review

help-seekingについて(特に、心理的問題における援助要請です)。

自分自身のためのまとめ・メモ。気が向いたときに更新。

適当な目次は作ってみたけど、いつ完成するのやら・・・。

(一部は木村(2007)より引用)

はじめに 

私がhelp-seekingという研究テーマに出会ったのは大学院修士課程1年のときです。臨床心理学専攻の修士課 程に入学し、専門的な知識・技術を身につけようと必死でした。 臨床心理士を志すものにとっては、心理療法やカウンセリングは聞きなれた身近に感じるものです。しかし、今もそうですが、心理学を学んでいない人にとって は心理療法やカウンセリングは決して身近な存在ではありません。むしろ、ネガティブに捉えられているといってもよいでしょう。

当時、臨床心理学を学ぶ中で、専門的な心理的援助を行うものとしての基本的な姿勢や態度、そして知識を身につけ、そしていかに効果的な技術や技法を習得するか、ということが私の一つの目標となっていました。

そ んなときに、私はhelp-seekingに出会いました。今まで私が学んでいたものが援助を提供する場、を中心としたものであるとすれば、help- seekingは援助を求めるまでの段階を中心としたものといえます。自分がいくら専門的な能力や技術を身につけ、効果的で役に立つ心理的な援助サービス を提供しようとしても、それを利用してもらえなければ意味がありません。援助の手が届かないのです。もちろん、援助を必要としている人が援助を求めるのを 待っているという、考えはすでに古い考え方でしょう。積極的に臨床心理士が地域に働きかけたり、アウトリーチの形でサービスを届ける形の援助も盛んに行わ れています。

それであっても、help-seekingの研究に意義を見出していました。やはりまずは援助を求める人の立場に立つことが、 援助を行うにあたって一番必要なことです。援助を求めることをどのように捉えているのか、どんな思いで来談したのか、なぜそんなに援助を求めることに拒否 的なのか、などなど、このような援助を求める人の思いを理解することがその後の援助にも大きく影響するでしょう。先にhelp-seekingは援助を求 めるまでの段階を中心としたものと書きましたが、その援助を求めることに対する意識や態度というもの、援助を求めるまでの段階というものが、その後の治療 関係やその効果にも大きな影響を与えるといえます。

そのようなことを思い巡らしながら、私は修士論文の研究テーマとしてhelp- seekingを選びました。幸運にも、help-seekingを研究されている先生からご指導を受けることができ、これまで学生相談領域のhelp- seekingについて研究を続けてきました。

2000年以降、help-seekingに関する研究が改めて注目を集めていま す。諸外国でも専門的な心理学的援助に対する援助要請に関する研究が学術雑誌に掲載され、わが国でも水野・石隈(1999)のhelp-seekingの レビュー論文をきっかけに研究論文が増加しています。しかし、わが国のhelp-seeking研究はまだまだ始まったばかりです。今後さらにhelp- seeking研究を盛り上げていくためにはこれまでの研究、および最新の研究をまとめた文献が必要ではないかと考えました。

海外では、 1983年にNew Direction in Helpingの第2巻 help-seeking(DePaulo, Nadler, & Fisher, 1983)が発刊されています。まる1冊help-seekingに関する研究が紹介されています。四半世紀前にすでにここまで研究が進んでいたのかと、 わが国の研究と比較して驚きを隠せません。きっと日本にもこのようなhelp-seekingについて幅広くそして最新の研究を網羅した書籍があれば今後 さらに研究が広がっていくでしょう。そのような期待をこめて、まずは自分なりにhelp-seekingの研究をまとめていこうと考えました。気持ちは大 きく持っていますが、行動が伴っていくか心配です。とにかく、始めてみることにします。

psychological help-seeking(心理的援助要請) とは?

援助要請研究の歴史

援助要請研究のはじまり 

援 助要請研究の展開については松井・浦(1998)による説明が詳しい。援助要請研究は援助行動(helping behavior)から発展した。心理学における援助行動の研究は1930 年代頃から,道徳性の発達理論や社会的規範理論などによって始まった。援助行動研究が広く注目を浴びたのはLatan´e & Darley(1970 竹村・杉崎訳,1997)の実験研究による。1964 年にニューヨークで深夜に帰宅女性が襲われた事件では,38名の目撃者がいたにもかかわらず,直接助けることもなく,警察への通報も遅れ,その女性は亡く なった。この事件の目撃者たちの心理を解明するために,実験研究を行い,援助を必要とする人の周りに他者が多く存在するほどかえって援助を受けにくくな る,という傍観者効果(bystander effect)を提唱した。この研究以降,社会心理学者の関心は攻撃や暴力などの反社会的行動から,援助行動などの社会に役立つ行動への移っていった。そ の後,社会心理学や発達心理学における研究が数多くなされている。

社会心理学の領域において援助行動は,更なる展開を見せる。それは援助者 の心理や援助状況を理論的に精緻化して体系化を目指すアプローチとより広範な領域へと関心を展開させるアプローチであり,後者のアプローチとして,被援助 者の心理だけでなく援助を受ける側や要請する側の心理の検討に展開し,援助要請研究へと展開していった。

援助要請研究の3つの流れ

Nadler(1997)は援助要請研究を,社会心理学的研究,疫学的研究,ソーシャルサポート研究の3つの流れに分類している。

社会心理学的研究では,実験的な研究方法を用が用いられる。実験協力者にある課題をやらせ,課題達成のためには援助が必要となる困難な状況を設定し,その状況での実験協力者の実際の援助要請行動の量や援助要請行動が起こるまでの反応時間を測定する。

疫 学的研究では実際の援助要請行動それ自体を測定する。主に医療やメンタルヘルス領域で用いられ,病院やカウンセリングへの来院者数やそれに関連する来院者 のデモグラフィック変数を調査して援助要請行動をする人の特徴を明らかにする。日常における対人関係の中での援助要請よりも,専門的な援助に対する援助要 請に焦点を当てており,社会経済的階級や教育レベル,年齢といった構造的な変数に焦点を当てる。

ソーシャルサポートの枠組みでの研究では,援助要請をコーピングの一つとみなす。方法論的には,ストレスを抱えたときにサポートを求める意図や,行動について,自己評定で回答を求める。とくに,情緒的な困難状況での,身近な人へのサポート希求に焦点を当てる。

以 上の3つ研究は,それぞれ方法論や理論的背景は異なるが,一方で全てに共通するものがある。それは,人が困難な状況に直面したときに,その問題を解決する ために,自分ひとりで解決するのかそれとも他者に援助を求めるのかの意思決定を説明あるいは予測する変数を見出すことを目的としていることである。

諸外国の援助要請研究の概観

 

尺度 

1)the Attitude toward Seeking Professional Psychological Help Scale:ATSPPHS

専門的な心理的援助に対する態度尺度 Fischer & Turner(1970)

2)ATSPPHS-SF

短縮版専門的な心理的援助に対する態度尺度 Fischer & Farina(1995)

3)the Barriers to Adolescents Seeking Help Scale:BASH

青年の援助要請妨害尺度 Kuhl, Jarkon-Horlick & Morrissey(1997)

4)Intention of Seeking Counselling Inventory:ISCI

カウンセリングの利用意図尺度 Cash, Kehr, & Salzbach(1978)

5)Willingness to Seek Help Questionnaire

援助要請志向尺度 Cohen(1999)

6)the General Help-Seeking Questionnair:GHSQ

全般性援助要請質問紙 Wilson, Deane,Ciarrochi, & Rickwood(2005)

 

わが国の援助要請研究の概観

わが国の援助要請研究は1980 年代より見られ,さまざまな領域,対象について研究がなされている。

援 助要請研究が援助行動から始まったのは先に述べたとおりである。そこでは,社会心理学や発達心理学の領域での研究成果が積み重ねられ,またそれぞれの領域 での研究方法が用いられていた。研究方法はその研究の領域で異なる。他領域での研究方法は応用可能。特に社会心理学と臨床心理学はそれぞれの知見を生かし 新たな研究の方向性を見出している。

論文数の変移

わが国における援助要請研究の展開を明らかにするために,学術 雑誌に掲載された論文数の変化を調査した。NICHIGAI MAGAZINEPLUS を利用し,雑誌記事検索オプションを選び,キーワードに”援助要請”,”被援助志向性”,”help-seeking”,”援助希求”,”サポート希求 ”,”来談行動”を入れて検索した。またこの手続きで抽出された論文で重ねて引用されている論文で,以上の手続きでは検索されなかった論文を合わせて60 本の論文が抽出された。

我が国における援助要請に関する論文の掲載誌と論文数の推移を表したものがTable(略) である。1981 年の福原が日米の来談行動を比較した研究に始まる。80 年代は1989 年に1 篇研究があり80 年代の研究数は2 本であった。90 年代に入ると,徐々に研究の数が増え,1991 年から1995 年までの5 年間で4 本,1996 年から2000年までの5 年間で10 本,そして20 世紀に入り研究数はさらに増加し2001 年から2005 年の5 年間で39 本の研究論文が発表されている。1999 年に水野・石隈による被援助行動・被援助志向性に関する展望論文が発表され,海外における援助要請研究に関する知見を広く知られることとなり,研究数増加 の契機となったと言えるだろう。

掲載された学会誌では,教育心理学研究が最も多く9 編であった。また研究数は学術論文のみを対象としているが,学会の大会発表ではこの数以上の研究発表がなされている。

研究領域・カテゴリー

援 助要請研究の領域は多岐にわたる。その中でも,学業場面での援助要請(野崎,2003;2004;瀬尾,2005 など)と心理的な問題を抱えた場合の専門的な心理的援助に対する援助要請(笠原,2002;2003;神山,2005;高野・宇留田,2004 など)に関する研究が多くなされている。

その他の領域としては,坂本・田中・豊川・大野(2001)は地域住民の高齢者を対象にうつ病および自殺 の早期発見・治療の目的から,高齢者が誰に援助を求めるのかを検討している。笠原(2000)は育児不安に着目し保護者の援助要請を検討している。田村・ 石隈(2001,2002)は教師の援助要請に焦点をあて,バーンアウトや自尊感情との関連を検討している。水野・石隈(1998;2000;2001) は留学生に焦点をあてて被援助志向性の特徴を明らかにしている。

また援助行動研究の流れから日常場面における援助要請についても研究がなされており(田中,2002;島田・高木,1994;1995,西川・高木,1989 など),わが国の援助要請研究の基礎的な知見の蓄積に貢献したといえる。

援助要請の対象

援 助要請の対象としては,大きく,専門的な援助者と非専門的な援助者に分けられる。専門的な援助者としてはカウンセリングや学生相談,教師があげられる。非 専門的な援助者としては,家族や友人を取り上げている研究が多い。また,援助要請の対象者として,水野(2002)は学校心理学の枠組みから,援助者を専 門的ヘルパー,役割的ヘルパー,ボランティアヘルパーにわけ,それぞれの援助者への援助要請を比較している。一方で,日常場面での援助要請行動に関する研 究では,特に援助対象者を特定してない。

 

尺度 

(中学校教師の)被援助志向性尺度 田村・石隈(2001)

(中学校教師の)状態・特性被援助志向性尺度(田村・石隈,2006)

被援助志向性尺度(水野,2007)

相談行動尺度(永井・新井,2005)

相談行動の利益・コスト尺度(永井・新井,2007)

相談行動の利益・コスト尺度改訂版(永井・新井,2008)

受療行動に関するセルフエフィカシー尺度(下津他,2005)

 

専門的心理学的援助における援助要請研究

help-negation effect

「必要とされる適切な援助を求めないこと」

最近の社会的な問題との関連で言えば、自殺があげられます。

普段なら援助を求める人でも、特定の問題や相手にたいして援助を求めない状況が生じるようであれば、さらなる問題の悪化にもつながる恐れがあります。

help-negationが生じる問題や悩みとしては、心理的な問題全般がそうでしょう。日常生活の問題や学業の問題などと比べると援助要請しないようです。

いじめの問題もhelp-negationが生じる問題だと思われます(まだ十分に文献にあたっていないので断定できませんが)。

これらの問題や悩みは援助を求める対象についてもhelp-negationがみられます。

私たちは全般的にformalな援助者(ある問題解決に専門的に観点から援助にあたる人)よりもinformalな援助者(身近な人、友だちや家族など)に援助を求める傾向があります。つまり専門的な援助者にたいしてはhelp-negationが生じるということです。

対人援助職の人は、困っている他者を援助する立場にいる人ですが、反対に自分自身が困っている場合には他者にあまり援助を求めないようです。バーンアウトにも関連する問題でしょう。

 

seek help or not

援助要請のプロセス

Gross & McMullen(1983)は様々な領域に共通する一般的な援助要請過程として3段階のモデルを提示している。

第1段階はある症状や刺激を認識する段階であり,何かしらの援助(対処)を必要とする問題と認識した場合,第2段階に進む。

第2段階は問題を受け入れるのか,自分でその問題の解決を図るのか,あるいは他者に援助を求めるかを決定する段階である。他者に援助を求めると意思決定を行った場合に第3段階へ進む。 

第3段階は,援助要請のための方略を立てる段階で,援助を求めるための方略を立てたり,より効果的な援助をもとめるための方略を検討する。

Fisher, Winer & Abramowitz(1983)は心理的な問題に対する援助要請に焦点をあて,先行研究をもとに援助要請過程の5段階のモデルを提示している。

第 1段階は「問題の認識と心理的問題の特定(Perception and Identification of a Problem)」である。心理的な苦痛を軽減させるための方法を考える前には,まず自分自身が問題を抱えており,それが有害な結果を引き起こすと認識し なければならない。つまりこの段階では,自分自身か問題を抱えていることを認識すること,そしてその問題が心理的な問題であると特定する段階である。

第 2段階は,その問題への対処可能性について検討する「対処方法の検討(Contemplating Ways of Helping Oneself)」である。大きく4つの対処方法が考えられ,1.行動を起こさない,2.自己解決のための直接的な行動を起こす,3.インフォーマルな援 助を求める,4.専門的な援助を求める,である。1~3を試しても十分な結果が得られない場合に,4を実行する場合もあれば,直接4を実行する場合もあ り,さらに,問題を抱えていることを認識しつつも,対処のための行動を起こさずに,周囲から説得されて専門的な援助をもとめるケースもある。

第 3段階は,専門的な援助を求める意志決定をする「援助要請の意思決定(Decision to Seek ( or Accept) Help)」の段階である。専門的な心理的援助を求めることに対しては,肯定的,否定的,あるいは両価的な態度が存在する。専門的な援助要請を行なうこと で得られる利益がコストを上回ると判断されたときに援助を要請する意志が決定されると想定される。専門的な心理的援助を求めるかどうかの選択には,1.セ ラピストや相談機関の要因,2.社会的要因,3.個人的要因,の大きく3つの要因が関連している。

第4段階は「促進的出来事 (Precipitating Event)」であり,実際の援助要請行動に結びつく何かしらの出来事が生じるとされる。例えば,抱える問題の悪化や心理療法に関しての有効性や利用に関 する情報などを得た場合などがあげられる。タイミング良くこのような出来事が起こらない場合は意思決定が保留される。

最後の段階が 「顕在的な援助要請行動(Overt Help-Seeking Behavior)」である。専門的な援助の必要性を認識し,援助を求める準備ができる。専門的な援助サービスの情報を得たり,予約したりする一方で,さ まざまな要因で適切な援助を受けられない場合もある。専門的な心理的援助を受けるにあたっての情報が不足していたり,援助を断られたり,受けた援助に効果 がない場合などがあげられる。

 

援助要請に関連する要因 

今までの援助要請研究において,援助要請に関連する要因として多くの変数が見出されている。

水 野・石隈(1999)は米国と日本における被援助志向性と被援助行動の研究の動向を概観し,1970 年代以降の米国における文献研究から得られた知見をもとに,被援助志向性,被援助行動に影響を及ぼす変数を,1)デモグラフィック要因(性別,年齢,教育 レベルと収入,文化背景の違い),2)ネットワ-ク変数(ソーシャル・サポート,事前の援助体験の有無),3)パ-ソナリティ変数(自尊心,帰属スタイ ル,自己開示),4)個人の問題の深刻さ,症状,の4領域に分類している。

近年の研究ではその他の変数として,情緒的開放性 (Komiya, Good & Sherrod,2000),心理的援助を受けることによるスティグマ(Komiya, Good & Sherrod, 2000),心理的な治療や援助を受けることに対する恐怖(Kushner & Sher, 1989;水野・石隈,2000),自己開示によって生じる有効性とリスク(Vogel & Wester, 2003)などが指摘されている。

援助要請がもたらす効果 

 

 援助を求めることはいいことか?

 

さまざま領域における援助要請研究

教育領域

スクールカウンセラー 

学生相談

大学生の援助要請のパターン

大学生の学生相談に対する援助要請の特徴を明らかにするために,大学生の一般的な援助要請のパターンを検討した研究が見られた。他の援助者との比較および抱える問題領域の違いに焦点をあてて援助要請のパターンを明らかにする研究が多くなされている。

Snyder, Hill & Derksen(1972)は大学生181 名を対象に,13 の問題において,7種のヘルパーのうち誰に援助を求めるか調査をした結果,個人的・社会的な問題については友人への援助要請がもっとも高く,2番目が家族 であり,カウンセリング・サービスや大学機関の人への援助要請がもっとも低かったと報告している。一方で,職業や学業に関する問題ではカウンセリング・ サービスや大学組織の人への援助要請がが高かったとしている。

Oliver et al.(1999)は大学生248 名を対象に援助要請と心理的な問題の深刻度,デモグラフィック変数との関連を検討した結果,大学生はカウンセラーや教員といったフォーマルなサポートより も友達や家族といった自然なサポートの方を利用すると報告している。また,カウンセラーに援助を求める人は,抱える問題が深刻で,適応度が低かった。友達 に対しては女性の方が援助を求め,家族に対しては男性が援助を求めること,また全般的に男性は女性より援助を求めないと報告している。しかし男性も女性も 援助を求めるパターンは同じであり,友人,家族,異性のパートナー,牧師,教師,カウンセラーの順であった。

Uffelman & Hardin(2002)は大学生300 名を対象に質問紙調査を実施した結果,緊急度が高いと認識している問題ほど被援助志向性が高かったと指摘している。

学生相談に対する援助要請に関連する変数

学生相談に対する援助要請に関連する変数は,1)被援助者(大学生)の要因,2)援助者(学生相談)の要因に大きく分類された。

1)被援助者の要因

Clary & Fristad,(1987)は,カレッジカウンセリングセンターへの援助要請とメンタルヘルスサービスに対する態度,メンタルヘルスサービスの利用経 験,心理的援助のニーズの関連を検討することを目的に,女子大学の新入生286 名に質問紙調査を実施している。一年間の間で,カウンセリングセンターを利用したかどうかで3 群に分類し比較した結果,大学内に住んでいる学生に比べ,大学外に住んでいる学生の方が全体的にカウンセリングセンターを利用しない傾向があると報告して いる。

Johnson et al.(1985)は大学教員88 名,大学生79 名を対象に,カウンセリングセンターの認知度を調査している。存在の認識については学生の73 %,教員の86%の知っており両群に差はなかった。サービスの認識度の正確さは大学生の平均が9.5 %,教員が11.5 %でt 検定の結果,教員の方が得点が高かった。場所については,解答した者については,教員の方が有意に正しく回答していた。ただし,教員は未回答が多く,それ を含めれば,両群に差は認められ中たった。またカウンセリングセンターの利用経験のある学生のほうがサービスの認識正確度は全体で高かった。

Bosmanian & Mattson(1980)は他に援助を求める人がいると,専門家への援助要請は低いと報告している。

Kahn & Williams(2003)は大学生の大学のカウンセリングセンターの実際の利用を予測する変数を検討するために,大学生320 名に調査を実施しさらに2 年後のフォローアップ調査で53 名に調査(そのうち2 年間で実際にカウンセリングセンターを利用した学生8 名)を実施した。カウンセリングセンターの利用を,自己隠蔽,ソーシャル・サポート,問題の深刻さ,援助要請に対する態度の4変数で予測した結果,有意に 予測したが,その中で有意に予測していた変数は援助要請に対する態度だけであったと報告している。

2)援助者の要因

学生相談機関の名称により学生の被援助志向性は異なることが指摘されている。

Salisbury(1972)は大学のカウンセリング・サービスの名称とリファーに適切で

あ ると感じる問題の種類との関連を検討している。「guidance center」,「counseling center」,「psychological services」の名称に対して,学業の問題,社会的個人的な問題,職業の問題の3 つの問題を抱えた場合,どの機関が適しているかを尋ねた結果,学業と職業の問題では「guidance center」の選択が高く,社会的・個人的問題では「counseling center」が高かった。また「counseling center」は学業の問題でも高かったが,職業の問題では「guidance center」よりかなり低かった。「psychological service center」は社会的個人的な問題で高かった。以上の結果よりカウンセリング・サービスの名称が大学生がその機関に適切な問題の認識に影響を与えている と指摘している。

Sieveking & Chappell(1970)は「counseling center(CC)」と「psychological center(PC)」の名称に対する大学生の反応を調査した。その結果,CC は発達促進的なサービスを提供するところと認識されており,またPC の方がCC より深刻な問題を扱うと認識されているとし,相談機関の名称が利用者が持ち込む問題を決めていると指摘している。

Kohlan(1973)は大学のカウンセリング・センターの名称に対する学生の反応を検討した結果,10 の名称において,統計的な有意な差は認められなかったと報告している。

Brown & Chambers(1986)は大学のカウンセリング・センターの名称が学生や教員のセンター利用に影響を与えているのか検討した結果。学生,教員とも に,「personal and career counseling service」の呼称が他の呼称に比べて被援助志向性がもっとも高く,カウンセリング・センターの名称が学生の援助要請と教員のリファーの過程において 重要な役割を果たしていると指摘している。

学生相談室が提供するサービス内容と援助要請の関連については,学生相談室での面接回数の制限,ワークショップの内容などとの関連が検討されている。

Carney et al.(1979)は大学生801 名を対象に,19 のワークショッププログラムへの参加意図を尋ねた。その結果,キャリアに関することや先生との付き合い方など実用的なワークショップへの参加意図が高かっ た。またワークショップへの参加意欲が高かったのは,年齢が若い,学部の学生,学業成績が低い学生であったと報告している。

Uffelman & Hardin(2002)は被援助志向性とセッション回数との関連を検討するために大学生300 名を対象に調査を実施した。セッションの回数(3・10・無制限)を記載し,専門的心理援助への態度と20 の問題の緊急度,カウンセリングセンターサービスへの被援助志向性との関連を検討した結果,被援助志向性と態度とは.13~.40 の相関がみられ,緊急度が高い問題ほど被援助志向性が高かったと報告している。また態度を統制しても,回数により被援助志向性に差はなく,被援助志向性に 影響する主要因は問題の緊急度で全般的な態度はそれほど影響はないと指摘している。またセッションの回数の被援助志向性への影響は認められなかった。

☆わが国の学生相談領域の援助要請研究のレビューは木村(2007)をご参照ください。⇒ link

医療・保健領域

精神科 

産業領域

 

日常場面

 

さまざまな問題における援助要請研究

うつ・自殺

 

バーンアウト

 

AIDS

 

いじめ

 

 

関連おすすめ(必読?)書籍

海外

Fisher, J. D., Nadler, A., & DePaulo, B. M.  (Eds.) 1983 New Directions in Helping. Volume 1 Recipient Reactions to Aid. New York: Academic Press. toc

DePaulo, B. M., Nadler, A., & Fisher, J. D.  (Eds.) 1983 New Directions in Helping. Volume 2 Help-Seeking. New York: Academic Press. toc

Nadler, A., Fisher, J. D., & DePaulo, B. M.  (Eds.) 1983 New Directions in Helping. Volume 3 Applied perspectives on help-seeking and -receiving. New York: Academic Press. toc

Karabenick, S. A., & Newman, R. S. (Eds.) 2006 Help Seeking in Academic Settings: Goals, Groups, and Contexts.

Karabenick, S. A. (Ed.) 1998 Strategic Help Seeking: Implications for Learning and Teaching.

Dovidio, J. F., Piliavin, J. A., Schroeder, D. A., & Penner, L. A. 2006 The Social Psychology of Prosocial Behavior. New Jersey: Lawrence Erlbaum Associates.

Spacpan, S., & Oskamp, S. (Eds.) Helping and Being Helpd: Naturalistic Studies. Clifornia: SAGE Publications.

 

日本

田村修一 2008 教師の被援助志向性に関する心理学的研究―教師のバーンアウトの予防を目指して 風間書房

水野治久 2003 留学生の被援助志向性に関する心理学的研究 風間書房

福原真知子 1986 来談行動の規定因 風間書房

太田 仁 2005 助けを求める心と行動―援助要請の心理学 金子書房

高木 修(監修)・西川正之(編集) 2000 援助とサポートの社会心理学―助けあう人間のこころと行動 北大路書房

高木 修 1998 人を助ける心―援助行動の社会心理学 サイエンス社

松井 豊・浦 光博(編集) 1998 人を支える心の科学 誠信書房

久田 満 2000 社会行動研究2―援助要請行動の研究 下山晴彦(編) 臨床心理学研究の技法7章2節 福村出版 pp.164-17.

高野 明 2004 援助要請行動―利用者から見た臨床心理サービス 下山晴彦(編) 臨床心理学の新しいかたち 誠信書房 205-218.

水野治久・谷口弘一・福岡欣治・古宮昇(編) 2007 カウンセリングとソーシャルサポート―つながり支えあう心理学 ナカニシヤ出版

ノラ・クレイバー(神保礼訳) 2009 なぜ私たちは「助けて」を言えないの? メディアファクトリー

大畠みどり 2008 10.医療に対する援助要請 第2部 医療現場のコミュニケーション 上野徳美・久田満(編) 医療現場のコミュニケーション あいり出版 pp.100-110.

 

関連おすすめ(必読?)論文

海外

近年、また海外でも援助要請研究が注目をされているのでしょうか。Jouranal of Cousenling Psychology にhelp-seeking に関する研究が頻繁に掲載されています(Vogelさん達)。

日本

日本においても(心理的な)援助要請に関する研究が2000年以降急増しています。学術雑誌のレベルではまだ少ないようですが、紀要や学会発表などではたくさんの研究が行われているようです。

 

help-seeking関連論文

 

まとめ資料