生態人類学会第28回研究大会への参加レポート

築地夏海(大学院総合国際学研究科修士課程、2021年度入学)

 

 

2023317日(金)~18日(土)、休暇村大久野島(広島県竹原市)にて開催された、生態人類学会第28回研究大会に参加しました(写真1)。


本学会では5つのセッションから成る12の口頭発表があり、私も研究報告を行いました。自分自身、これまで聴講参加者として学会に行くことはありましたが、発表者として参加することは初めてでした。参加者は58名で、研究者や大学院生などが参加していました。

写真1: 大久野島。広島県側にある忠海港からフェリーで約15分。

私の発表は、今年1月に提出した修士論文をもとにしたものです。発表題目は「京都市動物園におけるゾウ個体群の社会関係-飼育員とゾウの相互行為分析に向けての試論」で、ゾウの行動観察調査による個体間関係の流動性と、飼育員からゾウへの声掛け回数に着目したゾウと飼育員の相互の関係について報告しました。


質疑応答やその後の学会時間では、参加者の皆様から的確なご指摘やコメントをいただき、自分の課題を再認識しました。よく参照していた論文執筆者の方々が何人も参加されていたために緊張や焦りもありましたが、それぞれの観点から意見をいただくことができ、研究の面白さを改めて感じました。今後は発表を通してプレゼンテーションの練習も積みつつ、調査の分析や考察により力を入れて取り組みたいと思います。


他の発表者の皆様の報告も興味深いテーマばかりで、調査の過程や考察のプロセスなど、刺激を受ける点が多くありました。とくに、対面のみかつ泊りがけの学会ということもあり、様々な皆様と研究の話がいつでもできるという充実した環境で議論ができました。

 

開催場所の大久野島は、瀬戸内海の小さな島で、国立公園に指定されています。島には500羽以上の野生のウサギがおり、別名「ウサギの島」とも呼ばれています(1写真2)。学会会場かつ宿泊場所であった「休暇村大久野島」の部屋のカーテンを開けると、瀬戸内海の景色とともに、島内を飛び跳ねて移動する何匹ものウサギが見られました。

注1: 竹原市HP「うさぎと触れ合う癒し旅」
URL: https://www.takeharakankou.jp/feature/usagi/top 2023年3月29日アクセス。

大久野島のもう一つの特徴は、この島が1929年から終戦まで、旧日本軍による毒ガス生産場として使われていたことです注2。島内にある資料館には当時の歴史的資料が展示されており、日中戦争において日本がおこなった毒ガス攻撃の悲惨な歴史のみならず、大久野島での毒ガス製造の過程、さらには戦後になって毒ガスに触れた人々が受けた二次被害によって多くの人が犠牲者となったことなどを知りました。

注2: 竹原市HP「地図から消された島」
URL: https://www.takeharakankou.jp/feature/island/top2023329日アクセス)

写真2:近寄った私に対して前足を上げて立ち上がるウサギ。(おやつを貰えると思ったのでしょうか…。)

学会大会のあとに島内を周った際には、日露戦争で使われた複数の砲台跡や毒ガス製造器具(写真3)が見られました。実物を見ながら立ち止まって解説を読み、そのたびに戦争の惨さを考えさせられました。

写真3:実際に使われた毒ガス製造器具の一部。 

学会が終了して広島市へと移動した後は、国内のゾウ飼育施設を予備的に観察するという目的で、安佐動物公園を訪問しました。


安佐動物公園では、ゾウの亜種のうちアフリカゾウ1頭とマルミミゾウ2頭の計3頭が飼育されています(写真4)。マルミミゾウはアフリカの森林に暮らしており、身体的な特徴としては、アフリカゾウと比べて丸みのある形の耳を持つ点が挙げられます。象牙の密猟などのために個体数が急減しており、現在、国内ではこの安佐動物公園のみで飼育されています。訪問時には3頭とも屋外にいましたが、各頭はそれぞれ別々の飼育空間にいるようでした。

写真4:安佐動物公園にて、アフリカゾウのタカ(左)、マルミミゾウのメイ(右)。

安佐動物公園にある2頭のマルミミゾウのうち、オスゾウの「ダイ」は、20226月に秋吉台サファリランドから借り出され、メスゾウの「メイ」との繁殖が目指されています(写真5)。もともと動物園での飼育事例がほとんどないマルミミゾウの繁殖がもしできれば、国内外でも貴重な成果となることが期待されています。訪問時には、ダイがメイに対してフェンス越しに近づく様子が観察され、ダイも少しずつ安佐動物公園での飼育環境に慣れてきているようでした。  

写真5:安佐動物公園にて、マルミミゾウのオス・ダイ。

ゾウ担当の飼育員の方にお聞きしたところ、安佐動物公園では個体によって「直接飼育」注3と「準間接飼育」注4という異なる飼育方法が使われているとのことでした。ゾウ飼育は、ここ10年前後で飼育方法が移行の過渡期にあります。個体の特徴や飼育のされ方など、ゾウと飼育員の相互行為研究を進めるうえで注目すべき点は様々あると感じたとともに、そのなかでどのようにして自分の研究テーマを深めていくかが重要であると痛感しました。

 

学会への発表参加の機会をいただきまして感謝いたします。いただいたコメントやご助言をぜひ自分の励みにして、調査研究を続けます。

注3: 「直接飼育」:飼育員がゾウと同じ場所で給餌などの飼育作業をする飼育法。

注4: 「準間接飼育」:ゾウと飼育員とが別々の場所におり、柵越しにゾウを触って健康管理チェックや給餌を行う方法。


いずれも参考文献は田谷一善(編)2017『ゾウの知恵』東京:SPP出版,pp.116-117。

最終更新:2023年4月5日