ファイナルのようです

1 : ◆5iBw4nf/rQ [↓] :2024/04/25(木) 12:04:52 ID:oT3/1QlE0オレンジデー祭り参加作品です

2 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:05:44 ID:oT3/1QlE0したらば駅から徒歩10分。
いくつかの野暮ったい商業ビルを抜けて、ゆるく長い坂道の途中にある二階建ての古い鉄骨造。一階にはスナックや寿司屋などが四店あり、その二階に俺の目的の場所がある。

('A`)「ここに来るのも、今日で最後か…。」


部屋の明かりを見ながら、そう言った。

3 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:07:19 ID:oT3/1QlE0('A`)「こんー。」
( ゚∀゚)「おっ!来たぜ、今日の主役が!」
(,,゚Д゚)「久しぶりだなー。」
('∀`)「会うのはなw」
チャイムを鳴らしてその部屋に入ると、奥から友人が出迎えてくれた。
(´・ω・`)「いらっしゃい。何飲む?」ジュージュー
('∀`)「人が集まりきったら、ビールで。」
(´・ω・`)「はいよ。」ジュージュー
中はマンションのような見た目だが、部屋には小さな居酒屋ほどの規模のキッチンがある。その横を通り過ぎると、会議室のような長方形の白いテーブルをくっつけて、周りに椅子が置かれた広いワンルームへと辿り着く。12席ほどあるが、その全てが埋まる予定は無い。もう既に、俺とよくつるむ顔ぶれが集まっていた。
('A`)(OB組も3人、後で来るって言ってたな…。)

川 ゚ -゚)「来たか。」
俺に気付いたクーが、後輩との会話を止めてこちらにやって来た。
川 ゚ー゚)「卒業、おめでとう。」
('A`)「ありがとう。最近グループで見かけなかったけど、元気だったか?」
川 ゚ー゚)「ああ、少し忙しくてな。私も、おめでとうな事があったんだ。」
クーはふふんと、小さなダイヤの入った指輪を俺に見せ付けた。
('A`)「あー、なるほど。おめでとう。」
川 ゚ー゚)「ありがとう。」

4 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:08:40 ID:oT3/1QlE0(´・ω・`)「そろそろ、始めても良いか?」
OB組もやって来て席に着くと、ショボンさんがそう言った。目の前にはいくつもの色鮮やかな料理が並んでいる。ショボンさんの得意料理で、俺がここに来てから好きになった物ばかりだ。
('A`)「お願いします。」
('A`)「それじゃ…」ガタッ
俺はショボンさんに渡されたビールジョッキを手に持って、話し始めた。
('A`))「皆さん、3月の目茶苦茶忙しい中でもお集まり頂き、ありがとうございます。本当にありがとうございます。」ペコ
('A`)「ブーン系小説を書き始めて早9年。この度遠方への転勤を機に、俺はそろそろここを卒業しようと思います。」
('A`)「祭り作品を含む短編36本に、連載7本。総数43本。まあ頑張ったかなって思います。」
('∀`)つ∪「何はともあれ、ショボンさんの料理が冷める前に…乾杯っ!」
そう言って俺がジョッキを掲げると、みんなもその動きに合わせてくれた。


『ファイナル』
それが、この場所の名前だ。

5 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:09:39 ID:oT3/1QlE0川 ゚ -゚)「それにしてもドクオ、ここ1年は本当に大変だったな。」
('A`)「ああ。無事に家を売り払えて良かったよ。」
<(' _'<人ノ 「だけどその人達のせいでドクオさんがここを離れるみたいで、私まだ…、納得出来ません。」
('A`)「…。『モナーさん』の聖地県にずっと住んでみたかったから、丁度良いかなって。」

俺の転勤は、両親が事故で亡くなった事がきっかけだ。
____________________________

6 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:12:09 ID:oT3/1QlE0('A`)「あ…宗男さん。お久しぶりです。葬儀の際は、お越しくださりありがとうございました。」
宗男さんは遠い親戚で、子供の頃に一、二度遊んでもらった事がある。それ以降は、親族の葬式で会う程度の仲だ。どうやら俺を心配して、電話をかけてきてくれたらしい。
( l v l)[ドクオ君もご両親を一度に亡くされて、一人で寂しい思いをしているだろう?]
('A`)、「そうですね…。まあ、ああいう趣味でしたし覚悟はしてたので…。俺ももう大人ですし、なんとか…。」
( l v l)[無理しなくていいさ。そこで提案だが、私達がそっちに行くから一緒に住まないか?うちの息子も、大学は東京が良いと言っているからさ。]
('A`)「…へっ?」
( l v l)[息子の部屋は、あのアウトドア用品が仕舞われていた納屋で充分だよ。]
その部屋は両親の荷物が置かれた部屋で、何なら俺の部屋よりも広い。確かに通夜で親族を家に通したけれど、その部屋は2階だ。
(;'A`)(…いつ見たんだ…?1階のトイレが埋まってて、待てなかったとか…?)
(;'∀`)「はは…。東京と言っても、うちはほぼ神奈川ですから。せめて埼玉とかに住んだ方が近いし、賃貸も安いですよ。」
( l v l)[ドクオ君のお家は、ローンを払いきってあるんだろう?部屋は余ってるんだし、固定資産税を払った方が安いじゃないか。]
(;'A`)(どこでそれを…?)ゾクッ

7 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:14:04 ID:oT3/1QlE0俺がなあなあに返事をして少しすると、宗男さんは土日になる度に息子をよこしてきた。最初は申し訳無さそうにしていた少年を不憫に思い、泊めてから帰したが、何度かそれを繰り返すと我が物顔でひたすら俺のゲームで遊んだり、冷蔵庫の中の物を漁り始めた。
(#'A`) ブチッ
(#'A`)「帰れよ!」
( ><)σ「おじさん、器小さいんですww」
この親にしてこの子ありだ!と、やっと気付いた俺はノイローゼになり、休日が来るのが嫌でしょうがなくなった。警察にも何度か相談したが民事不介入で、「昔は親戚同士で助け合ったものだ」などと、ありがたい言葉まで頂戴した。

(;A;)「もうあんな家いらない。『モナーさん』みたいに海の近いマンションに住んで、休日には海釣りするんだぁ!」
( ´_ゝ`)「…。大変だなぁ。」
会社の先輩は畑こそ違えど創作仲間で、休憩時間中に時々好きな作品の話をする仲だった。
少しして会社の偉い人になぜか呼び出された俺は、その人にこう聞かれた。
( ´∀`)「マターリ県に行きたいのかモナ?」
('A`)「え…?何故それを…?」
( ´∀`)∂「『モナーさん』の作者だモナ。」
('A`)「えっ…」
(;*'A`)「えっ!???」
(;*'A`)「えっえっえっえっえっ!!!???」
俺は本気で腰を抜かした。

8 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:16:40 ID:oT3/1QlE0( ´∀`)「あれは学生時代の日常を書いた話だモナ。」
( ´∀`)「作中でやたら釣れた謎魚、あれでこれからツナ缶に代わる缶詰を作るモナ。世界征服の第一歩だモナ。」
( ´∀`)「それで来年ぐらいから数年、現地で立ち上げ役をしてくれる人を探しているんだモナ。」
(°A°)「やりましゅ!やらしぇてくだしゃい!!おくつもなめまちゅ!!!」

人生で一番好きな作品の作者と遭遇出来た喜びから、俺は秒とかからずに家を売りに出す事を決め、新天地へレッツらゴーの決意を固めた。査定を出した会社が大当たりだったのか、すぐに買い手がついた。
ただし、色々な手続きが山のようにあって大変だった。そのせいで居座り問題から1年近く、小説を書くペースは酷く落ちていた。
(;'A`) ドヒー
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川 ゚ -゚)「ドクオの一作目を読んだ日が、ついこの間のようだ。」
('A`)「俺もそんな感覚だよ。」

俺がブーン系小説を知ったきっかけ。そしてこのファイナルに誘ったのは、クーだ。
.

9 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:17:44 ID:oT3/1QlE0_____________________________
ガヤガヤ
(;'A`)「…。」
大学生になった俺は、文芸サークルに入ると決意していた。しかし勧誘でごった返す中を探しても、全然見付からない。
ガヤガヤ
( ・∀・)つ□「着物研究会でーす!」
('A`)「あの…すみません。文芸サークルってこの辺りでビラ配っていませんか?」
( ・∀・)「んー?知らないけど、僕が新入生の頃は図書館前のベンチで集まってるからって勧誘されたよ。行ってみれば?」
('A`))「ありがとうございます。」ペコ
(((-_-)「…なんだ、新入部員じゃないんだ。」
( ・∀・)「そう。文芸サークル探してたよ。」
(-_-)「あれ?でも文芸サークルって確か…」
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10 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:19:21 ID:oT3/1QlE0__________
('A`)「…。誰も来ないな。」
月曜から金曜まで、毎日三十分待ったけれど誰も来ない。
('A`)(もう少しだけ周りに聞いて、分からなければ第二候補の映画研究部にでも入るかな。)
('A`)(ちょっと期待してたんだけどな…。)
アウトドア全般が好きで、まとまった休日があるとしょっちゅう出掛けていた両親のアクティブさに付いていけなかった俺は、中学時代から一人で留守番をしては本を読んでいるような子供だった。
高校生になると、自分でも思い付いた話の粗筋を数冊のノートに書いた。だけど本は読んでいるはずなのに、いざ粗筋を展開して書こうとすると、どうして良いのかさっぱり分からなかった。そんなままで受験に突入してしまったため、大学に入ってからこそ自分の作品を作りたい。出来れば仲間もいたら嬉しい。そう思っていたのだ。
('A`)「…ん?」

川 ゚ -゚) スタスタ
遠くからこちらへ、足早にやって来る女性がいる。

11 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:20:47 ID:oT3/1QlE0川 ゚ -゚)「…文芸サークルの入部希望者か?」
('A`)「え…?はい。」
川 ゚ -゚)「部室を案内するよ。行こう。」
そう言って、女性はまた早歩きを始めた。ズンズンと校門を抜けて、駅の方へと向かっている。
(;'A`)「あの、どこに行くんですか?」
川 ゚ -゚)「二つ先の駅だよ。電車がもうすぐなんだ。」
川 ゚ -゚)「悪かったな。毎日座っているのを見て、今日やっと入部希望者だと気付いたんだ。」
(;'A`)「??」
川 ゚ -゚)「うちの大学に文芸サークルは無いよ。上級生が大喧嘩したらしくて、私が入って間もないうちに解散したんだ。」
(;'A`)「そんな…。」
川 ゚ -゚)「大丈夫だよ。これからちゃんとしたブーン芸部に行くんだから。」
(;'A`)「はぁ…。」

12 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:22:08 ID:oT3/1QlE0電車に乗って二駅で降りると、女性はまたスタスタと歩いていった。
('A`)(来たことのない駅だな…。)
俺の住むアパートは大学まで徒歩で行ける距離だし、実家へ戻るには逆方向の路線だ。ここは大学周辺よりも寂れているし、俺にとって用事の無い駅だ。
川 ゚ -゚)「この辺りにはいくつかの大学があるだろう?そこの学生達や、卒業した社会人が小説を書きに集まる場所があるんだよ。」
('A`)「へぇー…。あの、あなたの事は何と呼べば良いんですか?」
川 ゚ -゚)「あぁ、自己紹介がまだだったな。素直空子。経済学部二年で、みんなにはクーと呼ばれているよ。」
('A`)「俺は毒島徳夫、商学部一年です。」
川 ゚ -゚)「なるほど、ドクオ君か。よろしく。」
(;'A`)「なんか短縮されてるけど…よろしくお願いします。」
テクテク
川 ゚ -゚)「着いた。ここの二階だよ。」

13 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:23:31 ID:oT3/1QlE0素直先輩に続いて、古いコンクリートの階段を登る。
川 ゚ -゚)σ「ここの建物のオーナー兼1階のBARの店主がOBでね。学生に場所を貸してくれているんだよ。」ピンポーン
そう言ってチャイムを鳴らすと、扉が開いた。
(,,゚Д゚)つ|「よう。」
川 ゚ -゚)「やあギコ。今日は新入生も連れてきたよ。」
(,,゚Д゚)「おお!凄いじゃないか。早く上がれ。」
('A`)「失礼します。」
ガタイの良いお兄さんが、扉のストッパー役をしてくれた。

14 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:24:21 ID:oT3/1QlE0中に入ると、繋げたテーブルの周りに5人ほど座っていて、バラバラなタイミングでこちらを向いた。
川 ゚ -゚)「私と同じ大学のドクオ君。一年生だ。」
('A`)「よろしくお願いします。」
正直まだ入部するかは決めかねていた。だけど目の前の人達の手元にあるスマホやパソコンがなんとなく気になって、それを考えるのは後にした。
( ゚∀゚)「おう、よろしくな。」
手前にいた眉毛が印象的な男性から始まり、みんなが軽い挨拶をしてくれた。

15 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:25:51 ID:oT3/1QlE0(,,゚Д゚)「それで、ドクオはどの作品や作家が好きなんだ?」
見た目とは正反対の柔らかい態度で、そう聞かれた。他の人達も心なしか、ソワソワとした様子だ。
('A`)「えっと…太宰とか夢野久作とか…、泉鏡花も気になってますね。」
俺がそう返すと部屋はシンとして、みんなは返事に困ったような顔をした。
川 ゚ -゚)「あぁ、すまない。説明がまだなんだ。」

__________
素直先輩に部屋の端に寄るように言われ、壁面収納を背にした俺は、先輩に聞いた。
(;'A`)「あの、説明って…?」
川 ゚ -゚)「ここはただの文芸サークルじゃないんだ。君はアスキーアートは知ってる?」
('A`)「えっ?パソコンとネットが一般家庭に広まる頃の…、親世代で流行った顔文字ですよね?」
川 ゚ -゚)「そうだ。私達はそれを役者に見立てて、小説を書いているんだ。」
(;'A`)「え…?」

俺はこの場所がただの文芸サークルではない事を、今更ながら知った。

16 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:27:11 ID:oT3/1QlE0__なんでも、この場所でみんなが書いているのは「ブーン系」という形式で、台詞の前に顔文字を置き表情を記号で変化させる事で、漫画のような表現が出来る小説なのだそうだ。
数十年前に流行ったというその趣味が、今でも物好きな学生や若い社会人を中心に細々と続いている。
近隣の学生が集まるここ「ファイナル」のような場所は少ないながらも全国にいくつか有り、そこに通う人は自分達の事を「ブーン芸部に所属するブーン系民」と総称するのだそうだ。
各々が書いた作品は専門の板にアップする形で、拠点毎に鍵付きのグループアプリもあり、集まりの調整等に使っているのだという。

17 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:28:33 ID:oT3/1QlE0川 ゚ -゚)「説明だけで理解しろとは言えないから、とりあえず読んでみようか。スマホにここのアーカイブサイトを登録するか、君の後ろの棚に並んでいる物理本から選んでくれ。」
('A`)「えっと…」
俺が後ろを見ると、ぎっしりと自費出版であろう形の本が並んでいた。
(;'A`)(どこに戻したら良いか分からなくなりそうだな…)
(;'A`)「サイトで読みます。」
そう言って俺は、ポケットからスマホを取り出した。
川 ゚ -゚)「どんな話が読みたい?良ければおすすめするよ。」
('A`)「そうですね…初心者でも読みやすくて、ブーン系の形式が分かりやすいのが良いです。」
川 ゚ー゚)「じゃあまずは古典で、『モナーさん』かな。ダーツで大学を選んだモナーさんの、日記形式のほのぼの作品だ。」
(;'A`)「よく分からないけれど、それでお願いします。」

18 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:29:32 ID:oT3/1QlE0サイトから『モナーさん』を見付けた俺は、テーブルの端の席で一話目を読み始めた。
川 ゚ -゚)つ旦「はい、お茶。」
('A`)つ「ありがとうございます。」
素直先輩は俺の隣の席に座り、スマホで何かを書いているようだった。
__________
∑(;'A`) ハッ
だんだんと外が暗くなる気配は感じていたけれど、気付けば時刻は19時半を過ぎていた。
川 ゚ -゚)「キリが良くなったか?」
(;'A`)「あ…ハイ…。」
川 ゚ -゚)「腹減っただろう?牛丼でも食べてから帰るか。」
(;'A`)「はい…。」
素直先輩以外誰も居なくなった部屋を見て、自分はこんなに集中して読んでいたのかと驚いた。

19 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:31:37 ID:oT3/1QlE0川 ゚ -゚)「『モナーさん』、面白いか?」
牛丼を待つ間、素直先輩にそう聞かれた。
('A`)「そうですね。大学生なのに爺臭い性格で妙に達観していて、周りの人達も穏やかというか…。」
('A`)「癒やしの中にある雑さが癖になりますね。」
川 ゚ -゚)「モナーさんは高校時代にファイナルを利用していたOBなんだ。内容は全て実際の話だよ。」
(;'A`)「へぇー…!じゃあ、謎魚も本当にいるんですか!?」
川 ゚ -゚)「どうだろうな。さ、食べようか。」
席に届いた牛丼を見て腹の音が鳴りそうになった俺は、焦る気持ちを抑えながら箸を備え付けの箱から取り出した。
('A`)) モグモグ
('A`)「…あの、素直先輩はブーン芸部をどこで知ったんですか?」
川 ゚ -゚)「ああ、文芸部が解散した時に、先輩がそういう噂があると教えてくれたんだ。」
川 ゚ -゚)「それからネットで、ショボンさん…BARの店主が小説を書く学生のために場所を貸しているという取材記事を見付けてな。」
川 ゚ -゚)「他の部員は先輩に誘われたとか、そんな理由の人が多いかな。」
('A`)「なるほど。」

('A`))「…。」 モグモグ
先程の時間で『モナーさん』はもう20話以上読んだけれど、続きが気になり早く家に帰って読み進めたい気持ちでいっぱいだった。
____________________________

20 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:33:03 ID:oT3/1QlE0__________
川 ゚ -゚)「ここ一ヶ月ほどアーカイブを読んでくれていたようだが、形式は掴めたか?」
('A`)「はい。今は現行も読んでます。」
この頃には俺も入部を決め、週に1、2度はファイナルに通っていた。
('A`)「他の小説サイトと比べると、結構ショートショートも多いんですね。」
('A`)「あとは…スターシステムでキャラクター毎にある程度の性格はあれど、好きなようにいじって良いって事ですよね?」
川 ゚ -゚)「そう。私達が映画やドラマの監督で、AAは役者なんだ。」
川 ゚ー゚)「そこで、どうだろう?1ヶ月後の祭りに参加してみないか?」
Σ(;'A`)「えっ!??」
川 ゚ -゚)「今回の祭りは100レス以内で、テーマは無制限。さっき言ってたショートショートを1本で良いんだ。数レスでもかまわない。軽い気持ちで挑戦してくれ。」
(;'A`)「は、はぁ…。」
川 ゚ -゚)「分からない事があったら、他の部員にも相談してみると良いよ。」
(;'A`)「はい…。」

21 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:35:03 ID:oT3/1QlE0('A`)(無制限…シリアスやギャグ、何でも良いって逆に漠然としてるよな…。)
((( 'A`)
俺はまず、ギコ先輩に話を聞いてみる事にした。
('A`)「あの、ギコ先輩は祭りにはどんな作品を投下する予定なんですか?」
(,,゚Д゚)「ああ、現行とは違う雰囲気にする予定なんだ。」
ギコ先輩は今、現行でスポーツ物を書いている。高校の頃に所属していた部活の経験を活かしているそうで、青春物らしく恋愛話もある。
(,,゚Д゚)「短い話になる分、メッセージ性のある話にしたいな。」
(;'A`)「メッセージ性、ですか…」
今の俺には難しそうな話だ。

((( 'A`)
(*'A`)「…あの、ジョルジュ先輩は祭りにどんな話を…」
( ゚∀゚)「ん?そうだなー」
ジョルジュ先輩はラノベのようなバトル物を書いている人だ。俺が以前から好んで読んでいるようなジャンルでもあるので、ジョルジュ先輩の事はとても気になっている。
( ゚∀゚)「ゲームっぽいかっ飛ばし系アクションかな!やっぱ!」
('A`)「得意分野ですね!楽しみです。」
( ゚∀゚)「おう。期待しとけ!」

22 :名無しさん [↓] :2024/04/25(木) 12:35:33 ID:jEpiOqG20支援

23 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:36:23 ID:oT3/1QlE0それからも何人かに聞くと、初参加が飯テロ祭りだった先輩から「食べ物は美味しいかどうかだから初心者でも書きやすい」と教えてもらった。
('A`)(グルメ物か…。)
アパートに帰ってから今まで書き溜めてきた粗筋ノートをチェックしたが、100レスでは到底収まりきらない物ばかりだ。
そうこう悩んでいるうちに、祭り当日が来てしまった。俺は苦肉の策で、親から大量に送られてきた賞味期限が数日過ぎたアウトドア向けのレトルト食品の試食を実況する事にした。
驚く事に、想像以上の反応があった。
(;'A`))(ブーン系って、こんなレポでも受け入れてもらえるんだな…。) モグモグ
____________________________

24 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:38:57 ID:oT3/1QlE0祭りが終わり勝手を知った俺は、ノートに纏めていたいくつかの話を順に連載する事にした。
その間も、先輩に指示を仰ぐため、ファイナルへと通った。

(´・ω・`)つ「はい、たこ焼きとソース焼きそば。」
(*'A`)「ありがとうございます!」
川 ゚ -゚)「紅生姜と共にパックにぶち込まれてるのが、風情あるよな。」
(;'A`)(風情…?こんな野菜たっぷり入れてくれてる出店見たことないけど…)
__________
(´・ω・`)つ「はい、年越し蕎麦。」
(´・ω・`)「書き終わった人から食べてね。」
ζ(゚ー゚;ζ「伸び伸びの十割蕎麦とか、食べたくないよー!」スッスッ
(;'A`)「終わる気配がしない…」カタカタ
川*゚ -゚)「美味いぞ!」ズゾー!

夏にはOBのショボンさんが屋台のようなメニューをキッチンで作ってくれたり、年末にはみんなで年越しをした。

ファイナルへ行かない日は、グループアプリであの作品は名作だのなんだのと話し込んだり。不思議と作品を投下する度に、みんなと仲良くなった。
(,,゚Д゚)「今年はファイナルが祭りの主催の当番だ。テーマの提案はあるか?」
( ゚∀゚)「そりゃもちろん、おっ」
(;'A`)つ「却下!!」

年が明ける頃には、先輩達ともタメ口を利くほどだった。

25 :名無しさん [↓] :2024/04/25(木) 12:39:12 ID:jEpiOqG20こういうブーン系も、今だからこそ憧れるなぁ物理本がたくさんあるのも、集まって語れるのも良いな

26 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:41:47 ID:oT3/1QlE0グループアプリとは別に、クーとはよく二人で作業通話をした。
川*゚ -゚)「『杉浦ロマネスクの財宝』の更新が楽しみ過ぎて、何も手につかないんだ。」ソワソワ
('A`)=3「もうすぐまた祭りが始まるんだから、自分の話を書いて待ってれば良いだろ?」カタカタ
川;゚ -゚)「無理だ!いつもならこの時間に投下されてるはずだから、もう少ししたらきっと…!」
クーは人の話を読むのも大好きで、現行作品をほぼ網羅していた。俺はというと、ファイナルの部員の作品の他は気に入った現行をいくつか追っている程度だ。
クー自身が書く話も一般小説寄りの文体で時間が掛かりそうなはずなのに、いったいどうやって時間を作っているのか、本当に不思議だ。
____________________________

27 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:43:38 ID:oT3/1QlE02度目の年越しを目前にした頃、クーの新作が人気になった。コメントがコンスタントに書き込まれ、スレは常に上位だ。
物語は大学の写真サークルを舞台に繰り広げられ、メインの男女の掛け合いは妙に世間とズレているのに、なぜか納得出来る。二人はサークル活動の一環で下町を二人だけで散策したり、レトロな喫茶店に行っては、お互いをフィルムカメラで撮る。男女の意識が無い雰囲気だけれど、二人きりでいる時の話題は何故か互いの恋愛観ばかりだ。
周りの部員も掴めないところがあり、だけど仲は良く、これからそれぞれの人物像が深堀りされていくのだろう。最新話は合宿旅行を控えているところで終わり、読者は今後の展開が待ちきれず、期待に胸を膨らませていた。
(*'A`)(付き合うとかは無さそうだけど…。急接近とか、何か大きく動きそうな気配がするな。)ワクワク

28 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:45:11 ID:oT3/1QlE0_しかし更新された話は、俺達が期待していた物とは全く違った。
合宿まで二週間と近付いたところで、ヒロインの女がいきなり死んだのだ。死因すら書かれずぼやけた描写で早々に葬式は済まされ、残された男も合宿の夜に一人で物思いにふけるでもなく、誰かが彼女の事について触れ、泣く事もなく。
夏休みが終わり新学期が始まると、主人公の男はまるで今までも特徴のない大学生であったように描かれ、学内やバイト先で過ごす様子が少しだけ述べられると、ぶつ切りのような形で『終』の文字が現れた。

(°A°)「………これで終わり…?」
川 ゚ -゚)「ああ。」
(°A°)「………忙しくて、時間が取れなかったとかではなく…?」
川 ゚ -゚)「定刻通りの流れで完結出来て、ホッとしているよ。」
(°A°)「…………」

クーがどうしてそんな終わり方にしたのか、俺には全く理解出来なかった。

29 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:47:25 ID:oT3/1QlE0ζ(^ー^;ζ「完結おめでと~!」
(;=゚ω゚)ノ「3ヶ月ずっと楽しませてもらったよぅ!」
(;,,^Д^)「ここ最近完結した人とまとめてお祝いしような!」
川 ゚ー゚)「ありがとう。とても嬉しいよ。」
クーの作風は今作で生まれた物なのか、ファイナルのみんなも俺のように酷く戸惑っていた。
けれどクーは人の作品の感想をよく言う人で、誰かが更新をする度にスレで感想を書き、ファイナルでも直接長々と感想を言わないと気が済まないタイプだった。
今まで他の人と大きくズレた感想を言われた事も無く、クーが何かしらの意図があってあのような結末にしたのだろうと、みんなも考えているようだった。
それでも作中の何気ないエピソードは、やけに印象に残っていた。サークルの先輩がねり飴の袋を箸で几帳面に押し出したり、主人公の母親が電車を乗り過ごして深夜に帰宅するなど、本筋とは全く関係の無いシーンだ。
いや。メインの二人に特別な展開が無かった以上、もはや本筋が何だったのかすら分からない。
俺はクーの話を、『今は分からないけれど、いつか自分にも意図が分かるかもしれない』と、保留しながら楽しむ事に落ち着いた。

30 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:49:25 ID:oT3/1QlE0クーが似た系統の話を2作3作と書くと、板には目に見えてクーのアンチが増えた。
文体や記号の表現からクーの建てたスレだと推測できる物には、「サイコパス」「読むだけ無駄」などと立て続けに書き込まれた。
川 ゚ -゚)
クーも気付かない訳がなかったが、周りを気にして作風をわざわざ変えるような事はしなかった。それが癪なのか、板から少し離れた場所でアンチスレが建つほどまでに、批判はエスカレートしていった。
(;'A`)「……。」
そんな様子を見兼ねた俺は、打開策を考えていた。タイミング悪く先輩達は皆それぞれの用事で忙しい時期で、グループに顔を出す頻度が減っている。
下級生達が、ひたすらスマホで小説を書くクーを心配そうにチラチラと見ている。
今、ファイナルでクーと一番つるんでいるのは、自分だ。
(;'A`)(そろそろグループで相談しないと…。でももし行動して、駄目だったら…。)
こういう場合、安易にやめろと書き込めば火に油を注いで長期化する可能性もある。
(;'A`)(いっその事、別の場所で活動をした方が良いのか?前にみんなで行った、即売会とか…。)
(;'A`)(…駄目だ。クーの書きたい物が変わらない限り、何処だって同じだ。顔が見える分、付き纏いや盗撮をして笑いものにしようとする奴だって、出てくるかもしれない。)
俺が懸念しているのは、新たな読者よりも、今のアンチがクーの情報を聞き付けてそういった行動をする可能性だ。悪意がある人間の自己肯定感は、侮ってはいけないのだ。

31 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:50:13 ID:oT3/1QlE0ガチャ
(´・ω・`)つ◯「ピザ焼いたんだけど、いる?」
川 ゚ -゚)「ありがとうございます。」
下の階からショボンさんがやって来て、差し入れをしてくれた。
川*゚ -゚)「みんな、ピザだ。手を洗え!」
('A`)「…」

洗面所に行列が出来ている間に、俺はショボンさんを送るフリをして一緒に玄関を出た。
(;'A`)「あの…。ショボンさんの時代は…作品に批判が出た時はどうしていたんですか?」
(´・ω・`)「ん?何の話だ?」
(;'A`)、「実は…」

32 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:51:48 ID:oT3/1QlE0__________
(´・ω・`)「…ああ、そういう事か。」
ショボンさんはズボンのポケットから自分のスマホを取り出して、指紋認証をした。
(´・ω・`)「最近みんな仕事が忙しくてな。中々サイトの方を見られなくて悪かった。」
どうやら専用板は、ファイナルの古参OBが制作し、複数人で管理している物だったらしい。この事は秘密にしろと、ショボンさんから言われた。
(´・ω・`)「これか。…酷いな。」
('A`)、「はい…。」
(´・ω・`)「俺らの時代もこういうのはあったよ。だけど、アマチュアが遠くの人に自分の話を読んでもらえる驚きとか、人気になって感想が欲しいって気持ちの人の方が多かったかな。」
(´・ω・`)「忠告しておくから、戻ってピザ食ってこい。」
('A`)「…すみません。ありがとうございます。頂きます。」
____________________________

33 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:52:50 ID:oT3/1QlE0その晩帰宅してから板を確認すると、トップとクーのアンチスレには、『今後迷惑行為を確認した場合、登録中の各学校へ相談をさせて頂きます。』といった表記が追加されていた。
ブーン芸部に入部し、専スレを利用する際には、何かあった時のために通っている学校を登録する決まりがあるのだ。
荒らしをしていたのが他県の部員か、読み専…外部からの人間か、両方なのかは分からない。だけど監視の目に怯んだのか、結果としてショボンバルサンはよく効いた。
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34 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:54:22 ID:oT3/1QlE0__________
川 ゚ -゚)「…ドクオ、ありがとうな。」テクテク
('A`)「え?」
暫くしてファイナルへ行く途中で、クーが俺を見ながらそう言った。
川 ゚ -゚)「ショボンさんから聞いたんだ。私のところに来る荒らしをどうすれば良いか、相談してくれたって。」
その際にクーも、ショボンさんが運営に関わっているという話を聞いたようだ。
('A`)「…結局、人頼りだったけどな。」
('A`)「普段小説で人の心を書いているはずなのに、どうすれば自分の言葉で相手に伝わるのか、分からなかった。」
川 ゚ー゚)「そこまで考えていたなんて、ドクオは凄いな。」
川 ゚ -゚)「デレ達からも、相談に乗るとメッセージは来ていたんだ。」
川 ゚ -゚)「だけど断った。…楽観視していたんだ。」
川 ゚ -゚)「…私はただ、飽きられるのを待っていただけだ。板の雰囲気が良くないのを放置して、周りへの配慮が無かったと今更ながら後悔しているよ。」
('A`)「ふざけて書いた訳じゃないのなら、クーの落ち度は無いだろ。」
川 ゚ー゚)「…それでも、他人に頼る事が出来るドクオは、私よりもうんと大人だ。ありがとう。」
川 ゚ー゚)「そういうドクオの良いところが、小説の中にも練り込まれているんだろうな。次の話も楽しみにしているよ。」
(;*'A`)ゞ「あ…、ああ。」
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35 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:56:18 ID:oT3/1QlE0__________
('A`) カタカタ
季節が過ぎた。
俺がファイナルでノートPCを開き執筆していると、ドアの先で誰かの楽しそうな声がした。
ガチャ
川 ゚ -゚)「ああ、来ていたのか。」
('A`)「その声は…クー…?」
川 ゚ -゚)「ああ。私はもうすぐ入社するから、オフィスカジュアルを練習しておくべきだとデレに突付かれてな。」
ζ(゚ー゚*ζ「これね、私がコーディネートしたの!良いでしょ~。」
…クーは今まで、その昔秋葉原に通う男性の間でトレンドだったというアキバ系のような格好をしていた。小説にのめり込むあまり、他の事に気を配る余裕が無いからだと言っていた。
だけど、目の前に居る女性は。タイの付いたブラウスに、紺色のジャケットと、グレーで控えめなチェックの線が入ったロングスカートの姿だ。初めて足首を見て、おまけにメイクまでしているから、俺は一目見た時に彼女が誰だか分からなかった。
(;'A`)「…」

俺の頭には、『クーが誰かに取られてしまう』という言葉だけが浮かんだ。
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36 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 12:58:42 ID:oT3/1QlE0(;'A`) カタカタ
(;'A`)(今まで当たり前に通話したり隣に並んでいたけれど、それが無くなるかもしれないと思った途端に気付くなんて!俺はどんだけ鈍感なんだよ!!)カタカタ
(;'A`)(この話で俺が一番書きたかったシーンを書ききったら!クーに告白するっ!!!)カタカタカタカタ!

今連載中の『( ^ω^)達は春を迎えたいようです』は、主人公のブーンがヒロインのツンや仲間達と氷に覆われた世界を救うために、平和の呪文を集める旅をする物語だ。
主人公達は、それほど強くない。連携しなければ勝てないような魔法での戦闘やギミックの入り交じる構成で、今ではもう社会人になったジョルジュも、SNSで頻繁にこの作品について触れてくれている。同じ大学の後輩としてファイナルにやって来た美和ちゃんも、その見た目とは裏腹に俺が得意とするラノベ調の台詞回しが気に入ったようで、会う度に俺を称賛してくれる。
p川*゚ -゚)q「早く続きを書け!二人はいったいどうなるんだ!」

何より、クーが応援してくれている!

高校時代から書き続けたプロットノートから四本目の連載にこの物語を選んだのは、一番ボリュームがあり世界観やキャラ背景に時間をかけ、思い入れがあるからだ。
読者も多いようで、コメントも今までで一番付いているし、総合でおすすめを聞く人へのアンサーとしてもよく挙げてもらっている。
連載を重ね、今の自分には脂が乗っていると感じる。この作品は、俺の代表作となるだろう。

37 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:00:04 ID:oT3/1QlE0(;`A’)「うおおおおおおぉぉぉっ!!!!」カタカタカタカタカタカタ!!
話の山場は、就活と丸被りだった。振り返って確認する安堵感など掻き捨て、とにかく目の前の物をこなした。
一旦休載すると感覚が戻らないのではないかという恐怖と、終わらないとクーに告白出来ないという自分に課したノルマを達成するために。

脚が宙に浮いたまま、前かすら分からない方向へと、高速で進んでいるような気分だった。
____________________________

38 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:01:08 ID:oT3/1QlE0人生で一番気合を入れたシーンは、想定より何倍も上手く書くことが出来た。
(;*'A`)つ(…よしっ!いよいよクーに告白だ!えーっと、ファイナルから近くて景色のいい場所は…)カチカチ
川 ゚ -゚)「そういえば、近況なんだけど…」
(;*'A`)つ「えっ…?何?」カチ…
川 ゚ -゚)「彼氏が出来た。」



(°A°)



通話先のクーから、いつもと変わらぬ態度でそう告げられた。



(°A°)「…………オメデトウ……」




俺が小説で自信を得ようとする間、時は止まっていてはくれなかったのだ。

____________________________

39 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:04:36 ID:oT3/1QlE0__________
それから、半年ほどが過ぎた。
俺はクーに失恋した後も連載にかける意欲を保ち続け、なんとか卒業までには完結の兆しが見えてきた。
('A`) カタカタ
一時の感情が幻だったのかと疑うほど、心はダメージを受けていなかった。それはクーがクリスマスや正月も変わらず祭りに参加していて、俺との通話も頻度は多少減ったものの、続いているからだろう。
('A`)「…良いのかよ。こんな時期に彼氏を差し置いて俺と長話なんかして。」カタカタ
川 ゚ -゚)「ん…?ああ、忙しい人だからな。夕食は月に何度か共にするけれど、あまり出掛けたりはしないんだ。」
('A`)「…」
報告以降も落ち着き払っている様子から、クーが誰かと恋人らしい付き合いをしている想像が付かない。だけど俺や周りに愚痴の一つもこぼす事無く今日まで過ごしているのだから、順調なのだろう。
(;'A`)「それにしても、そのペースじゃ創作に時間を割き過ぎじゃないか?」
川 ゚ -゚)「そうだな。勉強する日もあるけど、休みの日はほぼ丸々創作に使えるからありがたいよ。」
('A`)「彼氏は、休日に彼女が何をしているのか気にならんのかね…。」
川 ゚ー゚)「大学の頃から文芸サークルに入っているとだけ伝えてある。流石に詳細を話してアンチが付いていたなんて伝わったら…恥ずかしいからな。」
('A`)「…」

どうやらクーにとって、プライドを保ちたい相手らしい。
____________________________

40 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:06:35 ID:oT3/1QlE0社会人になり忙しくなっても、俺は合間を縫っては創作を続けた。
それはクーも同じだ。祭の時期が来れば、必ず俺に話しかけてくる。
他の部員との付き合いはあっても、クーがブーン系小説に関してここまで絡んでいる様子は無い。
('A`)(…もしかして、クーは後輩の面倒を見てるつもりで、それが未だに続いているのか?)
('A`)(…その可能性はあるな。美和ちゃんにブーン系の説明をしたのは主に俺だし…)
ブーン芸部は新入部員がまばらで、クーは俺に一対一で部の事を教えてくれた。だから俺にも先輩としての経験が出来るようにという配慮なのだろう。
客観的に見れば…というより、俺から見てもクーの習慣は褒められたものではない。彼氏持ちが他の男とサシで、こんなに長い時間を共有しているのだから。
だけどその非難は、利己的な感情による部分が大きい。
クーからすれば、学生時代からの一番の趣味を謳歌しているに過ぎず、気のおけない後輩の性別がたまたま異性だっただけだ。

俺がクーに好きだなどと言わない限り、この関係は潔白なのだ。
.

41 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:08:40 ID:oT3/1QlE0それから数年の間。ファイナルへの出入りは打ち上げの時程度になったものの、俺はプロットノートに書いた残りいくつかの話を書き切り、祭りにも毎度のように参加した。
そうしていく中でまた新たな話を思い付き、書いて。
気付けばこんなに長い時をファイナルで過ごしていた。
ニーソックスの似合うあの子は世界を救ったヒーローとゴールインしたし、どの主人公も路線は違えど、それぞれの終着駅へと送り届けた。


だけど。

ここ一年で、高圧のリアルに当てられ続けた俺の目はすっかり疲れてしまい、暗順応の力が衰えてしまったのだろう。


(-A-)


夜に布団の中で次はどんな話が浮かぶだろうかと幾夜目を閉じても、暗闇の先にはブーンもツンも、もう誰も待っていてはくれなかった。

.

42 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:11:21 ID:oT3/1QlE0_____________________________
ガヤガヤ
(,,゚Д゚)「本当に良いのか?あんなに良い装備貰っちゃって。」
('A`)「ああ。俺だけじゃ両親の荷物は使い切れないからな。」
両親のキャンプグッズのいくつかを、ギコに譲った。事故はスポーツ中に起きたもので当時持ち歩いていた物では無いが、二人がアクティブ故に起きた事だったので、曰く付きの遺品ではある。それでもギコは、快く受け取ってくれたのだ。
('A`)「今より田舎に引っ越すからなのもあるけど、まさか自分がアウトドアを始める気になるとは思わなかった。ギコが昔書いた『白熱バレー部のようです!』の、キャンプ回の影響だな。」
(,,^Д^)「ハハハ!また懐かしいモノを!」
(,,゚Д゚)「ドクオの仕事が落ち着いた頃にでも遊びに行くよ。家族連れで。」
('∀`)「娘さんが喜びそうな場所探しとくかぁ。」
(,,^Д^)「大型の公園とかな!」

43 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:12:18 ID:oT3/1QlE0( ゚∀゚)「…迎春みたいな話、また読みてーな。」
( ゚∀゚)「いつかまた、戻ってこいよ。絶対に。」
('A`)「五七五…。」
('∀`)mg「いや、明日からもずっと板にはアクセスする予定だからなwしんみりされても困るんだけどww」
('∀`)mg「勘違いしないでよねっ!!」
(ⅲ゚∀゚)「迎春のツンたんじゃねーか!キモいファンサやめろ!吐くぞ!!」オエー!!

44 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:13:46 ID:oT3/1QlE0ζ(゚ワ゚*ζノシ「あっちでも元気でね!私の新作が投下されたら読んでねー。」
(*'∀`)ノシ「ああ。楽しみだ!」

(*'∀`) ウィー…ヒック…
俺がファイナルを卒業すると伝えた時、グループアプリでみんなが俺の作品の振り返りをしてくれた。だけど今日も、一人一人に挨拶をする度に俺の作品について感想を述べてくれる。その度に酒を呑み交わしたおかげで、だいぶ酔いが回ってきた。
(*'∀`)(楽しいな…。)ヒック…
(*'∀`)(…考え直した方が良いんじゃないか?俺。)
(*'∀`)(だって、入部してから去年まではずっと、書き続けられたじゃないか!!)
明日にでもまた俺の枕元に、ブーンが現れるかもしれない。
(*'∀`)(まだ若いだろ。こんな楽しい所、卒業するのは早いだろ!)
(*'∀`)!(そうだ!!)
俺は、頭を横にずらし、隙間からクーを呼んだ。

45 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:14:45 ID:oT3/1QlE0(*'∀`)「クー!!あのさぁ!!」

俺と結婚しよう!!!
そしたら通話なんかしなくても、新作が投下される度に隣で感想を言い合えるじゃないか!
じいちゃんばあちゃんになっても、
死ぬまで、
ブーン系を書いて、読んで、
楽しもうよ!!!


(*'∀`)「俺と!!!」
川 ゚ -゚))「?」

('∀`)
('A`)「…おれと…」

46 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:16:00 ID:oT3/1QlE0…結婚?

俺しか知っている人が居ない土地に、クーを連れて行く?
クーの人間関係や、頑張って就いた仕事を無視して?
ファイナルにも来れなくするのか?


クーの"今"を否定して上回る程の価値が、俺にはあるのか?



川 ゚ -゚)「どうしたんだ?」

('A`)「…いや、酔っ払ってた。ごめん。」

47 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:17:49 ID:oT3/1QlE0('A`)「ありがとうございました。そろそろ…」
時刻は21時だ。明日も仕事の人がおり挨拶も一周したため、俺はお開きの合図を出した。
( ゚∀゚)「じゃあ、例のやつな!」
('∀`) wktk…

これはファイナルにおける、卒業式のフィナーレだ。
卒業生の誕生花を使用した花束が贈られ、拍手で見送られるのだ。花にはあまり興味が無い俺だけど、今までの卒業生が花束を受け取る姿を見て、密かに憧れを抱いていた。
川 ゚ー゚)つ「おめでとう。」
('∀`)つ「ありがとう!」
('∀`)
(;'A`)つ□「何だよ…これ。」

48 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:19:14 ID:oT3/1QlE0俺の誕生花は、パフィオペディルムだ。
毒々しさを持つラン科の花で、そこそこ値が張る。だから一輪で文句は無い。
けれど俺が受け取ったのは、生花ではなく額縁だった。硝子の先には白い厚紙と共に、ぺしゃんこになったパフィオペディルム。

川 ゚ー゚)「私が用意したんだ。」
川 ゚ー゚)「ドクオの話には、とても良い意味で渋さがあるだろう?ファンタジーなのに時代劇を読んでいる気分にもなるような。」
川 ゚ー゚)「だから、和風の家に飾ってありそうな物にしたんだ。」
クーが得意げな顔で言った。その気持ちが分かるような…いや、分からなかった。
(;'A`)「…ありがとうございます。」

49 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:19:56 ID:oT3/1QlE0('∀`)ノシ「みんなありがとう!それじゃあ、さようなら!!」
俺がそう言うと、大き過ぎず、だけど温かい拍手がパチパチと鳴り響いた。そのまま玄関へと向かい、靴を履いて、後ろを振り向かずに扉を開けた。
後片付けが心配になるけれど、気を遣うとショボンさんが嫌がるので、こうするのだ。

50 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:20:51 ID:oT3/1QlE0('A`)(春の夜は温かくて、なんだかワクワクするな。)テクテク
('A`)(みんなと別れて寂しいはずなのに…まるで麻酔みたいだ。)テクテク
('A`)(なら、家の玄関を閉じた時がヤバいな…。)
('A`)「…ん?」
遠くから、何か小さな声が聞こえる。足音が段々と近付いてきた。

川;゚ -゚)つ「待ってくれ、ドクオっ。」
Σ('A`;)「クー!?」
川 ゚ -゚)「最後だし…。終電まで、どこかで話さないか?」
('A`;)「え…?あぁ、」
('A`)σ「じゃあ…。」

俺は、ファイナルから徒歩10分ほどかかる場所へと案内した。

____________________________

51 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:22:08 ID:oT3/1QlE0__________
川 ゚ -゚)「こんな公園があったんだな。」
('A`)「斜面だから、夜ランナーも居ないし静かなんだ。」
川 ゚ー゚)「良い所にベンチがあるな。」
('A`)「ああ。座ろうか。」
それは背もたれ付きの木製ベンチで、わりと新しく作られたもののようだ。

ここは俺が、クーに告白する為に何年も前に探した場所だった。
小さな川を渡るための、人や自転車しか通れないような道や橋を歩き、狭い住宅街を抜けて突き当りの石の階段を登る。そうすると、夜の街を見渡せるこの公園へと辿り着くのだ。
駅とはだいぶ離れるため、他のみんなも来た事は無いだろう。

52 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:23:33 ID:oT3/1QlE0俺達は暫く、目の前に広がる夜景を眺めた。
電車が線路を走る音が少しして、遠くには沢山のマンションが見える。
綺麗で見惚れたけれど、おびただしい数のオレンジの光を見て、そこに住む人の数でもあるのかと思うと、そこには物凄いエネルギーが集結しているのだと圧倒される。
(;'A`)(ちょっと怖いな…。)

川 ゚ -゚)「ドクオ。」
('A`)「ん?」
川 ゚ -゚)「…本当に、行くのか?」
('A`)「…ああ。」
川 ゚ー゚)「寂しくなるな。」

川 ゚ -゚)「…私も、ファイナルに行くのは今日で最後にしようかな。」
('A`)「…」
('A`)「…どうして。」

53 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:25:28 ID:oT3/1QlE0川 ゚ー゚)「ドクオもだけど、同期もかなり卒業していっただろう?」
('A`)「花は貰わないのか?卒業する時は絶対参加するけど。」
川 ゚ー゚)「…枯れた時に、悲しくなるじゃないか。」

('A`)=3
('A`)「…クーは、ギコやジョルジュみたいになるんだと思ってた。」
二人は仕事や家庭に追われながらも、未だに半月から月一での投下を続けている。デレは年一かそれより空く間隔で気まぐれに現れては、読み切りを放り投げていく。
殆どの部員は大学時代に集中して活動し満足していくのか、社会人でこれだけ残っている世代は珍しいと、ショボンさんは言っていた。
川 ゚ー゚)「私はあんな速度では書けないよ。…あの二人はいつか、ショボンさんの後継者になるんじゃないかな?」
('∀`)「あぁ、確かにw」

今度はギコとジョルジュが板の管理人か。俺達しか知り得ないような話題で、笑い合った。

54 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:26:25 ID:oT3/1QlE0川 ゚ -゚)、「…私は、器用じゃないから。」
川 ゚ -゚)「私は今まで、夢中で小説を書いて読んでいた。とんでもない時間を、ブーン系小説にぶち込んでいた。」
川 ゚ -゚)「だから結婚したら、確実にバレるだろう。書いている姿を隠しきれない。」
川 ゚ -゚)「…怖いんだよ。私の小説を読まれて評されるのが。」
川 ゚ -゚)「もし内臓に触れられて千切られても感覚の無い部分があるとしたら、そこをもぎ取られるような気分だ。」

それを聞いて、俺はゾクッとした。

55 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:27:33 ID:oT3/1QlE0(;'A`)「…アンチと旦那は違うだろ。」
('A`)「逆に気に入るかもしれないし。」
('A`)「それにクーの事を好きなら…。趣向が違かったとしても、趣味だってそっとしておいてくれるんじゃないのか?」
クーの作風はトンデモ展開を除けば、過激でも何でもない。だから最悪の言い方をすれば、スタミナの無い素人の小説として片付けられるのだ。

川 ゚ -゚)「…。違うからだよ。大切な人に言われるのは辛いんだ。」
川 ゚ -゚)「普段はそうでも、もし喧嘩になった時に…人質にされたらたまらない。」
川 ゚ - )「私は死ぬしかない。」

そう言い切ったクーは、少し震えていた。
.

56 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:28:37 ID:oT3/1QlE0('A`)、「そんな事は…」
川 ゚ -゚)「人は、自分の正しさを誇示したい時は手段を選ばないものだよ。…それが愛しい相手でもね。」
川 ゚ -゚)「私だって…きっとそうだ。今まで書くために集めてきた言葉を、暴力に使いかねない。」
川 ゚ - )「だから…。そろそろ良いかなって。」
川 ゚ー゚)「私もドクオと同じく、長期の読み専になるさ。みんなの話が気になるからな。」
('A`)「……」
('A`)「もうネタは無いのか?」
川 ゚ -゚)「え?」
('A`)「書きたい話、無いのか?」
川 ゚ー゚)「書けと言われたら、いくらでも書けるんじゃないかな。」
('∀`)「…書けよ。読むから。」


見えなくなった俺とは、違うなら。

57 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:30:24 ID:oT3/1QlE0川 - --)))
クーはゆっくりと、首を横に振った。
川 ゚ -゚)「これから確保した時間で書くとなると、今までの数倍はかかりそうだ。」
川 ゚ -゚)「一行でも上手く書けた時は、そりゃ楽しいさ。だけど投下までの間は辛いだろ。」
川 ゚ -゚)「早く投下したくても、書き終わらないと叶わない。それがもっと長くなるなんて、地獄だよ。」
川 ゚ -゚)「書いている間に世の中はどんどん変わっていく。不幸は世の中に、身近に、いくらでも落ちていて。時間をかけて本気で書いた話が、投下直前で不謹慎だと公開出来なくなる事だってある。家庭を持てば、必然的にその確率は上がる。」
川 ゚ -゚)「…」
川 ゚ -゚)、「…ごめんな。ドクオのここ一年は、まさにそれだったよな。」
('A`)「いや。おかげで本気なのは分かった。」
川 ゚ -゚)「…うん。」

58 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:31:33 ID:oT3/1QlE0遠くでまた電車の走る音が聞こえると、クーは湯船に浸かるように、両腕をベンチにかけた。
川 ゚ -゚)「きっとさ…。書いている時の私達は、全裸だった。そしてその身で、温泉に浸かっていたんだ。」
('A`)「…温泉?」
川 ゚ー゚)「ああ。誰かがそれぞれの湯を引けば、みんなでそれに浸かって。」
('A`)
('A`)「なん…だと…」
('A`)「俺達は、混浴していたのか。」
川 ゚ー゚)「そうさ。良い塩梅だった。ずっと浸かっていたいくらいに。」
('A`)「…。」

俺は頭に浮かんだその温泉に、浸かることにした。
岩や湯気と共に、みんなの顔が見える。

不思議と首から下の身体には、それぞれが書いた話の情景が代る代る映し出されていた。



('∀`)「…そうだな。」

59 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:32:46 ID:oT3/1QlE0川 ゚ -゚)「遠いけれど…。結婚式の招待状は、出しても良いだろうか?」
('A`)「…言っておくけど、長年の男友達なんて印象悪いぞ。美和ちゃんやデレ達で華やかにしとけ。ご祝儀は送るから。」
川 ゚ -゚)、
クーは何か言いたげだったけれど、俺は目を合わせなかった。
少しすると「仕事も忙しそうだしな」とぽつりと聞こえて、その話は終わった。

川 ゚ -゚)「そろそろ帰ろうか。」
('A`)「ああ。」

60 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:33:35 ID:oT3/1QlE0__________
俺達は、帰り道の途中にあるコンビニに立ち寄った。
('A`)「悪かったな。寄ってから公園まで行けば良かった。」
('A`)σ「水、二人分買ってくるから。」
川 ゚ー゚)「なら私は、外で待っているよ。」
そう言ってクーは、額縁が入った紙袋を預かってくれた。
イラッシャイマセー
∆⊂('A`)(…こういうの、クーの彼氏ならすぐ気付くんだろうな。)
そう思いながらミネラルウォーターのペットボトルを2つ、かごに入れた。

61 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:34:19 ID:oT3/1QlE0('A`)つ∆「はい。」
紙袋を受け取った俺は、クーにペットボトルを渡した。
川 ゚ -゚)「ありがとう。お金…」
('A`)「いいよ。額縁用意したのクーだろ。」
川 ゚ー゚)「そうだよ。」
二人でペットボトルのキャップを開けて、店の前で少し飲んだ。

('A`)(もうめったにこの道も歩かないんだろうな…)テクテク
('A`)(…誰かが、卒業でもしない限り。)テクテク

62 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:36:19 ID:oT3/1QlE0__________
川 ゚ -゚)「ドクオ側の電車は10分後か。私はもう一本あるし、見送ろうか?」
('A`)「いいよ。ほら、クー側のが来ただろう。」
カタタン カタタン
川 ゚ー゚)「元気でな。」
('A`)「ああ。」
('A`)つ□「これ、ありがとうな。」
そう言って俺はクーに見えるように、紙袋を腰の辺りまで持ち上げた。
「今までずっと、ありがとう。」そう伝えたかったけれど、連絡先を消す訳ではないし、匿名とはいえ読んだスレの中で、コメントを交わす事だってあるだろう。だから、それだけを伝えた。
電車のドアが開き、クーがそれに乗り込む。俺が見送る形だ。

('A`)「…あれ?」
ドアがまだ閉まらない。

数秒すると、時間調整をするため少々停車するとアナウンスが流れた。

('A`)∏)) ブブッ
('A`)(クーからだ。「反対側のホームは遠いしもう行ってくれ」、か。)
クーが苦笑しながら手を振っている。
俺も手を振り返して、それに従う事にした。

63 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:38:23 ID:oT3/1QlE0('A`)))(……長い、恋だったなぁ…。)

それは、クーに告白しようとしてからの数年だけではない。

誰かが書いた話に夢中になって、その役をこなすキャラクターを好きになって。
初めて書き込みをした日のドキドキも。
初めて投下をした日の手の震えも。
誤字脱字を出してしまった日の絶叫も。
上手く書けた時の達成感や、言葉が浮かばず一文字も書けない日の、苛立ちや焦りも。
疲れ目を増長させる、新聞配達のバイク音も。
人と比べて己の幼さを恥じた日も。
人生で一番後悔をした夜も。
自分が紡いだ言葉に、魔法を見付けた奇跡と。
褒めて貰えた時の、ニヤニヤとホッとする気持ちが混在する瞬間も。


そして俺を暖かく迎え入れてくれた、ぬるめ寄りの温泉のような場所。
ファイナルに恋をした。

64 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:39:19 ID:oT3/1QlE0俺は、最後の最後までクーに好意を伝えられなかった。一歩踏み出した先の不幸が、怖かったからだ。
クーがベンチで語った言葉と同じ事になってしまう未来が。
振られたり、些細な男女のいざこざで喧嘩別れなんかしたりして。
魔法が使えるはずの指が、呪いの言葉を打って。
出会った事すら嫌になって、ファイナルが嫌になって。
クーやみんなが面白いと言ってくれた俺の作品まで、こんな物邪魔だと捨てる、もしもの未来が。

65 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:40:22 ID:oT3/1QlE0画面からふと顔を上げた時に見える、みんなの真剣な顔。
ワイワイと料理を囲む俺達を見て、満足そうな顔をするショボンさん。
面倒見が良くて、尊敬するギコ。
憧れの作家、ジョルジュ。
ムードメーカーの、デレ。
俺なんかを凄いと慕ってくれた、美和ちゃん。


俺をファイナルへと導き、いつも傍にいてくれた


川 ゚ー゚)


大好きな、クー。





怖くて仕方がなかった。





俺の一番の宝物達が、ガラクタに変わってしまうもしもの未来が。

66 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:41:03 ID:oT3/1QlE0('∀` )))(ははっ!それってまるで、昔クーが書いた小説みたいじゃないか!なんて___)


('A` )





(  'A`)



プシュー


ガタン



カタタン カタタン



(  'A`)





('A`  ))
('∀` )))(…いや。違うさ。)

67 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:42:16 ID:oT3/1QlE0__________
('A`)(…。どこかの酔っ払いが、ゲロでもしたか?)
どうやらこっちの路線も出発が遅れるらしく、未だに電車が来ない。
俺はホームに備え付けられた硬いオレンジの椅子に座り、紙袋を膝に乗せた。
('A`)「…ん?何だこれ?」
額縁の裏に、受け取った時には見当たらなかった黒い汚れがあった。
('A`)  …?
ガサッと紙袋から取り出すと、それは油性ペンで書かれた文字だった。



『君に気付いて大正解だった b』

b…

クーが、小説でよく使っていたグッドサインだ。

68 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:43:27 ID:oT3/1QlE0両親の誘いに乗って山に登り、海に潜り、空から飛び降りて、洞窟探検をしていれば。
俺はまだ、書き続けていられたのだろうか。

('∀`)(…父さん母さん。だけど俺も、大冒険をしたんだ。)
('∀`)(真っ暗な氷の山にキラキラと咲く、シリウスの欠片を見たよ。大きなポップコーンが跳ねる、トランポリンの街も!)
('∀`)(砂漠に住むアレキサンドライトのトゲを持つ剣竜の背中にだって、乗ったよ!)
('∀`)(大変な旅だったけれど、一人じゃないから寂しくなかったよ。)
('∀`)(ブーンに、ツンに…)
('∀`)(それからクーや、みんなと行ったんだ!)

69 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:44:30 ID:oT3/1QlE0これからの俺はきっと今より様々なものを見て、色んな事を学び想うのだろう。

そうしたら、いつか。


ブーンが両手を広げ、ツンデレがツインテールを揺らして。



⊂二( ^ω^)二⊃ ξ*゚⊿゚)ξ



また、やって来てくれるだろうか?










そう思いながら、紙袋ごと額縁を抱きしめた。






70 : ◆5iBw4nf/rQ [] :2024/04/25(木) 13:45:19 ID:oT3/1QlE0BGM始まりのヒト ナチュラル ハイ
ファイナルってどういう意味なんじゃろと思って書きました。

71 :名無しさん [↓] :2024/04/25(木) 15:26:13 ID:yxSRmoms0

72 :名無しさん [↓] :2024/04/25(木) 15:32:53 ID:jEpiOqG20乙乙全部が良すぎてびっくりした心臓が締め付けられてる気分良いものを読んだ

73 :名無しさん [↓] :2024/04/25(木) 20:04:14 ID:NF57mafI0>>63が好きすぎる乙です

74 :名無しさん [↓] :2024/04/26(金) 02:00:49 ID:jyDKGAjo0乙!ブーン系へのでっかい愛を感じる作品だったすごく好き

75 :名無しさん [] :2024/04/28(日) 17:16:43 ID:6s04VlOU0この話を読めてよかった。

76 :名無しさん [↓] :2024/04/29(月) 11:39:28 ID:dwQhul8Y0あかん!泣いてしまう!

77 :名無しさん [] :2024/04/29(月) 19:06:17 ID:uO4RA8bM0良かった

78 :名無しさん [] :2024/05/02(木) 23:47:10 ID:x3n9dMKU0一回乙って言ったんだけどさ、なんかいいなって何日も思ってるから、もっかい乙って言うね

79 :名無しさん [↓] :2024/05/08(水) 13:12:47 ID:7zkwo12I0わかる読み終わってから何日も「よかったなぁ」の余韻味わってる

80 :名無しさん [↓] :2024/05/15(水) 22:31:27 ID:ueVPwedo0遅くなってしまいましたが、お読み頂きありがとうございました。もう一度の乙まで頂き、感無量です!