災害時に必要な情報
「情報伝達」こそ、災害対応の要
災害対応に失敗する最大の原因は情報伝達の不備であり、災害対応の原則・CSCAの中でも特に重要な位置を占めます。いかに指揮命令系統と連携が確率されていても、情報そのものが誤っていたり情報が正しく伝わらなかったりする状況では、または正しい情報でも時機を逸してしまってはそのミッションは成功しません。
どのようにすれば情報を正しく送れるのでしょう。
「情報伝達」を構成するもの
Why なぜ情報を伝達するのか(危険が迫る、資源が来た)
When 時間(今の時刻の記録、緊急に、または後回しでいい)
What 情報の種類 (指示、要請、問い合わせ、共有)
Where 情報源(事故現場、避難所、市町の本部)
Who 発信者(誰から 所属と指名)
How 伝達手段 (何を使用して 衛星電話、有線通信)
to Whom 情報の相手先(誰へ 所属と指名)
情報を記録する度に、これらの項目が抜けていないかをチェックします。1つでも抜けると、その情報を有効に活用する事が困難となります。
例:直ちに緊急避難、大津波第3波が接近中、気象庁、三重県より避難指示発令、防災無線、アマチュア無線を使用して○○地区活動中の全員へ伝えてください。
災害時に伝えるべき情報
M Major incident: 大事故・災害が発生、発生する危険が極めて高い
E Exact location: 正確な発災場所、地図の座標
T Type of incident: 事故災害の種類 「地震による家屋倒壊、大規模火災・事故」
H Hazard: 危険性 「現状と拡大の可能性」
A Access: 到達経路、進入方向
N Number of casualties: 負傷者数、重症度と外傷の種類
E Emergency services: 緊急サービス機関、「救急車、警察、その他:現状と今後必要となるサービス」
情報の種類・項目の整理は上記に準じる
例:「避難所Aは、○○何丁目(または緯度経度)にあり、津波から避難中だが、まだ水が引かない。ヘリコプターまたはボートで、重症3人と軽症30人、重症者の救助と、軽症者には食料、水、毛布(各どれだけ必要か、物と量)を提供して欲しい 」 など一つ一つを明確にします。
コラム:避難所のアセスメント
情報は整理するべきか、そのまま伝えるべきか
一般市民のボランティア組織であるわれわれは、得られた情報をどのように取り扱うべきでしょうか。(情報の整理)
正規に、信頼される組織から依頼された情報であれば、そのまま変更せずに伝えます。そのために一言一句を正確に伝言する訓練をしておきます。
依頼情報ではなく、われわれが入手した情報を、例えばある避難所のニーズを災対本部や保健所に伝える場合はどうするべきでしょう。
まずその情報の信憑性を確認する必要がありますが、緊急性が高い場合には真偽を確認している時間はありません。METHANEに沿って情報をまとめ直し、情報の過不足が無いように整理してから送信します。送信する際にはWとHに抜けが無いことも確認しましょう。
最も多い不完全な情報は、「△△が欲しい」という情報です。この情報の元となる情報が「○○が無い、足りない」であったとします。しかしここで「○○でなければ△△でもよい」と、情報元で変更が加えられたとします。その変更がされたという情報が抜けると上位組織は「なぜ△△が必要なのか、どれくらい足りないのか」という確認をしなければなりません。「○○が不足」しているという事実を伝えれば、上位組織は「○○も△△もすぐにはないが、代わりに□□を送る」という機転がきかせられます。
訓練等でよくみられる例として「DMATの派遣を要請する」という情報があります。これも上記の例になれば、「どこどこで負傷者○○名が孤立しており、医療が必要である」という情報をまず伝えます。対応策は上位組織が決めます。
情報の記録
その日に得られた情報は、ひとまず時系列に沿って記録します。これをクロノロジー(年表、日誌)、通称「クロノロ」といいます。
今まさに皆で共有すべき情報はホワイトボードに記録し、見えるように配置します。
期日、時刻、内容(上記)、解決・未決などの順に横に記載します。
上から下に、発生順に記載し、後に発生した情報をすでに記載された情報に追記してはいけません。
ある程度まとまったら、未決の問題点は整理して別に記載します。
それまでの情報は、エクセル表形式などの電子情報にし、共有可能にします。
クロノロの実例
無線通信の基本のキ 直ちに応答しなければならない
2023年某日、簡易無線・業務無線による局所災害対応通信訓練を行いました。
現場Aから活動拠点本部Bへの無線による通信です。
A:「B、B、こちらA どうぞ」 B:「A、こちらBですどうぞ」
A:「○○の件、△△にてデータを送った。これこれお願いしたいどうぞ」 B:「......」
A:「B、B、こちらA どうぞ」 B:「A、こちらBですどうぞ」
A:「先ほどの通信内容、了解か?、どうぞ」 B:「......」
A:「?? B、B、こちらA どうぞ」 B:「A、こちらBですどうぞ」
A:「先ほどの通信内容、了解か?、どうぞ」 B:「確認中です」
A:「確認とは、データが見えないのか、その内容か何を確認しているのか?、どうぞ」 B:「....」
A:「??? B、B、こちらA どうぞ」 B:「A、こちらBですどうぞ」
終始このような状況でした。
B:の通信担当者は、通報内容を自分で解決しようとして返信を直ちにしていない。通信担当者は通報内容を正確に聞き取って記録し、通報内容を処理する担当者に伝達する事が役目。
B:の通信担当者は、あいまいな返信をしている。「確認中」では、データが見られる状態になっているか否かの確認なのか、その内容を処理することができるか否かのどちらを確認しているのか不明である。これは複信可能な電話でも同じことが起きています。
無線局運用規則
第二十三条 無線局は、自局に対する呼出しを受信したときは、直ちに応答しなければならない。
第二十九条 呼出しに対し応答を受けたときは、相手局が「」を送信した場合及び呼出しに使用した電波以外の電波に変更する場合を除き、直ちに通報の送信を開始するものとする。
2 通報の送信は、左に掲げる事項を順次送信して行うものとする。ただし、呼出しに使用した電波と同一の電波により送信する場合は、第一号から第三号までに掲げる事項の送信を省略することができる。
一 相手局の呼出符号 一回
二 DE 一回
三 自局の呼出符号 一回
四 通報
五 K 一回
第三十七条 通報を確実に受信したときは、左に掲げる事項を順次送信するものとする。
一 相手局の呼出符号 一回
二 DE 一回
三 自局の呼出符号 一回
四 R 一回
五 最後に受信した通報の番号 一回