雪の中の動物園訪問


築地夏海

大学院総合国際学研究科

2022118日から22日まで、宮城県仙台市と北海道旭川市・札幌市に調査出張し、各地の動物園を訪問しました。各動物園の全体的な飼育展示の観察と、飼育ゾウの行動観察の記録を取ることが主な目的です。

 

滞在中の流れは以下の通りです。

118日    八木山動物公園(宮城県・仙台市)

       19日   (旭川へ移動)

   20日    旭山動物園(北海道・旭川市)

   21, 22日 円山動物園(北海道・札幌市)

1.仙台市・八木山動物公園-アフリカゾウのトレーニング観察


八木山動物園ではアフリカゾウが3頭(オス1頭、メス2頭)飼育されており、健康管理を目的として行われる「トレーニング」を受ける様子を観察できました(写真1)。

写真1:餌をもらいながらトレーニングを受ける。

トレーニングでは、飼育員がゾウに号令をかけ、口を開ける・足を上げる・方向転換する・伏せをするなどの様々な行動をさせていました。このようなトレーニングでは、体調の変化や怪我を察知できるようなメニューが組まれていると言われています(注1)。観察中には、号令を出しても10分以上応じない場合もあり、根気よく呼びかけたり餌をやったりして行動を促す飼育員の姿が見られました。


八木山動物公園の飼育ゾウのうち、オスゾウの「ベン」は、1990年に南アフリカのクルーガー国立公園からやってきたそうです。雪の降る季節に屋内で飼育管理され、飼育員の指示に従う様子を見る機会は動物園ならではで、トレーニングの実践も動物園飼育の大きな特徴の一つだと感じさせられました。

      (注1 片井信之・乙津和歌・成島悦雄2007『ゾウの知恵―陸上最大の動物の魅力にせまる』田谷一善(編)東京:SPP出版。pp.129-131.

2.旭川市・旭山動物園-日本最北端の動物園にて


旭山動物園は、動物の自然な姿を見せる「行動展示」と呼ばれる展示手法で来園者数を大きく伸ばしたことで有名です。私の研究対象であるゾウはこの動物園にはいないのですが、国内で有名だとされている動物園の特徴や魅力をぜひ理解しておきたいと思い、今回の訪問先に選びました。寒さに強い動物はみな屋外放飼場におり、雪のなかを動き回る様子を観察できました(写真2, 3)。

写真2:トラの亜種のなかで最も寒い地方に生息する、アムールトラ(ロシアと中国の国境を流れるアムール川付近に生息)。雪を背中に乗せたまま堂々と放飼場を歩き回っていた。

写真3:レッサーパンダが橋を渡りタイヤ側に来た際に、来園者がより間近で観察できるような展示の工夫がされている。

すこし余談ですが、仙台から旭川に向かう電車では、怪我をしたエゾシカが立ち往生して1時間遅延するという都心ではなかなか出会えないハプニングに遭遇しました。また旭川駅の目の前にある川沿いではキタキツネの足跡が至る所に見られ、旭川の雄大な自然を感じられました。


こうした自然の広がる場所に位置する旭山動物園には「北海道産動物舎」もあり、オオワシやエゾフクロウなど、北海道の森林に生息する動物をより間近で観察する機会があります。動物の生態やその飼育展示について学ぶだけでなく、北海道そのものについても学ぶことができた訪問でした。

3.札幌市・円山動物園-室内展示場に暮らすアジアゾウ達


最後に札幌市円山動物園を訪問し、ゾウを含めた飼育動物の展示施設の観察と、飼育ゾウの行動観察を行いました(写真4)。

写真4:円山動物園正門。柔らかい雪に足を取られながらも、最寄り駅である円山公園駅から動物園入口までの徒歩15分の道のりを進んで到着した。

円山動物園では、2018年にミャンマーから来たゾウが計4頭飼育されています。冬季は屋内施設での飼育展示ですが、その広さは国内最大級で、屋内プールや土が敷かれた地面など、様々な飼育手法の工夫が成されています。観察中には土の上で横になって寝転がるゾウの姿も見られました。

エサは天井から給餌装置のネットが垂れており、ゾウが鼻で掴んで取る形式でした。遊び道具のブイなどの上に足を乗せて、ネットに入ったエサを取りやすくしているゾウも観察できました(写真5)。また、ゾウ舎には沢山の穴がついた壁(写真6)が来園者との間に置かれており、鼻のみを使って壁の向こうにあるエサを探させるという工夫がされていました。


解説パネルによると、この壁は、ゾウに採食に時間をかけさせることで行動レパートリーを増やし、飼育ゾウのストレスを軽減させるために置かれているそうです。

写真5:足を乗せ、ふみ台にしてエサを取る。

写真6:穴から鼻を突きだし、壁の先のにおいや感触を感じ取って餌を探すことができる。 

2階建ての飼育施設には多くの解説パネルや実物大のゾウの尻尾の模型などがありました。屋内展示場には、円山のゾウが元々いた国であるミャンマーついての解説パネルも掲示されており、ミャンマーの人々の生活について、また木材運搬の作業を共同作業するゾウとゾウ使いの話など、詳しい紹介がされている印象を受けました(写真7)。

写真7:衣・食・住に分かれたミャンマー社会の解説。 

4.おわりに


今回の動物園訪問を通して、これまで訪れていなかった動物園で見られるゾウ飼育展示の位置づけや、行動のバリエーションについて知ることができました。ゾウ飼育については、八木山動物公園と円山動物園でゾウの種や飼育頭数が異なっていたため、その特徴を生かした飼育方法や解説展示がなされている印象を持ちました。


また、各個体の行動を一定時間じっくり観察することで、それぞれの行動にも差異があることがよく分かりました。また、行動観察でのビデオ撮影やメモ取りにはまだまだ慣れず苦戦しましたが、調査で取るゾウの行動記録やその考察方法について改めて検討することができました。


滞在期間中である21日には東京都に、その約一週間後である27日には北海道にもまん延防止等重点措置が出されましたが、滞りなく調査出張を終えることができたことに感謝します。引き続き考えながら調査研究を続けていきます。

 

 

参照ウェブサイト

最終更新:2022年3月2日