【2021年度卒業論文】

郷土料理と地域社会

高知県の郷土料理、皿鉢料理を事例に

Local Food and Community:

The Case of Sawachi-Ryori in Kochi Prefecture


松岡明里

国際社会学部南アジア地域専攻

日本各地には土地の作物を風土に適した方法で調理した郷土料理があり、その土地の人々によって長い年月をかけて培われ伝承されてきた。しかし現在では交通網や情報技術の発達によって郷土料理は地域を超えて食べられるようになった。また、料理本やサイトによってこれまで地域内の家族間で伝承されていた調理方法やその背景などにも簡単にアクセスが可能となった。


高知県にも大皿を盛られた料理を複数人で囲い取り分けて食べる皿鉢料理と呼ばれる郷土料理があり、多様な人達が簡単に打ち解けられる料理として注目を浴びている。また皿鉢料理の特徴はそれだけでなく、地域内の一般の人々が協力して一皿を作り上げるという点が挙げられる。そのように地域の人々によって培われてきた皿鉢料理であるが人口減少や少子高齢化、感染症の拡大によって皿鉢料理を作る機会が減少しており、その文化の伝承が困難となってしまっているのである。


その皿鉢料理について歴史や構成についての文献はあるものの、地域における皿鉢料理の役割や伝承方法について詳しく研究された例はない。そこで本研究では、皿鉢料理作りに関わる人々の会話や語りから地域において皿鉢料理がどのような役割を果たしてきたのかに注目しながら郷土料理とは何かを明らかにする。初めに先行研究をもとに高知県の伝統料理である皿鉢料理について述べる。その上で筆者の実家で行ったフィールドワークを通し、皿鉢料理作りに関わる人、その場で繰り広げられていく人間関係、その場で行われるコミュニケーションを調査した。


結論として、地域において皿鉢料理作りは普段関わることのないさまざまな年齢層の人々が集まる貴重な機会であり、伝統の伝承や地域の情報交換の場として機能し地域の人々を繋いできた。また、皿鉢に盛られてきたのは単なる料理ではなく、人々のつながりそしてとの地域の歴史なのであった。つまり、郷土料理とは単に食卓に並べられた一品なのではなくその地域社会、文化、歴史、その空間などさまざまな要素によって織りなされるものなのであり、住民によって培われてきたものなのである。交通網や情報技術が発達した影響でどこにいても誰でも遠く離れた地の郷土料理の情報を手に入れ楽しむことができ現代だが、地域においてその地域の文脈の中で料理を人々の間で伝承していくことにも大きな意味があるのである。