『――市内の今夜の天気は晴れるでしょう。お昼は気温が高めになりますが、明朝は冷え込むことが予想されますので――』
「もう春なのに明日の朝は寒いのかー」
「そうですねー。お出かけの時とか、何枚着こむか迷っちゃいます」
夕方、そんな話をしながら樟美とお夕飯の準備を進める。今日は、この前夢結たちに会ったことに触発されてかカレー。樟美のカレーは、本当に外のレストランと引けを取らないほどおいしいから、リリィじゃなくなった今でも、ついついたくさん食べてしまう。
『――今夜はこと座流星群です。条件が良いところでも一時間に五個程度と数は少ないですが、運試しもかねて、空を見上げてみてはいかがでしょうか――』
「へえ、今日流星群なんだ」
「ですねー……」
樟美が珍しく少しだけ反応してる。
「何ー? 樟美、見に行きたいの?」
「ふぇっ?! あ、えと、そう言う訳じゃ……」
とは言うけれど、顔に分かりやすいほど出てる。
「別にもう門限とかあるわけじゃないんだし、素直に見に行きたいなら行きたいって言っても良いんだよ?」
「そ、それは……そうですけど……」
もごもごと口籠ったあと、「天葉姉様、見に、行きたいです……」と少し声小さめに言ってきた。
「素直でよろしい。じゃあ、ご飯食べたら近くの公園とか行ってみよっか」
「はい……!!」
樟美の目がすごくキラキラしていた。ここまで樟美のキラキラした目を見たのは、百合ヶ丘にいた頃、花壇の整備とかしてた時に、横で樟美が見てた時以来かもしれない。
「とりあえず早くご飯食べよ、お腹空いた」
「あ、はい! もうちょっとで出来上がるので待っててください……!」
「はーい」
とはいえ、樟美が言わずともあたしから誘っていた。元々百合ヶ丘にいた頃も、中庭がいつも夜中は電気が消えて、夜空がすごく綺麗だったから、何かと悩んだときは良く星を見に外に出てたし。お陰で何度か夢結と会うこともあったけど。本屋さんでよく星座関連の本を漁りに行ってた時もあったし。
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ご飯を食べ終えて、食器洗ったりした後、温かい飲み物を水筒に入れて、それとレジャーシートをもって、近所の公園まで出かけた。
ここの公園は、通路こそ電灯はついているけど、茂みに囲まれたところが良い感じに暗いのを、ここに引っ越してきてばかりの頃に知って、それ以降ちょこちょこ見に来ている場所だった。最近は色々とやる事が多くて見に来れてなかったけど。ただまあ、百合ヶ丘の星空には敵わない。
「うわあ、綺麗ですね……!!」
とはいえ、樟美にはドンピシャだったみたいだ。
「綺麗でしょ? ここ引っ越してきたばかりの時に見つけたんだよね」
「もっと早く知りたかったです」
「あはは、ごめんごめん。色々と忙しかったからさあ」
そんな話をしながら、レジャーシートを広げて寝転がる。春の星座が広がってて、北斗七星も真上に広がってるのがよく分かる。
「でも今日一時間に五個、って言ってましたよね?」
「そうだねえ、夏の流星群と比べたら少ない方だけど」
そう言った時、樟美がふふふ、と笑った。
「天葉姉様、お詳しいんですね?」
「まあねー、百合ヶ丘にいた頃、一人でよく見てたから」
「そうだったんですね……誘って欲しかったです」
少しむくれたように樟美が言う。
「ははは、ごめんってば。でもほら、これからはいつでも見に来れるし、ね?」
「……それは、そうですけど」
それでも少し納得言ってなさそうな樟美の頭を撫でながら、二人で星空を見上げる。さっき樟美がお皿を洗ってる時に調べた情報だと、極大の時間は二十二時頃。今が二十一時五十分くらいだから、まあこれからが一番見えるとしたら、この時間だけど――如何せん、今日は半月が明るい。
「早く来ないかな……」
「来るといいねぇ……」
そんな事を言いながら、そっと樟美の手を握る。突然握ったもんだから、「天葉姉様……?」と驚きながらも、手を握り返してくれた。
「えへへ、百合ヶ丘の時に誘わなかったお詫び」
「もう……、天葉姉様ったら」
そうして、二人で流れ星が来るその瞬間を待った。
けど、流石に数が少ない流星群だからか、三十分、四十分待っても、なかなか流れてはこなかった。
「来ないですね……」
「ま、元々数が少ない流星群だからね、仕方ないよ」
元々数が少ない、って言うのもそうだけど、ここはあくまでも街中の公園で、近くにビルはないけれども、やっぱり空がそれほど広くはないから、見えないところで流れている可能性もある。そういう意味でも、まあ、今日は運がなかったのかもしれない。
「さて、そろそろ流石に冷え込んできたし、もうあとちょっとしたら帰ろっか」
「はい……」
少し残念そうな樟美の為にも、帰る前に一個ぐらい流れてほしいもんだな――なんて、思いながら星空を眺める。来い、来い、と心の中で唱えた、その時。
「「あっ!」」
天頂を、一筋の光が走った。二秒くらい流れて、消えてった。
「天葉姉様!!」
「うん、見えたね」
暗がりでも、樟美が凄く嬉しそうな表情をしているのが、手に取って分かるぐらい、声色がいつもより高かった。
その後、レジャーシートを片付けて、忘れ物がないか確認して、家までの帰り道を歩く。樟美は凄くご機嫌だった。
「嬉しそうだね、樟美」
「はい! お願いごとしちゃいました」
「へえ、何お願いしたの?」
すると樟美は、少し恥ずかしそうに笑いながら「秘密です」と言った。
「えー教えてよ」
「ダメです」
「何、そんなあたしに言えないこと?」
「そ、そういう訳じゃないんですけど……秘密ったら秘密ですっ!!」
「えー」
そんな会話をしながら家に入る。まあ、あたしもお願い事はしっかりしたんだけどね。『樟美と一緒にずっと居られますように』って。……樟美と一緒だったら嬉しいんだけど。