chap.4

Chapter 4 : Overview of the Exploration Stageのまとめ

1 理論的背景:ロジャーズのクライエント中心理論

自己探索段階で生じることの大部分はカール・ロジャーズのパーソナリティ発達と心理学的変化の理論に影響を受けている。ロジャーズは現実世界の知覚は人それぞれで異なり、主観的な経験が行動を導き、そして人は外的な現実世界よりもむしろ内的な経験によって導かれると考えた。同様に、彼は個人を理解するための唯一の方法は彼らの内的な世界に入り、彼らの内的な照合枠で理解することであると考えた。言い換えれば、他者を理解するためには、人は価値判断を保留し、その人が物事を見ているのと同じようにその物事を見るように努力する必要があるということである。

ロジャーズによれば、唯一の基本的な動機づけられた力とは、自己実現傾向であり、それは人々をその人が本当の自分になるように駆り立てるものである。ロジャーズは人々の中にある自己実現への力を自然の摂理になぞらえた。動植物が成長に必要な最適な条件が与えられれば意識的な努力なしに成長するのと同じように、人は自分の潜在性を実現させる生まれ持った能力を持っているとロジャーズは信じていた。さらに、ロジャーズは人々は生まれ持った成長可能性で持って、回復力に富み(resilient)、不幸から立ち直ることができると信じていた。

*コメント

ロジャーズ先生の基本的な人間観について。この後、具体的な理論について説明されていきます。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.10.15)

1-1 パーソナリティ発達の理論

ロジャーズによれば、幼児はそれぞれの体験が自分をどのような気分にするかという観点から評価するが、ロジャーズはこれを有機体の価値づけ過程organismic valuing process (OVP)と呼んだ。ロジャーズは、幼児は行動がOVPに支配されているので、実際に生じている経験を歪めることなしに知覚することができる。OVPはすべての人が生まれながらにして持っている内的なガイドであり、それは人間を自己実現へと導く。人々はこの内的なガイドを信頼しているときは自分自身を向上させる経験を自然に求める。ロジャーズは、幼児は自己実現に向けての肯定的な努力と人生についての自然な好奇心を有しているので、彼らはそれらの内的な感情を信頼することができる、と考えた。

OVPを持つことに加えて、子どもは無条件の肯定的な配慮への欲求も有している。言い換えれば、彼らは価値規定条件conditions of worth (COW) なしの受容、尊重、温かさそして愛情を必要としている。つまり、彼らは、彼らが何かをしたからという理由ではなく、ただ自分が自分であるということだけで愛されることを望んでいる。子どもが他者(たいていは両親)から大切にされ、受け入れられ、理解されたと感じるとき、彼らは自分自身への愛と自己受容を経験し始め、わずかなあるいはまったくの葛藤なしに、自己への健康的な感覚を発達させる。大切にされた子どもは自身のOVPにかかわることができ、内的な体験に基づくよい選択ができる。

残念ながら、親自身は完璧ではないので、彼らは自分の子どもにCOWを課し、子どもが愛されるためのある必要条件を満たすように要求してしまう。親は、子どもが課せられた基準に従って行動したときにだけ自分は愛され受け入れられるということを伝えるコミュニケーションをとるので、子どもは親の愛を得るための方法で存在し、そして行動しなければならないと信じるようになる。  愛情への欲求があると、OVPよりもむしろCOWが子どもの体験の構成を導くようになる。つまり、子どもは親からの愛情を受け取るためにOVPを犠牲にする。子どもが自分の親のCOWを取り入れると、それらの規定条件は子どもの自己概念の一部となる。 COWは子どもが自分の自己概念と自身の内的体験との間の葛藤を感じる原因となる。

子どもたちは彼らの体験が他者から得られるフィードバックと一貫しているときにのみ、肯定的な自己への尊重を体験する。自尊心self-worthの感情は重要な他者との相互作用を通して学習されたCOW に依存するようになる。あまりにCOWが強い子どもは体験に対して開かれておらず、感情を受容していない、“いま”を生きることができず、自由な選択ができず、信頼感を持てず、攻撃性も愛情もどちらも感じられず、創造性を発揮できない。彼、彼女は自己の葛藤した感覚を持つだろう。

COWが蔓延し、OVPが機能を失うと、自己の感覚は、人が感情を自己に所属するものとして体験できない、あるいは認識できないところまで弱められてしまう。人は自分が感情を持つことを許すことができないとき、彼らは空虚感、偽り、純粋性の欠如を感じるときがある。この自分の感情についての純粋性の欠如は現実の自己と理想の自己の間の分裂や不一致を引き起こし、不安、抑うつ、対人関係における防衛の原因となる。

*コメント

OVPとCOWという用語を初めて知りました。訳語は正しくないかもしれません。

親から受け入れられるために、子どもに条件が課せられると、子どもは当然生き残って行かなければならないので、自分の感情を押し殺して、親に課されたその条件を受け入れざるを得ない。親が子どもの感情に十分に配慮し、認めたうえで、子どもが社会化していく上でのルールを教えていく必要がある。一方的に親の課す条件を押し付けられて、引きうけてしまうと、子どもはその条件を内在化させてしまい、自分の感情との間に葛藤を感じ、自分の感情を否定するようになるかもしれない。本の中では図を用いて説明されていて、それがとてもわかりやすかったです。

友人関係に置いても同じかもしれませんね。学齢期の子どもや大学生は、友人関係の中で周りに嫌われないようにしているうちに、COWが取り入れられて、OVPが歪められてしまい、自分の感情に気づかない、扱えない状態になっているのでしょうか。

完全な不安定という安定した日常blog(2010.10.16)

1-2 防衛

ロジャーズ(1957)は体験と自己の感覚の間の不一致が存在するときに、人は脅威を感じると主張している。人が脅威を感じる時、たいてい不安の反応を示し、それは自己が危険にさらされている信号である。この不安を感じることで、人は体験と自己の感覚の間の不一致を減らすための防衛を引き起こし、それによって不安を減らす。

ひとつの代表的な防衛は知覚の歪曲であり、自己概念に矛盾しないように自身の体験を修正したり、誤って解釈することである。体験を歪めることによって、クライエントは不快な感情や問題を対処することを避け、自身の知覚を保つことができる。

二つ目の防衛は否認で、現実を無視したり非難することである。ある状況で、人々が自分にもっているイメージと一貫していないために、彼らは自分の体験を認識することを拒否する。

防衛は不一致の体験が十分に知覚されるのを妨害し、そして自身の自己の感覚への脅威を最小化し、そうすることで自己が機能しうまく対処するようにさせる。ある程度の防衛はコーピングとして必要であるが、防衛の過剰な使用は少なくとも3つの方法で自己に大きな被害を与えうる。1つ目は、主観的な現実(人が自分自身として体験していること)が外的な現実(実際の存在している世界)と一致しなくなるということである。ある時点で、その人はもはや体験を歪曲したり否認できなくなるかもしれず、脅威や不安の感情に圧倒され、自己の感覚の崩壊を招くかもしれない。2つ目は、人は知覚している現実に対して防衛しなければならなかった領域において、知覚の硬直化が起こるかもしれないということである。3つ目は、現実自己が理想自己と一致しなくなり、その結果、ありのままの自分と理想の自分との間の不一致が明るみに出るかもしれない。もし現実と理想の不一致が大きい場合、その人は不満を感じ、不適応状態になるかもしれない。

*コメント

自己概念と体験との間での不一致に対するほどほどの防衛が必要。過剰な防衛がどのような問題を引き起こすか、具体的な例もあげられていて説明されていました(ここでは省略)。

完全な不安定という安定した日常(2010.10.19)

1-3 再統合

ロジャーズ(1957)によれば、現実自己と理想自己との間の分断、硬直、不一致を克服するためには人は体験の歪曲や否認に気づかなければならない。つまり人は体験が生じることを受け入れ、そしてその出来事を正確に受け取らなければならない。ロジャーズは再統合が生じるためには人は (a) COWを低減し、(b) 他者からの無条件の肯定的配慮を受け取ることを通して肯定的な自己配慮を高めなければならないと理論化した。

ヘルピングの関係は、個人が自身の防衛を乗り越え、自分のOVPへの信頼を取り戻すのを援助するためにしばしば極めて重要である。ヘルピング関係は個人の自己実現傾向が、内在化されしまったCOWの制約を乗り越えられるようにさせる。ヘルピング関係において、ヘルパーはクライエントの主観的な世界の内側に入ろうとし、クライエントの内的参照枠を理解しようとする。ヘルパーはクライエントがCOWなしで受容され配慮される体験を提供しようとも努力する。

ロジャーズ(1951)は援助関係は、その中でそしてそれ自体で、クライエントの成長を生みだすと考えた。ロジャーリアンのヘルパーは、多くのクライエントは話を聞いてもらい、理解され、受容されるということから大きな利益になると考えている。このような関係の力は大いに治療的で建設的でありうる。ロジャーリアンのヘルピングのアプローチでは、ヘルパーは自己一致(純粋性)、無条件の肯定的配慮、そして共感という促進的な態度で治療関係に入っていく。  ロジャーズ(1951)はヘルパー側の促進的な態度(純粋であり、無条件の肯定的な配慮を示し、共感的)はヘルパーにとって最も有益なものであると述べている。彼は、スキルは重要であるが、促進的な態度がスキルの基盤を果たすと述べている。促進的な態度の伴わないスキルは役立たないばかりでなく害を与える可能性もある。

要約すると、ロジャーズはヘルパーがクライエントを受容できれば、クライエントは自分自身を受容できるようになることを示した。クライエントが自分自身を受容する時、自分自身が自分の信の感情を体験し、その感情が自分の中から生じていることを受け入れさせることが出来るようになる。したがって、OVPは障害が取り除かれ、その人は自分自身の感情に開かれるようになり、感情を体験し始めることができる。そして自己を受け入れるようになる。感情を受け入れることは、その感情について何をすべきかについて意思決定することとは区別されるということを覚えておくことはとても大切なことである。自分自身に感情をもつことを認めることは、何をすべきかについての意思決定の基礎となるもの以上の多くのものと提供する。なぜなら、その行為はその時に“すべきである”ということよりもむしろ、内的な感情に基づいているからである。

*コメント

だいぶ省略しましたが、有名な変化が生じるための6条件も細かく触れられています。私の訳、まとめではだいぶ分かりず楽なりましたが、個人的にはロジャーズの考える再統合の考えをわかりやすく理解できました。そして、スキル、スキルと言いますが、スキルが十分に効果的であるためにはfacilitative attitudeが欠かせないのです。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.06)

1-4 クライエント中心理論の現在

メタ分析により、クライエント・センタード・セラピーとヒューマニステック・セラピーは確かな効果があり、他の心理療法のアプローチと同程度の効果があることが示されており (Elliott, Greenberg, & Lietaer, 2004)、さらに複数の実証的な文献レビューでは、促進的な態度、とりわけ共感がセラピーの肯定的な効果を導く上で重要であることを示されている (Bohart et al, 2002; Farber & Lane, 2002; Klein, Kolden, Michels, & Chisholm-Stockard, 2002)。共感がクライエントに安全で支持されている感じを与え、クライエントが肯定的な治療関係を体験するのを助け、自己探索を促進し、そしてクライエントの自己治癒効果を高めるのを援助するのに重要であることは明らかである。

しかしながら、最近の研究は、セラピスト側の促進的な条件よりもむしろ、作業同盟やセラピストとクライエントとの関係性により焦点を当てている (例えば、Horbath & Bedi, 2002)。したがって現代の研究者はセラピストが提供するものに注目するよりもセラピストとクライエントの相互作用がより重要性であるとみなしている。

ロジャーズ理論の再構成において、Bohart & Tallman(1999)はクライエントは自己治癒的であるが、そこからそれる可能性があることを強調している。彼らはヘルパーが適切な条件を提供すると、クライエントは再び自己治癒的になることができると提起している。特定のスキルの使用よりも共感的な態度がより重要であると主張したロジャーズと同様に、Bohart & Tallmanは特定の技法はクライエントが自己治癒力を取り戻すのを助けるために機能する技法ならどんなものでも用いるということほど重要ではないと主張している。

*コメント

治療効果の要因として、セラピスト側の条件というよりもセラピストとクライエントの関係性が重要なのだ。ヘルピング・スキルもヘルパーが用いるスキルという点からだけでなく、ヘルピングというヘルパーとクライエントの関係性の観点から捉えていくことが必要。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.06)

1-5 ロジャーズの理論とヘルピング・スキル・モデルとの関係

ロジャースの理論は自己探索段階の基盤を形成し、洞察段階とアクション段階に情報を提供してくれる。私はヘルパーが価値判断せずに出来る限り完全にそして出来る限り事前の想定なしにクライエントの世界を理解しようとする共感的なクライエント中心の立場を維持すべきであるというロジャーズの考えに同意する。共感と治療的な関係はクライエントが自分自身を受け入れ自分の体験を信頼し始めるのを援助する際にとても効果的である。

促進的な態度が特定のスキルよりも重要であるというロジャーズの主張とは反対に、私は促進的な態度とスキルは分けることは出来ないと信じている。スキルは促進的な態度を表現するのに用いられ、そして促進的な態度はスキルを表現するのに必要とされる。  促進的な条件を維持することに加えて、ヘルパーは洞察とアクションを促進することができる必要がある。思考や感情の探索を超えて先に進むのに、クライエントの中にはさらなる理論(精神分析的、認知的、行動的)でもって援助が必要な人もいる。

さらには、私は人々が先天的に良い存在で、自己実現を求めているとするロジャーズの理論に完全には同意できない。私の考えでは人々は生れ持って良いか悪いかのどちらでもなく、むしろ気質、遺伝的特徴、環境、養育、そして初期経験に依存して発達するというものである。人間の機能への遺伝的、生物学的な寄与については、ロジャーズが自身の理論を提唱したときに知られていたことと比べて、より多くの新たな知見が明らかとなっている。人間の本質や生物学的な寄与についての信念におけるそれらの相違に関わらず、それでも、私は治療関係を構築し、クライエントが問題を探索し自己受容を成し遂げるのを援助するために促進的な態度が重要であるというロジャーズの考えに同意する。

*コメント

ロジャーズの考え方とヒル先生の考え方の共通点および相違点を示し、ヘルピングスキルにおけるロジャーズ理論の位置づけについて述べられています。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.13)

2  自己探索段階の目標

自己探索段階の目標はラポール、信頼関係を形成すること(関わり、傾聴、観察)、クライエントが考えを探索することを援助すること(感情表出の促進)、そしてクライエントについて学ぶことである。以下の節ではより詳細にそれぞれの目標について定義していく。

*コメント

ここから、自己探索段階の目的について。自己探索段階では何をするのか、どんな目標を達成する必要があるのかが、説明されていきます。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.16)

2-1 ラポールの形成と治療関係の発展

ヘルパーはクライエントが安心しながら自己探索できるように、クライエントとラポールを構築する。ラポールは治療関係の発展のための土台を作り、それはヘルピングにおいて非常に重要である。

自己探索段階では、ヘルパーはクライエントの参照枠からクライエントを理解しようと努める。ヘルパーはクライエントの立場に立ち、クライエントの目を通して世界を見るように努める。ヘルパーは自分の考えや価値観をクライエントに押し付けずにクライエントの考えや感情を理解するように努力する。

もし、ヘルパーがクライエントが自身の内的な体験に気づけるように援助することができれば、クライエントは信頼し始め、そして自分自身を癒すことが出来る。ロジャーズ(1957)はクライエントが自分自身を受け入れ、価値を認め始めることが出来る前には、大抵他者から受け入れられ、大切にされたと感じることを必要とすると仮説を立てた。これをするためには、ヘルパーは出来る限りクライエントを受け入れ、共感、無条件の肯定的配慮、そして純粋性という促進条件を彼らに与える必要がある。治療関係の構築の大部分は受容、共感、配慮の態度を有することである。加えて、ヘルパーが治療的な態度をもつ可能性をより高めるように、ヘルピングスキルの知識をもち、そのスキルを用いることができる能力を感じ、そしてスキルを適切に使用することでヘルパーをその枠組みに置くことになる。

ヘルパーは単にある時点で治療関係を形成することができたらそれ以後それを無視して良いと考えるべきではない。ヘルピングのプロセス全体を通して関係性を維持していくように意識する必要がある。

初心のヘルパーはしばしばクライエントとつながることが出来ないことやクライエントとラポールを築くことができない可能性について不安に感じる。しかしながら、ヘルパーであることの目的はクライエントと友達になることではない。ヘルパーは親しい友人と時間を過ごすことを好んだり選ぶのと同じようにクライエントを“好き”になる必要はない。むしろ、ヘルパーはクライエントを理解して援助し、そして外側に現れているものの背後にある人間の存在への慈悲を感じる責任がある。ヘルパーはクライエントと同じような生活事象を体験することはできないかもしれないけれども、たとえクライエントの行動には賛同でしなくてもクライエントの感情に共感することはできる。

*コメント

自己探索段階の一つの大きな目標は、ラポールを形成すること。そのために、ロジャーズの理論に基づくスキルが重要となる。最後の部分の記載は、私自身思い当たることがあります。ヘルパーとしての本来の目的や専門性を忘れ、ついつい自分が心地よくいられるように友達のような関係を気づくことに無意識のうちに目ざしていたことがあったように思います。クライエントの行動がどうしても理解できない、受け入れることができなくても、クライエントの行動の背景にある感情には共感することができる。なるほど。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.19)

2-2 かかわり、傾聴、観察

私たちがヘルパーとしてラポールを形成し、治療関係を築く主要な方法は、かかわり、傾聴そして観察を通してである。私たちはクライエントが話すことはどんなことでも聴く感受性を持てるよう、自分自身を非言語的にクライエントに関心を向ける。私たちはクライエントについて何かを知っていると想定するよりも、彼らが話すことに一心に耳を傾ける。私たちはクライエントがセッション中に生じている全てのことに対してどのように感じ、どのように反応しているかを注意深く目を向けて観察する。

*コメント

何よりも基本となるスキルです。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.28)

2-3 クライエントの思考探索の援助

クライエントは自分自身の問題について話す機会を必要としている。自分の内側で進行していることについて熱心に話すことはしばしば援助的である。よくあることであるが、人々はあまり深く自分自身の問題を探索することなしに、ありきたりの決まり切った話をただ続ける。自分自身の考えを表現する場をもつことは、クライエントが自分が話していることの内容について聴き、考えることをさせる。クライエントは、自分が考えていることに気づき、そして熱心に自分の考えを表出する機会をもつことを必要としている。

さらには、自分が考えていることに気づくことによって、人は矛盾と論理的な誤信を理解するよりよい機会をもつ。自分の考えについて話すことは、特にクライエントが他の誰かが聴いているということを分かっているときに、自分が話したことを自分が本当に信じているかどうかについて考える期待をクライエントに提供する。加えて、問題についてヘルパーについて話すプロセスはクライエントにそのことについて考えさせ、それを取り出し、そしてについて調べさせる、考えを言葉に置き換え、そして他の人の反応を得るので、とても有益である。

*コメント

自分自身のことを話す作業と言うのがどのように重要で援助的なのかが簡単に述べられています。この作業がより援助的であるためには、その話を傾聴してくれている他者が存在していることが重要。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.28)

2-4 感情の表出と体験を促すこと

自己探索段階の主要な目標の一つは、クライエントがいま抱えている問題についての感情を体験するようにヘルパーが援助することである。多くのクライエントは自分の感情を抑圧することを子どものときに学んでいる。彼らは生き残り、そして両親や他の重要な人からの承認を得るために、自分自身の実際の感情を歪曲したり否認しなければならなかった。そのために、多くのクライエントは自分自身の感情に気づかない。したがって、自分の本当の感情を感じ、その感情を言葉に置き換えることが出来ることはクライエントを自由にさせる。

クライエントはそのいまのこの瞬間に即座に感じていることに焦点を当てる必要がある。即時の感情を体験することはときに心地よいものではなく、したがってクライエントはその感応から離れたり避けようとするかもしれない。

ヘルパーは時々、アサーティブにクライエントが話題にしていない感情について尋ねる必要がある。例えば、クライエントは恥ずかしいあるいは抑うつ的であったり死にたいといったような困難な感情について話すように促される必要があるかもしれない。友人関係では、人々は友人が明らかにしたいと選ぶこと以上のことを探索しようとはあまりしない。なぜなら彼らはそれが暗黙の境界線を乗り越えていると感じるからである。対照的に、ヘルピングの関係では、ヘルパーはクライエントに対して、表現するのを困難に感じる痛ましい感情を探索するように促す。しかしながら、ヘルパーはクライエントが選択する以上に深く進めていかないという、クライエントの権利を尊重する必要がある。ヘルパーはクライエントが感情を感じするように促すことと、望まない自己開示を彼らに強制しないことの間の紙一重のところを進んでいく。

クライエントに感情について話すように促すもう一つの理由は情動の喚起が変化が生じる上で不可欠であるとみなされているということである。情動の喚起なしでは、クライエントはたいていヘルピングのプロセスに関与しておらず、変化への動機づけがない。情動喚起は変化が生じる土台を作ると言う観点から重要であるので、ヘルパーはクライエントが自分の情動に気づくようになり、そして情動を体験するように援助する必要がある。

*コメント

変化においてはやはり感情に触れて、表出することが大切。人は生きていく中で、自分の感情を歪めたり、否認したりせざるを得ない。それが自然となると、自分の感情が分からなくなる。自分の感情に気づき、触れることで、本当の自分を取り戻すことにつながるのかもしれない。本文中にもあったように、でも感情に触れることを促すことと、本人が望まない自己開示を強制することの間はまさに紙一重。感情の重要性を改めて認識しました。

完全な不安定という安定した日常(2010.11.30)

2-5 クライエントについて学ぶ

自己探索段階はクライエントについて学ぶ重要な機会をヘルパーに提供する。クライエントは最初にセッションに来た時、ヘルパーはその特定の人物をどのように援助するかを知る方法を持ち合わせていない。ヘルパーは特定のクライエントや彼らの問題について何かを知っていると想定することは出来ない。たとえヘルパーが同じような問題を抱えていたとしてもである。私たちヘルパーの目標は、クライエントが自分自身の解決や意思決定に到達するのを援助することなので、ヘルパーは彼らの問題を解決するのを援助するために、アクションプランをつくり上げる前に、クライエントが言うことを、そしてどのように感じるかを注意深く聴く必要がある。

クライエントについて学ぶときに、ヘルパーはその個人のクライエントの先導について行かなければならない。ヘルパーは一般的にセラピーの理論について知り、ヘルピング・スキルを訓練して準備していなければならないが、一人ひとりのクライエントの援助の方法について特により学ばなければならない。

さらには、クライエントについて観察し学んだことに基づいて、ヘルパーは自己探索段階をとしてクライエントとクライエントの問題を概念化する。この概念化はヘルパーに洞察段階とアクション段階を遂行させる。問題の起源や維持要因について知ることは、クライエントが洞察と行動から利益を得ることができるかどうか決断するのを援助することができる。

*コメント

ヘルパーはヘルピングスキルを持ち合わせていたとしても、そのスキルを用いて、個々のクライエントをどのように援助すればよいかについては、何よりもまず個々のクライエントについて十分に学ぶ必要がある。ついついわかったつもりになって、先を急いでしまうが、そこをぐっとこらえ、まず十分に相手のことを学ばなければならない。ここを丁寧に行うことが、結果として、その後の洞察段階、アクション段階をスムースにそして効果的なものへと導くことになる。はず。

完全な不安定という安定した日常(2010.12.03)

3 自己探索段階のスキル

以降の3つの章では、ヘルパーがいままで述べてきた目標を達成するために用いることができる3つのスキルに焦点を当てる。ラポールの形成と治療関係の構築、そしてクライエントについて学ぶという目標はメタ目標であり、より具体的な目標の結果として生じるものである。したがって次の章では、私たちはかかわり、傾聴、観察;思考の探索;そして感情の探索という目標に焦点を当てる。

それぞれの目標の中で、ヘルパーはいくぶん相互に交換可能ないくつかのスキルを使用できる。かかわり、傾聴し、観察するために、ヘルパーはアイコンタクト、表情、うなずき、姿勢、身体の動き、距離感、文法のスタイル、沈黙、妨害しないあるいは必要最小限の妨害、身体接触しないあるいは必要最小限の身体接触、そして承認と保証を用いる。思考の探索を促進するために、ヘルパーは言い換えや思考について開かれた質問を用いる。感情の探索を促進するために、ヘルパーは感情の反映、感情の自己開示、感情についての開かれた質問を用いる。重要なことは、それぞれの中でどのスキルが用いられるかということよりも、そのスキルが正しい目標のために用いられ、そして援助的な方法で実行されるということである。

*コメント

小さな目標を達成するために用いることができるスキルがあり、その目標を達成することでより大きな目標を達成することができる。それぞれのスキルは、特定の目標だけに用いられるだけでなく、他の目標達成のためにも用いられるものである。ヘルパーが目標を意識してその目標達成のために意図を持ってスキルを用いること、そしてただスキルを用いればそれでいいわけではなく、共感的に、丁寧にかかわりながら援助的な方法で用いることが大切。

完全な不安定という安定した日常(2010.12.04)

4 結論

自己探索段階は、以下の点で重要である。それは、ヘルピング関係の形成を促進し、クライエントの関心ごとについて探索させ、彼ら自身を即時の体験の中におく機会を与え、そしてヘルパーにクライエントが抱えている問題について学び、ヘルパーが提供できることに対するクライエントの妥当性について査定する機会を提供するからである。ロジャーリアンにとって自己探索段階はヘルピングに必要とされるもののすべてである。ロジャーリアンは、共感、無条件の肯定的配慮、そして純粋性という促進的態度によって、クライエントが自分自身を受容し始め、それにより、内的体験を開放して、自己実現への可能性への妨害を取り除くと考える。確かに、あるクライエントにとっては必要なのは自分自身の自己治癒の過程へと戻るのに傾聴してくれる耳のみである。したがって、ヘルパーはたいてい自己探索段階に多くの時間を費やすべきである。なぜならそれ自体が役に立ちうるからである。しかしながら、多くのクライエントは自己探索のみで前進することはできず、洞察とアクションがしばしば彼らの変化を援助するために必要となる。この場合、自己探索はその後に続く他のすべてのものの準備をすることとなる。

自己探索のスキルは3段階のすべてを通して用いられる。したがって、ヘルパーが洞察段階やアクション段階に移ったときでさえ、もっとも頻繁に用いられるスキルは自己探索スキルである。なぜならそれらのスキルはクライエントが安全を感じ続け、より深い自己探索を促すのを援助するからである。

自己探索段階(そしてヘルピング過程の残りの段階)を通じて重要な注意点は、用いられる絶対に“正しい”介入は存在しないということである。一般的な指針はあるけれども、異なるクライエントとの異なる状況において、正確に何をすべきかをヘルパーに伝える料理本を提供することは不可能である。個々のクライエントは異なるときに異なることをクライエントに要求する。個々のクライエントの応答や反応に注意を払うことによって、どの介入が生産的でどれが役立たないかを決定するのはヘルパー次第である。

*コメント

自己探索段階は3段階モデルにおいて何よりも重要である。時に、自己探索段階のみで、クライエントが変化していくこともありうる。しかし全てのクライエントがそうであるわけではない。そのようなクライエントに対しては、洞察段階、そしてアクション段階が必要となる。しかし、段階が移ったとしても、クライエントが自分自身に注意を向けて洞察し、そしてアクションを起こすためには、ヘルパーとのラポールが必要であり、クライエントが安全を感じられなければならない。したがって、洞察段階、アクション段階においても、自己探索段階で用いられるスキルは頻繁に用いられることになる。

初心者ヘルパーにとっては、まずは機会的にこの段階、この目標にはこのスキルを用いる、という形でスキルを学んでいく必要があるかもしれない。しかしながら、それでは不十分である。場合によっては非援助的にもなりうる。一人ひとりのクライエントは当然のことながら異なり、同じクライエントでも状況は異なるし、ヘルパーとクライエントの関係性も多様である。したがって、個々のクライエントに合わせて、相手を丁寧に観察し、その時に必要なスキル、役立つスキルを慎重に選択していかなければならない。これは、ヘルピングスキルに限りませんね。

 これで、第4章終了。自己探索段階の概要はおしまい。

完全な不安定という安定した日常(2010.12.04)