('A`)吊るされたガーベラのようです

1 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 21:55:26 ID:ex.0V.UQ0   オレンジデー祭り参加作品

 ('A`)吊るされたガーベラのようです

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2 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:56:05 ID:ex.0V.UQ0〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 CAUTION!〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 CAUTION!〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

3 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:56:39 ID:ex.0V.UQ0












 #0 散華、あるいは









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4 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:57:12 ID:ex.0V.UQ0







 ああ、そうだ。そんなことは、わかりきっていた。






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5 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:57:45 ID:ex.0V.UQ0



「このたびは、心よりお悔やみを申し上げます」


 愛した彼女は、もういない。


 そんなことさえ受け止められないからこそ、置いて行かれてしまったのだろうか。


 もう、とうに。


 いつから? 昨日なのか? 今日なのか? ……あるいは、今この瞬間に?


 物言う肉塊と化したはずの彼女は……そうして尚、眩いほどに美しくて。


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6 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:58:18 ID:ex.0V.UQ0












 ああ、だから――









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7 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:58:53 ID:ex.0V.UQ0












 #1 はじまり、芽吹き









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8 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:59:26 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/19】【Time: 18:00】【locate: 府相成署 刑事課】

('A`)「ふぅー……」

 いやー今日は疲れたな。 何の変哲もない恐喝のヤマのはずが、まさかあんな大捕り物に発展するとは!
 あいつは雑技団か何かか? とか言ってたらマジでサーカス出身でやんの。 うまいこと捕まえられたから良いものの、一歩間違ったら逃げ切られてたな。

川 ゚ -゚)「どうした埋田、溜息などついて」
('A`)「素直先輩」

 いつ見てもお美しい。 スラっとしたスタイルに氷の彫刻のようにクールな顔立ち、宝石のような黒髪。 どっからどう見ても「デキる女」で、見た目に劣ることなく敏腕なんだから凄い。

9 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 21:59:59 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「いやーまさかあんなことになるとは思わなかったんで、ちょっと疲れちゃって」
川 ゚ -゚)「稀によくある。先日の犯人よりはマシだろう?」
('A`)「ああ、あの中国武術……詠春拳でしたっけ? の達人」

 そうそう、二人組のコンビニ強盗を逮捕しに行ったら同僚がバッタバッタと薙ぎ倒されたんだよな……。 あれはビビったなー、こっちは拳銃もあるのに意にも介さないし。 最後は日本拳法の達人である係長に取り押さえられたんだけど。

川 ゚ -゚)「係長がいなかったら発砲許可が必要だったかもな」
('A`)「発砲かあ……できれば経験したくないですねえ……」

 俺は幸運にも、まだ現場で発砲したことはない。 射撃は上手い方だと自負はしてるが、人に向けて撃つのは……うん、ちょっと想像したくないよな。

10 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:00:33 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「まあ、そうだな。うちの刑事課でも発砲上等なんてのは課長くらいだ」
('A`)「……普段の課長からは想像もできないですけどねぇ」
川 ゚ -゚)「まあ昔はそうだったって伝説だけだからな」

 刑事課長はいつも柔和な笑顔を浮かべた、いかにも優し気な紳士だ。 だけど、時折見せる鋭い眼光が「早撃ち尾前」の伝説に信憑性を与えている。

('A`)「よっと。そろそろ上がります」
川 ゚ -゚)「む、そうか」
('A`)「お先失礼します!」
川 ゚ -゚)「うむ、気を付けて帰れよ」


 ― ―― ―――

11 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:01:06 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/19】【Time: 19:00】【locate: 府相成駅前】

('A`)(んー、疲れたしどっかで一杯やってくか?)
('A`)(どうせ明日の午前中は大した仕事ないし――)


 爪'ー`)


('A`)「んん?」

 んんー、どっかで見たような顔だなぁ……? えーと、今川……違うな、伊万里……これも違う。
    |\  __  /_ (m) _ピコーン   |ミ|/  .`´  \   ('A`)「あっ!?」

12 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:01:39 ID:ex.0V.UQ0
('A`)9m「イナッち!!」

((爪;'ー`)))ビクウッ!

('A`)「そうだイナッちだ! 稲荷フォックス!」

 そうだ、イナッちだ! 小中学校の頃の友達だ! 間違いないと思うんだけど、あっちはまだ困惑してるな。

爪;'ー`)「ええと……? た、確かに僕は稲荷フォックスだけど……?」
('A`)「オレオレ、埋田ドクオ! 中学まで一緒だった!」
爪'ー`)「えっ……? あ、ああー! ウッツン!?」

 よっしゃ! やっぱり合ってた!

13 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:02:13 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「いやー久しぶりだな! 元気してた?」
爪'ー`)「えっと、まあ、それなりに?」
('A`)「はは、変わんないな、その煮え切らない感じ」

 改めてイナッちの姿を見る……いや思った以上に変わらんな!? 優し気な細目、妙に色っぽい鼻筋、ほっそい肩幅。声も高いし。女みたいだ、ってよく揶揄われてたっけ。
 顔だけ見りゃイケメンなのに、ボサッとした髪とヨレヨレの服装が全てを台無しにしている。 ちゃんとすりゃモテそうなもんだが、この様子じゃ相変わらずモテないだろうな……。

爪'ー`)「これでも結構変わったつもりなんだけどね? ……見た目以外は」
('A`)「そうなのか。まあそうだよな、成人式の時も結局会わなかったもんな」

 うわ、よく考えたら都合10年くらい会ってないのか? 逆によく気付いたな俺。

14 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:02:46 ID:ex.0V.UQ0
爪'ー`)「10年くらい会ってないね。その割にウッツンも相変わらずな感じ」
('A`)「仕事以外は相変わらずだな」

 警官になったのも、刑事になったのも大きな転機ではあったな。 ……彼女いない歴ザムライなのは相変わらず。魔法使いの足音が聴こえる。

爪'ー`)「仕事かあ。僕はプログラマーやってるけど、ウッツンは?」
('A`)「警官やってんよ」
爪;'ー`)「えっ! マジ?」

 そういう反応になるよな。自分でも似合わないと思うもんよ。 でもなりたかったしな、なってみりゃ案外向いてた感じだし。

15 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:03:19 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「マジマジ。……ってか立ち話もなんだな。この後時間ある?」

 ちょうど飲みに行こうと思ってたとこだしな! イナッちさえ良ければ、どうせなら旧交を温めたい。

爪'ー`)「ん、一時間くらいだったら大丈夫かな……?」
('A`)「じゃあ飲み行こうぜ!」
爪'ー`)「いいよ。あ、でもちょっと待って。奥さんに連絡しないと」
('A`)「ああそうか、奥さんに――」




 (;'A`)「奥……さん……!?」



 ― ―― ―――

16 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:03:53 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/19】【Time: 19:30】【locate: CafeBar MORIMORI】


 爪'ー`)('A`)


(´・_ゝ・`)「いらっしゃ――おー、ほんとにイナッちだ」
爪'ー`)「あ、どう見てもモリモリだ。こんなとこでお店やってたんだね」

 モリモリ……盛岡デミタスも中学まで一緒だった。 たまたま再会したのは大学時代だったな。
 刀のように鋭く高い鼻、力強さを思わせる太い眉。イナッちとは対照的に男らしい顔だ。 その割に結構細身なんだよな、見比べてみると意外と身長体重大差ないかも?
 中学生の頃は、背の順で前の方と後ろの方だった二人。 やっぱ、変わらないってことはないんだな、と思わされる。

17 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:04:26 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「俺はいつもので。イナッち何飲む?」
爪'ー`)「爽やか系で何かオススメあるかな?」
(´・_ゝ・`)「うちのオリジナル、"モリモーリ"なんてどうかな?」
爪'ー`)「じゃあそれで」

 アレかー、確かに爽やかっちゃ爽やかだけど。 かなり好き嫌い別れるのに初手で勧めるんだもんなあ。

(´・_ゝ・`)「ほい、"カフェ・コン・セルベッサ"と……"モリモーリ"ね」
爪;'ー`)「……なあにこれぇ?」

 そのグラス、まさに森ッ! 地面を彩るキュウリの下草に、これでもかと突き刺さるパセリの木々。 パセリ駄目な人だったらどうすんだ? といつも思うけど、意外と外さないんだよなこの男。

18 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:05:00 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「んじゃ乾杯といこうぜ。ほいお疲れー」
爪'ー`)「あ、おつかれさまー」

 キーン、と意外なほど良い音が鳴った。 音を肴にまずは一口。……うん、コーヒーとビールの香ばしさが螺旋を描いて駆け抜ける。 そして、絡み合う2種の苦味がたまんないんだよなー。
 さて、モリモーリはどうなったかなと目をやると、恐る恐るグラスを傾けているのが見える。

('A`)「どうだ? イケる?」
爪'ー`)「……なんか悔しいな。おいしいね、これ」
(´・_ゝ・`)b グッ!

 見た目は完全にイロモノなんだけどな。 パセリ嫌いじゃなきゃイケる。はず。

19 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:05:33 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「さてさて、それじゃあ聞かせて貰おうじゃないの」
爪'ー`)「えー……改めてそう言われるとなんか恥ずかしいな」
('A`)「じゃっかあしい。だったら店着いてからとか言うんじゃないっての」

 何を隠そう、中学時代は非モテ同盟を結成してたからな、俺ら三人。 ……モリモリは今や割とモテるし、イナッちは結婚してるしで最早俺一人なんだけど。
 くそー、俺だって素直さんがいるもん! 脈なんか全然ないけどな!

(´・_ゝ・`)「とりあえず写真見たいな見たいなー」
('A`)「……なんだろう、見たいような見たくないような、フクザツな気分だ」
爪'ー`)「はいはい。これがうちの奥さんだよ」


 o川*゚ー゚)o

20 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:06:07 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……」
(´・_ゝ・`)「……」
爪'ー`)「……?」


 \(;'A`)/「「か、かわええ……!」」/(;´・_ゝ・`)\


爪'ー`)「ふふ、でしょー?」
('A`)「うわー、普通に想像超えて来たわ」
(´・_ゝ・`)「だねぇ」

 作り物みたいな美女……いや、美少女? どんぐりのようにパッチリした目、ちょこんと可愛らしくもしっかりと通った鼻筋、艶やかな唇。 ……つか何歳だこれ? 下手したら15くらいにも見えるが……?

21 :名無しさん [] :2024/04/25(木) 22:06:39 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「つか……犯罪?」
爪'ー`)「失礼な。こう見えて僕らの一個下だよ」
(´・_ゝ・`)「ほう……それはまた見事な合法ロり」

 o川*゚ー゚)o

 そう言われて改めて見ると……まあ、納得できなくはないか。 いやしかし可愛い。率直に羨ましい。

('A`)「って、ん……?」

 そうやってじろじろ見てるうちに、不思議な違和感を覚えた。 なんだろう、何とも言えない違和感が……?

22 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:07:12 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「まあそう気を落とすもんじゃないよウッツン」
爪'ー`)「あー……そのうち良い人見つかる、と思うよ? 僕もそうだったし」
('A`)「だと良いけどな……はぁ……」

 まあ根本的に、モテる努力をしてこなかった俺がいけないんだけどな。 モリモリが頑張ってモテを手にしたのは知ってるし。……イナッちは、してなそうだが。
 んーでも、人柄だろうな。ヒネた俺と違って昔から良い奴だもん、こいつ。 それをわかってくれる相手に巡り合えた、そういうことなんだろう。

('A`)「……とりあえず、こないだモリモリが紹介してくれた美容室行くかな」
(´・_ゝ・`)「やっぱりまだ行ってなかったんだ……」

 服屋とか美容室とか、苦手意識しかないから超しんどいんだよな……。 それを乗り越えたモリモリはやっぱすげーわ。

23 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:07:46 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「ところで奥さんの名前はなんていうんだい?」
爪'ー`)「キュート。ぴったりな名前だよね」
('A`)「どこで出会ったんだ?」
爪'ー`)「……仕事先で、ね」

 仕事……プログラマーって言ってたっけ? こんな可愛い子が登場しそうにないイメージだけどな……。

爪'ー`)「まあそれはよくって。それよりモリモリはどうなの?」
(´・_ゝ・`)「おっと、こっちに来た」
('A`)「こいつは血の滲むような努力の末オシャレマスターになったからな、モテるぞ」
爪'ー`)「確かに。オシャレとか全然わからないけど、髪型とか服とか凄くカッコイイね」

 職業柄もあるんだろうけど、変われば変わるもんだよなあ。

24 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:08:20 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「……実はね。そろそろプロポーズしようかと」
(;'A`)「何!?」
爪'ー`)「おー!」

 えっ、そこまで進展してたのか!? 今の彼女と付き合いだしたのって――

('A`)「――まだ3ヶ月じゃなかったっけ?」
(´・_ゝ・`)「そうだね。でも、期間じゃないんだ」

 そう言って微笑むモリモリは……なんだかちょっと、遠い世界の住人みたいだった。 くそー、やっぱ俺だけ完全に置いてかれてるなぁ……。

25 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:08:57 ID:ex.0V.UQ0
爪'ー`)「ねえ、僕も見せたんだからモリモリも見せてよ」
('A`)「おっ、そうだな。そうじゃないとスジが通らねぇ」
(´・_ゝ・`)「ん? いいよ、隠すようなことでもないし」


 ノパ⊿゚)


爪'ー`)「わ、可愛い。それに……なんか、イメージ通り」
('A`)「だよな。いかにもこいつの好みのタイプだ」

 モリモリは目元に拘りがあるのか、歴代彼女はどこか似た目つきをしてる。 俺は……どうなんだろうな? 容姿にそこまでの拘りはないと思う。

26 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:09:31 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「そろそろ、ウッツン改造計画に本気出さないとかな?」
('A`)「なんだそれ、どんな計画だよ」
(´・_ゝ・`)「こないだ言ってたでしょ、職場に気になる人いるって」

 言った。確かに言ったけども。 よく覚えてんなー、深夜2時でお互いベロンベロンだったのに。 ……いや、俺も覚えてる時点で不思議でも何でもないか。

爪'ー`)「どんな人どんな人?」
('A`)「……控えめに言って、完璧超人?」

 容姿も能力も性格も、ケチの付け所がないからなあ。 強いて弱点を挙げるなら、たまに真顔でギャグ言って滑るくらい?

27 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:10:04 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「そもそもフリーなんだっけ?」
('A`)「そう言ってた」
爪'ー`)「それ逆に、大丈夫な人なのかな……?」

 言わんとせんことはわかる。 特大の地雷が埋まってるかもしれないってことだろ?

('A`)「いない歴の俺が躊躇するような地雷って何だ?」
(´・_ゝ・`)「無敵の人理論きたわ」
爪'ー`)「実はとっかえひっかえ遊んでる、とか?」
('A`)「遊んで貰えるなら十分幸せだわ」
(´・_ゝ・`)「つよい」


 ― ―― ―――

28 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:10:37 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/19】【Time: 21:00】【locate: 府相成駅前】

('A`)ノシ「じゃあまたなーイナッち!」
爪'ー`)「うん、何かあったら誘ってよ。おやすみー」

 いやー旧交を温めるってのは良いもんだな。 路地裏大サーカスに巻き込まれた疲れも吹っ飛んだ感じ。

('A`)「……よし、明日も頑張ろ」

 刑事の仕事も色々大変だけど、頼れる先輩もいるし。 こうやって馬鹿話できる友達もいるから頑張れる、ってな。
 ……あとは彼女さえいれば順風満帆な人生、ってヤツなんだろうけど。


 ― ―― ―――

29 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:11:10 ID:ex.0V.UQ0
【Side: 稲荷フォックス】

爪'ー`)「ただいまー」
o川*^ー^)o「おかえりなさい!」
爪'ー`)「いやーごめんね遅くなって」
o川*゚ー゚)o「昔の友達と会ったならしょうがないってー」

 ウッツンもモリモリも、相変わらずだったなあ。 でも、ウッツンは昔より自信が着いた感じだったし、モリモリは何か凄くオシャレだったし……。 それと比べると、僕は全然成長してないなーと思う。

o川*゚ー゚)o「ん? どしたの?」
爪'ー`)「いや、何でもないよ」

30 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:11:44 ID:ex.0V.UQ0
o川*゚ー゚)o「あー、まーた後ろ向きなこと考えてるでしょ?」
爪'ー`)「あはは、バレバレか」
o川*゚ー゚)o「そりゃそうだよ、フォッくんのことなら何でも知ってるんだから!」

 まったく、かなわないな。 本当に僕なんかには勿体ない、素敵な奥さんだ。

o川*゚ー゚)o「だーいじょうぶ。フォッくんは、誰よりも素敵な旦那様だよ?」
爪'ー`)「……ありがとう。その言葉に負けないように頑張らないとね」
o川*^ー^)ノシ「よーし、頑張れー!」

 バシバシと背中を叩かれながら思う。 この幸せが、どこまでも続いていけばいいのにって。

31 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:12:17 ID:ex.0V.UQ0
【Side: 盛岡デミタス】

(´・_ゝ・`)「ふふ、イナッちも相変わらずだったな」

 店の片づけをしながら、久しぶりに会った友人を思い浮かべる。 いやしかし、先を越されてたのはびっくりしたね。
 まあ……僕はいっぱい寄り道しちゃったからな、先を越されても何もおかしくはないか。 ウッツンは相変わらず一歩も進めてないみたいだけどさ。

(´・_ゝ・`)「そして、今も最後の寄り道をしている……ってね」

 他人に理解して貰えるとは思っていない。 だけど……僕にとっては、必要な寄り道。

32 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:12:50 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「おっと、ヒートまだ起きてたのか。寝不足は体に毒だよ?」

 僕はこの仕事だから夜遅いけど、その分朝も遅いからね。 ヒートは朝早いんだから早く寝るように言ってるんだけど……いつも僕のおやすみメッセージを待っている。
 可愛い奴だよ本当に。 だから、申し訳ない気持ちはある。

(´・_ゝ・`)「おやすみ」

 君がこのことを知ったら……一体どんな顔をするんだろうね? 馬鹿なことを、と思うのか。ふざけるな、と思うのか。 ……あるいは、受け入れてくれることもあるのかな?
 ポケットから、彼女に渡すはずだったアクセサリーを取り出す。 未来であり、過去。過去であり、未来。
 金属の冷たい感触が、やけに心地よかった。

33 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:13:23 ID:ex.0V.UQ0












 #2 生長、とめどなく









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34 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:13:57 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 12:30】【locate: 府相成署 刑事課】

('A`)「――ってな感じで。いやー俺だけ独り身で肩身狭かったです」
川 ゚ -゚)「ふっ、楽しそうでよかったじゃないか。そういえば鈴木が――」

 弁当を食いながらそんな話をしていると、不意に電話が鳴った。 やべ、頬張ったばかりで出られない……と先輩に目で合図。先輩は少し肩を竦めて受話器を取った。

川 ゚ -゚)「はい、こちら強行犯係・素直です。……なんと。はい、はい……了解です。現場は――」

 どうやらこれは出動かな? 残った弁当を片付けて外出の準備を始める。

川 ゚ -゚)「埋田、出動だ」
('A`)「今回は何の事件ですか? 強盗? 恐喝?」

35 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:14:31 ID:ex.0V.UQ0












 川 ゚ -゚)「……殺しだ」









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36 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:15:05 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 13:00】【locate: 長岡宅 門前】

川 ゚ -゚)ゝ「係長」
(,,゚Д゚)ゝ「おう、来たか二人とも」
(;'A`)ゝ「あれ、係長? 今日は普通に休みだったはずじゃ?」

 我らが強行犯係の係長・猫野ギコ警部補。 強い男を顔面で体現した、と言わんばかりに精悍な顔つきで、プロレスラーみたいなガタイをしたバリバリの武闘派だ。 この間の中国拳法使いとの立ち合いは、マジで映画みたいだったな……。 今日は休みだったはずだけど……呼び出しを受けて来たにしては早すぎません?

(,,゚Д゚)「たまたま、男の叫び声を聞きつけてな」
川 ゚ -゚)「男? 被害者は女性と言っていませんでしたか?」
(,,゚Д゚)「第一発見者だ。被害者の旦那。今は自室で休んで貰ってる」

 それはまた……気の毒な。

37 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:15:38 ID:ex.0V.UQ0
(,,゚Д゚)「一旦、ざっと状況検分は済んでるが……埋田は殺しの現場は初めてだよな?」
(;'A`)「は、はい」
(,,゚Д゚)「もう一度、二人で検分してみろ。説明するより経験になる」

 係長はそう言うと、武術家らしいブレのない脚運びで門の中に入っていく。 俺達もそれに続いた。
 ふと横を見ると、プランターに植えられた色とりどりの花が目に映る。 花には詳しくないが、色こそ違えど全て同じ花みたいだ。
 ……凡そ殺人現場には似つかわしくない、賑やかな花々だった。




 ― ―― ―――

38 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:16:11 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 13:00】【locate: 長岡宅 玄関】

(;'A`)「うっ……」

 扉を潜ってすぐ、俺は立ち止まってしまった。 充満した血生臭い臭気。それもそうだろう、白い壁は飛び散った血でべったりと赤く染められている。 そして倒れ伏す人影。こちらもまた、頭部を中心に血の池を作っていた。
 これが、殺人現場……。

川 ゚ -゚)「大丈夫か?」
(;'A`)「は、はい」

 覚悟していた分ショックは小さい。 これ、発見した旦那さんは本当に気の毒だな……。
 そして顔色一つ変えない素直さん、流石だ。 初めてじゃないって言っても殺人現場なんてそう経験してないだろうに。

39 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:16:44 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「埋田、手袋をしろ」
(;'A`)「あっ、はい」
(,,゚Д゚)「わかってると思うが、鑑識係待ちだからあまり荒らすなよ?」
川 ゚ -゚)「はい、もちろんです。埋田、足元も気をつけろよ」

 遺体は玄関入ってすぐ、左側の扉の少し奥にある。 少し着衣の乱れた若い女性。生者なら眼福なところなのに、死体となるとこんなに嫌なもんか。
 開いたままの扉の中は、どうやらトイレのようだった。 特に血痕などもなく、素直さんも中を一瞥だけして遺体の傍に寄る。


 ミセ* ー )リ


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40 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:17:17 ID:ex.0V.UQ0
(;'A`)「うわ……」

 左の首筋に、パックリと開いた切り傷。恐らく、傍らに落ちているシースナイフによる一撃。 素人目――刑事は素人ではないが――殺人現場初心者の俺が見てもわかる。 これは、どう見ても致命傷だ。

川 ゚ -゚)「ふむ……鋭利な刃物で左の頸動脈を切断。恐らくはほぼ即死。ここまでは良いか?」
(;'A`)「はい」
川 ゚ -゚)「では、どういう状況からそこに至ったと思う?」

 そう言われて、大きな切り傷に吸い付けられていた目線を剥がす。 見ていくと、腕の外側にもそれなりの深さの切り傷があるな。 若干の着衣の乱れも踏まえて考えると――

(;'A`)「……恐らく、多少の揉み合いを経て殺害された?」

41 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:17:50 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「恐らくな。そして、殺害された位置とその時の被害者の向き、そして犯人の位置関係は?」
(;'A`)「血痕の様子から考えて、この位置に立った状態で、玄関の方を向いて……正面から殺された?」
川 ゚ -゚)「私も同じ見解だ。犯人が右利きなら、という但し書きが着くが」

 ただ、それって……?

(;'A`)「……不審人物とかなら、もっと逃げてそうですよね?」
川 ゚ -゚)「気付いたか。つまり、犯人は知人か……あるいは業者などの可能性もあるな」

 知人……一番に思い浮かべてしまうのは、第一発見者だけど……。 確かに第一発見者が犯人であることは多い、ってのは聞く。 でもなぁ……。

42 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:18:23 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「付け加えるなら、だ。犯人はプロではない」
(;'A`)「まあ、そうなりますか。不意を打っただろうに多少の抵抗はされちゃってますし……」
川 ゚ -゚)「そう考えると、そこまで深い信頼のある知人ではないのかな? というところも想像が立つ」

 ああ、そうか。確かにそうかもしれない。 例えば俺が、正面に立ったカーチャンに不意打ちで刺されたら、まともに抵抗できるとは思えない。 まさか攻撃されるとは思ってもみないからな。
 つまり、最も信頼しているであろう旦那さんが犯人である可能性は、低い。 ……なんか、その仮説だけでちょっと救われた気がしてしまう。
 いやもうさ、俺の頭の中で「玄関開けたらこの状況に出くわした可哀想な人」になっちゃってんだよな旦那さん。 あんまり先入観持つのはよくないとは思うんだが。

43 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:18:57 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「とまあ、こんなところですかね、係長?」
(,,゚Д゚)「流石だな、素直。殺しの現場2回目とは思えん」
(;'A`)「えぇ……マジですか?」

 やっぱこの人、意味わかんないくらい凄い。 2回目って何だ2回目って、どう見ても場数踏んだベテランだったんだけど……。

(,,゚Д゚)「被害者は長岡ミセリ、25歳。この家の専業主婦だ」

 25……俺より年下なのか。 割と新婚だったのかな……ますます旦那さんが気の毒になってくる。

(,,゚Д゚)「第一発見者である旦那の長岡ジョルジュには多少話を聞いたが、いまいち要領を得なかった。落ち着いてからもう一度話を聞く必要があるな」

 その時、表からサイレンの音が聞こえてきた。 鑑識係が到着したかな?

44 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:19:30 ID:ex.0V.UQ0
(,,゚Д゚)「……鑑識が入る前に一つ。素直、お前が見落としていた要素がある」
川 ゚ -゚)「それは……?」
(;'A`)「え、係長、何を……?」


 係長は、被害者の衣服を慎重に捲り上げた。


 本来さぞ煽情的であっただろうその腹部には、大小多数のあざが刻まれていた。


.

45 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:20:03 ID:ex.0V.UQ0
川;゚ -゚)「こ……れは……?」
(,,゚Д゚)「……恐らく、事件と直接的な関係はない」
(;'A`)「関係はないって……」

 じゃあ、どうしてこんな……ボコボコに殴られたみたいに。

川;゚ -゚)「……DV……?」
(;'A`)「えっ……?」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中の「可哀想な旦那さん」の幻像がガラガラと崩れ去った。

(,,゚Д゚)「……ナイフ持ってんのにこんな殴り合いをする必要はないからな」

 二人の間に深い信頼がなかったとするなら、それは……!

46 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:20:37 ID:ex.0V.UQ0
(,,゚Д゚)「だが、あんまり早合点はするなよ? 捜査に決めつけは禁物だ」
川 ゚ -゚)「そう、ですね。疑わしい条件に当て嵌まる、あくまでそれだけのこと」

 捜査に決めつけは禁物。係長の口癖だ。 実際先日のコンビニ強盗だって、ただの食い詰めと決めつけてたらヤバかったかもしれない。

(-_-)ゝ「ギコ警部補。鑑識係、小森巡査部長以下二名到着しました」
(,,゚Д゚)ゝ「来たか、よろしく頼む。ここは俺が仕切る、二人は付近の聞き込みを」
川 ゚ -゚)ゝ('A`)ゝ「「了解しました」」

 ミセ* ー )リ

 去り際にふと、先程はあまり目を向けなかった被害者の顔をちらっと見る。 ……生前は、あのプランターに咲く花みたいに可憐な人、だったのかな……そんな風に思った。


 ― ―― ―――

47 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:21:10 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 14:30】【locate: 長岡宅近辺】

川 ゚ -゚)「ご協力ありがとうございました。失礼します」

 聞き込みを始めてわずか10分。 いきなり有力な証言があった。

('A`)「運送業者の制服の男、ですか」
川 ゚ -゚)「付近に業務車両がなかったというのはいかにも怪しい」
('A`)「確かに不審ですね、車がないのは」

 運送業者の制服なら、扉を開けさせることも不可能ではないしな。 仮にそこで押し入ったんだとするなら、もっと抵抗が激しくなっていそうではあるが……。

48 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:21:44 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「身長170cmくらいで細身の男……ふむ」
('A`)「どうして男ってわかったんでしょうね?」
川 ゚ -゚)「良い着眼点だ。恐らく、身長や髪型の印象からの判断だろうな」
('A`)「あー……思い込みの可能性もある、と」

 まあそうだよな、知らん人のことなんて普通ジロジロ見ないし、見たって細かいことは忘れちまう。 どうしたって大雑把な印象になってしまうのは否めない。

川 ゚ -゚)「ただまあ、私が言うのもなんだが170cmある女はそう多くはない」
('A`)「それはそうですけどね」

 そういう意味では男である可能性は高い、それは間違いないか。 素直さんはどう見ても170超えてるけども。


 ― ―― ―――

49 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:22:17 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「ふむ、これがそうか」

 聞き込み開始から1時間ほど。もう一つ気になる証言があった。

('A`)「小型焼却炉……今はもう火が入ってなさそうですね」

 現場からそれほど離れていない資材置き場。 土日は基本的に使われていないらしいここで、小型焼却炉が稼働していたらしい。 隣人によると、さほど目立たないながらも煙が上がっていたとのこと。

川 ゚ -゚)「……とりあえず管理業者に連絡だな。後は鑑識係に引き継ごう」
('A`)「ですね。事件と関係があるかはわかんないですけど」

 あるとしたら、証拠隠滅。 とはいえ凶器は現場に落ちてたから、後は何だ? ……燃やされたのが作業着だったりしたら、運送業者のフリをした人間が犯人の可能性が俄然上がってくる。

50 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:22:50 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「――はい、ご協力ありがとうございます」
川 ゚ -゚)「では、後ほど鑑識担当者から改めてお電話差し上げます。はい、失礼します」
('A`)「やっぱり使ってなかった感じですか」

 ってかこんな資材置き場に置くには立派な焼却炉だな。 普段何燃やしてるんだろう?

('A`)「そういえば、消防法とか大丈夫なんですかね?」
川 ゚ -゚)「うちの県ではこのタイプは大丈夫……だったと思うぞ?」
('A`)「へー、そうなんですね」

 まあ、田舎のご家庭でよく見るドラム缶の延長みたいな奴じゃないしな。 結構良い値段しそうだし、業者もそれくらいは調べてるだろう。

51 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:23:24 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「さて、そろそろ時間だな。署に戻るとしよう」
('A`)「ですね。戻ったら事情聴取かぁ……」

 旦那さんと、訪れた野次馬の中の「身長170cmで細身の男」二名だったか。 んーでも、任意の事情聴取を素直に受けるってことは犯人ではなさそうか……? そうとも限らないか、普通に受けといて支離滅裂なこと言い出す恐喝犯とか結構いるし……。

川 ゚ -゚)「何をボーっとしてる、さっさと乗れ」
('A`)「あっ、はい!」

 急いで運転席に乗り込む。 いつの間にか、空には曇天が広がり初めていた。
 この事件の行く末を暗示するかのように。


 ― ―― ―――

52 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:24:06 ID:ex.0V.UQ0【side: 猫野ギコ】

(,,゚Д゚)「♪~」

 久々の休暇。嫁はサークルで息子は部活。 頼まれた家事は午前中で終わらせたし、午後は久々に道場で鍛錬するか~。 ウキウキ気分で自転車を走らせていると――

「う、うわああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
(;,,゚Д゚)「何だ!?」

 住宅街に響き渡る男の悲鳴。 咄嗟に自転車を止め、声の出所を探る。……あそこの家か? 門の中に駆け込む。

53 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:24:40 ID:ex.0V.UQ0 _(; ∀ )「……っ!」
(;,,゚Д゚)「大丈夫ですか!?」

 玄関の扉を開けたままへたり込む男。 彼の傍に駆け寄り、中を覗き込む。

(;,,゚Д゚)「これは……!?」

 中は、酷い有様だった。 倒れ込む女性。壁にべったり着いた血。 あの出血量では、恐らく……!

(;,,゚Д゚)「私は警察です。府相成署の猫野警部補といいます。あの女性の安否を確認させて頂いても?」 _(; ∀ )「けい……さつ……? 警察……!」

54 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:25:13 ID:ex.0V.UQ0 _(;゚∀゚)「た、頼む。あいつは……俺の嫁なんだ」
(;,,゚Д゚)「わかりました……! 失礼します!」

 血痕など踏まないよう慎重に近づき、安否確認をする。 ……予想はしていたが……これはもう……。

(;,,-Д-)「……残念ですが」 _(;゚∀゚)「なっ……!?」

 死後硬直が始まっている……蘇生の見込みはない。 本当に……残念だ……。 首の切り傷といい、傍らに落ちたナイフといい、着衣の乱れといい、これは――
 殺し、か。

55 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:25:47 ID:ex.0V.UQ0












 #3 やがて、花芽









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56 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:26:20 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 15:30】【locate: 府相成署 取調室前】

川 ゚ -゚)ゝ「係長」
(,,゚Д゚)ゝ「おう、丁度いいタイミング。まずは旦那の事情聴取だ、内容は基本お前らに任せる」
('A`)ゝ「了解です」

 役割分担は車の中で相談してある。 今回は俺がメインの尋問、素直さんは基本、調書の記録って分担だ。
 さて、旦那さん……長岡ジョルジュさんか。 DVクソ野郎疑惑は果たして……?

 ― ―― ―――

57 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:27:28 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 15:30】【locate: 府相成署 取調室】

('A`)「事情聴取を担当する埋田巡査部長です。こちらは――」
川 ゚ -゚)「素直巡査部長です」  _( ゚∀゚)「……おう」

 第一発見者・長岡ジョルジュは、草臥れたような声で返事をした。 なんというか……日本人離れした造詣のイケメンだな。目鼻立ちが素晴らしく整っている。 肉食獣を思わせるようなギラッとした目つきが特に印象的だ。

('A`)「長岡さん。長岡ジョルジュさんで間違いありませんね?」  _( ゚∀゚)「ああ」
('A`)「それでは早速ですが。事情聴取を開始させて頂きます」

 さて……どうなるかな?

58 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:28:01 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「まず、被害者は奥様で間違いありませんか」  _( ゚∀゚)「……おう」
('A`)「……心よりお悔やみを申し上げます」  _( ゚∀゚)「ああ……」
('A`)「現場で尋ねられたと思いますが、奥様のご遺体を発見した時のことについて、詳しく教えてください」  _( ゚∀゚)「……俺は、昼飯は大抵家で食うんだけどよ」
('A`)「はい」  _( ゚∀゚)「今日も……12時過ぎくらいか。家に帰ったわけだ」
('A`)「はい」  _(  ∀ )「そんで玄関の扉を開けて……そしたらあいつが……!」

 長岡は俯いて拳を震わせる。 怒り? 悲しみ? ……それはよくわからないが、強い感情を向けていることは確かだ。

59 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:28:34 ID:ex.0V.UQ0 _(; ∀ )「嫁が……ミセリが、血塗れで倒れてたんだッ!」 _(;゚∀゚)「何が何だかわからなかった……どうしてあんな……ッ!」
('A`)「……」 _(;゚∀゚)「それで、わけわかんなくなって大声上げちまって……そしたらイカツイ刑事が」

 発見は12時過ぎ、そのまま大声を挙げたなら……係長の話との矛盾はないな。 ここで気になることは――

('A`)「ドアのカギは、開いていましたか?」 _(;゚∀゚)「……えっ? ……あッ!? そうだ、鍵が開いてた! そういえばおかしいなと思ったんだ!」

 まあ、そのはずだ。 仮に鍵を締められる人間が犯人だったとしても、鍵を締めることにメリットはないからな。

60 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:29:08 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「他に何か気づいたことはありませんか?」  _(  ∀ )「……あいつだ」
('A`)「あいつ……?」  _(# ゚∀゚)「あんのストーカー野郎だ……ッ! あいつがやったんだッ!!」

 長岡は拳を震わせながら叫ぶ。 ストーカー野郎……本当にそんな奴がいたなら、犯人の可能性は高いな。

('A`)「その、ストーカー野郎と言うのは……? 犯人に心当たりがあるんですか?」  _(# ゚∀゚)「ああ゛!? 心当たりなんてもんじゃねえっ!!」

 酷く興奮してるな……これが演技なら大した役者だぜ。

61 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:29:41 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……」  _(  ∀ )「ふうっ、ふうっ」
('A`)「……落ち着きました? で、誰なんですかそいつは?」 _(;゚∀゚)「そ、それは……」

 えっ? そこで言い淀むの……?
  _( ゚∀゚)「……どこの誰なのかは知らねえ。けど、あいつが庭仕事をしてる時を狙って来てた、ストーカー野郎がいやがったんだ」
('A`)「ふむ……? それは奥さんがそう仰っていた、ということですか?」  _( ゚∀゚)「ああ。だが、それだけじゃねぇ。俺も一度だけそいつを見た」
('A`)「ほう……?」

 うーん……これは。 メインの証人が死人……信憑性は怪しいな。

62 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:30:14 ID:ex.0V.UQ0  _(# ゚∀゚)「あんにゃろう……ぶん殴ってやろうとしたんだが、逃げられちまった」
('A`)「その、ストーカーの背格好はわかりますか?」  _( ゚∀゚)「ン……俺より背は低かった、と思う。あと、かなりヒョロく見えたな」
('A`)「服装や髪型、あと顔の印象などは?」  _( ゚∀゚)「オフホワイトのジャージだったのは覚えてる。髪型は……ツーブロックだった、か? 顔は……鼻が長かった、と思う」

 ふむ……演技っぽくはない返答、だな。作り話にしては曖昧すぎる。 マジでそういうストーカーがいたのか……?

('A`)「オフホワイト……ブランドですか?」  _( ゚∀゚)「イタリアのブランドだ」

 そこだけ覚えてるの、すげーリアリティある。 装いからしてブランドものとか好きそうだし、興味あることは覚えてるもんだからな。

63 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:30:51 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……もし、そのストーカーが容疑者として挙がったとして。写真を見れば判別できますかね?」  _( ゚∀゚)「ん……自信ねーな、正直。男の顔なんて興味ねーし……」
('A`)「まあ……参考になれば十分なので、その時はよろしくお願いします」

 思ったより理性的、だな。わかるに決まってんだろ馬鹿にしてんのか、くらい言うかと思ったんだが。 正直、DVクソ野郎っぽさは薄れていくな……。

('A`)チラッ
川 ゚ -゚)コクッ

 ……聞きたいことは聞けた、の合図。 こっからは一番の核心であり……これの後では他の話は聞けない可能性もある。

64 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:31:24 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「ところで……奥さんのお腹のアザ。何かご存じですか?」  _( ゚∀゚)「あ……?」
('A`)「多数のアザが、奥さんのお腹に」  _( ゚∀゚)「……知らねえな。少なくとも昨日の夜にはなかったぜ。犯人がやったんじゃねぇのか?」

 ……打って変わって嘘っぽいなぁ。 思ったより冷静なのは変わらずだが。

('A`)「そう、ですか。……何か思い出したらいつでも言ってくださいね?」  _( ゚∀゚)「ああ」

 こいつはDVクソ野郎なのか? そうじゃないのか? ……クロ寄りのグレーってとこか。 そして長岡が犯人なのであれば、それはDVクソ野郎の延長線上であるはず……。

65 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:31:57 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「これは念のための確認なんですが……午前中は何をされていましたか?」  _( ゚∀゚)「あ? 仕事だよ仕事。外回りの営業だ」
('A`)「営業先はどちらでしょうか?」  _( ゚∀゚)「は? ……何だ、俺を疑ってんのか?」
('A`)「いいえ全く。明らかにそのストーカー野郎が犯人ですよね? でも、全ての可能性を検討するのが規則なんです」

 まあそんな規則ないけどな。うちの強行犯係のポリシーではある。

('A`)「正直聞くまでもないんですが、上司……さっき仰ってたイカツイ人ですけど。説明しないと物凄い叱責されるんですよ……俺を助けると思って、教えて貰えませんか?」

 埋田流奥義、社畜泣き落とし! これ、意外と効くんだよ……かなり相手は選ぶけど。 話してみて、こいつには効くんじゃないかなと思ったから……ここは仕掛ける。

66 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:32:34 ID:ex.0V.UQ0  _( ゚∀゚)「……パチ屋」
('A`)「は……?」  _( ゚∀゚)「昼まではずっとパチ屋にいたって言ってんだ。駅前のエクシード」

 おっと……これはマジっぽいやつきたな? さっき聞いた話だと、死亡推定時刻は午前10時過ぎ……パチ屋にいたウラが取れればアリバイが成立する。
  _( ゚∀゚)「……会社には言うなよ?」
('A`)「はい、もちろんです。助かります」


 ― ―― ―――

67 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:33:07 ID:ex.0V.UQ0












('A`)「えっ……?」









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68 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:33:41 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 16:30】【locate: 府相成署 取調室】

爪'ー`)

('A`)「……えっ、と。……イナッち?」
爪'ー`)「昨日ぶりだね」
('A`)「まさかイナッちだったとは……」

 言われてみれば確かに、身長170cm、細身の男……! でも、まさか野次馬に来てたなんてな。

('A`)「イナッちも野次馬とかするんだな」
爪;'ー`)「しなきゃよかったなーと思ってるとこ」

 そりゃそうだ、まさかの警察署にお呼ばれだからな。

69 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:34:15 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「それで……本当にただの野次馬だったのか?」
爪'ー`)「近所で事件があったら気になるでしょ」
('A`)「気になるのと見に行くのとは違う。意味もなく見に行くのは……いかにもイナッちらしくない」
爪'ー`)「……」

 そうなんだよ、らしくない。だから驚いた。 これがモリモリならそんなに驚かないんだけどな。

('A`)「被害者は長岡ミセリさん、なんだけど……知り合いか?」
爪'ー`)「……まあ、どうせ調べたらバレるだろうから言うけど。大学時代の元カノ」
('A`)「へぇー、大学時代の――なんですと?」

 えっ、元カノ……? えっ?

70 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:34:48 ID:ex.0V.UQ0
爪'ー`)「大学3年まで付き合ってたね」
('A`)「……なる、ほど。どうして別れたんだ?」
爪'ー`)「あっちの浮気。いやーあの時は荒れた荒れた」

 あっけらかんとした様は、それさえも良い思い出だと言わんばかりだ。 まあ、もう結婚してるしなあ……そんなもんなのかな、という気はする。

('A`)「念のために聞くけど……恨みとかは」
爪'ー`)「ないない、そもそもあれは僕が悪かったし」
('A`)「というと?」
爪'ー`)「いやー……初めてできた彼女だったから、さ。どうにも下半身ばっかになっちゃって……はは」

 うわ、生々しい……ってかイナッちも人並みに猿になったりするんだな……。 全然イメージなかったわ。

71 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:35:22 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「実は未練があったりだとかは……」
爪'ー`)「ないって。僕にはキュートがいるし」

 うーん、だよなぁ……相手は相手で旦那いるし。 とはいえそう簡単に割り切れないのが男女関係、ともよく聞くが……俺にはわからん世界。 そういや、被害者とキュートさん、顔の造詣似てたような……モリモリに劣らず顔に拘り勢か。

('A`)「旦那さんとは面識ある? 長岡ジョルジュさん」
爪'ー`)「ないよ。そもそも家を知ったのだってたまたまだし」
('A`)「そうだ、そういえばどうして元カノの結婚後の新居なんて知ってたんだ?」

 よく考えりゃおかしい話だ。結婚式に招待されたわけでもあるまいに。 ……いや、リア充の間ではそういったこともあると聞いたことはあるが。 わ、わからん……いない歴ザムライの俺には……!

72 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:35:55 ID:ex.0V.UQ0
爪'ー`)「や、ほんとにたまたま。家の前通りがかった時にバッタリと」
('A`)「そんなことある……?」

 これは俄然アヤシイ。まさかのダブル不倫……? え、マジ? この人畜無害そうな顔して……?

爪'ー`)「もー、そういう反応になると思ったから話したくなかったんだよ……」
('A`)「いやだってお前、そりゃそうなるよ」
爪'ー`)「嘘だったらもうちょっとそれらしい嘘つくよ。そこまで馬鹿に見える?」

 それは……まあ、そうかもしれないが。 さりとてなあ……まあ、それは一旦置いておくか。
 イナッちが犯人とは到底思えんが……もし不倫してたとするなら、事件に何か影響している可能性もある。

73 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:36:28 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「それは一旦置いとくか。今日の午前中何してたか聞いていいか?」
爪'ー`)「アリバイってやつ? 午前中は家にいたよ」
('A`)「それを証明できる人は?」
爪'ー`)「キュートも家にいた」

 ふむ……なるほど。 ただ、夫婦となると……アリバイとしての確度は低くなると言わざるを得ない。

('A`)「他に誰かと話したりしてないか? お隣さんとか」
爪'ー`)「あー……口裏合わせてるかもって? そういうことなら、今スマホ出せる?」

 スマホ……? 何だ? まあ出すけど……。

74 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:37:02 ID:ex.0V.UQ0~~~
o川*゚ー゚)o「こんにちはー、キューティーのズボラ―工房です!」
 ブイーン!
o川*゚ー゚)o「今日は、超簡単なズボラーマフィンを作っていきます!」
 ブイーン! ブブブブッ!
o川;*゚ー゚)o「ちょっとぉー、掃除機止めてー! 配信始まってるよー!」
 \あーごめんごめん!/
o川*゚ー゚)o「まったくもー、みんなごめんねー?」
o川*゚ー゚)o「それじゃあ気を取り直して」


.o川*^ー^)o「今日もやってくぞー! えい、えい、おー!」
 \えい、えい、おー!/
~~~

75 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:37:35 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……えーと」
爪'ー`)「これ、朝から生配信してたんだけど。証拠にならないかな?」
('A`)「あー……確かにイナッちの声も入ってたな……」

 なるほど……? 配信開始は……10:00か。 しかもこれ毎週土曜日やってんじゃん、アリバイ作りのためにでっち上げたってわけでもない。
 チャンネル登録者数は……なんだか微妙な感じだが。

('A`)「んーでも、これってリアルタイム性保証できるんだっけ?」
爪'ー`)「え、それは……そうだと思ってたけど。詳しくないからあんまり自信ないかも……」
('A`)「確か録画でもいけた気がすんだよなあ……なあ、コメント拾ったりはしてないのか?」
爪'ー`)「ん、ああ、最後の方でやってたと思うよ。気になるなら後で確認してみて」

 うーん、それなら十分アリバイになりそうだな。 まあイナッちを疑ってるわけでもないが……。

76 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:38:09 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「そういえば……被害者はストーカーされてたって話なんだけど」
爪'ー`)「えっ、そうなの?」
('A`)「何か誤解されるような行動を取ってたってことはないか?」
爪'ー`)「いや、誤解されるも何も……会ったのは家の前でバッタリした一度きりだよ、そもそもあの辺そんなに通らないし」
('A`)「そのバッタリした時、旦那に殴られそうになったりはしなかったか?」
爪'ー`)「別にそんなことはなかったけど……ちょっとだけ話してすぐ別れたし」

 んー……これは旦那に写真見せてみればわかる気がするし、こんなもんでいいか。 あとは何か聞いとくことあるか? むぅ……不倫疑惑は完全には拭えずか……。


 ― ―― ―――

77 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:38:43 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/20】【Time: 17:30】【locate: 府相成署 取調室】

(´・_ゝ・`)

('A`)「うん、なんとなくそんな気はしてた」
(´・_ゝ・`)「なんだいそれ?」

 身長170cm、細身の男……! しかもこっちはいかにも野次馬してそう! 現時点で疑わしい3人のうち2人が昨日会った友達って……そんなことある?

('A`)「野次馬とか好きだよな、モリモリ」
(´・_ゝ・`)「否定はしないけど……今回はちょっと違うんだよね」

 む……?

78 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:39:16 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「被害者、ミセリなんでしょ?」
('A`)「……知り合いだったのか?」
(´・_ゝ・`)「所謂元カノってやつだね」
('A`)「そうか、元――何だって?」

 今、元カノって言ったか? 聞き間違いか? 嘘だろ、そんなことあるか?

(´・_ゝ・`)「元カノ。高校の頃だけど」
('A`)「えぇー……お前もかよ」
(;´・_ゝ・`)「えっ、ウッツンもミセリと付き合ってたの!?」
(#'A`)「俺じゃねーよ! イナッちだよ!」

 俺はいない歴だって言ってんだろーが!

79 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:39:50 ID:ex.0V.UQ0
(;´・_ゝ・`)「えぇーイナッちが? それはそれで意外だ……」
('A`)「……それで。モリモリはどうして別れたんだ?」
(´・_ゝ・`)「あっちの浮気で」
(;'A`)「浮気症か故人は……?」

 また浮気かよ。 こりゃ今も浮気してても何もおかしく……む、そうなると……。
 そうなると、イナッちかモリモリが浮気してたって可能性も……無視はできないな。 友達は信じたいが、それとこれとは別だ。 あ、そういやヒートさんも被害者と目元が似てたかも……イナッちといい好み全開だな……。

(´・_ゝ・`)「あー……イナッちも浮気で別れたんだ?」
('A`)「らしい」
(´・_ゝ・`)「ミセリらしいっちゃらしい……」

 らしいのか……。

80 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:40:24 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「未練とか恨みとか、そういうのは」
(´・_ゝ・`)「なーんにも。何なら恋の相談に乗ったりもしてたし」
('A`)「ん……? え、別れた後普通に友達やってた感じ? 今も?」
(´・_ゝ・`)「そうだね。恋の相談のどれかはイナッちだったりしたのかな?」

 こ、こいつの感覚が俺にはわからん……俺だったら仄かな未練を持ち続けちまう気がする。 いや、確かにモリモリらしい……らしいんだが……。

(´・_ゝ・`)「僕もファッションの相談とかしてたしね。最近はないけど」
('A`)「うーむ。俺にはわからん世界だ。つか彼女怒んないのか?」
(´・_ゝ・`)「それで別れたこともあったね」
('A`)「えぇ……?」

 彼女より女友達優先してるようにしか思えないんだが……本当に大丈夫なのかそれ?

81 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:40:57 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……まさかストーカーってモリモリじゃないだろうな?」
(´・_ゝ・`)「ストーカー?」
('A`)「旦那が言ってたんだよ、被害者が庭仕事してるときに会いに来る男がいるって」
(´・_ゝ・`)「あ。それ僕だ」
('A`)


(#'A`)「……てめーなのかよぉぉぉぉ!?」


 いやもう、何なの!? こいつの恋愛観念マジでわかんない!

82 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:41:31 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「へぇ……ストーカーねぇ。旦那さんの中ではそういう話になってるのか」
('A`)「そういう話も何も、より一層タチ悪い気がするんだが……?」
(´・_ゝ・`)「いや、実際ヒートと付き合い始めてからは連絡絶ってたんだよ」
('A`)「あん? さっきと言ってること違わね?」

 俺の頭は限界だよ、ちょっとは手加減してくれ。

(´・_ゝ・`)「言ったでしょ、期間じゃないって。それくらい大切に想えるのは初めてなんだよ」
('A`)「うーん……一定の理解はできる。でも、ならどうして通い妻みたいな真似を?」
(´・_ゝ・`)「……ちょっと、ただ事じゃない相談受けちゃって」
('A`)「むっ……? それはまさか……」
(´・_ゝ・`)「旦那のDVがヤバい、って」

 そう、来たかぁ……。

83 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:42:04 ID:ex.0V.UQ0
(´・_ゝ・`)「しかもわざわざ実家の家電から。ただ事じゃないでしょ?」
('A`)「それは……旦那が家電や携帯の履歴を監視してるってことか?」

 むぅ……だから直接会いに行っていた? 一応、筋は通ってるが……。

(´・_ゝ・`)「まあ、話は毎回堂々巡りだったんだけど。僕が警察に行けって言って、あっちがそれはできないって答える」
('A`)「あのー、それってあちらさんは何がしたかったんですかね……?」
(´・_ゝ・`)「さあ、ね。誰かに聞いて欲しかっただけなのかもしれないし……あるいは、攫ってでも欲しかったのかも? ……自分で現状を変える勇気がないから」

 それは……なるほど。わからなくもない話だ。 しっかし、聞くだに凄いな二人の奇妙な絆……ほんと別世界って感じ。

84 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:42:37 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……一旦、話はわかった。その上で……何か思い当たることはないか?」
(´・_ゝ・`)「最近のミセリの様子とか、犯人らしき人とか? うーん……ミセリは、いつも通りだったと思う」
('A`)「ふむ」
(´・_ゝ・`)「犯人については……僕の立場では、旦那がついに一線超えちゃったようにしか見えないね」

 飄々としたモリモリが珍しく負の感情で顔を歪める。これは怒り……いや、嫌悪? ……まあ、そんだけ特別な絆があった友達(?)が暴力振るわれて、殺されて、だもんな。
 ただなあ……どこまで本当なのか。 実は普通に浮気してましたって可能性も、全く否定はできないんだよな。
 ストーカーの件についてはこいつだとして。 そうなると、犯人は一体……? まさかとは思うが――

85 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:43:10 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……午前中、何してた?」
(´・_ゝ・`)「家で映画見てたけど」
('A`)「誰かと会ったりは、しなかったか?」

 もし、モリモリにアリバイがないと……俄然怪しくなってきてしまう。 頼むから、誰かと会っててくれ……!

(´・_ゝ・`)「アリバイかあ……誰かに会ったといえば、お隣に回覧板届けたくらいかな」
('A`)「! それは、何時ごろ?」
(´・_ゝ・`)「そうだね……10時よりは前だったかな? たぶん」

 おお……! いや、まだ何とも言えんな……それが9時とかだったなら、何のアリバイにもならない。 これは、隣人に話を聞く必要がありそうだ。


 ― ―― ―――

86 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:43:44 ID:ex.0V.UQ0












 #4 蕾、それはまだ









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87 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:44:18 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/21】【Time: 9:00】【locate: 府相成署 刑事課】

川 ゚ -゚)「では、今日の行き先はパチ屋、稲荷宅、盛岡宅のお隣だな」
('A`)「はい。それぞれのアリバイを示す証人を当たる形ですね」
川 ゚ -゚)「今のところ、三人ともシロ、というのも全然あり得るな」
('A`)「というか、その可能性が高くないですか? 誰かしらアリバイが駄目だったら若干疑わしいですけど」

 イナッちもモリモリも怪しいこと言ってたけど、いずれも浮気に関してアヤシイだけだもんな。 アリバイが崩れたから即犯人、とはならない。 旦那さんもそこは同じ、疑わしさで言えば割とイーブンな状態。

川 ゚ -゚)「さて、どうだろうな……私的には盛岡の話は創作に聞こえたが」
('A`)「あー……割と独創的な奴なんで、はい。俺はどっちかというとイナッちの話の方が……」

 バッタリ、の方が胡散臭く感じてはいる。 ただ、モリモリの話は盛り盛りすぎて麻痺してるだけの可能性も……。

88 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:44:51 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「……色々考えるのは、ひとまずアリバイを洗ってからだな」
('A`)「ですね」

 そこが見えなきゃとやかく考えてもしょうがないもんな。 できればこれで二人の疑いが晴れてくれるといいが……。





 ― ―― ―――

89 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:45:24 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/21】【Time: 9:00】【locate: パチンコ・スロット エクシード】

(;゜3゜)「私が店長の田中です」
川 ゚ -゚)「どうも、府相成署の素直巡査部長です。早速ですみませんが、こちらの男性に見覚えはありませんか?」
(゜3゜)「あっ、この人。常連さんですね」
川 ゚ -゚)「昨日の午前中、来店していたかわかりますか?」
(゜3゜)「昨日の午前中……うーん、見かけたような気はしますが……」
川 ゚ -゚)「すみませんが、防犯カメラの映像を確認させて頂いても?」

 店長はどうやら、旦那さんの顔に見覚えがあるようだ。 記憶があいまいなのであれば、ちょっと時間ははかかるがしょうがない。


 ― ―― ―――

90 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:45:58 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/21】【Time: 10:00】【locate: パチンコ・スロット エクシード】

川 ゚ -゚)「……いたな、それらしい人物」
('A`)「はい。顔は良く見えませんが、髪型や背格好は一致してますね」

 恐らく、旦那さんで間違いないだろう。 開店から昼前まで……ってかサボりすぎじゃね?

川 ゚ -゚)「素行の悪さは気になるが……アリバイとしては成立か」
('A`)「うーん……」

 それだけサボれるだけ有能、ってことなのかもしれないな。 金に困っている様子はなかったし。

91 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:46:32 ID:ex.0V.UQ0
(゜3゜)「いかがでしたか?」
川 ゚ -゚)「ありがとうございます、貴重な証拠が得られました」
(゜3゜)「それはよかった。……あの、何かしたんですかあの方?」
川 ゚ -゚)「いや、どちらかというと被害者側です。プライバシーもありますので、あまり吹聴しないで頂けると」
(゜3゜)「ああ、そうなんですね。もちろん、無暗に言いふらしはしません」

 どちらかというと、ね。 少なくとも殺人に関しては、シロである可能性が高まった。
 ……被害者が亡くなってる以上、DVについては真実であっても立件難しいだろうしなぁ。


 ― ―― ―――

92 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:47:05 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/21】【Time: 11:00】【locate: 稲荷宅前】

('A`)「……」

 イナッちが事情聴取を受けたことで、奥さんがナーバスになってる……とのことで、男の俺は車で留守番だ。 旦那のイナッちがいりゃよかったんだろうが、急なシステムトラブルじゃ仕方ない。
 聞き込みの内容も先輩なら心配いらないしな。 これが後輩だったら、流石に俺も着いて行ったかもしれない。
 ……しかし、遠目にチラッと見ただけだが本物も可愛かったな。 可愛い嫁さんいて羨ましいよほんと。

93 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:47:38 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「あっ、戻ってきた」
川 ゚ -゚)「戻ったぞ」
('A`)「どうでした?」
川 ゚ -゚)「ふむ……確かに配信はこの家で撮影されたようだし、証言にも事前情報との矛盾はなかった」

 なるほど、それならイナッちが犯人である可能性もかなり低くなるな。 ホッと胸を撫でおろす。

川 ゚ -゚)「ただ、彼女。メンタルが弱いのか? 昨晩風邪をひいて喉がやられたとか」
('A`)「あらら、確かにマスクしてましたね。ストレスが体に出るタイプなのかな?」

 そりゃイナッちもできれば女性の人にって言うよな。 本当は傍にいてやりたかったろうに、勤め人の宿命か。

94 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:48:12 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「背丈も小さいし、守ってやりたくなるタイプというやつか」
('A`)「いや、先輩から見れば大体小さいでしょ……意外と160くらいはありそうに見えましたけどね」

 まあ、先輩とは対極のタイプであろうことは確かだな。 先輩を守ってやりたいとか、お前はシュワちゃんかってレベルだもん。

川 ゚ -゚)「ああ、そういえば。彼、被害者との関係について話したみたいだぞ」
('A`)「えっ?」
川 ゚ -゚)「それもあって余計ショックだったのかもな」

 あー……まあ、元カノの現住所知ってるのはちょっと……うん。 何かあるんじゃないかって思うよな。俺だってそう思う。そんな相手はいないけど……。


 ― ―― ―――

95 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:48:45 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/21】【Time: 12:00】【locate: 盛岡宅前】

('A`)「アパートでも回覧板ってあるもんなんですね」
川 ゚ -゚)「ん? まあ、確かに珍しい気はするな」

 各部屋回すの大変だろうにな。 案外、誰も何も言わなかったら続いてるもんなのかもしれない。

('A`)「お隣は関ヶ原さん、でしたっけ」
川 ゚ -゚)「だったな。伝言したとはいえ、在宅だといいが」

 呼び鈴を鳴らすと、すぐに男の声が返答してきた。

96 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:49:18 ID:ex.0V.UQ0
「はい、どなたでしょう?」
川 ゚ -゚)「府相成署の素直巡査部長です。捜査の関係で少しお話を伺いたく」
「あっ、はい。ちょ、ちょっと待ってください」

 待つこと暫し、扉が開いた。

(;"ゞ)

川 ゚ -゚)「刑事課の素直巡査部長です」
('A`)「同じく、埋田巡査部長です」
(;"ゞ)「ど、どうも。関ヶ原です」

 目つきが特徴的な若い男だ。 急に刑事が来たからか動揺の色が濃かった。 ……モリモリには伝えとくように言ったんだけどな。

97 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:49:52 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「もしかして、盛岡さんからお話伺ってませんか?」
(;"ゞ)「いえ、聞いてましたけど……刑事の人と話すなんて初めてなので」

 真面目で小心なタイプなのかな、と感じる。 少なくとも、下手な嘘をついたりはしなさそうだ。

川 ゚ -゚)「では、お伺いしますが。昨日、盛岡さんから回覧板を受け取ったのは間違いありませんか?」
(;"ゞ)「ええ、はい。確かに受け取りました」
川 ゚ -゚)「できるだけ正確な時間を教えて頂きたいです」
(;"ゞ)「10時10分くらいだったと思います。テレビの番組が始まって少ししたくらいだったので……」

 ……ふむ、そうなると。 モリモリのアリバイも概ね問題なさそうに思えるな。 ここから現場までは車なら10分かからないが、モリモリは車持ってないからな。

98 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:50:25 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……ちなみにですが、盛岡さん。最近変わった様子とかありました」
( "ゞ)「いえ、特には……そもそもたまに挨拶する程度なので」

 んーまあ、ただの隣人だしそんなもんか。 口裏合わせとかしてる可能性は……正直低いな。

川 ゚ -゚)「ではもう一つ。付近に見慣れない車が停まっていたりはしませんでしたか?」

 む、レンタカーとか疑ってる感じかな? ……後で照会だけはかけておくべきだろうな。

( "ゞ)「見慣れない車……いえ、覚えがないです。盛岡さんがたまに乗ってる――たぶんレンタカーですかね? それもなかったです」

 ふむ、なるほど。

99 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:50:58 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「ご協力ありがとうございます、大変助かりました」
( "ゞ)「あ、いえ、とんでもないです」

 頭を下げてその場を後にする。 これで三人のアリバイのウラは取れたわけだが……?


 ― ―― ―――

100 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:51:32 ID:ex.0V.UQ0
【side: 三瀬ミセリ】

ミセ*゚ー゚)リ「ねえ****、今日が何の日か知ってる?」
(  )「」
ミセ*^ー^)リ「わ、よく知ってたね! そう、オレンジデー! だからはい、これ!」
(  )「」
ミセ*゚ー゚)リ「ふふー、どういたしまして。……えっ、嘘、****も用意してくれたの!?」
ミセ*^ー^)リ「ありがとー! 大好きッ!」
(  )「」
ミセ*゚ー゚)リ「ねえねえ、開けていい? 開けていい?」
(  )「」
ミセ*^ー^)リ「それじゃあ……わっ、ガーベラのクッキー!」

101 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:52:05 ID:ex.0V.UQ0
ミセ*゚ー゚)リ「私の好きな花だし、4月18日はガーベラ記念日だから時期柄もいいね! 流石は****!」
(  )「」
ミセ*^ー^)リ「ふふー、私の方はオレンジデーに因んでオレンジのケーキ! おいしそうでしょ?」
(  )「」
ミセ*゚ー゚)リ「えー、そんなことないよ? 作るの楽しいし、結構横着してるから」
(  )「」
ミセ*゚ー゚)リ「ね、紅茶淹れるから待ってて。一緒に食べよ? ……ん? 何?」
(  )「――、ミセリ」
ミセ*^ー^)リ「……うん、私も大好きだよ、****!」

102 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:52:38 ID:ex.0V.UQ0
【side: 長岡ジョルジュ】
  _( ゚∀゚)「くそ、まさかあの書類置き忘れるとはなー」

 昨日寝る前に確認してた書類を家に忘れたことに気付き、一時帰宅する。 別に明日でもいいじゃねーかと思うんだが、上司に言われちゃ仕方ねえ。
 駐車場に車を停めて家の近くまで歩くと、何やら話し声が聞こえた。 何を言ってるかはよくわからないが、片方は男の声。 そしてもう片方は……俺の嫁の声だった。
  _( ゚∀゚)「何かの勧誘でも来てやがんのか?」

 もしそうなら叩き出してやる、そう思って門を潜ると。 嫁と至近距離で向かい合って立つ、オフホワイトのジャージの男がいやがった。

103 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:53:12 ID:ex.0V.UQ0  _( ゚∀゚)「おい、誰だテメェ?」
(´・_ゝ・`)「おっと……」
ミセ;*゚ー゚)リ「じょ、ジョルくん?」

 まさかとは思うが、浮気か……? いや、ミセリはそんなことできる女じゃねぇ。ちゃんと躾もしてる。
 販売員の服装でもねぇ。 ってことは――
  _(# ゚∀゚)「おい、何黙ってんだよ。ぶっ殺すぞ!」
(;´・_ゝ・`)「うわっと!?」

 俺が掴みかかると、男は身をかわしやがった! そして、俺の脇をすり抜けるようにして逃げていく!

104 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:53:45 ID:ex.0V.UQ0  _(# ゚∀゚)「おい、待ちやがれ! 人の嫁に手ぇ出してタダで済むと思ってんのか!?」

 間違いねえ……こいつストーカーだ! 俺の嫁に手ぇ出そうとするとんでもねえ野郎だ! くそっ、逃げ足がはええ! 走っても追いつけるか?

ミセ;*゚ー゚)リ「ジョルくん、やめて! 私は大丈夫だから!」  _(# ゚∀゚)「……そうか。で、誰なんだあいつは?」
ミセ;*゚ー゚)リ「えっと、その……」  _(# ゚∀゚)「ストーカーだろ? 違うか?」

 こいつには嫌というほど教えてるからな、俺に逆らったらどうなるか。 浮気なんざできるわけがねぇ。なら、ストーカー以外ない。

105 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:54:21 ID:ex.0V.UQ0
ミセ;*゚ー゚)リ「えっと、その……ストーカー、かな?」  _(# ゚∀゚)「で、いつからウロチョロしてやがんだあいつは」
ミセ;*゚ー゚)リ「えと……ここ一ヶ月くらい。庭にいる時に声をかけてくるの」  _(# ゚∀゚)「何てクソ野郎だ……! 俺の嫁に……!」
ミセ;*゚ー゚)リ「……」

 絶対許さねぇ! 次見つけたらぶっ飛ばす! 二度とちょっかいかけようと思わないようにしてやる……!

ミセ* ー )リ「どの口が……」  _(# ゚∀゚)「あ? 何か言ったか?」
ミセ*゚ー゚)リ「……ううん、なんでもないよ」

106 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:54:54 ID:ex.0V.UQ0












 #5 そして、開花









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107 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:55:27 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/21】【Time: 14:00】【locate: 府相成署 刑事課】

川 ゚ -゚)「さて、ここまでの情報を整理するとしようか」
('A`)「そうですね」
川 ゚ -゚)「まずは鑑識係の調査結果を含めた事件のあらまし」

 4/20 12:00頃、長岡ミセリ(25)が自宅廊下にて亡くなっているのが発見される。 被害者は入口すぐのトイレより少し先の位置に仰向けで倒れていた。 第一発見者は夫の長岡ジョルジュ(26)。 発見後すぐ、付近にいた警察官(猫野警部補)がジョルジュの悲鳴を聞き駆け付ける。
 *死因は左の首筋を斬りつけられ頸動脈を損傷したことによる出血性ショック死。* 現場の状況や防御創から、軽い揉み合いを経て殺害されたと見られる。 腹部の打撲痕は、犯人がナイフを所持していたことなどから、事件発生時に受けたものではないと推定される。 *凶器は現場に落ちていたキャンプ用のシースナイフ。指紋は検出されず。* *また、遺体の下にはガーベラの意匠のブローチが落ちていた。被害者のものか、長岡氏は判別できず。*
 *死亡推定時刻は4/20 10:00。* 少し前に、近隣住民が運送会社の作業着を着た不審な男を目撃している。 また、10:00~12:00の間と思われるが、現場付近の小型焼却炉が何者かにより稼働。 *残留物から、運送業者のバッチと思われるものが発見された。*
* 鑑識情報

108 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:56:00 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「ブローチ……ガーベラってどんな花でしたっけ?」
川 ゚ -゚)「庭のプランターに花が咲いてただろう? あれだ」
('A`)「ふむ……であれば、被害者のものである可能性が高いですかね?」
川 ゚ -゚)「恐らくな。男が着けるようなものでもないし」
('A`)「……逆に、実は女性が犯人ってことはないですかね? 旦那さん結構モテそうだし」

 本妻が愛人に刺された、なんていかにもありそうな話だ。 結構なイケメンだから、その気があれば愛人くらい作れそうに思うし。

川 ゚ -゚)「ふむ……詳細は後で話すが、女、という可能性は私の考えにもあった」
('A`)「へえ……?」

 マジか、俺は今の今まで犯人は男だとばかり……"捜査に決めつけは禁物!" 油断するとすぐ決めつけがちになるから、ほんと気を付けないと。

109 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:56:33 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「焼かれてたのはやっぱり作業着っぽいですね」
川 ゚ -゚)「そのようだ。明らかに不審な行動であるし、長岡氏が犯人である可能性は薄まったな」
('A`)「それを見越して偽装工作、とかするタイプでもなさそうですしね」
川 ゚ -゚)「長岡氏が行う偽装工作としては、リスクとリターンが釣り合わないように思う」

 特にリターンが小さすぎるよな、旦那さんがやっても時間稼ぎ程度にしかならん。 外部犯だからこそやる意義のある行動だ。

('A`)「うーん、作業着焼かれてなきゃ何かしらわかったかもしれないのに」
川 ゚ -゚)「焼かれてしまったものは仕方ない。焼却炉を誰でも使える状態で置いていた業者に腹は立つが」

 それはほんとそう。 せめて鍵でもかけとくとか、燃料抜いとくとかさあ……。

110 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:57:07 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「次は、人物について見ていくとしよう。まずは被害者」

ミセ*゚ー゚)リ
長岡ミセリ(25)専業主婦
夫   ⇒( ゚∀゚)長岡ジョルジュ元カレ⇒爪'ー`)稲荷フォックス友人 ⇒(´・_ゝ・`)盛岡デミタス
・ストーカーがいる   >長岡談・DVを受けている   >盛岡談・相手の浮気で別れた>稲荷、盛岡談

111 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:57:40 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「んー……恋多き女、ってことでいいんですかね?」
川 ゚ -゚)「間違ってはいないだろう」
('A`)「全員違うタイプの男だし……節操なし?」
川 ゚ -゚)「否定はできないな」
('A`)「これ、浮気してない方が違和感ありません?」
川 ゚ -゚)「まあ、うん」

 んー……やっぱ二人のうちどっちかとデキてるのか? ただ、そうだとして……殺人の動機にどう繋がるんだ?

('A`)「あと被害者について気になるのは……お腹のアザですか」
川 ゚ -゚)「十中八九DVだな。それ以外なら、旦那が隠す理由がない」

 まあ、そうなるんだよな。「昨日の夜にはなかった」とまで言ってるんだから。 これが数日前とかなら、他の人間にやられた可能性もあったのに。

112 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:58:14 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「じゃあ、次は流れで旦那だな」
  _( ゚∀゚)
長岡ジョルジュ(26)会社員(営業)
妻   ⇒ミセ*゚ー゚)リ長岡ミセリ他人 ⇒爪'ー`)稲荷フォックス敵対 ⇒(´・_ゝ・`)盛岡デミタス
・昼食は基本家で採る、事件当日も12時過ぎに帰宅し、妻の遺体を発見・パチンコ屋でサボる癖がある、事件当日は10~12時パチンコ屋にいた・庭で妻のストーカーを目撃し、殴りかかろうとしたが逃げられた・DVの疑惑は否定している。曰く、「昨日の夜にはなかった」

113 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:58:47 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「アリバイはほぼ完璧ですね」
川 ゚ -゚)「まあ、本気で準備すれば騙せそうな気はするがな」
('A`)「えぇ……? できると思います? 旦那のあの感じで」

 実際、体格の近い役者でも雇えばできなくはないよな。 よっぽど弱みでも握ってなきゃすぐ裏切られるだろうけど。 衝動性の高い旦那さんがそこまで計画的な動きをするイメージは、正直あまりない。

川 ゚ -゚)「可能性は限りなく低いだろうな」
('A`)「はい、そう思います」

 あと考えられるのは、死亡推定時刻の誤魔化し? ……猶更考えにくいな。

114 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:59:21 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「やっぱり気になるのはDV話」
川 ゚ -゚)「……逆に考えてみるか。仮にDVではなかったとしたら、何なのか?」

 なるほど……? それは、考えてみる価値があるかもしれない。

('A`)「前日にはなかったんですから、当日ついたってことですよね。……実は犯人と格闘戦していた?」
川 ゚ -゚)「物理的には1ミリくらいは可能性あるな」
('A`)「あとは……あっ。事件より前に、誰かにやられた……とか」
川 ゚ -゚)「1ミリ」

 うーん。やっぱ他の理由なんて考えづらいよな。 ……ん? 待てよ……?

115 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 22:59:54 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……プレイ」
川 ゚ -゚)「……何て?」
('A`)「SMプレイ、とか……」
川 ゚ -゚)「それは……ありえるかもしれない」

 ありえるかもしれないんだ??

川 ゚ -゚)「仮に盛岡の言う被害者像が真実だとすると、被害者は多分ドMだ」
('A`)「あの、真面目な顔でドMとか言われるとなんというか、その……」
川 ゚ -゚)「で、旦那はDVを疑われるくらいサドッ気がありそうとくれば。……これは最早プレイなのでは?」

 う、うーん……。 なくはない……のかなあ?

116 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:00:27 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「あとは……不倫してる前提で、当日ついに我慢できずにSMプレイを……とか?」
川 ゚ -゚)「……あの二人がイカレたサディストなら筋は通るが、到底そうは見えんな」

 だよなぁ……その仮定だと当日まで何もなかったのもよくわからんし。 そんな日にたまたま殺されるってのもますます考え難く、となると"初のSMプレイでナイフを持ち込む異常者"、ということに。 人の心の中なんてわからないとはいえ……うーん。

('A`)「……いや、あの二人以外ならどうですか? 野次馬に来ていなかった、という可能性は」
川 ゚ -゚)「当然ある。ただ、その場合はそもそも被害者と妙な関係を築いている人間がもう一人いることになるが」
('A`)「いてもおかしくない気はしますけどね……」

 なんか……不思議な縁を持ってるよな、被害者。 それだけ魅力的な人だった、ってことなんだろうか?

117 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:01:42 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「次、野次馬1」

爪'ー`)
稲荷フォックス(27)会社員(プログラマー)
妻   ⇒o川*゚ー゚)o稲荷キュート元カノ⇒ミセ*゚ー゚)リ長岡ミセリ他人 ⇒( ゚∀゚)長岡ジョルジュ友人 ⇒(´・_ゝ・`)盛岡デミタス
・被害者とは大学3年まで付き合っていた・別れた理由は「あっちの浮気」・別れてから被害者と会ったのは一度きり、被害者宅前でバッタリ・恨みや未練はなく、単に知人の家で事件があって気になったので見に来た・事件当日の10:00~12:00は自宅にいた、キュートの生配信で10:00、10:30に声が入っている

118 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:02:15 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「やっぱ、家の前でバッタリってのはどうにも納得いきませんね」
川 ゚ -゚)「そうだな。まあ、ありえないとまでは言わんが……」
('A`)「ただ、嘘つくならもうちょいマシな嘘つくってのもその通りで……うーん」
川 ゚ -゚)「逆に、だ。"そこは"本当だったとしたら?」
('A`)「……?」

 そこは、ってことは……附随する部分に嘘があるってことか?

('A`)「"あの辺そんなに通らない"が嘘?」
川 ゚ -゚)「あー……それもなくはないが。例えば……別れてからずっとストーキングしていたとしたら?」

 うわ、何それ怖ッ! え、あのイナッちに限ってそんなことある……?

119 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:02:48 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「そこまで気付かないもんですかね?」
川 ゚ -゚)「もうちょっと現実に寄せると、定期的に興信所に依頼してたとか」

 む、それは……ちょっとありそうになってきた。 もし仮にイナッちがやるとしたら恐らくそっち……だな。
 で、偶然を装ってバッタリ……うわ、ありそー。

('A`)「如何にもありそうですけど……俺、あいつの奥さんへの想いが嘘だとは思えないんですよね」
川 ゚ -゚)「ふむ……それも考慮の余地がある」

 そうなるとやっぱり、偶然だった……? かなりモヤモヤはするが、あの幸せそうな顔が嘘だというよりは……。

120 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:03:22 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「アリバイについては……十分なアリバイだが、完璧ではないといったところか」
('A`)「ですね。声入ってるタイミングで家にいたのは確かでしょうけど……車なら普通に行って帰れなくはない」
川 ゚ -゚)「まあ、そうすると作業着の男の説明がつかなくなってしまうんだがな」
('A`)「そこだけ全くの別件だった、というのも……うーん」

 それに、昔の恋人がいきなり家に来て扉を開けるか、というと……。 被害者の思考回路はイマイチよくわからないとはいえ、そこまで不用心ではない気がする。

川 ゚ -゚)「現場の状況から、直前までさほど警戒していなかったというのは読み取れるからな」
('A`)「正直運送業者でもギリギリ、って感じですからね」

 扉を空ける、そこまではありえる。 だが、そこで押し入ったとするなら……もうちょっと奥まで逃げてそうなんだよな、やっぱり。 もしくはもっと抵抗の跡が激しくなっていそうだ。

121 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:03:55 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「そこで、さっき言った女性説が出てくる」
('A`)「あー……確かに女性であれば、もう一段警戒落ちそうですね」
川 ゚ -゚)「私は、コメントを拾った裏付けを見るまでは稲荷キュートを疑っていたんだが……」
('A`)「イナッちが浮気してたとしたら、動機らしきものもありますからね。ただ」
川 ゚ -゚)「今となってはアリバイ完璧だからな」
('A`)「それに、作業着の男は170cmくらいですよね?」
川 ゚ -゚)「シークレットブーツがある」
('A`)「いや、それは……そんな上げ底で揉み合い勝てますか?」
川 ゚ -゚)「普通に考えたら無理だな」

 正直そんなん履いて、マトモに歩く自信もないぞ俺は。 女性ならハイヒールとかで多少慣れてるだろうけど、流石に揉み合いは……。

122 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:04:29 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「……仮にイナッちが犯人だとして。動機は何でしょうね?」
川 ゚ -゚)「浮気を根に持っているというのは普通にありそうだが」
('A`)「殺すほどのことですかね?」
川 ゚ -゚)「殺しの動機なんて大抵そんなものだ。「どうしてそんなことで」ってよく聞くだろう?」

 それは……まあ、そうなのかもしれない。 譲れない一線っていうのは十人十色あるもんだからな……。

川 ゚ -゚)「ただ、既に別の人間と結婚しているわけだからな。普通に考えたら、そこまでの恨みを持ち続けるとは思えない」
('A`)「ですよね。……実はそれ以外にも何かあったのかな?」
川 ゚ -゚)「ふむ……そこまでの何かがあるなら、盛岡の口から出ていそうだがな」

 確かにそうだ。 そうなると……やっぱりイナッちが犯人である可能性も、低いと言わざるを得ない。

123 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:05:02 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「次、野次馬2」

(´・_ゝ・`)
盛岡デミタス(27)自営業(カフェバー)
恋人 ⇒ノパ⊿゚)素直ヒート友人 ⇒ミセ*゚ー゚)リ長岡ミセリ敵対 ⇒( ゚∀゚)長岡ジョルジュ友人 ⇒爪'ー`)稲荷フォックス
・被害者とは高校時代に付き合っていた・別れた理由は「あっちの浮気」・別れてからも友人関係で、恋の悩みの相談などにも乗った・最近は時々庭にお邪魔してDVの相談を受けていた・事件当日の10:00~12:00は自宅にいた、10:10に隣人に回覧板を届けている

124 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:06:32 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「そういえば、素直って珍しい苗字ですよね。知り合いだったりします?」
川 ゚ -゚)「従姉妹だな」
('A`)「えぇ……世間せっま。確かによく見るとちょっと似てる……?」
川 ゚ -゚)「身内の彼クンとはいえ手心は加えん」
('A`)「あっ、はい」

 わかってますよ、先輩はそういう人だからな。 ほんとカッコイイ。尊敬する。 俺なんかカーチャンの彼クン――嫌すぎる想像してしまった、何故カーチャンで想像した俺。

川 ゚ -゚)「盛岡の言っていることは基本的に胡散臭い」
('A`)「我が友人ながら否定はできないっす……」

 もうちょっと否定できるような行動を取って欲しかったなあ……。

125 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:07:06 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「だが、アリバイは稲荷よりも強いな。車がないというのが大きい」
('A`)「まあ、ちょっと離れた場所にレンタカー停めとけば……行けなくはないかもですが」
川 ゚ -゚)「そこは一応、レンタカー屋とタクシー会社の照会待ちだな。恐らくないとは思うが」

 実はうまいことバスを乗り継ぐと……なんて西村京太郎的展開もないだろう。 モリモリ宅の近くはバス停あるけど、被害者宅はバス停から結構遠いし本数も少ない。

('A`)「そうなると、隣人の関ヶ原さんと口裏合わせでもしない限り不可能ですね」
川 ゚ -゚)「絶対にないとは言えんが……考え難いな」

 仮にモリモリの容疑が今よりも増したら、二人の関係について聞き込みすべきかもしれない。 今のところはその程度だ。

126 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:07:40 ID:ex.0V.UQ0
川 ゚ -゚)「さて、胡散臭い話の内容だが……なあ、盛岡は本当に未練がなかったと思うか?」
('A`)「むぅ……あったんじゃないですか? あいつ結構ネチッこいとこありますし」
川 ゚ -゚)「あったとして……どれほどだったのか?」
('A`)「しょうもない相談を聴くために律儀に通い続けるくらい?」
川 ゚ -゚)「友情だけで成すのはちょっと難しい、くらい……かな?」
('A`)「だと思います。少なくとも、俺相手にそこまではしてくれないかと」

 言ってて悲しくなってくるが、たぶんそうだ。 基本ベースは友愛に替わっているんだろうが……恐らく性愛の上乗せは、入っている。

('A`)「好みの顔をした女性ですからね」
川 ゚ -゚)「何一つ劣情を抱かないとしたら、逆におかしな話だというのは想像に難くない」

 俺もスカした顔して素直さんに劣情抱きまくりだからな。 ……正直すみません。

127 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:08:13 ID:ex.0V.UQ0
('A`)「んー、さりとて。どう殺人に繋がるのか、というと」
川 ゚ -゚)「旦那殺しなら、実にわかりやすかったが」

 そうだなあ……好意を持った相手がDV夫に囚われているなら、夫を殺したくなる気持ちもわからんではない。 だが、逆となると……途端に難しいな。

('A`)「元は友愛と性愛の入り混じったものだとしても、彼の想いはもっと別の……よくわからない何かに昇華されているように思います」
川 ゚ -゚)「……そうかもな。私も正直、今一つ気持ちの察しがつかん」
('A`)「恋人というステレオタイプではない、特別な絆。……そこには特別な独占欲があっても何らおかしくはない」

 言葉にしてみると、意外としっくりと来る。 間違いなく、特別な愛着は持っているからな。

川 ゚ -゚)「……3ミリくらいかな? 確信を持つには程遠い」
('A`)「まあそんなもんでしょうね」

128 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:08:46 ID:ex.0V.UQ0
【Date: 4/21】【Time: 15:00】【locate: 府相成署 刑事課】

(,,゚Д゚)ゝ「おう、やってるか」
川 ゚ -゚)ゝ「係長」
('A`)ゝ「絶賛迷走中です」

 ……結局のところ、全員がシロ寄りのグレー。 今後の捜査でもうちょい深掘りするか、他に目線を向けていくか迷うところだ。

(,,゚Д゚)「ちょっと説明してみろ。気付いたことがあれば言ってやる」
川 ゚ -゚)「わかりました。埋田、説明は任せて大丈夫だな?」
('A`)「はい!」


 ― ―― ―――

129 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:09:19 ID:ex.0V.UQ0
(,,゚Д゚)「なるほどな……」
('A`)「何かわかりますか?」
(,,゚Д゚)「まず、これは俺の勘だが……犯人はこの三人のうちの誰かだろうな」
川 ゚ -゚)「勘、ですか」
(,,゚Д゚)「お前らの勘もそう言ってんだろ? でなきゃ、既に他を洗おうってなってるはずだ」

 それは……言われてみれば、確かにそうかもしれない。 ずっと、何かが引っかかってるんだよな……。

('A`)「何かが引っかかってるんですけど……それが何なのか思い当たらなくて」
川 ゚ -゚)「……私は、埋田の引っかかっている態度が気になっていましたね」

 うーむ……しかしどうすれば。

130 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:09:53 ID:ex.0V.UQ0
(,,゚Д゚)「発想を変えてみろ」
('A`)「発想……ですか?」
(,,゚Д゚)「事件を軸に考えちまってないか? そうじゃねえ。もっとフラットに、違和感の出所を探すんだ」

 事件を軸に……か。それはその通りだ。 フラットに、って言っても難しいが。純粋に昨日……いや、一昨日の夜からのことを振り返ってみるか?

(-A-)「……」




 ― ―― ―――

131 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:10:26 ID:ex.0V.UQ0












 ああ、だから――









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132 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:10:59 ID:ex.0V.UQ0
(;'A`)「まさか……そんな……! いや、そうだとしたら……嘘だろ……ッ!?」
川;゚ -゚)「どうした埋田?」
(;'A`)「……犯人が、わかりました」
川;゚ -゚)「何だと!?」
(,,゚Д゚)「フッ……お節介は役に立ったか?」
(;'A`)「はい、ありがとうございます! 素直さん、――の照会お願いしていいですか!?」
川;゚ -゚)「――だと……?」
(;'A`)「俺の方は――の照会やるんで!」
川;゚ -゚)「――と――、となると……まさか……!」

133 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:11:32 ID:ex.0V.UQ0












 (;'A`)「そのまさかですよ! この事件の犯人は――!」









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134 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:12:05 ID:ex.0V.UQ0
【side: 三瀬ミセリ】

ミセ* ー )リ「好きな人が……できたの」
(  )「」
ミセ* ー )リ「……ごめんね」
(  )「」
ミセ* ー )リ「****は何も悪くないよ」
(  )「」
ミセ* ー )リ「そんなこと言わないで? ****なら、大丈夫」
(  )「」
ミセ* ー )リ「……じゃあ、約束。お互いに色んな恋をして、それでもまた……両想いになれたなら――」

 ――その時は――

135 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/25(木) 23:12:39 ID:ex.0V.UQ0
【side: 長岡ミセリ】

 私、今更ながらに気付いちゃった。

 本当に愛してくれていたのは……あなたなんだって。

 あーあ……どうしてあんな男と結婚なんてしちゃったんだろう。

 頼りがいも、可愛さも、そして……艶やかに囁かれた愛さえも。

 ぜーんぶ幻想の彼方。どうしてこうなっちゃったのかな……。

 なんかもう……死んじゃいたいな。

 ミセ* ー )リ

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136 : ◆48WTRPZhs. [↓] :2024/04/25(木) 23:13:38 ID:ex.0V.UQ0出題編は、以上回答編は、後日

137 :名無しさん [↓] :2024/04/25(木) 23:27:16 ID:tYgV2TYM0読みやすくて面白い

138 :名無しさん [↓] :2024/04/25(木) 23:54:39 ID:3TzAPRc20乙です

139 :名無しさん [↓] :2024/04/26(金) 15:07:57 ID:Z/7NAkTs0乙!続き待ってます!

140 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:40:13 ID:naxWONos0>>137-139乙ありっす蛇足かもしれない、と思いつつ閑話を投下していきます回答編はたぶん、今夜くらいに投下します

141 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:40:47 ID:naxWONos0












 #x 鳥害、虫害









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142 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:41:20 ID:naxWONos0
【side: い】

 今までの選択は、本当に正しかったのだろうか?

 苦い後悔の色が、臓腑を染め上げている。

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143 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:41:53 ID:naxWONos0
【side: ろ】

 ああ、これで終わる。終わってしまう。

 あたかも、舞い散る花弁のように。

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144 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:42:27 ID:naxWONos0
【side: は】

 確かに、愛していた。そのはずなのに。

 こんなものしか与えることができなかった。

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145 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:43:00 ID:naxWONos0
【side: に】

 どこで間違えてしまったのか。

 戻れるなら、あの頃に戻りたい。

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146 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:43:34 ID:naxWONos0
【side: ほ】

 生まれてきた意味、死んでいく意味。

 この身には、きっとどちらもないのだろう。

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147 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:44:08 ID:naxWONos0
【side: へ】

 見えざる命に、せめてもの情けを。

 できるのは、それくらいだから。

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148 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:44:41 ID:naxWONos0
【side: と】

 恋し、恋して、恋をして。

 なお埋まらない心は、どこへ行くのだろう。

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149 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:45:14 ID:naxWONos0
【note: 人物相関図】
 ( ゚∀゚) ←夫婦→ ミセ*゚ー゚)リ ←元恋人→ 爪'ー`) ←夫婦→ o川*゚ー゚)o   ↑           ↑            ↑   |       友人(元恋人)        友人   |           ↓            ↓   └─ 敵対─→ (´・_ゝ・`)  ←友人→  ('A`)  ←同僚→ 川 ゚ -゚)                ↑            ↑              ↑               恋人        上司と部下           |                ↓            ↓              |              ノパ⊿゚)          (,,゚Д゚) ←上司と部下─┘

150 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:45:48 ID:naxWONos0
【note: 現場見取り図】
          |遺  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|体  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   トイレ       部屋_____| 扉 |______   花花花

─────| 門 |──────

151 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:46:21 ID:naxWONos0
【note: 位置関係図】
①府相成署②府相成駅③CafeBar MORIMORI④長岡卓⑤稲荷宅⑥盛岡宅⑦パチンコ・スロット エクシード

  ⑤
    ⑦      ④     ②      ③  ①        ⑥

152 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:46:55 ID:naxWONos0












 ああ、だから――









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153 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 03:47:44 ID:naxWONos0閑話は以上

154 : ◆48WTRPZhs. [↓] :2024/04/27(土) 04:04:21 ID:naxWONos0回答編はたぶん、今夜くらいに投下します

155 :名無しさん [↓] :2024/04/27(土) 18:26:17 ID:biN98yw20乙乙ワクワクする!続き楽しみです。

156 : ◆48WTRPZhs. [↓] :2024/04/27(土) 21:43:15 ID:naxWONos022:00から投下します

157 : ◆48WTRPZhs. [↓] :2024/04/27(土) 22:00:23 ID:naxWONos0












 #6 結実、たおやかに









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158 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:00:56 ID:naxWONos0


 ね、****。


 今まで、ありがとね?


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159 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:01:35 ID:naxWONos0


 私はきっと、いなくなる……けど。


 いつまでも、あなたの心の中にいるから。


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160 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:02:14 ID:naxWONos0












 ああ、だから――









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161 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:02:48 ID:naxWONos0























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162 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:03:34 ID:naxWONos0






(-A-)「……明日でも、明後日でもいい」





(-A-)「だから、必ず二人で来いと……そう、言ったはずだぜ……?」






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163 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:04:09 ID:naxWONos0






 ('A`)9m「イナッち……!!」






 爪 ー )





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164 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:04:44 ID:naxWONos0
【Date: 4/21】【Time: 13:00】【locate: 府相成署 取調室】

('A`)「何とか言えよ、おい」
爪'ー`)「……ちゃんと来たさ。二人でね」
( A )「……」

 ……この期に及んで、敢えて必要以上の否定はしねーよ。 そういう……ことだったんだよな……。

('A`)「あんまり無粋なことは聞きたくねーが……これも仕事なんでな。許せ」
爪'ー`)「……」

 ……これ以上の詳細なんて、本当に必要なのか? ここまで来たら、素直に罪を認めると思うぜ、こいつ。
 本当に無粋だが……仕方ねえ。 だってこいつは、罪を犯してしまったんだから……!

165 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:05:18 ID:naxWONos0












 ああ、だから――









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166 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:05:52 ID:naxWONos0
('A`)「まず、だ。長岡ミセリを殺したのは、お前か?」
爪'ー`)「……はい」
('A`)「だよなぁ……はぁ。何でまた、殺しなんて……」
爪'ー`)「……」

 動機については、朧げに見えちゃいるが……到底信じ難い。 俺の常識という枠組みが、心象への解像度を著しく下げている。

爪'ー`)「……ホンモノにするため」
('A`)「……そっか」

 ああ……やっぱ、そうだよなぁ……そういうこと、だよなぁ……。 駄目だ……俺の理解力という秤は、この心象の前では猫の額に等しい。

167 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:06:26 ID:naxWONos0
('A`)「他の方法は、なかったのか?」
爪'ー`)「……あった、と思う。選び取ることは、できなかったけれど」
('A`)「……そう、か」
爪'ー`)「……ごめん」

 世の中、ままならんもんだ。 正しい選択をする、ただそれだけのこと、なのに……なんと難しいことか。

('A`)「動機は、以上。……構いませんね、先輩」
川 ゚ -゚)b「任せろ。こう見えて、調書の行間を埋めるのは得意だ」

 ああ……本当に素敵だな、先輩は。 ますます好きになってしまう。

168 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:06:59 ID:naxWONos0
('A`)「……4/20 9:30頃、奥さんと二人、現場付近の資材置き場に車で向かった。合ってるか?」
爪'ー`)「あってる」
('A`)「用意しておいた運送業者の作業着に着替え、二人とも徒歩で現場に向かった。……どうだ?」
爪'ー`)「あってる」
('A`)「4/20 10:00頃、奥さんがインターフォンを鳴らす。そして……トイレを貸してくださいと懇願した。……そうだな?」
爪'ー`)「あってる」
('A`)「奥さんはトイレに入り、陰に隠れていたお前は被害者に斬りつけた」
爪'ー`)「あってる」
('A`)「……トイレに入っている奥さんは、何も知らない。何も気づけない。だから、殺人事件とは何の関係も、ない」
爪 ー )「……」
('A`)「そして二人は、振り返らず礼だけ言って、資材置き場に戻る」

169 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:07:33 ID:naxWONos0
('A`)「この時血塗れの作業員が目撃されなかったのは……偶然だな。資材置き場に着いたお前は、作業着を焼却炉に入れて稼働させた」
爪'ー`)「……うん」
('A`)「そして車で帰宅……行き帰りの運転は、奥さんがしてたんだな」
爪'ー`)「……よく、わかったね」
('A`)「改めて聞き込みしたからな。奥さんを見かけたかなんて、聞いてなかったんでね」
爪'ー`)「……そうかい」
('A`)「で、帰宅後。昼時、奥さんは「大切なもの」をなくしていることに気が付いた」
爪'ー`)「……」
('A`)「だから、被害者宅の様子を見に行ったんだろ?」
爪'ー`)「……」
('A`)「以上。……訂正や補足は、あるか?」

170 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:08:10 ID:naxWONos0












爪'ー`)「……あるわけ、ないじゃない。 完璧だよ……ウッツン」









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171 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:08:44 ID:naxWONos0
('A`)「……チャンネルの動画。疑似生配信であってるよな?」
爪'ー`)「……らしいね。僕は詳しくないから、よくわからないけど」
('A`)「ライブ感を出すために、毎回自演コメントを拾っている……これは、奥さんに答えて欲しいな」
爪゚ー゚)「あははー、バレちゃった? ちょっと恥ずかしいなぁ……!?」
('A`)「……っはぁーー……。奥さん、すっぴんでも十分美人だな?」
爪'ー`)「そりゃ、そうだよ。世界一の美女、だからね」
('A`)「鼻筋と口のあたり、お前と似てるよな。目元も……見開いて化粧すりゃ似せられる、かもな?」
爪'ー`)「全然似てないよ、僕なんて。……長岡ミセリさんの方が、似ていたんじゃないかな?」


('A`)「……ああ、そうだな。まるで、双子の姉妹のように……ソックリだよ」

172 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:09:20 ID:naxWONos0












 o川*゚ー゚)o ..ミセ*゚ー゚)リ








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173 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:09:54 ID:naxWONos0
('A`)「……一つ、聞かせてくれ。お前は……長岡ミセリが、憎かったのか?」
爪'ー`)「長岡ミセリさんは、僕とは何の関係もないよ」
('A`)「おっと……じゃあ。三瀬ミセリでもいい」
爪'ー`)「僕の愛した三瀬ミセリは、とっくの昔に死んでる。葬式にも出たしね」
('A`)「……なるほど。先輩、理解できたであってますか?」
川 ゚ -゚)「問題ない。天気予報がこれほどありがたかったことはないがな」
('A`)「で、あれば……これで十分か」
爪'ー`)「……ありがとう。僕の最愛の妻に配慮してくれて」
('A`)「"罰は司法が与える"。……行政の俺らが与えちゃ、それは"職権濫用"ってもんだ」
爪 ー )「……」
川 ゚ -゚)「ふっ……かっこいいこと言うじゃないか」

174 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:10:28 ID:naxWONos0












 ああ、だから――









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175 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:11:02 ID:naxWONos0
('A`)「……最後に、聞かせてくれよ。……お前の奥さんの、本当の名前」
爪'ー`)「……」
('A`)「キュートは、あだ名……だろ? お前が心の底から愛を囁く時……呼びかける名は、キュートではない」
爪 ー )「……」
('A`)「奥さんも言ってやってくれ。……"名前を、呼んで"……ってな」


爪 ー )「……」


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176 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:11:35 ID:naxWONos0












 爪 ー )「"フォッくん"」









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177 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:12:16 ID:naxWONos0












 o川*゚ー゚)o「名前を、呼んで?」









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178 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:12:54 ID:naxWONos0























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179 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:13:31 ID:naxWONos0












 ミセリ……ッ!!









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180 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:14:05 ID:naxWONos0












 o川* ー )o









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181 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:14:39 ID:naxWONos0
【note: 照会結果】
 稲荷フォックスの戸籍  配偶者なし
 稲荷キュートの戸籍  該当なし
 コメントの送信IP  配信者のIPと一致

182 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:15:12 ID:naxWONos0












 #7 しめやかな、枯死









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183 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:15:52 ID:naxWONos0
【Date: 4/29】【Time: 19:00】【locate: CafeBar MORIMORI】

('A`)「っはぁ~~……」
(´・_ゝ・`)「いい加減元気出しなよ、ウッツン」
('A`)「いやだってさあ……久々に再会した旧友を法廷にダイレクトシュートよ?」.(´・_ゝ・`)「まあ……運が悪かったね」

 たとえば、あの日ベロベロに酔っぱらわせてたら延期したのかな、とか。 たとえば、あの日二人の真実に気付いていれば、何か変わったのかな、とか。

('A`)「……色々思うわけじゃん?」
(´・_ゝ・`)「はいはい、下手な考え休むに似たり」

 言い得てるな、と思いながら緑豊か過ぎるグラスを傾ける。

184 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:16:34 ID:naxWONos0
('A`)「はぁー……被害者には悪いけどさ。俺、あいつの気持ち……ちょっとだけわかっちまったから」
(´・_ゝ・`)「頭おかしいね。僕は1ミリも理解できないよ」

 容赦ねーなこいつは。 だが、それがいい。それでいい。

('A`)「頭おかしい奴の気持ちがわからなきゃ、頭おかしい奴を捕まえらんねーのよ」
(´・_ゝ・`)「はは、お巡りさんは大変だ。それでいて正気でいなきゃいけないんだから」
('A`)「あのな、このグラスを見てみろ。これ以上に正気を失ってるものがラーメン二郎以外にあるか?」
(´・_ゝ・`)「芸術は狂気。知らなかったかな?」

 そのグラス、まさに森ッ! あー……今はこのパセリの苦味と青臭さがいいのよ。

185 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:17:11 ID:naxWONos0
('A`)「この世界は、頭のおかしい人たちでいっぱいです、ってか」
(´・_ゝ・`)「マトモな奴から死んでいくのさ。ミセリが正気だったとは到底思えないけどね」

 思わず、苦笑い。すまんな、故人。 まあそうさな、正気で店なんかやれんわ。

('A`)「店の借入額とか見たらこのグラスより真っ青になりそうだもん、顔」
(´・_ゝ・`)「ふっ、うちは安心安全の無借金経営だよ?」
('A`)「えぇー……。んー……そんならヒートさんも安心だな。よかったよかった」

 いやー本当によかった。 旦那の借金に悩む若奥さんはいなかった、いいね?

186 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:17:46 ID:naxWONos0
('A`)「……なあ。そういやさっきから気になってたんだけど、あの花」
(´・_ゝ・`)「ああ……ミセリへの供養だよ。好きだったからね、ガーベラ」

 大きな花瓶に活けられた色とりどりの花。 それは確かに、あのプランターの花と同じものに見えた。

(´・_ゝ・`)「誕生花でさ。花言葉もよく似合ってたな」
('A`)「花言葉って?」
(´・_ゝ・`)「希望、前進、前向き、ってとこ。昔はそんな感じだったから」
('A`)「ふぅん」

 直近の話を聞く限り到底そうは思えないが、そうだったらしい。 ……そして、あいつの中での「ミセリ」はいつまでもそうなんだろう。 それは……もしかしたら、モリモリの中の「ミセリ」も。
 ああ、言われてみればあいつの奥さんはまさに……そんな感じだった、な。

187 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:18:19 ID:naxWONos0
('A`)「何で……」
(´・_ゝ・`)「ん?」
('A`)「何で……変わっちまったのか、な。「ミセリ」さんは」
(´・_ゝ・`)「そりゃ、人は変わるもんだし。ま、言うほど変わってないと思うけどね」

 そう言ってモリモリは花瓶から花を一本抜き出す。

(´・_ゝ・`)「ガーベラって、色や本数で花言葉が変わるんだ。だから、ただ抜き取っただけなのに……この一本は、もう違う花言葉」
('A`)「……ふむ」

 ただ少し状態……というよりは見方、か。変わっただけなのに、概念まで変わってしまう。 あー……確かに、人間もそうかもしれないな。 相手との立場一つ取っても、別人のように変わってしまうことはままある。

188 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:18:54 ID:naxWONos0
('A`)「あいつは……自分に恋してる「ミセリ」が……何者にも替え難かった、ってことだな」

 あー……じゃあ俺、あんとき若干ズレてたな……。 あくまで昔の「ミセリ」が、だとばかり思ってた。違うんだな……。
 だからこそ……過剰なアレルギー反応を起こした、か。 となるとやはり、「バッタリ」さえなければ何もかも丸く収まってたんだろう。
 「バッタリ」、ずっと疑ってたけどなあ……そここそが真実だった。 そんなことで殺された被害者はたまったもんじゃないな本当……。

(´・_ゝ・`)「シャバに出てきたらぶん殴る」
('A`)「……双方の友人として正しい意見だと思うぞ」

 友人がそんなわけのわからない理由で殺されたんだから、そりゃ許せないよな。 その割には俺より元気だけどな、こいつ。

189 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:19:27 ID:naxWONos0
(´・_ゝ・`)「……まあ、未だに実感ないけどね。その分ショックも少ない感じ」
('A`)「そのまま実感なくしといてくれ。酷いショック受けちまうとヒートさんにショックが連鎖しそうだ」
(´・_ゝ・`)「あー……そうか。そうだね。それに、えー死んだの!? くらいの軽いノリの方が故人も喜びそう」
('A`)「さよけ」

 やっぱなー……意識して接してみると明確に感じるよな、恋の残り火。 連絡絶つって決意はたぶん正しかったんだと思うぞ、じゃなきゃ今頃フラれてたかもな。

(´・_ゝ・`)「そういえば……DVクソ野郎の件は?」
('A`)「あー……無理。すまん」

 本人が故人で証言取れないってのが痛すぎる。 打撲痕を誰がやったかなんて証明のしようが難しいからな……。

190 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:20:01 ID:naxWONos0
(´・_ゝ・`)「えぇ……あいつが無罪放免なのは、この花瓶に一輪だけムカデの串焼きが紛れ込んだような気持ち悪さだ」
('A`)「串焼きは一輪じゃねえ、一本だ」

 この花瓶が「長岡ミセリ」だとするなら……「稲荷ミセリ」という存在は、一体どんな花に喩えられるだろう。 イナッちがその狂気を以て実体を与えようとしていた、幻想の存在。作り物の美。
 ガーベラの造花か? いや、しっくりこないな。 造花よりももっと後ろ向きで、未来よりも過去に向けて爆走するような。

 その時、モリモリがグラスを逆さに吊っているのが目に入る。

(´・_ゝ・`)「ん? どうかしたのかい?」

 ――吊るされた男――。ふと、そんな言葉が過った。

 ああ……そうか、逆位置だ。希望、前進、前向き……その逆位置こそが、相応しい。

191 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:20:35 ID:naxWONos0












 ああ、だから――









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192 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:21:08 ID:naxWONos0












   吊るされたガーベラ THE HANGED GERBERA









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193 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:21:42 ID:naxWONos0
























 ('A`)吊るされたガーベラのようです 完

194 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:22:16 ID:naxWONos0












 #y 土









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195 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:22:49 ID:naxWONos0【side: い=盛岡デミタス】【side: ろ=稲荷フォックス】【side: は=長岡ジョルジュ】【side: に=長岡ミセリ】【side: ほ=稲荷キュート】【side: へ=埋田ドクオ】【side: と=三瀬ミセリ】

196 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:23:25 ID:naxWONos0
【side: 長岡ミセリ】


 あっ……。


 ……そっか。そうだったんだね。


 あなたが、私の死神。


 どうせなら、あの人に看取られたかった、なぁ……。


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197 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:24:15 ID:naxWONos0
【note: 終末に寄せて】
・我らが探偵は、今日も侍を続けます
・美しき助手は、拳法家に執心でした
・愛を間違えた男は、坂を転がり落ちます
・強き拳法家は、やがて凶弾に斃れるでしょう
・愚かな道化は、失ったものを伴侶に求めます
・健気な伴侶は、重荷に耐えきれるのでしょうか
・結ばれし二人は、はじまりの土に生涯を捧げました

198 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:25:02 ID:naxWONos0
【side: 魔法使い】

('A`)「埋田です。魔法使いになりました」
(-_-)「埋田、その……気を落とすな」
('A`)「埋田です。素直さんは係長にゾッコンです」
(-_-)「本当なのか……? 俺からはそうは見えないんだけどな」
('A`)「埋田です。あの人は真面目なので不倫はしません」

 まさか、だったなあ……素直さんに恋の相談をされた時は。 そりゃ係長は頼り甲斐あって超カッコイイもんなあ……既婚者だけど。

199 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:25:35 ID:naxWONos0
('A`)「……まあ、実際。魔法の使い方は知ってるんだ」
(-_-)「うん……?」
('A`)「でも、あれは……危険すぎる。人には過ぎた力だ」
(-_-)「何を言ってるのかさっぱりなんだが……」
('A`)「奇跡には代償が必要だということだよ、裏切者クン」
(-_-)「拗らせすぎて遂におかしくなったかこいつ……?」

 そりゃ、まあ。わかんねーだろうな。 わかるのは……あの二人の真実を知る、俺達だけだ。
 ってかこいつ侍仲間だったのに、合コンで会った相手と卒業しやがった。 どんどん仲間が減っていく……。

200 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:26:09 ID:naxWONos0

 あいつは、変化を"死"と捉えた。 最愛の相手はもう、どこにもいないのだ、と。

('A`)「……ああ、確かに"死者"かもな。諸君らが愛してくれた素直クールは死んだ。何故だ? 坊やだからか?」
(-_-)「おい、飲みすぎたか……?」

 だけど、"死"の否定は"生"の否定、なのよ、結局な。 神ならぬ人には過ぎた業。コントロールせずにコントロールする、なんて神業が続くわけはない。 結局、土台無理な話なんだ。"死者蘇生"なんていう"魔法"はよ。 そして、なまじできちまったが故に……幼い魔法使いは、残された正気をも失ってしまったわけだ。

('A`)「チャンチャン」
(-_-)ノ「すみませーん、お水くださーい!」

 全てを水に流す。そうだな、それが良いだろう。 ふと、生きたまま水葬を繰り返した末に死神を生み出してしまった、彼女の名が浮かんだ。

201 : ◆48WTRPZhs. [] :2024/04/27(土) 22:26:42 ID:naxWONos0以上! あざした!

202 :名無しさん [↓] :2024/04/28(日) 20:06:25 ID:m6Obv0OY0ドクオ…踏んだり蹴ったりだったねぇまあ実際係長凄い格好良かったし

203 :名無しさん [↓] :2024/04/29(月) 17:50:33 ID:5pG5mnSo0乙乙なるほどなぁどこもスパッとならないのが辛いねぇ

204 :名無しさん [↓] :2024/05/02(木) 21:15:28 ID:QOqcnrxw0乙乙完全には腑に落ちず暗い部分が残る感じがホラーっぽいというか…ゾクッッとした!