chap.9

Chapter 9 : Overview of the Insight Stageのまとめ

1 洞察とは?

クライエントが洞察にいたるとき、彼らは新しい観点から物事を見て、物事の間を結びつけることができ、物事がなぜ生じたのかをそれが生じたそのままに理解する(Elliott et al., 1994)。ある人にとっては、洞察を得ることは、電球が光り(ひらめき)、“アハ(なるほど)”という突然の感情のようである。しかしながら他の人にとっては、洞察は突然には生じない。Rogers(1942)は“洞察は、個人が新しい見方に耐えるための十分な心理的強さを発展させながら、徐々に少しずつ生じる”(p.177)と述べた。Hill et al.(2007)は洞察の範囲について金塊か砂金として話した:つまり、時々クライエントは幸運で、洞察の金塊を見つけだすが、たいていは、彼らが洞察を得るために時間をかけて熱心に取り組むときに、わずかな砂金を見出す。

*コメント

まずは洞察とは何かについて取り上げられます。突然洞察に至る人もいるが、多くの場合、時間をかけながら、徐々に、少しずつ洞察を獲得して、身につけていく。突然洞察に至るのは金塊を探し当てるようなもので、多くの場合は時間をかけて金を探し当ててもわずかな砂金にすぎないことが多いという認識をヘルパーは持っていたほうが、クライエントが洞察を得られないことに焦ってしまったり、無力感を感じたり、クライエントを責めてしまう、ということは減るのかもしれません。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.01.07)

1-1 知的な洞察 vs 情緒的な洞察

洞察はアクションを導くためには、たいてい知的であるとともに情緒的でなければならない。言い換えれば、洞察は認知的に理解されるとともに深く感じられなければならない。私たちの多くは、自分の心理的な問題の包括的な歴史や困難の源を示すことができるが、十分に自分の感情を表現することができない人を知っている。一方で、情緒的な洞察は、知的な側面への影響と結びつき、個人の関与や責任の感覚を生みだす。

情緒的な洞察の獲得が行動変容をもたらすと考えられる。情緒的な洞察は、クライエントが十分にそして積極的にヘルピングのプロセスに関与していれば、たいてい獲得することは容易になるる。彼らは個人的に関与する必要があり、そして自分自身を理解しようとすることを切望する。ヘルパーはクライエントに何を考えるかを伝えるよりも、クライエントが洞察に達するように援助するために、ヘルパーがクライエントと一緒に取り組むことがたいてい望ましい。

*コメント

知的な洞察だけでは、不十分であり、アクションへとつなげるためには、情緒的な洞察が必要。いかに本人が抱える問題、そしてヘルピングのプロセスに関与し、責任を引き受けていくか、その援助をヘルパーには求められている。でも、それが難しい・・・

完全な不安定という安定した日常blog(2011.01.28)

1-2 洞察はなぜ必要なのか?

Frank and Frank (1991) によれば、出来事の意味を理解する欲求は、食べ物や水への欲求と同じくらい人間にとって根本的なものである。彼らは洞察を、既知の事実とそれらの重要性の再評価との間の新たな関係の再認識と同じように、新たな事実の発見を導く過去の改変とみなした。

同様に、 Freud(1923/1963)は心理的問題は発達上のもので、解決は問題の洞察を獲得することによってのみ達成されうると考えた。症状は過去と現在の人生の経験の文脈の中で大抵意味をなす。Frankl(1959)は苦難の乗り越え、そして存在の意味を見出すために人生の哲学をもつことが重要であると強調した。彼は、私たち人間の最大の欲求は、意味の核心と人生における目的を見つけることであると主張した。フランクルのドイツの強制収容所での体験が彼の理論を裏付けた。彼は人生の状況は変えることができないとしても、この体験に結びついた意味を変えることができた。同様に、Wampold(2001)は人は自分の人生の意味を見出すための説明、時にそれはどんな説明であろうと必要とすると示唆している。

出来事に対するクライエントの解釈は、ヘルピング場面でのある特定の問題に取り組む意思だけでなく、続く行動と感情を決定する。ヘルパーはクライエントが現在出来事をどのように理解しているか(意識的、無意識的、両方)を学ぶ必要があり、そうすることで彼らはクライエントがより適応的な理解を発達させることを援助することができる。

たいていアクションに移行する前に洞察を得ていることが最良である。もしクライエントが自分の問題についてどのように考えるかを学んだら、彼らは将来、彼ら自身で問題を探索し、理解を得て、彼らが違ったようにしたいことを決める可能性が高い。実際にはヘルパーはクライエントに問題解決の方法を教えている。洞察を獲得すれば、自分がどのようにアクションを起こすかについて、自身の価値観にあった、十分な情報を得たうえでの意思決定をすることができるので、洞察はヘルピングのプロセスにおいて特に重要である。

*コメント

自分自身の感じ方、考え方は、自分自身にしみ込んだものだからこそ、気づくことが難しい。自分でも気づかないうちに、無意識に行動を取っているが、洞察を獲得することで、自分がとる行動を意識的に選択し、その行動に自分で責任を持つことにもつながる。

大変な作業だ。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.01.30)

2  理論的基盤:精神分析理論

精神分析理論はSigmund Freudから始まり、それに続く多くの理論を通して展開していった(特に、Adler、Jung、そしてSullivan)。精神分析理論が存在してきた世紀にわたって、理論における多くの変化が生じ、現在セラピストとクライエントとの関係性に重点が置かれている。この節では、現在重要で、そしてヘルピング・スキルのモデルに利用できる精神分析理論のいくつかの重要な側面に焦点を当てる。 

私は学生が初めにヘルピングスキルの授業を取るときに、彼らがかなりフロイトに軽蔑的であることに気づいてきた。多くはフロイトは時代遅れで不適切であると学部の心理学の授業で学んでいる。しかし、学生が大学院を進むにつれて、そして特に彼らが熟練したセラピストになるにつれて、彼らはしばしば人間の本質の深さを説明する方法としてフロイト派の理論の利点と妥当性への気づきを高めていく。彼らはめったに理論全てをうのみにすることはないけれども、この理論に、そして特にこの理論の現代の考えに興味を持つようになる。だから私はあなた方に精神分析理論について開かれた心をもつようにすすめたい。

精神分析はパーソナリティの発達と治療についての複雑でそして豊かな描写を提示する。この節では、私はその考えのいくつかのみに触れる。私は興味をもった読者には他の精神分析理論についてもより学べる他の文献を調べるように勧める。

*コメント

いよいよ洞察段階の基盤となっている、精神分析理論についてです。Hill先生が述べているように、まず精神分析理論に開かれた心を持つことが準備として必要かもしれません。精神分析理論の現代における発展・展開にも着目しなければなりません。このあたりは、十分に押さえられていないので、関心を持ちたいと思います。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.02.07)

2-1 パーソナリティのフロイト理論

パー ソナリティ発達を理解する彼の試みの中で、フロイトはありふれた用語となるほどによく知られるようになる多くのモデルを提示した。かなり議論の余地はある が、それらのモデルは我々が人間の本質についてより深く考えるのを助けてくれる。それらのモデルは文字通りではなく、むしろ発達について考えるための比喩 として捉えられる必要がある。そしてもちろん、私たちがより多くの知見を集めれば、それらのモデルは絶えず展開していく。

Freud(1940/1949) は全ての子どもはいくつかの心理社会的発達段階を通過していくと提案した。異なる文化から100年以上前を見ると、フロイトの発達の流れはかなり文化的に 縛られたものであり、現代において十分な意味をもたないことは明白である。しかしそれを頭から退けてしまうよりもむしろ、重要な心理的な発達の流れが確か に存在するということを認識することは役立つ。確かにフロイト以後の多くの理論家はそれらの理論を基盤に構築し異なる段階のモデルを提案してきた(例え ば、エリクソン、コールバーグ、マーラー)。おそらくフロイトの偉大な貢献のひとつは発達段階の中のそれぞれで過度や過少の甘やかしのどちらかがありうる という主張と、それらの早期経験が私たちの後の人生に明らかに影響を与えるという主張である。また私はあなた方に、少年と少女のどちらも成長すると、母親 と父親に対して少年と少女は異なった反応をするという考えについて何か存在すると言うことができる。

さらには、フロイトは誕生時、乳児は 全体的にイドid、つまり即時的な満足を求める原始的な衝動によって支配されていると提案した。子どもが発達すると、子どもに満足を先延ばしし、外界と交 渉するのを助けるために自我egoが形成される。子どもがさらに発達し、社会の道徳と価値観をエディプス/エレクトラ葛藤の解決を通して内在化すると、彼 女/彼は超自我superego(道徳と理想の両方を含む)を発達させる。人生を通して人は原始的な衝動、仲介する自我と社会的制約や理想との間の葛藤と 格闘する。イド、自我、そして超自我は、脳と身体に認められる実態の生理学的構造であるというよりもむしろ、我々が心理的な原則を理解するのを助ける比喩 である。それらは人が人生に対処するのにどのように、なぜもがき苦しむのかということを我々が説明するのを助けてくれる。

関連したフロイ トの概念は意識である。フロイトは心を無意識、前意識そして意識consciousに分けた。彼は心的活動の最も大きい割合は無意識であり即座に気づくこ とができないものであると主張した。フロイトは大部分の人は無意識の動機から行動し、そして彼らがなぜそのように行動したかに気づいていないと提案した。

も う一つの重要なフロイトの構成概念は防衛と関連する。パーソナリティの発達に置いて全てがスムースに進むことはない。子どもは常に彼らが心理的に発達する 必要がある全てを受け取るわけではない。人が困難に対処する1つの方法は、防衛機制を発達させることによってである。フロイド(1933)とより最近の精 神分析家は防衛機制を現実の否認や歪曲を通して不安に対処するための無意識的な方法であると理論化した。全ての人は生きることに内在する不安に対処しなけ ればならないので、防衛機制をもつ。防衛機制はもし適切に程よく用いられれば、健康的でありうるが、防衛機制を繰り返し頻繁に使用することは問題となりう る。

*コメント

フロイトのパーソナリティ理論(構造論、局所論、防衛機制など)の概略が述べられています。Hill先生は、フロ イトの理論をそのまま文字通りに理解すると言うよりも、人間理解の比喩として捉える必要があると述べており、そういった観点から人間の本質を理解する上 で、フロイトの理論は有用であるとしています。この点は、Hill先生の考えに同感。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.02.24)

2-2 アタッチメント理論

もうひとつの重要な分析的な構成概念はアタッチメントであり、それは多くの最近の理論化と研究の焦点である。ボウルビーは小さい子どもに養育者の親密な接近を維持させる行動的、情動的反応を説明するアタッチメント理論を展開させた。最適なアタッチメントは、養育者が乳幼児に不安を減少させ、安全の感情を促進させる心地よい存在を提供する。この安全基地から、乳幼児は生活環境を探索することができる。小さい子どもの観察研究をとして、Ainsworth, Blehar, Water, and Wall(1978)はアタッチメントの3つのタイプ(安全、不安-アンビバレント、不安-回避)を発見した。安全なアタッチメントをもつ乳幼児は、母親のいるところで自由に探索し、分離すると多少の不安を示し、そして再開するとすぐに安心する。不安-アンビバレント型の乳幼児は過度の不安と怒りをもち、そして彼らは自身の探索を妨害する程度に母親にくっついて離れない傾向がある。彼らは分離の間にひどく苦しみもし、母親との再会に置いて安心を感じることが難しい。不安-回避の乳幼児は観察中をとして母親に最小限の関心を示し、最小限の情動を示した。それらの観察は他の子どもにおいても再現され、そして結果は成人期にも拡張され、子ども時代のアタッチメントの型は成人期の関係にまで持ち越される(Ainsworth, 1989)。ボウルビーの理論はセラピストを含む他者との関係を形成するのにクライエントが抱える困難を説明するために、広く用いられてきた。

*コメント

アタッチメントの簡単な紹介。ヘルピングも対人関係であることを考えれば、アタッチメント理論も洞察段階を理解する上で必要なのでしょう。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.03.02)

2-3 精神分析の見地からの治療

Freud(1923/1963)は問題となっていることへの深い探索と洞察が問題の解決を助けることができると考えた。治療のための基盤として、ヘルパーは丹念に、共感的に、批判なく、受容的にクライエントの話を聞く(Arlow, 1995)。

洞察を促進するために、ヘルパーはクライエントが自由連想、つまり無意識を意識化させる方法として検閲なしにこころに浮かんだ考えはどんなことでも話すよう促し、それは精神分析的治療の主要な焦点である。適切なときには、ヘルパーはクライエントが問題についてより深く考えるのを促進するためにクライエントの現在の理解を超えた解釈を与える(Speisman, 1959)。解釈の焦点はたいてい、行動の起源と現在の行動への幼少期の早期体験の影響についてである。精神分析家は現在の行動の早期の理由を特定するために“遺跡の発掘作業”をすることの重要性について話す。

精神分析的治療の目標はイドを自我で置き換えるために、無意識を意識化すること、あるいは他の方法で言語化することである。心の大部分は無意識であるけれども、フロイトによれば、人はそういった原始的な影響をできるだけ自分に気づかせようと努めることができる。無意識の素材に対処することの難しさのため、フロイトは自我が強い統制をもつことができないような夢、ファンタジー、言い間違えを分析することを提案した。さらに精神分析的なヘルパーはクライエントが頻繁に用いる防衛機制への気づきを展開させ、不安を減少させるそれらの無意識的な方略の使用に対する統制を強められるようクライエントを援助する。

フロイトは幼少期の早期からの未解決の問題の顕在化がクライエントの人生を通じて繰り返されると信じていた。しばしば、その繰り返しはクライエントがセラピストと関係する方法を分析することを通じて明らかになる。未解決の問題を有するその相手に属する特徴をセラピストに置くことは転移を名づけられている(Freud, 1920/1943)。フロイトは転移の分析と解釈が、クライエントの他者との関係性の理解を促すための強力な治療的手段となりうると示した(Gelso & Cater, 1985, 1994も参照)。しかしながら近年の研究は、特に対人関係で強い困難を抱えるクライエントとの間に置いて、転移解釈の使用における注意を提案している(Crits-Christohp & Gibbons, 2002)。

ヘルパーの未解決の問題もヘルピングのプロセスと結果に影響を与えうる。このプロセスは逆転移(Gelso & Hayes, 1998, 2007も参照)と呼ばれ、ヘルパーの未解決の問題において生じるクライエントに対するヘルパーの反応と定義される。もし逆転移の行動を認識していないと、その行動はセラピーに否定的に影響しうる。しかしながら、逆転移感情の気づきは実際にプロセスを促進させうる。  フロイト以後、精神分析理論の1つの主要な変化は、セラピストは真っ白なスクリーンではなくむしろ治療関係に重要な役割を果たすということを認めたことである。理論家は現在、セラピストとクライエントの両者が彼らの問題に基づく関係性に寄与していることを強調するために、このことを二者心理学two-person psychologyと呼んでいる(Hill & Know, 2009のレビューを参照)。この観点からは、クライエントの転移とセラピストの逆転移について、それぞれを別の問題として話すことは不可能である。

この考えに基づくと、精神分析的そして対人関係的ヘルパーはセラピーでの中心的な変化の働きとして治療関係に取り組むことを強調する。ヘルパーとクライエントの間で何が進行しているのかについて自由に話すことによって、治療関係における問題に取り組み、転移と逆転移における歪曲を明らかにし、健康的な対人関係の機能を模倣し、クライエントにセラピー外での他者と異なったかかわりを促すことが可能となる。

*コメント

ヘルピングにおいても、ヘルパーとクライエントとのヘルピングの関係でのやりとりに着目することは重要であり、洞察段階を促進することにつながっていく。そこでは精神分析的な観点が有用となる。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.03.04)

2-4 精神分析的理論は3段階モデルとどのように関連するか

精神分析理論における人生初期の関係、防衛、洞察、そして治療関係を取り上げることへの重視は洞察段階についての私の考えと一致している。より具体的には、幼少期の早期の経験の重要性への着目は早期経験、特に重要な他者との間での経験の重要性についての私の考えに一致している。同様に、防衛の重視はクライエントが他者とやり取りするのを認めるがそれを守る適度な水準の防衛を形成するのに立ち向かうのを援助することにおいて重要である。私は洞察は、クライエントが永続的な変化を獲得し、新たに生じる問題を解決することが可能にさせることにおいて有益であると強く信じている。さらには、私にとって、心理療法がもし私たちが意味についてのより深い質問を尋ねる代わりに、ただ自己探索と行動変容に焦点を当てるのであれば、確かに単調で深みを欠くものであろう。最後に、治療関係に置いて生じる問題に取り組むことは非常に重要である。なぜなら、それはクライエントに修正された関係体験を提供し、セラピーの外でより効果的に関係性にうまく対処するスキルを教えることになるからである。

私は洞察段階におけるヘルパーの役割は、ヘルパーが洞察を提供する人であるというよりはむしろ、クライエントが洞察を得ることができるよう導くことであるということを強調する。しばしば、クライエントはヘルパーが適切な雰囲気を提供し、思慮に富んだ質問を尋ねれば、自分自身で洞察を得ることができる。事実、クライエントは押し付けられた解釈よりもむしろ自分自身で獲得した洞察についてしばしばよりよく感じる。しかしながら、あるクライエントはヘルパーからの多くの提供を望み、そのような提供は、もし協働的で決めつけではない共感的な方法で提供されれば、役立ちうる。

私が精神分析理論から見出したものは、クライエントをアクション段階に移行させるのを援助することに関してである。精神分析的理論を用いるヘルパーは、たいていクライエントが特定の行動変容を成し遂げるのを援助することに焦点を当てない。対照的に、私はアクション段階はとても有益で、特にそれが洞察段階に引き続くときに、そうでありうるということを強く主張する。同様に、3段階モデルを用いるヘルパーはヘルピングにおいてより積極的な立場であろうとし、治療の長さは、伝統的な精神分析療法よりも短い傾向がある。理論的な主張に置いていくつかの相違はあるが、しかし、私は精神分析的技法はクライエントを洞察と自己理解の増大(それはアクションの基礎をなす)へと導くのに役立つということを強調する。

*コメント

精神分析的な理論をベースとする洞察段階は、アクション段階をより有益なものとにする、という点でHill先生は重視しています。ただその洞察は、ヘルパーが一方的に提供したり、押し付けたりするのではなく、クライエントが自分で獲得できるようにガイドすることが重要である。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.04.05)

3 クライエントの力動についての発展的な仮説

洞察段階においてどのように介入するかについて決定するために、ヘルパーはクライエントのより深い水準で何が進行しているのかについて、ある考えをもつ必要がある。ヘルパーはクライエントの力動について考え始める必要がある。そうするためには、ヘルパーはクライエントの力動についての自身の知覚と直観にある程度に頼る。ヘルパーは関係の中で何が進行しているのかの指標として自分自身を活用する。ヘルパーは自分自身が内的な反応を有していることを認め、それからそれらの反応にクライエントがどのように寄与しているかについて考えなければならない。

学生に概念化のスキルを教えることは訓練プログラムに組み込むことができる。ロールプレイの後、指導者は学生にクライエントの力動について考え始めるように尋ねることができる。  概念化に基づいて、ヘルパーはより明確な意図を展開させることができる。したがって、クライエントの問題、クライエントがこの特定のときにその問題について話していることの理由、そしてヘルパーが援助することができることについて仮説を立てることによって、ヘルパーはそのセッションで次に何をするかをよりよく決めることができる。したがって概念化によりヘルパーは、セッションでの明確な焦点なしにただ目的もなくさまよう代わりに、介入のための焦点と意図をもつことができる。

*コメント

ヘルパーは自分自身を活用して、クライエントの力動について仮説を立て、概念化する。それにより、ヘルピングの方向性を見出し、ヘルパーは明確な目的と意図をもって介入を行うことができる。

完全な不安定という安定した日常blog(2011.04.06)

4 洞察段階の目標とスキル

洞察段階では、3つの目標に焦点をあてる。それは気づきの促進、洞察の促進、そして治療関係への取り組みである。それらの目標は全て、クライエントが自己理解の新たな深さへと移行させるのを援助するのに相乗的に作用する。スキルの多くはそれらの目標のおのおのを遂行するために用いられる。

4-1 気づきの促進

クライエントが自分自身の考えと行動に気づくようになることは重要である。人は長い間自分自身と一緒に生きてきており、対人関係の傷から自分自身を守るための防衛を発達させてきたので、それによって、彼らはしばしば適応的でない考えと行動に気づかない。彼らは自分自身の探索のプロセスを始めることができるよう、自分自身に対して他者が正直にどのように反応するかを聞く必要がある。気づきは、自分自身の考え、感情、行動、そして他者への影響により意識的になることである。したがって、気づきはしばしば洞察のための前提条件となる。気づきを促進するために、ヘルパーは何よりもまず考えと不一致に挑戦する。

4-2 洞察の促進

人は一度ある感情、考え、あるいは行動に気づくようになると、彼/彼女はしばしばそれについてより理解したくなる。我々の人間としての存在証明の1つは、自分自身の考え、感情そして行動についての説明を望むことである。説明は、正しかろうと間違っていようと、多くの人が自分自身の世界への統制感をより感じさせるのを助けるものであり、治療的変化における協力な要素である。洞察段階では、ヘルパーはクライエントを動機づけているもの、彼らに痛みや幸せを引き起こしているもの、そして彼らの潜在可能性の達成を妨げるものに関する手がかりを探す。ここで、ヘルパーは洞察の探索、解釈、洞察の開示を用いる。

4-3 治療関係への取り組み

洞察段階のもう一つの固有の目標は、クライエントが彼らの対人的な相互作用を通して気づきと洞察を獲得することである。クライエントはしばしば自分が他者にどのような印象を与えているか気づかないので、ヘルピングの1つの目標はクライエントにヘルピングの関係において彼らがどのような印象を与えているかについてフィードバックを提供することである。クライエントがヘルパーに対してしていることと同じような方法で他者に対しても行動するという仮定があるので、治療関係での注意深い観察はクライエントの対人関係の縮図を提供する。もちろん、クライエントは彼らがヘルパーと一緒のときにするように、全ての人に対して必ずしも全く同じように行動するわけではないが、治療関係の観察はひとつの即時的な関係性に取り組む機会を提供する。それによりヘルパーはクライエントが学習したことを他の関係にも般化させるためにアクション段階でクライエントと取り組むことができる。治療関係に取り組むために、ヘルパーは即時性を用いる。

*コメント

この節は洞察段階の3つの目標とスキルについての簡単な説明です。洞察段階においても、依然として自己探索段階のスキルを用いることの重要性がそれとなく強調されています。

完全な不安定という安定した日常blog(2012.01.18)

5 結論

自己探索段階と比較して、洞察段階ではヘルパーは、クライエントが行き詰っているところや、彼らを動機づけているかもしれないことを理解するのを援助するために、ヘルパー自身の見地や反応に、よりいくぶんか頼っている。したがって、ヘルパーは自己探索段階での受容的なスタンスからはいくぶんはなれ、クライエントが十分に機能するのを妨げている問題を理解するのを援助するために若干より積極的なスタンスへと移る。

私はヘルパーは“最良の”洞察、あるいは正しい見方をもっているのではなく、クライエントにヘルパーの見方を受け入れるように強制するべきではないということを強調する。むしろ、ヘルパーは何よりもクライエントが自分自身について新しいことを発見できるように促し、そして時には決めつける形ではなく、クライエントが新たな気づきと洞察に至るのを援助するためにヘルパー自身の見方を提供する。  目標はクライエントが新たな理解の発見という実感をもつことである。自分の内側で何が進行していることを理解することは計り知れないほど貴重な“アハァ”体験であるが、それは真に有益であるためには、クライエントによって発見され、そして体験されなければならない。

ヘルパーはクライエントがヘルパーのチャレンジや解釈に同意しないことに備える必要もある。ときどきそれらのスキルが時期尚早に用いられたり、不正確あるいは不適切に用いられ、あるものは集中的に用いられ、そしてクライエントはしばしば防衛的にそして不安になる。ヘルパーはクライエントに、異なるどのような介入が可能かに気づくために、それらの反応に注意を払う必要がある。

洞察段階に特有なスキルは自己洞察段階でのスキルよりも、学習し用いることは難しい。私は学生に、このモデルに初めて接してすぐに洞察のスキルを修得することを期待していない。事実、学生が洞察のスキルを学習し、ヘルピングの場で適切な状況でそれらを適用するためには長い年月とたくさんの練習を必要とする。しかし、初心のヘルパーはたぶん最初はそれらのスキルを適切に用いるのに気後れするけれども、洞察のスキルを自覚していることが重要である。

自己探索段階のスキルは洞察段階でも頻繁に用いられる。ヘルパーがいったん挑戦、解釈、洞察の開示、あるいは即時性を示すと、クライエントは新たな水準におり、ヘルパーはクライエントが思考と感情を探索するのを促進させなければならない。

*コメント

洞察段階では自己探索段階と比べ、ヘルパーのスタンスはいくぶん積極的になります。正、スキルを用いる際にも、ヘルパーが感じること、考えることがベースとなる部分が強いですが、そうであったとしても、それらのスキルを用いる際には、ヘルパー側の欲求ではなくクライエントのことを第一に考えたことに動機づけられている必要があると述べられています。逆転移なども関連してきますね。そして洞察段階のスキルを用いる際には、特にスキルを用いていることに自覚的でなければなりません。

おしまい。

完全な不安定という安定した日常blog(2012.01.18)