【2022年度卒業論文】


仕立屋として生きる

――ダッカ管区ウットラ地域のドルジーの働き方――


Living as a tailor:

How a tailor works at Uttara area in Dhaka

 

太田穂香

南アジア地域専攻

タイトルの「ダッカ」とはバングラデシュの首都、「ドルジ―」とは、バングラデシュの公用語であるベンガル語の単語で、「テーラー」という意味をもつ。現在の日本で、「テーラーメイド」は日常生活において馴染みがないかもしれないが、バングラデシュでは、仕立屋でテーラーメイドの服を仕立ててもらうことが一般的である。本稿は、そのようなバングラデシュには当たり前に存在する仕立ての文化に、筆者が魅了されたことを出発点にしている。そして、とある仕立屋に通う中で、長時間労働でありながらそれを自覚していない働き方に疑問を持つようになった。問いを明らかにするために、生活時間調査という方法を用いて、実際に行われている仕立ての仕事と1日の時間利用を調査した。調査を通じて、「自由な仕事開始時間」、『予測不可能なタイミングで発生する「ながら仕事時間」』、「非自発的な強制的中断」、「食事と昼寝時間の長さ」という 4 つの要素の存在によって、日常生活を大切にしながら働くことができ、調査店を経営するテーラーの長時間労働を可能にしていることが明らかになった。さらに、労働とは別の観点から「場」としての仕立屋に注目し、地方出身の従業員にとって都市部の仕立屋という仕事場は、人生において一時的な職場として捉えられていることを示した。一方、レイ・オルデンバーグが提唱した「サードプレイス」の 8つの特徴に照らし合わせ、近所の人々にとっては調査店がサードプレイスの特徴を満たす場所であることを明らかにした。最後に、バングラデシュで重要度の高い宗教属性に触れ、調査店には多様な年齢や職業の人々だけではなく、多様な宗教の人々が集まり交流する場所となっていることを論じた。