもリリィを続けてはいなかったと思う。お陰でちょっとシチューは冷めちゃってたけど、それでも美味しかった。あれ以来、そう言えば樟美のシチューは食べてない。
「お待たせしました」
そう言って、樟美がいつかと同じように、シチューをお皿に入れて持ってきてくれた。
「ありがとー! 食べていい?」
「はいっ! 今日は温かいうちに食べて下さいね」
「はは、そうする」
そう笑いながら一口食べる。
「うわあ、凄く懐かしい…………! そうそう、こんな味だった」
「もう、天葉姉様ったら……。覚えてない癖に」
「忘れる訳ないよ、あたしにとって大事な味だもん」
「ふふ……そう言われると、なんだか少し恥ずかしいです」
樟美も自分の分をよそったお皿を持ってきて、向かいの椅子に座った。そして、一口食べて「久しぶりに作りましたけど、美味しくできて良かったです」って笑った。
「それにしても、あの時は樟美がまた中等部の時だったんだよねー……時間が経つのは早いなあ」
「もう天葉姉様ったら……。おばあちゃんみたいです」
「そんな事ない」
「ふふ、そうでしょうか」
そんな事を言い合いながら、いつものように笑いながら夕飯を食べた。
+++
そうして夕飯を食べた後、洗い物をして、ソファに樟美と座りながら、ぼんやりとあの日の事を思い出していた。
『何があっても、あたしは傍にいるから。だから、お願い』
『でも私はっ、天葉様や皆が思う程、出来たリリィなんかじゃなくて、私は何もできない駄目なリリィなんです! 天葉様のシルトなんて相応しくありません!』
『それでもよ! あなたの事は私が守る! ずっとあなたの傍にいるからっ! 約束する、だから……!!』
あの時は本当に必死だった。今思えば何から何まで自分勝手だったなあ、って反省するけど、でも、あの日の先が今日だって考えれば、まあ何だかんだ良かったのかもしれない。リリィを続けてなきゃ見れなかった景色もあるだろうし、それにこうして樟美と幸せな日々を送れてるのも、ああやって行動したから得られたものだとも思うし。随分遠くまできたもんだ。
「天葉姉様?」
「んー? どうしたの樟美?」
「私……、天葉姉様とシュッツエンゲルになれて、本当に良かったです。天葉姉様がいなかったら、きっと、私はずっと一人だったと思いますし。だから、ありがとうございます」
「私こそありがと、樟美。色々と樟美に迷惑かけちゃったと思うけど」
「そんな……! 私に比べたら全然……!!」
「いやいやそんなことないって!!」
そう言い合って、それから二人して笑った。
きっとこれから、また色々と二人で悩んだり、大変な時が来るかもしれない。でも、私たち二人なら、それでも乗り越えていける、そんな気がする。だから。
「これからも、よろしくね、樟美」
「はい、天葉姉様っ!」
もう何度もそんな事を言ってる気もするけど。でも、何度言っても言い足りない。それぐらい、樟美の存在は今でも大きいんだ。願わくば、こういう日々がいつまでも続けば良いんだけど。