「……はぁ」
あたしはため息をついて、起き上がる。明日もバイトがあるって言うのに、なかなか寝付けなくて困ったもんだ。
隣を見れば、百合ケ丘の時に出会って、それからずっと付き添ってきた樟美が気持ち良さそうに眠っている。そんな樟美の頭を優しく撫でる。
『もしさ、二人ともここを卒業した時、あたしが樟美と二人暮らししたい、って言ったら、樟美は一緒にいてくれる?』
いつか、樟美にそう聞いた事があった。そしたら。
『もちろんです! 是非一緒に居させてください!』
樟美がそう笑顔で答えてくれた。それから、あたしと樟美の中で、二人の中で、穏やかな暮らしをする事が夢になっていった。
当時はリリィだったから、そういうことを考えるのはおかしかったのかもしれない。でも、元々あたしはリリィになんて興味はなかったし、樟美と出会わなきゃ、もうとっくのとうにやめていた。
結局、特別寮で樟美と出会ったお陰で、百合ケ丘を卒業するまで前線を駆ける、アールヴヘイムの一員として、そして何より、樟美のシュッツエンゲルとして、リリィとしての役目を全うした。
まあその後が大変だった。あたしとしては、リリィを続ける気はなかったし、それよりも小さい頃からの夢だった、お花屋さんを開くための勉強がしたかった。
でも、知り合いはこぞってあたしを百合ケ丘に残そうと、あの手のこの手であたしを、後続のリリィ達を育てる教導員として残そうとした。あの時は散々な言われようで、あたしの夢すらも馬鹿にした人もいたけど、そういう時にいつも支えてくれていたのが、この樟美だった。
『私は、応援してますから……! 天葉姉様の夢……! だから、負けないで下さい……っ!!』
あの時の樟美の言葉に、何度救われた事か分からない。何度も夢を諦めようと思ったけど、樟美の応援と、まああとは、同じように進学を考えていた夢結たちのお陰もあって、今日がある。
樟美は樟美で、あたしが百合ケ丘を卒業してからも、ちょくちょくあたしの家に遊びに来ては、ご飯を作りに来てくれていた。時には、いっちゃんや壱盤隊の皆を連れてきたりしてくれて、そういう感じで、ずっと繋がりがあった。
それから樟美も百合ケ丘を卒業して、そこから結構早めに、あたしの家に転がり込んできた。こっちとしてはそのつもりだったし、樟美からもそう聞いてたから、特に問題はなかったけど。
そうして今は、お互いアルバイトとかをしながら、一緒にガーデニングの勉強をしている毎日を送っている。
こうして二人で過ごすのは、あたし達が特別寮にいた時ぶりだから、すごく懐かしいし、それに、あの日の夢のために一緒に歩いているっていうのが、何よりもとても嬉しい。相変わらず樟美のご飯も美味しいし、頑張って良かった、ってすごい思っている。
「相変わらず可愛いなあ、樟美は……」
樟美の寝顔を見ながら、そうこっそり呟く。昔と違って、変に気を張らなくて済む分、なんかこういう小さい所で、ちょっとした幸せを感じる事が多くなった。そういう日々が過ごせているのが、やっぱり改めて嬉しいな、って思う。
「……寝るか」
とはいえ、いつまでも起き続けている訳にもいかないし、もう一度布団に潜る。そうして何気なしに、そっと樟美を抱き枕代わりに抱きしめて目を閉じた。
これは、そんなあたしと樟美の、何気ない日常の話だ。ずっと終わらない、幸せな日常の。