【2019年度卒業論文要旨】

醸し家(かもしか)たちの物語

――現代における発酵に関わる人と菌の生活史――


河合摩南

国際社会学部東南アジア第2地域ベトナム語専攻

2019年現在、「発酵」がブームだ。発酵を取り上げる美容雑誌や料理本が多いことからも分かるように、発酵は「美味しさ」「健康」「美容」の文脈で語られることが多い。しかし、発酵とは他にも捉え方の余地にあふれた概念ではないだろうか。「発酵」は様々な事柄を語れる媒体なのではないか。

発酵との出会いは、叔母の作る自家製天然酵母のパンだった。どうして食べ物を放置しておくだけで味が変わったり膨らんだりするのか気になった筆者は中学の時、自分で果物を発酵させパンを焼いてみたこともある。且つ筆者には、日頃より「自分とは」「生きるとは」といったことを、延々考えてしまう性質がある。発酵について見識を深めるうち様々な物事を発酵的に捉えるようになった筆者は、これを卒業研究の軸とした。

本研究は「論文+絵本」で構成されている。タイトルにある「醸し家」とは造語で、「発酵食品作りに携わる人」の他、「物事を形作る人」「調和のとれた、心地よい状態にする人」なども含んでいる。

「発酵」には2種類ある。それは生物学的な「発酵」と社会的な「発酵」だ。前者はいわゆる、発酵食品の「発酵」である。この特徴から、視点を生き方に繋げ比喩したのが後者である。本論文では、生物学的な「発酵」の特徴をふまえた上で、社会的な「発酵」の観点を本文では5点述べている。一つ目は、物事は捉え方次第であり、個人の価値観は社会によって創発的に醸成されているということだ。そして二つ目は、ミクロな自然である微生物から捉える人間と自然の関係について、三つめは物事のあらゆる変化は発酵に例えられるということだ。また四つ目は発酵の大きな特徴である「待つ」ということ、五つ目は「待つ」ことから見方を広げた「社会における個人の発酵的な生き方」である。

そして、絵本では、叔母が「手に職」をつける模索の道中を描いた。論文中の絵本解説にも注目してほしい。

本論文の読み手には「生き方としての発酵」へと視野を広げて頂ければ幸いである。一人ひとりが発酵的に生きることで、よりストレスフリーで満足度の高い社会を作っていけるのではないだろうか。

キーワード: 発酵、腐敗、菌、ライフヒストリー、生き方、絵本

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河合2020「醸し家たちの物語―現代における発酵に関わる人と菌の生活史―」.pdf