#3

「あ〜……疲れた……」

「お疲れ、いっちゃん……」

 カフェテリアの窓際の席の机に突っ伏していると、樟美が優しく頭を撫でてくれた。こう言う時、本当に樟美の天使さを改めて実感して、中等部時代の私をぶん殴りたくなる。樟美と縁を切ろうと考えた私が大馬鹿だった。

「あぁ……ごめんね樟美……」

「へっ?! 急にどうしたのいっちゃん……?!」

 思わず声に出ていたようで、樟美が素っ頓狂な声を上げた。「ごめん、何でもない」と言うと、「ほ、ほんとに……?」と戸惑いながらも、頭を撫で続けてくれた。あ〜〜……、本当に樟美は天使。こういう時、樟美とシュッツエンゲルを結んでいる天葉様が、すごく羨ましくなる。譲ってくれないかな本当に。学年ごと。

「あらあら。誇り高きアールヴヘイムのメンバーであろうお方が、なんてはしたない……。食っちまいますわよ?」

 そうして至福の時間を過ごしていると、そんな時間をぶっ壊そうとする奴が現れた。

「今亜羅椰に構ってる余裕はないから、あっち行って」

「日に日にわたくしへの扱いが酷くなっていません?」

「別にいつも通りでしょ」

 あっち行けって言ってるのに、亜羅椰が空いた席に座った。こいつ本当にそう言うところの神経図太いな。

「それで、樟美、この人どうしたんですの」

「なんか今日、実技の授業がすごく大変だったんだって……」

 それを聞いた亜羅椰は、分かりやすくため息をついた後、「それぐらいでへばるだなんて、情けない話ですわね」と、分かりやすく小馬鹿にしたように言ってくる。けど、今日はそれに言い返す気力もない。

「はいはい、まだまだあたしは未熟ですよーだ」

 すると、亜羅椰が小さくまたため息をついた後、「あぁ、そういえば」と思い出したように樟美の名前を呼んだ。

「先ほど天葉様が、山側の花壇の手入れをしていましたわよ?」

「え、ほんとに……?」

「えぇ。そこのよもぎ餅はわたくしが見ておきますから、気にせず行ってくださいまし」

 そんな亜羅椰に少し戸惑いつつも、樟美は「う、うん……じゃあ行ってくるね、いっちゃん……」と、少し申し訳なさそうに言って、カフェテリアを後にした。あぁ……私の天使が……。と言うかそれよりも。

「何、亜羅椰、よもぎ餅持ってきてくれたの?」

「は? 何を言っていますの? あなた」

 さっきと同じくらい馬鹿にしたようなトーンで亜羅椰が言う。

「え、だって今よもぎ餅って」

「そんなのあなたの事ですわよ。机にへばっているあなたの後ろ姿がよく似ていたもので」

「似てるか馬鹿ッ!!」

 思わず起き上がってツッコんでしまった。そんな私を見た亜羅椰が「あら、お元気そうで何より」って言いやがった。うるさい、あんたのせいじゃ。

 先ほどの仕返しに大きくため息をついて、「あーあ、あんたといたら余計疲れるし、私は部屋に戻るわ。じゃあね亜羅椰」とひらひらと手を振りながら、出入り口の方へ向かう。

「相変わらずつれませんわね、あなたは。これからわたくしの愛と情熱で、元気にして差し上げようと思っていましたのに」

「嫌な予感するからやっぱり帰るわね。また明日。ついてこないでよ犯罪者」

「犯――ッ?!」

 この前といい、今日といい、地味に亜羅椰そう言うところは気にするのね……。とか、そんな事をぼんやりと思いながら、部屋に戻る。多分樟美もそうそう早くは帰ってこないだろうし、帰ってくるまで寝てやる。このやろ。ふて寝とかじゃないから、本当に。