kimura2008

大学生が学生相談を利用する意識はどのようなことから予測することはできるのか?(木村・水野,2008)

1.この研究であきらかにしたかったこと。

木村(2006)の研究結果から、どうやら大学生の学生相談の利用にあたっては、学生を取り巻く周囲の人々からの利用の勧めが促進的な役割を果たす可能性が見えてきました。大学生の意思決定においては、周囲の重要な人たちの意識や態度が影響を与えているともいえます。

では、周囲の人たちからの直接的な利用を勧める行動のみならず、大学生が知覚している周囲の人たちの利用に対する意識も、本人の学生相談の利用に対する意識に影響を与えるのでしょうか。もし友人や家族が学生相談を利用することに対して肯定的に捉えていると学生が認識したら、その本人も学生相談を利用する意識が高くなり、反対に、周囲の友人や家族が学生相談を利用することを否定的に捉えていると学生が認識したら、その学生相談を利用する意識は低くなると予想できます。

そこで、この研究では学生相談の利用に意識(被援助志向性)を予測する要因として、学生相談の利用に対する周囲の人から期待という要因に着目し、その影響を検討することを目的としました。

この視点の背景には、社会心理学者のAjzen先生が提唱した計画的行動理論(TPB:Theory of Planned Behavior)の考えがあります。この理論では人間の行動・意図を規定する要因として、行動に対する態度、主観的規範、知覚された行動統制感の変数があげられています。この中の主観的規範というのは、その行動に対して周囲の人たちはどのように考えており、そして周囲の人たちの考えにどれだけ従おうと思うか、ということを示しています。つまり、人の意思決定に周囲の人たちの考えや意識が影響を与えるということを、この理論は示しています。

では、どのように研究したのか、そしてどんな結果が得られたのかを見ていきましょう。

2.どんな方法で研究をしたか

このような疑問をもって、大学生338名を対象にアンケート調査を実施しました。アンケートでは上述した疑問を明らかにするために次のようなことを尋ねました。

3.明らかになったこと。

以上の内容をアンケートで尋ね答えてもらいました。回答してもらった内容を統計的に分析した結果、大きく以下のことが明らかになりました。

ではこの結果から、どんなことが言えるのでしょうか。どんな提案ができるのでしょうか。

まずはじめに、大学生の半数以上が学生相談室についての具体的な知識・情報をもっていなかったという結果から、学生に対して学生相談室の認知度を高める工夫が必要でしょう。各大学の相談室はさまざまな方法を用いて広報活動を行っていますが、もしかするとなかなか十分にはその広報が学生には届いていないのかもしれません。学生相談機関側のさらなる工夫が求められます。

次に、学生相談を利用することのメリットの評価と学生相談の利用の意識(被援助志向性)の関係ついてです。利用のメリットを高く評価しているほど学生相談の利用の意識が高いことから、学生に対して、学生相談を利用することでどのようなメリットがあるのかを具体的に示すことがさらなる利用に結びつくと考えられます。カウンセリングに対する社会の認識は高まっているとはいえ、多くの人にとっては漠然としたイメージにとどまり、具体的な知識や理解をもっている人は少ないかもしれません。どんな問題を抱えた時に学生相談室を利用するのか、学生相談室はどんなことをしてくれるのか、カウンセラーはどのようにかかわってくれるのか、カウンセリングは効果があるのかなど、大学生にとって伝えることが大切かもしれません。

そして、もう1点は周囲からの利用の期待と学生相談利用の意識との関係についてです。学生にとって意思決定に影響を与えうる友達・家族・大学の先生が学生相談を利用することを期待していると感じている学生ほど、学生相談利用の意識が高いことが明らかとなりました。この結果は、予想通り、学生相談利用の意識に対して、周囲の人の意識や考えが影響を与えていることを示すものとなりました。援助が必要なときに1つの選択肢として学生相談を検討してもらえるよう、学生に伝えることはもちろん欠かせませんが、学生のみならず、学生を取り巻く人たちに対しても、学生相談室についてよく知ってもらう必要がありそうです。周囲の人たちが学生相談の利用に対して肯定的に捉えていれば、学生本人も学生相談室の利用に対して肯定的になると考えられます。家族、大学の教職員に対するPRも欠かせません。また大学生の学生相談室の利用に対する意識が高まることは、学生同士で友達が悩んでいて専門的な援助が必要だと感じた時に、その学生に学生相談室の利用を勧めるという間接的なサポートににつながるとも考えられます。

では、大学生は周囲の友達に学生相談の利用を勧めることに対してどのような意識をもっているのでしょうか。友達に学生相談の利用を勧めるにあたっては、「余計なお世話じゃないか?」、「友だちを見捨てたことにならないか?」、「友だちに問題をもった人であるということを伝えていることにはならないか」などといった考えが浮かぶかもしれません。専門的な相談機関の利用を勧める側も、勧められる側も、そのやり取り・プロセスにおいて様々な心の動きがあるはずです。そういった点にも十分に配慮しなければなりません。さらなる研究課題です。

おしまい。

文献:

木村真人・水野治久 2008 大学生の学生相談に対する被援助志向性の予測―周囲からの利用期待に着目して― カウンセリング研究,41(3),235-244.