ワークショップって奥深い。――マナラボワークショップ『アフリカの動物と精霊に会いに行こう!』に参加して


by 小森まな(アフリカ地域専攻)

1.はじめに

2024年2月4日に、任意団体マナラボによって京都大学で開催されたワークショップ『アフリカの動物と精霊に会いに行こう!』に運営補助スタッフとして参加しました。

このワークショップは、私が関心を寄せるカメルーンの狩猟採集民バカ・ピグミーに焦点を当てたワークショップであり、小学2年生以上の児童を対象としたものです。マナラボでは、毎年京都大学の教室でバカ・ピグミーに関するワークショップを行なっており、本年度は、森の「音」をテーマにシナリオが構成されました。

2. ワークショップの構成について

バカ・ピグミーの森を舞台にした本ワークショップは、演劇をベースに物語が展開されます。キャストには、プロの役者として活躍する方々だけではなく、バカ・ピグミーの人類学や環境教育を専門とする研究者も出演しました。そのため、物語に出てくるバカ語やバカたちのセリフ、動物の鳴き声などは、研究者の方々の経験や調査をもとに再現されています。本ゼミの教員である大石先生は「森の長老」役として、私は森の精霊である「ジェンギ」役として参加しました。

当初、お誘いを受けた時は、子供向けのワークショップと聞いていたので、「ゆるくのんびりとしたものだろうな」と想像していました。しかし、シナリオに目を通すと、大学の講義15回分に相当するほどの学術的に密度の濃い内容であり、非常に贅沢なワークショップであるという印象を受けました(図1)。

図1: ワークショップの様子

シナリオに加えて、感銘を受けたのが、主催者の皆さんのワークショップに対する熱量です。ワークショップに携わる役者や研究者の方々が、ワークショップの細部に至るまで、こだわりをもってワークショップをつくり上げる姿が印象的でした(図2)。例えば、照明ひとつをとってみても、シーンの時間帯やその雰囲気に合わせた細かな調節が行われていました。

図2: リハーサルの様子

3. 森の「音」をテーマとしたワークショップ

参加者の子どもたちには、マナラボ主催のワークショップの全体のテーマである『地球たんけんたい』の一員となってもらい、カメルーンの熱帯林に住まうバカ・ピグミーの森を探検してもらいます。視界の限られた森の中で、さまざまな動物と対峙する際、手がかりとなるのは森の「音」です。これらの「音」を軸とした構成は、バカ・ピグミーの人々がさまざまな「音」を頼りに、森と「やりとり」をしているということを子どもたちに知ってもらうことを目的としたものです。

視界の限られた森では、周囲のあらゆる「音」が、森を捉える重要な要素になります。実際に狩りをする際には、狩り人が動物の鳴き声を聞き、それを真似ることで、獲物をおびき寄せます。本ワークショップでも、動物をものかげから追い出す隊員、それを誘き寄せる隊員、槍で仕留める隊員に分かれて狩りの体験をしてもらいました。

森に足を踏み入れた以上、自身の森への関与は避けられません。森の「音」を聴くということは、森とコミュニケーションをとるだけではなく、自分の存在に耳を澄ますことでもあると感じました。

4.子どもたちに伝える難しさ

このような「音」という抽象度の高い要素を、子どもたちに理解してもらうことは簡単なことではありません。学術的なテクストや講義のスタイルを用いずに、如何にして子どもたちに伝えるのか。その方法を探り始めると、子どもを対象としたワークショップの奥深さに気づきはじめます。

その奥深さに気づくきっかけとなったのが、役者のみなさんと一緒に「身体を使って森を表現する」という企画について話し合っていた時です。このワークでは、参加者の声や身体を使って、「風の音」や「動物の音」など、個人の思う「森の音」を表現してもらいます。ここで重要となるのは、他者からの音に耳を傾けることです。他者の表現する森の音を聞き、自身の音にも反映させていくというプロセスを通して、森の音をきくという体験をしてもらうというのが、このワークの目的でした。

それに加えて、このワークを通して、子どもたちに最も伝えたかったことは、バカ・ピグミーの住まう森が「際限なく」広がっていて、予測不可能であるということです。動物の鳴き声、風が木々を揺らす音、土を踏みしめる音、、、。それぞれの要素が重なることで一つの森の音となり、その複雑さを増していきます。そのような森にたいする、ある種の「わからなさ」を知ってもらうためにも、このようなワークを取り入れました。

しかし、この答えに導くようなアプローチを提供することは簡単なことではありませんでした。本番では、参加者のみなさんがワークショップ内で聞いた動物や風の音を頼りに、森の音を表現することはできていましたが、お互いの音に耳を澄まし、その響きを自分の音にも反映する、という地点には到達できていないように感じました。

「森の音」とひとくちに言っても、その要素はさまざまです。バカの森に足を踏み入れたことのない参加者にとってアイデアの種となるのは、本ワークショップで聞いた動物や風の音になります。子どもたちにとって、バカの森の音を再現するだけでも精一杯だったのかもしれません。


5.「音」というテーマを扱うこと

 ワークショップのあとのスタッフ・ミーティングでは、「音」というテーマを取り扱う難しさについての意見がいくつか挙がりました。さまざまな意見が出ましたが、「音」という抽象度の高いものを表現するためには、前提として、その背景にある基礎的な知識を知ってもらう必要があることがわかりました。

今回のワークショップでは、バカ・ピグミーの基本的な生活様式について触れる時間はあったものの、バカの人々にとっての「森」についての説明があいまいであったように感じます。子どもたちに言葉を投げかけるだけのワークショップになることは避けたいですが、自分の身体を使ってアウトプットをする際には、まずは参加者のみなさんに理論や基礎知識を知ってもらうことが重要であると感じました。


6. おわりに 

今回の参加を通して、基本的なワークショップの組み立て方をはじめ、企画内容を生み出し、実現する難しさやその奥深さに気づくことができました。また、前日のリハーサルから、企画や運営に携わる方々と一緒に準備を進めることができ、ワークショップを作る側としての経験を積むことができました。

私自身、来年度に執筆する卒業論文の一環として、バカ・ピグミーの住居を対象としたワークショップを行いたいと考えています。今回のワークショップでの経験が、今後の活動を支える糧となることでしょう。

最終更新:2024年2月19日