#2

「んー……いい天気だなあ……」

午前の講義が終わって、私は一人、校舎前の広場でのんびりと過ごしていた。春の陽射しが心地よくて、なんだかすごく気が緩んでくる。

梨璃達からよく聞く梅様が、授業に出ないでどこかで居眠りしてる理由がなんとなくわかる気がする。すごく気持ちが良い。

「あ……いっちゃん」

ぼんやりしていると、偶然目の前を通った樟美が声をかけてきた。

「あら樟美じゃない、どうしたのよ」

「えと……ちょっとお散歩してた……。いっちゃんは日向ぼっこ?」

「あーまあそんなとこ」

「一緒に良い?」と樟美が聞いてきたので、それに「もちろん」と頷くと、背後から「ふふふ……」と嫌な声がした。

「あらあら……こんなところに美味しそうな獲物が」

「ひっ?!」

「あんた、本当にホラー映画みたいに出てくるわよね、亜羅椰」

振り返りもしないで言うと、「狩人たるもの、それぐらいは当たり前でしてよ?」と悪びれもなく返ってきた。

「そうは言うけど、本物の狩人なら、そもそもそんなことも言わないで狩るでしょうに」

「優しさですわ」

「いるかい、そんな優しさ」

ビクビクと声を震わせながら「いっちゃん……」と言う樟美の手を繋いであげながら、亜羅椰につっこむ。

「それで? なんの用?」

「いえ別に。呆けているあなたと樟美を見かけたものですから」

「って言うのは後付けで、実際は樟美の後をついてきてたんでしょ」

「ふぇっ?!」って驚く樟美をよそに、「そうとも言いますわね」と相変わらず悪びれもなく亜羅椰は言う。完全に犯罪予備軍なんだけども。いやもう予備軍っていうのもおこがましいか、犯罪者だ。

「さあ、今日という今日は、お二人とも食っちまいますわよ――」

「行こ、樟美」

「う、うん……」

なんか犯罪者が言い始めたので、離れるべく立ち上がって歩き出すと、「ちょ、ちょっと待って下さいましっ?!」と亜羅椰が追いかけてきた。

「何よ亜羅椰、まだ何か用事?」

「人の話は最後まで聞きなさい、と教わらなくて?!」

「教わったけど、犯罪者に聞く耳はありませーん」

「犯罪者?!」

事実を言ったまでなのに、なんか亜羅椰が驚いている。え、何、まさか自覚なかったの?

「いっちゃん……怖い……」

「そうだねー怖いねー、さっさと行こ」

私に犯罪者呼ばわりされたのが、相当ショックだったのか固まっている亜羅椰をよそに、樟美と静かな場所を探して歩き始めた。

「あ、諦めませんわ……遠藤家の名誉の為に……」

とかなんとか聞こえたけど、へし折れちまえ、そんな名誉。というかそんな事で名誉を使うな。っていうか、そもそも名誉にするな、そんな事を。