アマチュア無線は万能ではない。アマチュア無線を目的化してはいけない。
災害時の情報伝達は困難を極める。平時であれば固定電話や携帯電話が自由に使えます。
ひとたび大規模災害が発生し、停電が起きインフラが破壊されれば固定電話や携帯電話は使えない。使えたとしても回線不足でかかりにくい状態が続きます。
その時、代替手段として何が使えるでしょうか。
防災行政無線
災害時優先電話
衛星電話、衛星コンステレーション(データ通信)
各種業務無線(赤十字無線)
MCA無線、IP無線、VoIP、RoIP
デジタル簡易無線・免許局
デジタル簡易無線・登録局
デジタル小電力コミュニティ無線
特定小電力無線
アマチュア無線
このうち1から6は、一般に個人で入手・購入する事はできず、他組織(異なる免許人)との交信ができないものがあります。地上の中継局を介する通信、IP無線機のように携帯電話のキャリアを使用する方式では、災害時にやや不安が残ります。年間の維持費も結構かかります。しばしば過去の大地震の際に使用できたという観点で「災害に強い無線」として紹介されますが、「南海トラフの大地震」では、地上のインフラが完全に破壊されることを念頭に置いてください。自分で制御可能な(多少の修理ができる)機器とバッテリーだけで完結するシステムが理想です。
衛星コンステレーションの登場は画期的です。被災地からの情報発信には決定的な助けになるでしょう。もちろん資器材数が十分でなければ輻輳が発生しますし、平時から準備しておくには費用が掛かります。また、全天が開けていないと通信が不安定となり、ビルや木々が多い地域でも使用は困難です。一つの手段に依存することは避け、複数の通信手段を確保することが重用です。
残る選択肢はデジタル簡易無線(登録局)、デジタル小電力コミュニティ無線、特定小電力無線そしてアマチュア無線です。(各無線機の特徴) (コラム:トランシーバーと言う『危険』な用語)(無線従事者資格(免許)を取るためには) (無線局免許状を取得しよう)
ここで問題となるのは、アマチュア無線はその目的以外に使用してはならないという電波法の壁です。たとえ災害時であっても、「有線通信を利用することができないか又はこれを利用することが著しく困難 」な場合が延々と続くわけではありません。しかし、実際には「有線通信や携帯電話は1対1通信である」がために同じ内容の伝言(情報伝達)を相手先の数だけ行わなければなりません。無線であれば同時に複数個所へ同じ情報を届けることができます。従来、この目的のためにアマチュア無線を使用すること、また通信事項に災害時情報などを加えることは法令違反として行えませんでした。現在では電波法施行規則の一部改正により状況は改善しています。 → アマチュア無線の社会貢献活動 電波法施行規則の一部を改正する省令) (災害時の無線情報通信のまとめ)
それでもアマチュア無線には秘匿性が無いため、全ての通信をアマチュア無線だけで完了することはできません。個人で入手可能な4種類の無線機をTPOで使い分けることが最も効果的、効率的と考えられています。しかし、従事者免許が不要な無線機を使用するにしても、それを使いこなす技術が必要です。アマチュア無線家であれば毎日行っている事ですが、そうでない者にその技能を醸成する機会は少なく、いざ発災したら使い方がわからないということになりかねません。
筆者は県内の医療機関の災害対応訓練において、通信部門の訓練を担当しています。各医療機関から通信担当者が集まって訓練を行っていますが、多くの人は初歩的な電波法の知識が不足し、自分の使用している無線機が何であるかの理解も乏しいのが現状です。従事者資格不要の無線機であっても、その機器の特性を理解していなければ有効に使用する事は困難です。ましてや自組織だけでなく他組織との連携が必要な状況で、その無線機は役に立ちません。
そこでアマチュア無線家にその存在意義があるのです。近隣の医療機関と合同訓練を行い、日頃培われた機器の取り扱いや情報伝達のスキルを磨きあい、4種類の無線機を使い分け、使いこなす事ができれば、災害時の情報伝達が円滑にできると考えられます。
しかし、これでもまだ実災害においてアマチュア無線を有効に使う事はできません。過去の災害でアマチュア無線の有効性が語られていますが、それはあくまで「全ての通信手段を失った状況での」アマチュア無線であって「何も無いよりはましであった」のであり「期待した通りの結果」ではないのではないでしょうか。また、災害時に役立つという「気持ちが優先」してしまうと、「アマチュア無線を行う事そのものが目的化」してしまうおそれがあります。アマチュア無線は緊急時の「通信手段の補完」であり、災害対応計画の中で使用されてはじめてその効果が測られるものです。重要なのは「情報の取得と整理、整理された情報を発信すること」であって、アマチュア無線があれば自動的にそれが解決するという事ではないのです。訓練され統制されていないアマチュア無線は災害時の「邪魔もの」になるおそれがあります。
文責:医師、伊勢赤十字病院 災害医療部 説田守道 JQ2JAQ
2021年4月14日追記
アマチュア無線の社会貢献活動例 pdf
「本改正案は、社会貢献活動を行う通信として、アマチュア無線を使用させる・推奨するというものではなく、無線システムの選択肢の一つとしてアマチュア無線も使用することができることとするものです。※このため、アマチュア無線を使用しない、業務無線を主としてアマチュア無線を補助的に使用するなど、様々な対応が考えられます。」
このように書かれている通り、図(上記リンク)に書かれている活動を全てアマチュア無線でやりなさいと言う意味ではありません。もう少し総務省の意図を組むと、「個別の問題は関係する公的機関(非営利活動)の担当者と相談してください。」ということです。
災害時の活動について市町と協定を結ぶ、又は既に結んでいるのであっても、改正法に基づく活動であることを明記した協定であることが重要です。適切な無線機を適切に運用するためには訓練が必要です。平時のアマチュア無線の交信スキルでは、災害時情報を送ることは難しいでしょう。協定を締結したら早速訓練をしたいところです。(通信事項の訓練については特定小電力無線などで実施可能です)
2022年12月22日 追記
免許人以外の者(社団局の構成員でない者)が、災害時に免許人の立ち合いなしに社団局を運用することができる法改正 (令和4年9月30日)
ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等 に係る制度改正要旨
アマチュア無線の交信体験制度 (令和5年3月22日に電波法施行規則等の一部の改正 )
非常時や緊急時に他人の依頼による通報を行うことができることを明確化 (令和5年3月22日に電波法施行規則等の一部の改正 )
アマチュア無線の活用機会拡大から免許手続の迅速化や制度の簡素合理化 hamlife.jp