バナナという作物

🍌ゲノム解析によるバナナの系統分類

現在、最古のバナナ栽培は、パプアニューギニア南部に位置するクックの初期農業遺跡において確認されており、その起源は約7,000年前に遡ると推定されています[1]。そこから人類史と共にバナナ栽培も拡大され、新たな土地の環境条件に適応するための自然変異、栽培や食味など優良形質を得るための人為選抜が繰り返し行われてきた結果、多様な品種が作出されてきました。私たちは、「人類史とバナナの多様化には、どのような関係性があるのか?」という疑問と興味に対して理解を深めるために、バナナの遺伝的背景から突き止められないかと考えています。つまり、生命の設計図とも言われている「ゲノム情報」を解析することで、何らかの手がかりがつかめるのではないかと期待しています。

2003年にヒトゲノム解析の完了が宣言されて以降、ゲノム生物学はさらにその先への展開として、いわゆる「ポストゲノム時代」が築かれてきました。中でも、技術的な立役者となったものが「次世代シーケンサー」と呼ばれる大規模かつ超並列にDNA配列を解読できるシステムの登場でした。この技術を利用することによって、様々な生物種のゲノム情報が加速的に解読されてきました。バナナに関しては、多くの栽培品種に対してゲノム構成要素の一部になっているMusa acuminata(ムサ・アクミナータ)のゲノム情報が解読されています[2]。その他にも、いくつかの品種から比較ゲノミクスとしてゲノム上の変異箇所の探索、トランスクリプトーム解析として重要な遺伝子の発現制御なども解析されてきました。私たちもまた、この技術を利用して様々な土地で栽培されるバナナの系統分化を明らかにし、そこから人類史とバナナの多様化の関係性を追求したいと計画しています。

先行研究によれば、バナナのゲノムサイズは約500Mbase、つまり500,000,000(5億)文字相当の塩基からDNA配列が構成されています[3]。最近では、次世代シーケンサー技術も標準ツール化されるようになり、コスト面でも利用しやすくなりつつありますが、多くのサンプルを解析する場合、全ゲノムを解析を行うには効率が悪いため工夫した解析方法が必要となります。そこで私たちは、ゲノム上の単純反復配列(例えば、AGAGAGAG…のような繰り返し配列)に着目しました。このような配列は、ゲノム上の至るところで確認されており、それら個々の領域の反復数は個体間でさえも異なることから、DNA指紋領域の一つとして比較解析には適していると考えられます。私たちは、この反復配列領域だけを釣り上げ、部分的なゲノム解読を行うことで解析の効率化を図り、目的の達成に近づけたいと考えています[4]。


[1] Denham, Tim P., et al. "Origins of agriculture at Kuk Swamp in the highlands of New Guinea." Science 301.5630 (2003): 189-193. [2] D’hont, Angélique, et al. "The banana (Musa acuminata) genome and the evolution of monocotyledonous plants." Nature 488.7410 (2012): 213. [3] Dash, Prasanta K., and Rhitu Rai. "Translating the “Banana genome” to delineate stress resistance, dwarfing, parthenocarpy and mechanisms of fruit ripening." Frontiers in plant science 7 (2016): 1543. [4] Tanaka, Keisuke, et al. "Microsatellite Capture Sequencing." Genotyping. IntechOpen, 2018.