【2022年度卒業論文】

貨幣の持つ機能 

~クルッポはいかにして人と人の紐帯を創出しているか~


The Functions of Money : an Analysis of How Kuruppo,  a community money in Kamakura city,  Creates Social Ties


片岡恵音

アフリカ地域専攻

 貨幣は物々交換を円滑に進めるために誕生したとする説は、まるで神話のように広く受け入れられ、現代社会の基盤となっている資本主義を支えている。だが、この説は経験的根拠を欠いている。文化人類学者の研究からは、貨幣が交換を円滑にする道具としてではなく、同一共同体内で複数の貨幣を併用することで異なる価値体系に基づいた取引を可能にするものとして使用されていたという事例が多く報告されている。貨幣は経済的価値を測ることですべてを商品化し交換可能にするという万能な役割を与えられる過程で、経済的価値以外の価値を切り離してしまったのである。また、近代の通貨制度の特徴の一つに金利がある。貨幣が貨幣を生むこの金利というシステムは、貨幣を自己増殖させ、社会に経済成長を強制し、貧富の格差を拡大させている。シルビオ・ゲゼルは時間の経過とともに価値が減らない貨幣の特性を特権であるとし、それゆえに金利が発生していると指摘した。彼が提唱した減価する貨幣の理論は世界各地で地域通貨として実践され、成功を収めている。筆者がフィールドワークを行った神奈川県鎌倉市で導入されている「クルッポ」というコミュニティ型地域通貨もまた減価する貨幣理論を実践する地域通貨の一つである。クルッポは減価性ゆえに貯蓄ができない点の他にも、円と兌換できず、近代貨幣と異なり絶対的な価値尺度を持たないという特徴がある。この特性ゆえにクルッポは経済活動以外の広範な活動をもその経済圏に取り込めている。また、人に借りを作ることが忌避される現代社会において、人と人がつながるのを促進できている要因はクルッポという貨幣の経済性にある。クルッポという貨幣は、近代貨幣が切り捨てた諸価値を内包し、経済成長とは無縁な貨幣であるが、完全に非経済的な貨幣ではなく、ユーザーは使い慣れた近代貨幣の使い方を適宜クルッポに適用しながら他者との繋がりを得ているのである。