【2020年度卒業研究・作品概要】

拡大する「家族」

~ケアでつながる現代ガーナ人社会~


井出有紀

国際社会学部アフリカ地域専攻

「家族」ってなんだろう?

現代日本社会に生きる私たちにとって、家族とはいったい何なのでしょうか。それは血を分けた(または婚姻などにより法律的に承認された)特別な集団、温かくて親しいもの…。あらゆる物語において、家族は「理想的」な拠り所として描かれてきました。しかしその一方で、毒親問題、介護問題、「孤育て」問題など、現代日本における社会問題の多くが家族によって抱え込まれていることもまた確かです。要は誰もが、家族をめぐる理想と現実のギャップに足をすくわれ、もがいている状況なのだと言えるかもしれません。


このエッセイ集には、西アフリカのガーナ南部社会/日本のガーナ人コミュニティでの「家族」とケアをめぐる44の物語を収録しています。ここでいう「家族」は、冒頭で示したような血縁集団のことではありません。フィールドの人々にとって、「家族」は血縁を越えて拡大していく極めて主観的なものだからです。彼らと接するうちに、私はそのような「家族」がどのようなプロセスで形成され、継続されていくのかに興味を持つようになりました。そして、それを彼らのライフストーリー、つまり人生についての語りから明らかにしようとすることが、いつの間にか私の人生の一部になっていったのです。


しかし不思議なことに、ガーナにおいて「家族」とは何なのかを問えば問うほど、私は今まで自明なものだと思っていた、自分にとっての家族の定義がつかめなくなっていくのを感じていました。そこで今回の卒業研究では、「家族ってなんだろう?」というテーマのもと、現地の知人・友人たちの語りに私自身のライフストーリーを加え、エッセイ集としてまとめることにしたのです。彼らの「家族」に関する語りを通じて、私自身が日本社会で当たり前に身に着けてきた家族概念を問い直したり、超越したりしていく、という話の流れになっています。この本の私とともに、あなた自身の「あたりまえ」「それしかない」がちょっとだけ揺らぐような経験をしていただけたら、とても嬉しいです。

キーワード:家族、 ライフストーリー、ケア、 柔軟性

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井出さん卒業研究公開用.pdf

最終更新:2021年1月29日