chap.2

Chapter 2 An overview of Helpingのまとめ

1.はじめに

ヘルピングについての理論的基盤を持つことは重要である。なぜならヘルピングのプロセスをどのように進めていくのか決めるのを手助けしてくれるからである。さらに、主要な理論的なオリエンテーションの違いでその効果に差は見られないことからも、哲学的に一貫した方法で最良のアプローチを統合することは理にかなっている。したがって、ヘルピングの3段階モデルは、クライエント・センタード・セラピーに基盤を置く探索段階から、精神力動的セラピーに基盤を置く洞察段階、そして行動療法に基盤を置くアクション段階へと展開していく。

*コメント

この章はヒル先生が提唱するヘルピングの3段階モデルを概観しています。3段階モデルのそれぞれの段階はexploration stage, insight stage, action stageで、それぞれの段階は、ロジャースの理論、フロイトの理論、そして学習理論が基盤となっています。それぞれの段階の説明はこの後に出てきます。

"it makes sense to integrate the best of the approaches in a philosophically consistent  way"(p.31)とあり、ただ主要理論を折衷的に取り入れるのではなく、モデルとして哲学的に一貫していることが統合的アプローチとして提案するにあたり重要であるということが伝わってきます。

完全な不安という安定した日常blog(2010.05.08)

2.3段階モデルの根底にある前提

人間の本質についての前提がどのモデルにおいてもそのモデルの哲学的基盤を形作っている。3段階モデルの人間観の前提は、人は生まれながらに、心理的、知的、身体的、対人的側面において、それぞれ多様な潜在的可能性を有しているということである。つまり、ロジャースの人間観かフロイトの人間観かのどちらかではなく、人はある程度の生得的な生物学的素因を持ち、かつ自身の潜在的な可能性を実現させる傾向を有していると信じている。

環境は人間の生き残り発達する内的な傾向を高めもするし妨げもする。適切で十分な量のサポート、つまり程よく十分な環境が整えば、子どもは自然と自身の潜在性を実現させるように成長していく。したがって、レジリエンシーや適応能力は生物学的側面と環境的側面の両方に規定される。

早期経験は特にアタッチメントや自尊感情の観点から、パーソナリティの基盤に重要や役割を果たすが、人間は当然ながら生涯を通して、生物学的素因の範囲内において変化、適応し続けていく。完全にはパーソナリティを変容できないが、自分自身を受け入れ自分自身の潜在可能性を最大限に発揮することができる。

人間は遺伝や過去の学習、外的な出来事に影響を受けるが、自身の人生の、そして自身がどのように振舞い行動するかの選択はある程度の範囲でコントロールできると信じている。したがって、決定論は自由意志により調和される。自由意志は洞察を得ることで高められ、自身の運命は完全には決してコントロールはできないが、気づきと意識的な努力により、人間は運命に対してある程度の影響力を持つことができる。

また、感情、認知、行動は全てパーソナリティの重要な要素であると考える。全てが絡み合い、他と結びついて作用する。感情は認知と行動に、認知は感情と行動に、行動は感情と認知に影響を与える。したがって、どの治療的アプローチにおいても、人が変化するのを援助するために、人間存在の3つ(感情、認知、行動)の全側面に焦点を当てなければならない。

*コメント

それぞれの理論や援助モデルはその人間観と切っても切り離せません。ここで、ヒル先生のヘルピングの3段階モデルが、どのような人間観に基づいているのかが示されています。だれしもがそれぞれの人間観を持っているはずなので、まず自分自身の人間観というものをしっかりと自覚しておくことが大切でしょう。もちろん、援助の理論やモデルの背景にある人間観も押さえなければならない。自分の人間観に近い理論がやはりしっくりくるのでしょうね。

この3段階モデルでも、それぞれの段階で用いられる“スキル”というものが出てきますが、ただそのスキルを覚えて、用いればいいのかと言えば、そうではなく、なぜそのスキルが必要なのか、どんな考えに基づいて生れたものなのか、どんな目的のために用いられるのか、どんな意図をもって用いるのか、というところまで押さえて初めて、スキルを効果的に用いることができるのでしょう。

なんか、“技法やスキルに走るなよ”、ってHill先生に叱られているようです。反省。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.05.09)

3.3段階モデル

ヘルピングの3段階モデルは、クライエントが問題を探索し、より理解し、そして日常生活で変化を起こすプロセスの流れにクライエントを導くのにヘルピング・スキルを用いるための枠組みである。ヘルピングのプロセスは探索から始まって、洞察に移行し、そしてアクションへと移り、これを達成するためにヘルパーは協働者としてそしてファシリテーターとして行動する。

それぞれに段階には、ヘルパーが達成しようと試みる中間目標がある。そしてそれぞれの目標のために用いられる異なる特定のスキルがある。

探索段階の目標は、関わり(attend)・観察(observe)・傾聴(listen)、思考の探索(explore thoughts)、感情の探索(explore feelings)である。

洞察段階の目標は、気づきの促進(foster awareness)、洞察の促進(facilitate insight)、治療関係に関する洞察の促進(facilitate insight into relationships)である。

アクション段階の目標は、アクションの促進(facilitate action)である。

*コメント

この章は概略なので、各段階の目標やスキルについては、また別の章で1つずつ取り上げて詳しく説明されています。各段階の背景となる理論に沿った目標、スキルが用いられています(探索段階ではパーソン・センタード・アプローチ、洞察段階では精神力動的アプローチ、アクション段階では認知・行動的アプローチ)。各段階の目標やスキルが明確であることで、ヘルピングのトレーニングをする側も受ける側も、教え易く理解しやすいのかもしれません。こういった部分はやはり、アイヴィーのマイクロカウンセリングや、カーカフのヘルピングのモデルに非常に共通しており、影響を受けている面といえるでしょう。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.05.13)

4.共感的協働 empathic collaboration

共感的協働はこのモデルの3段階すべての主要な特徴である。共感とは、認知レベルと情緒レベルでのクライエントの理解を意味している。また、共感はクライエントに対して誠実にかかわり、クライエントを非診断的に受容し、クライエントの反応を予測することができ、そして敏感に正確に、自身の体験をクライエントに伝えていくことも含んでいる。

しばしば共感とは、クライエントへの特定の反応の仕方と混同されるが、共感とはある特定の反応の仕方やスキルではなく、むしろ純粋なかかわりで非診断的に反応する態度なのである。

ヘルパーはクライエントが自分の人生をどのように生きるかという点において専門家ではないが、クライエントが自身の感情や価値観を探索し、理解に達し、選択し変化することを援助するプロセスを促していくという点においては専門家である。

共感も協働もヘルピングのプロセスにおいて重要な要素であるが、それらは直接教えられうる特定のスキルではなく、ヘルピングスキルの成功した遂行の結果であり、またヘルパーがクライエントに対して感じた態度の現れである。

ヘルパーは共感と協働に努めるが、その目標達成はクライエントに大きく依存しており、そしてヘルパーがクライエントとどれくらいよく“合う”かに大きく規定されるので、常にその目標を達成できるわけではない。それでも、知識、自己知覚、理解し尊重しクライエントと一緒に取り組む純粋な願望で持って、共感的理解は出現し、クライエントによって体験されやすくなる。

*コメント

共感は特定のスキルではなく、態度である。どこかで同じようなことを聞いたような。手段でも目的でもなく、ある意味では結果と言う風にいえるのか。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.06.27)

5.ヘルピングのプロセスと効果のモデル

ヘルピングの状況で生じることの大部分は非常に入り組んでおり、特に初心者のヘルパーにとってはそ のプロセスについて十分に自覚することは困難である。さらには、ヘルピングのプロセスは非常に速いスピードで生じるので、相互作用に伴って生じるすべての 要素と意思決定に意識的な考えを向ける十分な時間をヘルパーに与えてくれない。クライエントは絶えず新たなニーズとチャレンジを提示するのでヘルパーは即 座に反応することを学ばなければならない。

プロセスと効果のそれぞれの要素に目を向けることによって、ヘルパーは異なる状況におけるヘル パーの反応や応答を理解し始め、そしてヘルパーの介入に対するクライエントの反応について学ぶことができる。セルフ・アウェアネスを高めることでヘルパー はクライエントにとってより心理学的に利用可能性が高まり、自身の行動により意図をもつこととなる。

*コメント

この節では、一般 的なヘルピングのプロセスとその効果に影響を及ぼす要因について説明されており、まずヘルピングの全体像を捉えることで、ヘルパーの意図やそれに基づくヘ ルピング・スキルの使用について、理解する枠組みを得ることにつながります。この後、ヘルピングのプロセスや効果に影響する要因など説明が続きます。

当然のことですが、ヘルピング・スキルをどのような意図をもって、どのような効果を期待して使用するか、その点に自覚的になることがヘルパーにとって大事と言えます。ヘルピング・スキルの使用が目的になってしまわないように。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.07.12)

5-1.ヘルパーの背景変数

ヘルパーは世界を眺める独自の方法をヘルピングのプロセスに持ち込む。それらは自身のパーソナリティ、ビリーフ、世界についての仮定、価値、経験、文化的・人口統計的特徴に寄与する。加えて、ヘルパーは理論的なオリエンテーション(援助方法についての信念)と過去の援助における体験(インフォーマル、フォーマルともに)を持ち込む。たとえば、精神力動的理論のオリエンテーションを持つ内向的で若くヨーロッパ系アメリカ人女性のヘルパーは、認知行動的理論のオリエンテーションを持つ外向的で中年のイラン系アメリカ人男性のヘルパーと比べて、ヘルピングのプロセスにとても異なった影響をもつだろうと想像できる。

*コメント

自分ではコントロールできない自分自身という変数がヘルピングのプロセスに影響していることに自覚的になること。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.07.19)

5-2.クライエントの背景変数

ヘルパーの背景変数と同様に、クライエントの背景変数もプロセスに影響を与える。クライエントは変化への準備のさまざまな段階にいる。あるものはヘルピングのどんな形態にも参加することに気が進まないし、他のものは自分自身のことについてより学ぼうと切望する。また他のものは自分自身の行動を変化させる準備が整っている。プロチャスカ、ノークロス、ディクレメンテ(1994,2005)は変化の5段階を特定している。

ヘルパーとしての目標は、クライエントが問題に気づき、自分自身の行動に対する責任を持ち、変化するかどうかそしてどのように変化するかについて決定し、その変化を強固なものとするよう取り組むという、ステージを進んでいくことを援助することである。ステージの進行はしばしばかなりの時間がかかるものである。さらには、クライエントは異なる問題で異なる変化のステージにいることもある。

前熟考段階のクライエントとの取り組みは、困難である。なぜなら彼らは純粋に変わりたいというより、しばしば裁判所からの命令で強制的に援助関係にやってきているからである。反対により後のステージのクライエントとの作業は、彼らが熱心に自身の問題に取り組むのでより容易な傾向がある。クライエントが変化に抵抗するよりも関心を示しているときにプロセスはより機能する。

*コメント

ここでも出てきました。プロチャスカ先生の行動変容段階モデル。クライエントの治療や変化に対する動機づけを見極め、それに合わせた関わりが重要となる。段階が違えば、関わりも当然変わってくる。このあたりは見方は、ソリューション・フォーカスト・アプローチのクライエントとセラピストの関係性のタイプ化に近いですね。そういえば、『解決のための面接技法』第3版ではそのタイプ化は記述はなくなっていますね。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.07.26)

5-3.治療関係 Therapeutic relationship

研究者は、セラピーの効果を予測する主要な変数は治療関係であるということを一貫して見出している。クライエントはセラピーでもっとも役立った側面は理解され支えられたという気持ちであるとおおむね報告する。

Gelso と Carter(1985, 1994)は治療関係は現実の関係、作業同盟、転移、そして逆転移から成り立っていると理論化した。

多くの研究者は良好な治療関係がヘルピングのプロセスを促進することに同意しているが、どのようにクライエントとの良好な関係を築くかと言うことについてはそれほど明確ではない。

私は治療関係は以下のように作用することを提唱する。クライエントはしばしば自分の話を聞いてくれる人や気にかけてくれる人は誰もいないという気持ちでヘルパーの所にやってくる。ヘルパーはクライエントにかかわり、クライエントの感情と体験についての理解を伝える。ヘルパーは共感的でそして非判断的であり、クライエントをそのままに受容する。それによりクライエントは自分の深い感情を表出するのに十分な安心を感じる。最後に、ヘルパーは自分の介入、クライエントの自己探索、洞察の獲得、そしてアクションの意思決定を援助すること、そして彼らが援助されうるというクライエントの信頼感を築くことに習熟している。ヘルピング関係の文脈の中で、クライエントはヘルパーがクライエントをそのままに受容すれば、自分はOKであるに違いないと感じ始めるだろう。そのことは、クライエントに、全ての人が自分のことを困難に感じるというわけではないということに気づかせる。さらには、ヘルパーとの作業はクライエントが自身の不安を減らすことを促進し、それにより彼らの対人関係の苦痛や不安に向き合う能力を増大させる。クライエントは徐々に自尊感情を築きあげ、変化することが出来るという希望を獲得し始める。そのことは変化への基盤となる。彼らはまた思考や感情を探索し、新たな理解にいたり、変化を起こすことは安全であることを感じる。したがって、関係性とスキルは治療プロセスに影響を与える際に相互に関連していることは明らかである。

ヘルパーは全てのクライエント関係を築くことが出来るわけではない。とりわけ援助されることへの動機づけがなかったり、準備がない人とはそうである。

しかしながら、過失はときに、ヘルパーの側にある。全てのヘルパーには自身の背景(例えば、非機能的家族)や個人的な問題に関連した限界がある。要するに、ヘルパーは完全には解決されない個人的な問題を抱えた傷ついた治療者healersなのである。我々の全ては問題を抱えており、そしてもしそれらの問題があまりにも圧倒するものであらゆるものを含むものでないのなら、私たちがヘルパーであるときにそれらをわきに置いておくことが出来る。しかしながらもしその個人的な問題があまりに重要であるならば、ヘルパーはクライエントのニーズよりも自身のニーズに焦点を合わせる可能性が高いであろう。

ヘルパーとクライエントとの組み合わせの中には望ましくないものもあり、建設的な治療関係をもたらさないものもある。

*コメント

心理療法・カウンセリングの効果における重要な変数として、治療関係・作業同盟がこれまでの研究で一貫して指摘されてきている。

それを踏まえ、ヘルピング・スキルのモデルにおいて治療関係をどのように捉えるのか、またどのようにスキルが結びついているのかが説明されています。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.08.05)

5-4.瞬間瞬間のやり取りの流れ MOMENT-BY-MOMENT INTERACTIONAL SEQUENCE

背景変数と特定の文脈が与えられれば、ヘルパーはセッションでのその瞬間で行動する必要がある。ヘルパーは現在の状況のアセスメントに基づいて意図を策定 する。それらの意図は特定のヘルピング・スキルの選択を導く。次に、クライエントはヘルパーの介入に反応し、それはクライエントに自身のニーズと目標の再 評価とヘルパーとどのように行動するかの決断を導く。それからヘルパーはクライエントの反応を査定し、次の介入に向けて彼らが何をする必要があるかを再評 価する。その後、このプロセスは、他の意図を決めようとしたり、どのように相互に作用するかを決定するために、顕在的に潜在的に両面で反応する個々のクラ イエントと続けられていく。したがって、このプロセスはその瞬間の認知、ニーズ、意図に左右されて変化していく。

*コメント

helpingの一連の流れの中でスキルや意図がどのように位置づけられ、また様々な変数により規定されるか/規定するかについて、一つ一つ述べられていきます。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.08.30)

5-4-1.ヘルパーの意図 Helper Intention

ヘルパーはその時に知る全てのことに基づき、次の介入で成し遂げられることについて考える。ヘルパーはクライエントと取り組む方法のための意図を展開させ る。それらの意図はヘルパーの言語的および非言語的な介入の選択を導く。したがって、ヘルパーの意図は介入の背景にある根拠といえる。

意 図は表に現れず、必ずしもクライエントあるいはヘルパーにとって明白なものではない。事実、ヘルパーは自身の意図について、関わる際に常にそれに気づいて いるわけではない。私は初心のヘルパーに自身の介入に意図的になるように促し、それぞれの介入で成し遂げようとしていることについて考えるように促す。

*コメント

よ くある例えですが、車の運転スキルのように、初めは1つ1つの動作など意識して身体を動かしますが、慣れてくると意識せずに運転することが出来るようにな ります。ヘルピング・スキルも習得するためには、まず、自分が用いるスキルや意図に自覚的になることの必要性が指摘されています。トレーニングの方法とし て、その場面や瞬間瞬間では意識できていないことなどを、音声や映像で録音して振り返り改めて自身の言動を振り返ることで、自身のスキルや意図に自覚的に なることができます。こういったトレーニングは、ヘルピング・スキルのトレーニングに限らず、ロールプレイや試行カウンセリングなどを通して行われていま すね。重要なのは、ビデオなどを振り返り、振り返っている時点で感じたり考えたことではなく、その場面で感じたり考えたことなどを取り上げることです。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.08.30)

5-4-2.ヘルパーのヘルピングスキル Helper Helping Skills

それぞれの意図のために、ヘルパーはいくつかの異なったヘルピング・スキルを用いることが可能である。同じ意図を目的として異なるスキルを用いた場合、どれも適切である一方で、微妙にクライエントを異なった方向に動かすかもしれない。また、プロセスがあまりに形式ばったものにならないように、多様なスキルを用いることは有益である。  スキルを意図に一致させることに加えて、ヘルパーはスキルに言語的、非言語的要素があるということ、そして同じ介入でもその届き方に左右されて異なった影響をもちうるということを心に留めておくべきである。適切な非言語的行動とはクライエントと状況によって異なるので、ヘルパーは注意深くそして意図的に非言語的行動を用いる必要がある。

*コメント

ただ機会的にスキルを用いるのではなく、そのスキルをどのように用いるのか、相手はそのスキルをどのように受け取るのか、さらに、ヘルパーが気づいていないスキルとともに届けられる非言語的な側面にも十分に配慮するする必要がある。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.09.25)

5-4-3.クライエントの反応 Client’s Reactions

ヘルパーの介入に1つ以上のクライエントの反応が応じる。ヘルパーが成功したときには、クライエントの反応はヘルパーの意図、ヘルピング・スキルに一致するが、もし介入が成功しなければ、クライエントは表現していることをあまり聞いてくれていない、あるいは、ヘルパーは誤った推測をしていると感じるかもしれない。

クライエントはヘルパーに対する自分自身の反応に気づかない時もあるが、自分の反応に時々意識的に自覚している。さらに、クライエントは社会的に受け入れられない反応(例えば、ヘルパーの介入に対する怒りの感情)を認めるのは時に難しいことである。ヘルパーについての否定的な感情を認めることは、もしクライエントがヘルパーのことを尊敬していたり、頼りにしている、あるいは、クライエントが自分自身が否定的な感情をもつことを許さない場合には、困難になりうる。

さらに、クライエントはしばしばセッション中に重要な材料を開示しないということが研究で示されている。クライエントは、感情が圧倒されるものであると感じられたり、恥ずかしく、当惑するように感じたり、開示して対処することを避けたかったり、ヘルパーが理解してくれないのではと恐れたり、彼らあるいはヘルパーのどちらかが開示したことを扱うことができないのではと考えて、言わないままにしておくことがある。

ヘルパーの介入に対してもつクライエントの反応に対して、クライエントのニーズ、治療関係、ヘルパーの意図に対するクライエントの印象など多くの要因が影響を与える。

*コメント

ヘルパーが用いたスキル(介入)に対するクライエントの反応を注意深く観察し、その介入の成果を判断し、さらなる介入につなげていかなければならない。しかし、クライエントの反応は、ただ単にヘルパーの介入に対してなされるのではなく、多様な要因が影響を与えているので、そのことを認識しなければ、クライエントの反応を誤って捉えてしまうことになる。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.09.25)

5-4-4.クライエントのニーズと目標 Clients’ Needs or Goals

クライエントは相互作用を通して自分が必要としているものと望むものを決め、そしてある特定の期間の中でヘルパーから何を得ることが可能なのかを判断する。クライエントはヘルパーの介入の受動的な受け手ではなく、相互作用から必要とするものを得ることに積極的に関与する。

クライエントもヘルパーに対して影響を持ちたい。彼らは、ヘルパーが示唆することは何でも実行することで、ヘルパーに良い印象を与え、喜ばせたいかもしれない。また他のクライエントはヘルパーの自分についての評価を傷つけたくないので、恥ずかしい秘密を明らかにしないと決断するかもしれない。

クライエントは彼らがヘルパーから引き出したい反応をたいていは意識的にたくらんでしているのではなく、むしろ、自分のニーズを満たすことができる可能性を最大限にする方法を過去の経験に基づいて実行するのである。これらのクライエントの目標のある部分は転移の影響を受けている。例えば、もしクライエントが子どものときに誰も自分の話を聞いてくれないと感じていたら、彼女は誰かがもしかするといま自分の話を聞きたいと思っているだろうということを信じることは出来ないかもしれない。したがって、たとえヘルパーが関心を持って関わっていても、クライエントはヘルパーが自分の話を本当は聞きたくないということをヘルパーに“証明”させたくて、セッション中に話そうとしないかもしれない。このクライエントは沈黙を、ヘルパーは何と言っていいのか分からずに黙っていると認識するよりもむしろ、ヘルパーはクライエントに退屈しているから生じているのだと捉えるかもしれない。

*コメント

クライエントのニーズや目標は、クライエントの気づかないところで転移の影響を受けている。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.09.25)

5-4-5.クライエントの行動 Clients’ Behavior

クライエントは自分自身の反応、治療関係についての感情、相互作用でのニーズ、そして望む効果のために目標に基づいて特定の行動をとる。クライエントの行動はクライエントとヘルパーとの相互作用だけでなく、彼らのコミュニケーション能力、ニーズへの気づき、病理の水準そしてパーソナリティ構造によっても決定される。したがって、あるクライエントは自分の苦痛の原因を述べることについて、とても明瞭で洞察的であるかもしれないし、他方、他のクライエントは感情を伝えるスキルにかけていたり、その時感じていることに気づかないかもしれない。

*コメント

クライエントの行動がどのような要因に規定されているのかに注意を払う。的確に話すことができない場合、それは不安や緊張のためかもしれないし、混乱しているのかもしれない、言語的な能力の問題かもしれない。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.09.28)

5-4-6.ヘルパーのクライエントの反応のアセスメントと目標の再評価 Helpers’ Assessment of Client Reactions and Reevaluation of Goals

次に、ヘルパーは介入に対するクライエントの反応を査定しようとする。例えば、ヘルパーは介入に対するクライエントの反応が何であるのかを明らかにするためにクライエントの行動を観察する。残念なことに、ヘルパーはクライエントの反応を明らかにする際、常にそれが正確というわけではない。私の研究は、ヘルパーはクライエントの否定的な反応よりも肯定的な反応を認識する場合により正確であるが、介入に対するクライエントの否定的な反応を認識する際に、特に得意でないということを示している。

加えて、ヘルパーはクライエントが否定的な反応をする時に認めようとしないかもしれない。クライエントが怒りを感じる時、ヘルパーはクライエントが怒りを表出することが出来ると評価するよりもむしろ、その怒りを自分への個人的な拒否として解釈するかもしれない。他のヘルパーはクライエントが当惑したり泣いたりするのを許すことが難しいかもしれない。なぜなら彼らは全てのことをよくさせて、すべてのクライエントを幸せにする義務を感じているからである。

残念ながら、全てのヘルパーがスキルの訓練を受けておらず、あるいはクライエントへの介入の効果について検証することを学習しているわけではないので、彼らは特定の状況でのクライエントのニーズに合わせものというよりもむしろ心地よく感じる介入(例えば、アドバイスを与える)を用いる。さらに、ヘルパーは徐々に自身の行動がクライエントに与える影響に無関心になる可能性があり、クライエントが内的にどのように反応しているかということを知っていると仮定しうるという危険がある。ヘルパーは彼らが体験しているときでさえ、クライエントの反応とクライエントへの介入の影響について気づこうと努力しなければならない。

クライエントの反応への認知(正確であろうとなかろうと)と、表に現れる行動の観察に基づき、ヘルパーは成し遂げようとしていることの再評価をし、それから次の介入のために新たな意図と付随するスキルを見出す。もしヘルパーが最後の介入が成功したと認知し、同様の介入が適切であろうと考えたら、彼女は同じスキルと意図の組み合わせを続けるかもしれない。もしヘルパーが最後の介入が援助的であったが何か新しいことが必要であると知覚すれば、彼は異なる意図・スキルの組み合わせを選択するかもしれない。

対照的に、もしヘルパーが最後の介入がクライエントに良いように受け取られてないと知覚したら、ヘルパーは希望を持って、なぜ介入が成功しなかったのかを明らかにしようとするだろう。もし、タイミングが悪かったら、ヘルパーは介入を続けるのではなく、問題についてより知るためにより探索的な介入に戻ることを決めるかもしれない。もしヘルパーの意図が的を得ているが誤ったスキルが用いられていると確信したら、ヘルパーは同じ意図を実行するために異なったスキルを用いるかもしれない。したがって、クライエントの反応に注意を払うことによって、ヘルパーは即時のニーズに合った新たな介入を考え出すことができる。

ヘルパーの介入が効果的かどうかの最も重要な基準がクライエントの反応であるということを考えると、ヘルパーは介入が援助的かどうかを見出し、そしてクライエントが否定的に反応するときに調整するためにクライエントの反応を観察する必要がある。私はヘルパーのことを、それぞれの介入の効果を調べ、何が作用しそして作用しないかを検証し、そして次に何をする必要があるかを決めるという、個人的な科学者と考えたい。したがって、ヘルパーは個々のクライエントに何が作用するかについてとても注意深くあらねばならない。

もちろん、絶え間のない自覚はヘルパーにフィードバックを受けることに開かれ、何か異なったことをしようとするためのレパートリーのスキルをもち、クライエントが誤解を許すような十分に良い関係を築くことを要求する。残念なことに、多くのヘルパーの問題がこのプロセスを妨害する;つまり、今日はついてない、オープンさや気づきの欠如、スキルの欠如あるいは、クライエントとの十分によい関係の欠如といったものである。ヘルピングにおいて完璧という概念は存在しないので、完璧なヘルパーはあり得ない。事実、完璧なヘルパーはクライエントにとって援助的ではない、なぜなら現実世界での関係では存在しえない、とある人は主張している。つまり、全ての人はミスを犯し、ミスへの対処法を学ぶことがとても治療的でありうる。自分のミスを認め、誤り、そして出来事を処理していくヘルパーは、クライエントに関係の中で問題に対処する方法について力強い例を提供しうる。したがって、最良のアドバイスはヘルパーがリラックスし、自分が出来る最良のことをし、そして自身の体験から学んだことを試みようとすることである。さらには、ヘルパーは自分の有効性への障害に対処するのを助けるセラピー、トレーニング、そしてスーパービジョンを求め続けるべきである。

*コメント

ヘルパーの介入か効果があったのかどうかは、クライエントの反応が1つの重要な指標となる。したがって、クライエントの反応・行動を注意深く観察しなければならないし、クライエントの反応(特に否定的な反応)に対してヘルパーは開かれていなければならない。またクライエントが否定的な反応も表出できるように、良好な治療関係を気づくことも必要である。かといって、ヘルパーは完璧な人間でなければならないというわけではない。ヘルパーも過ちを犯すことがあるのだということは、クライエントにとって1つに人間味あふれるモデルになるのかもしれない。何よりも自分がそういった不完全な人間であるということを認め受け入れ、常に専門的なスキルの向上を求めていくことが大切である。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.09.28)

5-5.外的世界 EXTERNAL WORLD

多くの外的な力がヘルピングのプロセスに影響を与える。

クライエント Clients

一般的にヘルピングのセッションは一週間にたったの一時間で続くが、クライエントはヘルピングのセッション外で、人生の残りを生きている。ヘルパーとして、私たちはクライエントがヘルピングのセッションから学んだことを身につけ、“現実の生活”にそれを適用しようとすることを期待する。

集中的心理療法intensive psychotherapyでは、クライエントは時にセッション間の間にヘルパーのイメージを残すためにイメージ、あるいは内的表象と呼ばれるものを形成する。例えば、あるクライエントは自分が困難な状況のときにすることをヘルパーは何と示唆するであろうかを見出すためにヘルパーとの想像的な議論をもつかもしれない。他の者は困難な状況に置いて、ヘルパーが自分を元気づけるを想像するかもしれない。それらの内的表象はしばしばセッション間でクライエントが対処するのを援助する。

外的世界でのもう一つの重要な影響はソーシャル・サポートであり、それは大規模に実証されてきた。ソーシャル・サポートをもつクライエントはセラピーでよい結果を導く傾向があり、また、友達をもつクライエントはセラピストに過度に依存する可能性が少ない。

しかしながら、外的世界での関係性は時にセラピーの進展の障害を示しうる。おそらく最も明らかな例はクライエントの変化が家族の生活の現状を脅かすので、家族成員がクライエントの進展を台無しにしてしまうということである。  したがって、外的世界での出来事は治療作業を援助も妨げもしうる。ヘルパーはセッション中に進行することに関与するだけではないく、外的な出来事がヘルピング・プロセスにどのように影響するかにも注意を向ける必要がある。ヘルパーはクライエントにヘルピング以外で生じたことについてヘルピングの場で話すように促すこともでき、そしてクライエントに自分の生活での変化を起こすことの責任を引き受けるよう促すことができる。

ヘルパー Helpers

クライエントに影響を与える同じ外的な力の多くは、クライエントとのヘルピングのセッションでヘルパーがどのように感じ、振舞うかにも影響を与える。もしヘルパーが自分自身の生活において多くのストレスと葛藤があれば、クライエントに焦点を当てられるように、それらをわきに置いておくことは難しい。初心のヘルパーに影響を与える特有のストレスは不安である。つまりヘルパーがヘルピングのセッションで遂行する能力について不安を感じるほど、クライエントに焦点をあて、共感的になることができなくなる。ヘルパーは、セッション中にクライエントにとって有用でありえるよう、自身の問題に取り組むために個人的なセラピーやスーパービジョンを求めることが期待される。

*コメント

ヘルパーは、ヘルピングの効果を最大限にするために、直接クライエントとあっている時間だけではなく、それ以外のクライエントの現実生活のことにも注意を払う必要がある。クライエントを取り巻く重要な人たちが日常場面に置いて、クライエントにどのような影響を与えているのか、それがヘルピングのプロセスにプラスに影響しているのか、マイナスに影響しているのかをも考慮に入れてヘルピングを進めなければならない。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.09.29)

5-6.クライエントへのヘルピングの効果 OUTCOMES OF HELPING FOR CLIENTS

ここで議論した変数の全ては(ヘルパーとクライエントの背景変数、文脈変数、瞬間瞬間の一連の相互作用、そして外的世界)、クライエントへのヘルピング・プロセスの効果を決定するのに相互に影響する。したがって、効果は多くの変数に影響を受け、個人はプロセスの異なる側面に特異的に反応する。

効果を分類する1つの方法は3領域の観点である。(a)remoralization、well-beingの向上、(b)remediation、症状軽減の達成、そして(c)rehabilitation、家族関係や機能のような領域で機能することを妨害する厄介で不適応的な行動の減少。効果研究は、 remoralizationが最初に生じ、そしてセラピーで最も簡単に変化することである;remediationがゆっくりとした速度で続く;そして rehabilitationは達成するために長い時間かかる。したがって、クライエントはセラピーの数セッション後により希望を感じるかもしれないが、クライエントは抑うつや不安の減少を感じるのはより時間がかかり、そして関係や作業においてのあたらな振舞い方という点で変化が生じるにはより時間がかかるかもしれない。

効果について話すもう一つの方法は、個人内intrapersonal、個人間interpersonal、そして社会的役割遂行social role performanceの観点である。個人内の変化はクライエントの中で生じる効果を指す。個人間の変化はクライエントとの親密な関係において生じる。社会的な役割遂行はコミュニティに置いて責任を果たすためのクライエントの能力を指す。  クライエントがセラピーの後に完璧に機能するといったような、“治癒cure”という結果にセラピーが結びつくのではないということに留意することは重要である。私の見方では、人間の条件として、孤独、責任や自由への恐怖、そして死への不安といった実存的な問題についての生れ持った感情をもっているので、完璧に機能するようなことは存在しえない。むしろ、ヘルパーはクライエントがより効果的に機能し、自分自身についてよい感情をもち、そして人生における自分の条件に、より受容的になり始めることを期待することができる。しかしながらときに、セラピーは、実存的な問題に取り組むときに、実のところクライエントをより不安にさせることがある。これはより不安になることが適切なのである。

ヘルパー、クライエント、そしてクライエントにとっての重要な他者は、時にヘルピング・プロセスの効果に異なった認識をもち、ヘルピングの効果は、個々の視点に従ってかなり異なりうる。

*コメント

何を持ってヘルピングの効果とするか。人間は生まれながらにして誰しも実存的な問題を抱えている。死への恐怖、孤独、愛などなど。1人1人がヘルピングに求めるものは異なるし、またクライエントがヘルピングに求めるものとその家族がヘルピングに求めるものも異なりうる。

完全な不安定という安定した日常(2010.09.29)

Chap.2 An Overview of Helping おしまい。