kimura2006

大学生は他者から学生相談の利用を勧められると、より利用しようと思うのか?(木村,2006)

1.この研究であきらかにしたかったこと。

学生相談による援助サービスの提供は、一部の深刻な問題を抱えた学生対象とした治療的なアプローチのみならず、発達促進的・教育的な視点からのサービスも欠かせません。学生相談が大学という教育機関に存在する以上、全学生を対象としたサービスを提供することが望まれます。では、どのようにしたら、サービスを必要とするより多くの学生に学生相談を利用してもらうことができるのでしょうか。学生相談を利用する行動を抑制する要因を明らかにするとともに、利用する行動を促進する要因を明らかにすることも必要と言えます。

学生相談を利用する学生の中には、先生、家族、友人といった学生を取り巻く身近な人々から学生相談の利用を勧められて来室する学生も少なくありません。こういった学生を取り巻く人々からの利用を勧める適切な行動が、大学生の学生相談利用を促進する1つの要因として考えることができます。

そこで、この研究では、学生を取り巻く周囲の人たちからの学生相談の利用の勧めが、学生の学生相談利用の意識を高めるのかどうか、どのような場合に周囲からの利用の勧めが効果的なのかを明らかにすることも目的としました。

2.どんな方法で研究をしたか

このような疑問をもって、大学生238名を対象にアンケート調査を実施しました。アンケートでは上述した疑問を明らかにするために次のようなことを尋ねました。

3.明らかになったこと。

以上の内容をアンケートで尋ね答えてもらいました。回答してもらった内容を統計的に分析した結果、大きく以下のことが明らかになりました。

ではこの結果から、どんなことが言えるのでしょうか。どんな提案ができるのでしょうか。

まず第1点目として、学生相談を利用することに対する不安が低い学生に対しては、周囲の人から利用を勧めた場合に、利用の意識が高まる可能性があるということです。特に、学生相談室のカウンセラーや学生相談の利用経験がある友人からの利用の勧めが効果的なようです。実際に学生相談に関わるカウンセラー、そして利用経験のある友人からの利用の勧めはより説得力や信頼性があるのかもしれません。

ただ、学生相談を利用することに対して不安が強い場合には、必ずしも周囲からの利用の勧めが利用の意識を高めるわけではないようです。したがって、大学生の学生相談を利用することに対する不安を低減させることが重要であるといえます。そうすることで、周囲からの利用の勧めもより効果的となると考えられます。なお、不安が高い場合でも、学生相談室のカウンセラー、利用経験のある友人からの利用の勧めは利用の意識を高めるようです。

第2点目として、利用を勧めることが逆に、利用の意識を低めてしまう可能性があるということです。つまり、周囲からの利用の勧めは、学生相談の利用を促進する要因にも抑制する要因にもなりうるということです。ただやみくもに、利用を勧めればいいというわけではありません。こういったマイナス面も認識しておく必要があります。

周囲の人からの利用の勧めが利用の意識を高めることが示唆されたことから、学生を支援するにあたり、学生を取り巻く友人、家族、先生などを積極的に学生のサポーターとして位置づけて、学生を支援していく姿勢が必要なのではないでしょうか。学生相談室のカウンセラーや利用経験のある人からの勧めは影響が大きいと考えられることから、学生相談からの広報やPRでは、カウンセラーからの呼びかけや利用経験者の声や感想等も伝えられると、より学生相談室の利用の意識を高めることにつながるかもしれません。こういった点は今後のさらなる研究の課題です。またどのように声をかけて勧めればよいのかや、勧められた時の学生の意識や反応等も、今後より詳細に検討しなければいけないでしょう。

もちろん、学生相談室の利用においては、学生の自主性というものを尊重しなければなりません。

おしまい。

文献:

木村真人 2006 学生相談利用の勧めが被援助志向性に及ぼす影響-自尊感情,援助不安,学内支援者の観点から- CAMPUS HEALTH,43(2),113-118.