「んー……」
クリスマスも近づいてきたある日、あたしは樟美を探してさまよい歩いていた。理由はただ一つ。樟美にクリスマスの予定を聞くため。
樟美とクリスマスを過ごすのは、別に初めてじゃない。特別寮で一緒に過ごしていた時も、まだ甲州での件から立ち直れてなかったあたしに気を使って、樟美は色々とお料理を作ったり、慣れてないながら、一生懸命話をしてくれたりしたのを、今でも思い出す。あの時は本当に嬉しかった。
とはいえ、樟美との関係もあの頃から変わったし、今年は去年の恩返しもしたいから、樟美の予定が空いているようだったら、一緒にどこか出かけたいなー……なんて思っている。まあ、壱たちと過ごすんであれば、それはそれで構わない。うん。別に良い。
そんなわけで、樟美を探して三千里、あたしは校舎をあちこち歩き回る。さっき樟美たちの部屋を訪ねた時には居なかったし、けど、二人とも授業とかは無かったはずだから、多分校舎のどこかにいるはず。
そう思って歩き回っているけれど、面白いほど会わない。アールヴヘイムの控室、夏によく手入れしていた校舎裏の花壇や、いつか一緒に星を見た木の下、それに図書室……思い当たる場所を歩き回ってみたけど、どこにも樟美の姿は見当たらなかった。
これ以上思い当たる場所もないし、流石に少し疲れたから、カフェテリアに向かう。あの樟美の事だから、カフェテリアでお茶してる……なんてことはあんまりないと思うけど、流石に少し座りたい。
あくびをしながら、カフェテリアに続く廊下を歩いていると、その少し先に見覚えのある髪色の二人が歩いているのが見えた。
――樟美っ!!
その姿を見たら嬉しくて堪らなくて駆け寄る。
「あっ、樟美ー!! クリスマスって予定空いてるー?!」
「そ、そそ天葉姉様?! 突然何を……っ?!」
びくっと樟美が振り返って、その隣の壱がはぁ、と、まるでやれやれと言うようにため息を吐いた。
「天葉様……。お気持ちはよー-っく分かりますが、もうちょっと周りも気にした方が良いと思いますよ……」
「あっ」
壱に言われて周りをきょろきょろと見回す。驚いていたり、なんかちょっと顔を赤くしていたり、少し遠くには、夢結っぽい姿がなんか落ち込んでいるように俯いていたり、思ったよりたくさんの人がいた。
「…………」
「まあ私たちも、天葉様を探してたところでしたし、ちょうど良かったです。ほら、くすみん」
「う、うん……ありがとう、いっちゃん」
「それじゃあ私はこれで」
一つお辞儀をして、壱は振り返ってすたすたとどこかに行ってしまった。
「……ごめんね? 樟美」
「…………」
一方の樟美は、よっぽど恥ずかしかったのか、さっきの夢結と同じように俯いて、私の袖をきゅっと掴んでいた。
+++
今日は依奈が部屋を留守にしているのもあって、樟美と一緒にあたしの部屋にやってきた。入って来るや否や、ぷるぷると手を握って、「天葉姉様っ!!」と樟美にしては珍しく大声でキッ、とあたしを睨みつけた。
「ど、どうしたのさ樟美……」
こんな樟美を見るのは初めてで、ちょっと気圧される。何度か何かを言おうと口をぱくぱくさせた樟美は、すぅ、と息を吸って、もう一度「天葉姉様!!」とさっきよりは小さな、それでも樟美にしては大声であたしを呼んだ。
「だからどうしたの樟美……?」
「天葉姉様っ! その、ああいう事はっ! 皆の前で言わないでください……!! 恥ずかしい、です……」
最初あった覇気も、みるみる萎んで、同じように声も小さくなっていった。まあ、でも。
「ご、ごめんって……! ほら、その……、契りを結んで初めてのクリスマスだからさ? だから……ね?」
「っ……、それは、そうですけど……っ! でも恥ずかしいものは恥ずかしいです……!!」
顔を真っ赤にして、ぽかぽかと叩いてくる。そんな樟美もまた可愛いんだけど、でもやっぱり悪いことをしたなあ、と反省する。
「本当にごめんね、樟美。お詫びに何でもしてあげるから……ね?」
「……本当に、何でもしてくれるんですか」
流石に「何でも」は言いすぎたかな、と思ったけど、ぷっくり頬を膨らませた樟美を見て、今更「やっぱなし!」とは言いにくい。
「うっ……で、でもあたしにできる範囲だよ?!」
「…………分かりました」