最近、公道でクルマを横滑りしながら走るドリフト走行の検挙が後を絶たない。
2009年8月3日、警視庁交通執行課により集団でドリフト走行したとして、道路交通法違反などの疑いでドリフト族のメンバーが84人摘発、会社員ら19人が逮捕・書類送検され、反則切符を切られた。
2017年9月4日には大阪府警此花(このはな)署などにより某テーマパーク近くの工場地帯にて改造車で暴走したとして京都府の男性ら3人を逮捕、男子大学生1人が書類送検されている。
そして2018年11月には、福岡県の会社員が山道にて軽トラックでドリフト走行したとして、書類送検された。SNSには「ドリフトをやめるつもりはない。法の範囲内でドリフト動画は投稿していくつもりだ」と投稿されている。
これらに共通している道路交通法違反の要因はドリフト走行だ。
高度なドライビングテクニックが求められるこの「ドリフト走行」。漫画やアニメーションなどで描写され、魅了される当サイトをご覧の皆さんも多いはず。車線のはみ出し・事故を起こしてなくとも、公道で試みるとどうなるか。ここでは弁護士法人サリュの平岡将人代表弁護士の文を基に記述する。
それでは危険運転に関する道路交通法違反の罰則などを説明する。
道路交通法68条では、複数台のクルマや原付自転車が、共同で著しく交通の危険や他人に迷惑を及ぼす道路上の行為を禁じられていて(=共同危険行為等の禁止)、これに違反すると2年以下の懲役or50万円以下の罰金刑が課せられる。
この規定は、暴走族規制のために作られたが、主体は暴走族に限定していないので、全てのドライバーに適用される。もっとも警察の分類上、俗に言うドリフト族やローリング族は「違法競争型暴走族」としているので、暴走族の典型的なものである。
*ちなみに一般的なイメージの暴走族を共同危険型暴走族と言う。
次に暴走族規制の法令としては、道路交通法以外にも、暴走族追放条例がある。これは道路交通法では明示的に処罰対象となっていない、ギャラリーとなって違法行為を助長する「あおり行為」や、暴走族への勧誘行為、脱退への妨害行為も禁じられている点に意味がある。
というコトは集団ドリフトが行われた場合は、ギャラリーが条例違反になる可能性がある。
では集団がだめなら、単独でドリフトするなら合法なのかというとそれは違う。
一見単独でドリフトした場合は、共同危険運転ではないかもしれないが、実は道路交通法には公道の安全確保のために多くの規制があるので、そのいずれかの法律に抵触する(例:速度規制違反・22条、急ブレーキ禁止違反・24条)。
また、ドリフト走行はもう一度言うが、クルマを横滑りする走法だ。これは中央線を越えるコトが多いので、道路交通法17条4項・18条に定められた「中央より左側を走行すべき義務」に違反し、3ヶ月以下の懲役or5万円以下の罰金刑に処せられる。
また、ドリフトをしやすくするように、改造するコトが常識なのだが、この改造が車両保安基準に合わない不正改造である場合にも罰則がある。その場合は道路運送車両法99条の2に触れ(=不正改造等の禁止)、6ヶ月以下の懲役or30万円以下の罰金に処せられる。例を挙げると、排気量、エンジンの動力を上げるためのエグゾーストの改造、滑りやすくするためにキャンバー角を寝かせ、車体からはみ出させる改造などをすると不正改造になる。
では、以上の個別の罰則に触れなければいいのではないかというとそれは違う。道路交通法70条はドライバーの基本的義務として、クルマのステアリング・ブレーキを確実に操作し、道路状況に応えて他人に危害を加えないスピードとやり方で運転しなければならない(=安全運転義務違反)としている。これに違反すると3ヶ月以下の懲役or5万円以下の罰金刑に処せられる。これは処罰対象が明確ではないので、簡単に適用されるわけではない。例を挙げると、ソバ屋の出前でのバイクの片手運転が問題になっていたコトがあるが、これに違反が適用されなかった裁判例が昔にあった。
しかし、このケースと異なり、ドリフトはクルマが曲道を曲がるためには必須でないし、クルマを滑らせるコトで制御できなくする危険性を高める運転方法で、確実な操作ではない。
しかも公道であれば、深夜の山道や工場地帯など、様々な道路コンディションであっても歩行者・一般車両が存在するため、ドリフトは他人に危害を加える方法での運転だ。
つまり、無改造ノーマルで、騒音ではない、速度を守っている、車線中央からはみ出ない単独のドリフトであっても、道路交通法に抵触すると考えられる。
確かにドリフトはカッコイイ魅力を秘めている。ただし、そのテクニックを磨きたいなら、サーキットなど、公道の危険を孕まない場所で行うコトが賢明だ。
(※2022年5月17日加筆)
因みに、某豆腐屋86漫画の県外遠征篇の主人公とプロドライバーのカーバトルで、主人公のクルマが夜道にてライトを消して走行しているシーンがあったが、これは道路交通法第52条の「車両等の灯火」の第1項(=車両等は、夜間(日没時から日出時までの時間をいう。以下この条及び第六十三条の九第二項において同じ)、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない。政令で定める場合においては、夜間以外の時間にあつても、同様とする)違反に該当し、反則金は普通車で6,000円、違反点数は1点となる。