「んーー……今日はこんなところかな……」
「おっ、樟美お疲れ様」
そう声を掛けると、樟美が「天葉姉様、ありがとうございます」と、ふわっと笑う。
二人暮らしを始めて、本格的に勉強がしたい、と樟美が言ってきたから、あたしの持っているお花の育成とかの本を渡して、樟美に読ませたり、あとは百合ケ丘の時の部屋から持ってきた観葉植物やお花のお世話とかをさせている。
最初こそ大変そうだったけど、それもこの半年で、だいぶ手馴れてきた。あとは、お金の問題さえどうにかなれば、本格的にお花屋さんを開いても大丈夫そうかも、って最近は思っている。
「あっ、もうこんな時間……お夕飯作りますね」
「うん、よろしくね」
そうして樟美が準備している姿を見ていると、樟美と特別寮で暮らしていた時の事を思い出す。あの時は、あたしも樟美色々と余裕がなかったなあ……。
「……あっ」
樟美が、調味料の棚を開けた樟美が、調味料の入ってる棚を開いて声をあげた。
「どうしたの?」
「あっ、いえ、その……調味料が切れちゃってて」
「あら。買い物行く?」
そう聞くと、樟美は「そうですね、材料も少なくなってきてますし、行きたいです」と頷いた。
「じゃあ行くか」
「はい!」
+++
軽く身支度を整えて、近所のスーパーに向かった。
「そう言えば今日の夕飯は何?」
「今日は天葉姉様が好きなカレーにしようかな、って」
「えっ?! 本当?!」
樟美のカレーなんて、百合ヶ丘の特別寮にいた時に作ってもらった時以来な気がする。樟美の料理は全部美味しくて好きなんだけど、その中でも一、二を争うくらい好きな料理だった。
そうしてスーパーに辿り着いて、かごを持って店内に入る。時間が時間だからか、主婦の方々でいっぱいだった。
未だにこういう人混みが苦手な樟美と手を繋ぎながら、店の中に入る。そうして、樟美が人参やジャガイモとか、カレーの材料を放り込んでいく。そんな樟美を見ながら、ふと前を見ると、そこに、どこか懐かしいシルエットの二人を見つけた。
「ねえ樟美」
「はい? どうしました? 天葉姉様」
「あれ、夢結と梨璃じゃない?」
「え?」
私が指差すほうを見て、樟美が「あ、ほんとだ」と声を上げた。
黒髪のロングの女性に、頭一つ分低い、桃色の髪をサイドにまとめている子が、その女性に笑いかけている。その笑顔はまさしく、百合ヶ丘で見たあの二人で間違いない、と思った。だから。
「夢結に梨璃じゃない、久しぶり!!」
そう声を掛けた。すると、そんな二人が驚いたようにこちらを振り返った。やっぱり。間違いじゃなかった。樟美に「行こ」と声を掛けて、二人のところまで歩く。
「あっ、天葉様に樟美さん! お久しぶりですっ」
桃色の髪の子――梨璃さんがぺこぺことお辞儀をしてきた。黒髪の方――夢結も、「久しぶりね、天葉に樟美さん。卒業式以来かしら」と言ってきた。
「そうだねー。でも良かった、二人とも幸せそうじゃない」
梨璃さんの
「……そう言うあなた達こそ、相変わらず幸せそうで何よりね」
目をそらしながらそう言ってきた。
「ちょっと、そう言う事は、しっかり目を見て言いなさいよ」
そう言ってみるけど、変にむくれたような表情をして、返してこなかった。すると、梨璃が夢結の腕に抱きついた。
「おー、見せつけてくれるじゃない」
「そっ、そう言う訳では――っ」
顔を真っ赤した夢結が、もごもごと何か言いたそうにした後、「行くわよ、梨璃」と梨璃の腕をそのまま引っ張りながら、店の奥に歩き始めた。「あ、ちょっと、夢結さん?!」と驚きながら、梨璃もそれに引きずられていく。
「もう、天葉姉様ったら、いたずらが過ぎますよ」
「えー、だってあの二人面白いんだもん」
笑いながら、そんな二人の後をついていく。懐かしさやらなんやらで、ついついいたずらしたくなってしまったけど、でも、本当にあの卒業式の時のことを知っているだけに、今もこうして幸せそうで本当に良かった。
+++
その後、樟美が私が茶化しすぎたのを気にして、梨璃たちの夕飯の材料選びを手伝っていた。夢結には「ごめんってば」って謝ったけど、終始白い目で見られていた。
あたしたちもあたしたちで夕飯の買い物を終えて、スーパーから出てきた。
「お二人とも、今日はありがとうございました!! 今度、ゆっくりお茶でも飲みに行きませんか?!」
なんだか疲れた顔をしている夢結を差し置いて、梨璃さんがそう笑いながら言ってくれる。
「おーいいねぇ。そう言えば卒業してからの連絡先知らなかったし、交換しようよ」
「あ、はい! 是非お願いしますっ!!」
そう言って、携帯の赤外線で連絡先を交換する。樟美も同じように梨璃さんと交換していた。
「夢結さんも交換しませんか?!」
「……まあ、良いわよ」
あまり乗り気じゃなさそうな夢結も、なんだかんだと交換してくれた。案外、夢結は昔からそういう所がある。
そうして、「じゃあまた!」と手を振ってくれる梨璃に手を振り返しながら、夢結たちと別れて、帰路につく。
「まったく、天葉姉様ったら……」
呆れたように言う樟美に「まあまあ、楽しかったから良いじゃない」と返す。すると、「まあ……それもそうですけど……」と少し納得していなさそうな返事が来た。
「まっ、それはそれで、早く帰ろ! 久しぶりの樟美の肉じゃが食べたいし」
「はいはい、分かりました」
そんなやり取りを交わしながら、私たちは家に帰りついたのだった。