バナナという作物

🍌 バナナの分類と名称の由来

バナナの分類

バナナ(Musa spp.)は、単子葉類ショウガ目バショウ科バショウ属の多年生草本です。ショウガ目はバショウ科の他、ショウガやウコン、カルダモンが含まれるショウガ科、極楽鳥花が知られるストレリチア科など、8科に分類されています(APGⅢによる分類)。バショウ科にはバショウ(Musa)属 、エンセーテ(Ensete)属、ムセラ(Musella)属の3属があります。栽培種のエンセーテ(Ensete ventricosum)は、かつてアビシニア・バナナと呼ばれていたように、エチオピア南部で重要な作物で、果実ではなく偽茎や塊茎に含まれるでんぷんを食用とします。

さらにバショウ属はMusa節とCallimusa節の2つの節に分類されます。かつては5つの節に分類されていましたが、2013年にバナナの植物学者Häkkinenによって2節に統合されました。詳細については、バナナ研究者のプラットフォーム"Promusa"のウェブサイトで説明されています。

すべての栽培バナナは、耐冷性が高く日本でも栽植されるバショウと同じく、Musa節に含まれます。南太平洋におもに分布するフェイ・バナナ(Musa troglodyarum)や、フィリピンのマニラ麻の原料で知られるアバカ(Musa textilis)は、Callimusa節に属します。

Musa節のなかで人類にもっとも重要な役割を果たした種が、ムサ・アクミナータ(Musa acuminata)とムサ・バルビシアーナ(Musa balbisiana)という2つの野生種です。今日世界で栽培されるバナナのほとんどは、これら2種に由来した同質倍数体、もしくは交雑倍数体の遺伝子型です(上述のフェイ・バナナは違います)。そのため、バナナの分類を説明するときは、野生のアクミナータの遺伝子型(ゲノムタイプ)をAA、野生のバルビシアーナの遺伝子型をBBと表記して、その組み合わせで遺伝子型を説明します。アクミナータも、バルビシアーナも、野生種は多数の堅い子実を果実に含むため食用にはなりません。野生のアクミナータは通常は他家受粉で結実しますが、受精の有無に関わらず果実が生長できる単為結果性を獲得しました。さらに、正常な種子を作ることのできない雌性不稔によって、種なしアクミナータができました。これが栽培種のアクミナータ(AA)の始まりです。さらに、自然に生まれた3倍体(AAA)のアクミナータを選抜することなどによって、さまざまな品種が創出されていきました。3倍体のバナナに種子が含まれることはごくまれですが、2倍体の品種には種子が含まれていることが時おりあります。AAやAAAの品種が栽培されるようになり、それらが野生バルビシアーナ(BB)の自生地に到達したことで、初めて両者の交雑が可能になったと考えられます。交雑は栽培品種間でもおこなわれる可能性があります。長い歴史のなかで時おりの自然交雑と、突然変異とがバナナの多様性を生みだしていったのでしょう。

いまでは栽培バナナの多くが3倍体の品種になっています。例えば、キャベンディッシュ(Cavendish)やグロ・ミシェル(グロス・ミッチェル、Gros Michel)に代表される輸出用バナナは、ほぼすべてがアクミナータ同質3倍体(AAA)の品種で、デザート用に利用されます。この他にAA(アクミナータ同質2倍体)、AB(交雑2倍体)、AAB、ABB(いずれも交雑3倍体)といった遺伝子型のバナナが熱帯各地で栽培されており、フィリピンなどではわずかながらBBやBBBといったバルビシアーナ(同質2倍体または3倍体)の栽培品種も存在しています。

バナナの学名・語源

バナナは交雑種の存在もあり分類がむずかしい植物です。このため、学名の表記も変化しています。初めてバナナに学名を与えたのは、スウェーデンの博物学者リンネ(植物の種を属名+種名で表記する二命名法を提唱した学者)で、18世紀半ばにMusa paradisiaca(「楽園」の意)と、Musa sapientum(「知恵・賢者」の意)という2つの名を与えました。これらは、フレンチ・プランテンの1品種(プランテンとその分類については、後述します)とSilk fiacuminatagという2種のAAB品種に関連していたようです。その後、幾つかの品種(群)に対して、それぞれ別の学名が与えられましたが、それらは浸透しませんでした。けっきょく、Musa paradisiacaはプランテンバナナ(あるいは料理用バナナ)を、Musa sapientumはその他のバナナを指す、というように、リンネの命名による2つが拡大解釈された形で広く用いられてきました。しかしながら植物学的に、プランテンとバナナという分け方は正確ではありません。先に示したように、同じAAB品種にもプランテンと、そうではない生食用のバナナとが存在するのです。またAAB以外の遺伝子型でも料理に用いる品種はさまざまあります。

そこでシモンズ(1959)は、分類国際規約に基づいて、以下のような学名の表記方法を提案しました。

Musa ー 遺伝子型 ー(品種群)ー 品種名

例)Musa (AAA 'Gros Michel') 'pisang ambon'

これは「AAAの遺伝子型をもち、世界的にはGros Michelとして知られる品種群に属し、生産地でpisang ambonと呼ばれている」という意味です。これにより、ある遺伝子型のなかでも、利用法など特徴が異なるものをおよそ区別することができます。しかし、現在、学術論文でそのような表記が一般的かというと、そうとも言えません。このような表記法とは別に、アクミナータ、バルビシアーナの倍数体をそれぞれMusa acuminataMusa balbisianaと呼び、それらの交雑種をすべてMusa paradisiacaと表記する研究グループもありました (Valmayor et. al 2002)。結局、統一的な表記方法はないのが現状です。交雑種のバナナを表記するときには、Musa sp.(複数種のときは、Musa spp.)と記載し、補足で遺伝子型や品種名を説明するのがよいかもしれません。

ちなみに、Musaという学名もリンネによって初めて採用されました。これは、ローマ帝国の初代皇帝Augustus Caesarの大病を治癒した侍医Antonius Musaの名に由来しているといわれますが、その一方で、アラビア語でバナナの果実を意味するmauz (moux)(あるいは、mauzの語源とされるサンスクリット語のmocha)に因んでいるという説もあります。

バナナ(banana)という言葉の語源についても、2つの説が伝えられています。一つは、アラビア語の「指先」を意味するbananに由来するという説で、もう一つは西アフリカの言語で、こちらも「(複数の)指」を意味するbanemaに因んでいるという説です。

バナナとプランテン

バナナにはプランテンと呼ばれる種類のものがあります。プランテンということばは、地域によって、また、専門家が使うか一般の人が使うかによって、さまざまな使われ方があります。FAO(国際連合食糧農業機関)が国別に発表しているバナナの生産量や輸出入量の統計の項目も'bananas'と'plantain and others'に分かれているのですが、国によってこのふたつの分類の基準は異なっています。FAOによれば2017年の全生産量はバナナ11391万トン、プランテンなど3924万トンです。全体的には生食用バナナをバナナ、料理用バナナをプランテンと呼ぶ傾向はありますが、国によってバナナとプランテンの分類基準にはずれがあり、両者の分類は明確ではありません。例えば、統計上では世界一の生産量を誇るインドの場合、すべて「バナナ」にカウントされている一方、ルワンダやナイジェリアといった国では逆にすべて「プランテンなど」にカウントされていますが、どちらの地域でも、いろんなタイプのバナナを栽培しています。

一般的によく通用しているのは、料理用バナナ一般をプランテンと呼ぶ、ということです。しかし、同じ品種でも、生で食べるか料理して食べるかは地域によって異なるので、この使い分けは、バナナ自体の分類としては使いにくい分類です。バナナの専門家は、AABの遺伝子型をもつ集団の1つの名称として用いることが多く、「プランテン・サブグループ」と呼んでいます(本サイトでも基本的にこの狭義の意味で用いています)。

このサブグループには形質的な特徴もありますが、その利用においてほとんど生食されることがないという点でも共通しています。アフリカ中部から中西部では、このプランテンが主食として重要な役割を担っています(本サイトで紹介するカメルーン東部のバンガンドゥやバカ・ピグミーの人びと、さらに東アフリカですがタンザニア南部・ニャキュウサの人びとの文化がその例です)。

プランテン(plantain)という語彙はバナナよりずいぶん遅れて浸透したもので、スペイン人がプラタナス(platano)の木(葉?)に似ていることから'platano'と名付けたという由来があります。英語では変化して'plantain'となりますが、スペイン語では'platano'(プラタノ)と呼ばれます。ちなみに、'platano'という語は「幅広の葉」を示すギリシャ語の'platanos'に起源をもっています。英語ではこの語に由来して、バナナの他に、オオバコ(Plantago spp.)を 'plantain'と呼んだり、水生のオモダカ科植物(Alisma spp.)に 'water plantain'と 'plantain'という名が与えられたりしています。


このようにバナナは分類、学名、呼称のどれを見ても謎が多い作物といえるでしょう。そしてそれはバナナという植物の特異性や歴史の古さを物語っているのです。