目覚ましが鳴って、私はまだ眠い目を擦りながら、起き上がる。そうして、隣で気持ち良さそうに眠る同居人を、ゆさゆさと起こす。
「梨璃、起きなさい。朝よ」
「んんぅ……あと五分……」
「そういう事言って、ちゃんと起きた試しがないでしょう。起きなさい」
無理やり布団を引っぺがして、カーテンを開けると、部屋中に太陽の光が差し込んで、どうにかまだ寝ようとする梨璃は、耐えきれなくて起き上がった。
「うぅ……夢結さん、ひどいです……」
「ひどくないわよ。朝ごはんの支度をするから、顔を洗ってらっしゃい」
「はぁい……」
眠そうに目を擦りながら、梨璃は洗面台のほうに向かっていった。閑さんから聞いてはいたのだけど、思っていたよりも梨璃は朝に弱い。まあ、私も百合ヶ丘にいた時は、よくルームメイトの祀に起こしてもらっていたのだけど……。
梨璃と、そんな生活をするようになって、もう少しで三か月。最初はどうなることやら、と思っていたのだけど、案外なんとかやれている。
一緒に大学に行って、授業は別々だけど、一緒にご飯を食べて、一緒に家に帰ってくる、っていう生活は、百合ヶ丘にいた時とはまた少し違って、それが今でもたまに新鮮に感じるし、何よりも、幸せだった。まあ、一緒にいる時間が増えた分、些細なことで言い合いになることも増えてしまったのが、悩みの種ではあるのだけど……。
「夢結さんって本当すごいですね……ちゃんと起きれるだなんて。私なんて、気を抜いたら二度寝しちゃうのに……」
「私だって、そんなに朝は強いほうではないわよ? けれど、二人して二度寝して、寝坊したら笑えないでしょう」
「それはそうですけど……」
「ほら、そろそろご飯が出来るから、準備して頂戴。今日は、あなたの好きなフレンチトーストだから」
「えっ?! ほんとですか?! わあい! すぐ準備しますねっ!!」
ぱたぱたと駆け寄ってきて、私の横から覗き込んで、「ほんとだ!!」って嬉しそうな声を上げて、梨璃は、いそいそと隣の食器戸棚から、お皿とフォークを取り出していた。
百合ヶ丘にいる時は、これと言って料理とは無縁だった私なのだけど、一人暮らしをする、って決めたときから、ちょくちょく祀に料理を教えてもらっていた。おかげで、今は人並み程度には、料理は出来るようにはなった。とはいえ、まだ多くは、祀に書いてもらったメモを見ながらじゃないと出来ないのだけれど……。
このフレンチトーストも、祀が「いつも一緒じゃ味気ないでしょう?」と気を利かせて教えてくれたものなのだけど、梨璃が来るまでは、一、二回ぐらいしか作ったことがなかった。
けれど、梨璃が、冷蔵庫に貼ってあったメモを見ている時に、「食べてみたい」なんていうものだから作ったら、意外と好評で、「また作ってくださいね!!」……なんていうものだから、その口車に乗せられて、いつの間にかレパートリーに入っていた。
梨璃が出してくれたお皿に、フレンチトーストを盛り付けて、テーブルの前に持っていく。
「うわぁ、良い匂いですっ!! 頂きます!!」
「えぇ」
そうして梨璃は、切り分けたフレンチトーストを一口食べて、「やっぱり、夢結さんのフレンチトーストは美味しいですぅ~……」と顔を綻ばせていた。そんな梨璃に続いて、私もフレンチトーストを口に運ぶ。……うん、悪くないわね。
「そういえば夢結さん、今日は先に帰ってて貰ってもいいですか?」
「? どうしたの?」
「今日の授業が終わったら、二水ちゃんとお出かけしよう、ってお話をしてて! お夕飯までには帰ります!」
「えぇ、分かったわ」
確か二水さんは、ライターの仕事に就くために、文系の大学に進んだって、梨璃から聞いていた。私たちとは違う大学なのだけど、今でもそうやって交流があることは良いことだと思う。
そんな話をしながら、梨璃と朝ごはんを食べて、身支度を整えてから、私はベッド横に置いてある、美鈴お姉様の写真とその横の結梨の写真に手を合わせる。こうして手を合わせるのは、私の毎朝の日課だった。
そこに、梨璃がやってきて、私と同じように手を合わせた。そして、元気な声で「美鈴お姉さま! 結梨ちゃんっ! 行ってきますっ!」って笑っていた。
「梨璃……」
「私にとって、お二人とも大切な人達ですから!! これぐらい当然ですっ!!」
「……まったく、あなたは」
そうして、私たちは今日も家を出る。今日も良い一日になりそうね、梨璃。