「獣肉をめぐる犬と人の関係」

――獣肉研究会に2度目の参加をして――

by

岡添桃子(西南ヨーロッパ第一地域専攻)

はじめに

2017年1月の研究会への参加を機に狩猟に対してさらに興味がわいたので、私自身昨年9月に罠猟の免許を取得して狩猟活動を行ってきました。その中でも犬を使って複数人で行う「巻き狩り」に参加してから、狩猟における猟犬の重要さを知り、猟犬についてもっと知りたいと考えていました。そこで、2017年12月16日に民族学博物館に行われた今回の研究会が「猟犬」をテーマにしたものだったので、二度目の参加をさせていただきました。 ここでは、そこで新たに知ったこと考えたことを少しまとめてみたいと思います。

1.立澤史郎さんの発表「屋久島の人とシカ」より

●ニホンジカについて

シカはオスとメスでは分布が異なり、草原にはオスが森にはメスが多い傾向にある。またたったの2~3世代で大きさが全く変わることができるので、サイズのバリエーションが豊富であると言える。さらに、問題になっているニホンジカ激増の主な原因には、高度経済成長で人が都心に出ていき農村から人が減ったからという理由だけでなく、森林の過剰伐採により草原が増え、シカが住みやすくなったことが挙げられる。

写真1: 研究会の様子(立澤史郎さんの発表中)。

2.大道良太さんの発表:「狩猟者から見た日本の狩猟犬事情」より

大道さんは、自分自身が多頭の猟犬を使って狩猟を行っており、その猟犬に対する強いこだわりや経験から今までにないほど具体的なお話を聞かせていただきました。その中でも特に面白いと感じたのは、和犬と洋犬の違いと大道さんが実際に行っている訓練についてです。

●洋犬と和犬の違い

洋犬はすでに猟芸が確立されており、誰でも扱いやすいという特徴がある。これに対して和犬は、淘汰が進んでおらず兄弟犬でも違った猟芸をする。また、洋犬が主人から離れて行動しやすいのに対し、和犬は主人の足元や近くで猟を行ってくれる傾向が強い。さらに、猟付き(猟に対する欲求が出始める)は和犬のほうが遅く、鳴き声は洋犬の方が大きいが、足は和犬の方が速いといった様々な違いがある。和犬は個体差が激しいことから良い猟犬を見つけることは難しいが、その分猟の成果にも関わってくるのでとても大切である。良い猟犬を見つけるためには、何代前まで遡れるのかが重要であり、徹底した系統管理を行っている場所を見つけなければいけない。

●猟犬の訓練

専門の訓練所を利用せずに家で猟犬の訓練を行う大道さんの場合、ウリボーのように自分よりかなり小さい相手であっても犬は初見ではなかなか向かっていけないため、主人である人間が率先して攻撃を仕掛ける姿勢を見せることが大切である。この訓練時においても、洋犬の方が比較的すぐに相手に向かっていきやすいという傾向がある。

3.合原織部さん「猟犬の「変身」 -- 宮崎県椎葉村における猟師と猟犬のコンタクト・ゾーン(接触領域)に着目して」より

合原さんは、日本の「三大秘境」のひとつとも言われている宮崎県椎葉村において、実際に生活をしながら狩猟の調査を行ってきました。その中でも里と山における人と犬の関係性の違いや、犬の死に対するエピソードが特に印象に残りました。

●猟師と猟犬の関係

椎葉村においても深刻化している獣害対策のひとつとして、猟期以外にも有害駆除が行われており、そこでも猟犬は重要な役割を果たしている。それを維持していくためには猟の技法や猟犬の扱い方を次世代に継承していくことが大切だが、狩猟の継承者が少なくなっていることが問題である。その中でも、巻き狩りで勢子と呼ばれる猟犬を所有して獲物を追い出す役目の猟師は、狩猟免許や銃の経済的負担に加え、犬の飼育に伴う負担も付随するため進んで勢子になる人は少ない。また現在の勢子も高齢化が著しく進んでいることも問題となっている。

犬の種類や個々の特徴は猟の成果に関わってくるため、勢子は品種改良に力を入れており、自分が求める特徴をもった犬がいれば自分の犬と掛け合わせて、子犬をつくる。昔に比べて一人の勢子が所有する犬の数も増え、それぞれの能力や特徴を持った犬が集められている。しかし、犬の世話やしつけ、訓練は特別に行われることはほとんどなく、子犬のころから親犬について行動することで自然と獲物の追い方などを身につける。

●猟犬の死

経済的な面からも生まれたすべての犬を飼育することが難しいことから、狩猟に向かない子犬や猟に参加しなくなった、ケガや病気で従事できなくなった猟犬は保健所で処分されることもある。このように人間が猟犬の身体的能力を評価する基準を設け、犬の生殖を管理するという意味において、犬は人間の完全な管理下にあると言える。また、猟ができなくなった犬が保健所で処分されることから猟犬を狩猟に役立たせる道具的存在としてのみ捉えている側面も否定できない。

しかし、里ではケガをして猟ができなくなった犬は処分するのに対し、猟中の猟犬は全力で救い出そうとする行動が多く見られた。それは、猟中において犬は名前や個性をもつ能動的な主体となり、犬と人はパートナーとして双方の主体性を構築しあうからである。そのため、そのような互いの意思疎通が猟中に猟犬が事故にあうことで途切れるということは、勢子にとってはパートナーの喪失と関わり、里とは違って捉えられることになる。

まとめ

これらの発表から、洋犬と和犬の身体的特徴の違いだけでなく、性質や性格,猟に対するふるまいにも違いがあることが分かりとても興味深く感じました。また、目的とする獲物によって洋犬と和犬を使い分けることは、もともと先輩ハンターから聞いていましたが(例えば、鳥類なら洋犬など)、犬種以外にも特に和犬は、その個々の違いを見定める能力が必要になってくることを初めて知りました。また、猟犬の死をめぐる犬と人間の関係のように、里と山では異なる扱いを受ける話を聞き、猟犬との間には単なるペットのような一貫したものではなく、より複雑な関係性が築かれていることが分かりました。

今回の研究会への参加により、このほかにも動物行動学的、歴史的など猟犬についてあらゆる側面から話をきくことが出来ました。これを踏まえて、猟犬について初めて知ったことや新たに浮かんだ疑問をこれからの自分の研究に活かしていきたいと思います。


参考文献・URL:

● 共同研究会「消費からみた狩猟研究の新展開――野生獣肉の流通と食文化をめぐる応用人類学的研究」プログラム(国立民族学博物館)

● 合原織部(2017)「猟犬の「変身」 -- 宮崎県椎葉村における猟師と猟犬のコンタクト・ゾーン(接触領域)に着目して」『コンタクト・ゾーン』9: pp. 72-97, 京都大学大学院人間・環境学研究科文化人類学分野。