( ^ν^)僕らの友情はオフラインのようです

1 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:38:27 ID:EdVGtfZE0
( ^ν^)
 クラスメイトで、ゲーセン仲間で、おおむね幼馴染。 高校でたった二人の俺の友達が今、視界の向こうで一世一代のプロポーズを実施中。
( <●><●>)「……高桑、さん」
 嫌がらせかってぐらいでかい図体を三割減ぐらいの勢いで縮めながら必死に言葉を紡いでいる姿は何だか滑稽で、空調と外気の境目でバカみたいに汗を垂らして、図体ぐらいバカでかい目から涙みたいに滴らせてる。 相手は、小柄でつやつやの髪が天使みたいなハーフのやつ。クラスメイトの、高桑。

2 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:38:48 ID:EdVGtfZE0( <●><●>)「ちょっと用があるので先向かっててください」
 この一言を下駄箱前の自販機から出たコーラをこっちに放りながらさも何でもないように言ってたらきっと俺はこのシーンを見逃してたんだろうな。 テニス部の球拾いマスターのアイツがビビるぐらいぎこちなくこっちに缶を放ってくるから心配で見届けてたら、なるほどそういうわけだ。 多分本人はさらっと言ってたつもりなんだろうけど実際に聞き取れたのは
(;<●><●>)「あっあわ私この後ある 用事あるんで佐々木サキ行ってください ゲーセンでまっててください」
 だった。何言ってんだ。 ていうかよく見たらコーラじゃなくてコーヒーじゃねえか。マジでどこに目ついてんだ。飾りかあのギョロ目。

3 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:39:13 ID:EdVGtfZE0 うっかりプルタブを開けかけたコーヒー缶と一緒に、花壇の影にしゃがんで必死に何かを喋ってる若津を眺めてみる。身振り手振りがはちゃめちゃで迷子の外国人みたいだった。 しかも直前まで練習してたのか知らんけどポケットからメモ帳がはみ出てるし、靴履き替えるか迷ってる間に相手が来ちゃったから片っぽだけ靴でもう片っぽ上履きだし。あと鞄の置き場所迷った挙句隣のやつの下駄箱に無理やり突っ込んでるし。何もかもめちゃくちゃかよお前。
(;<●><●>)「――――!」
 若津は頭の先からつま先までを全部わなわなさせながら必死に何かを言ってる。内容は早回しに逆再生を重ねたテープみたいで全然聞き取れない。相手の顔は下駄箱と逆光が影になって良く見えないけど、引いてんのか何なのか知らんけど微動だにしてない。
 別に隠れなくてもむこうはこっちを見る余裕もなさそうだし、そもそも今日は夏休み前最後の登校日。こんな日に限って下校後一時間もクソ真面目に居残ってる奴なんかいないだろうし、俺も隠れるのをやめてちょっと近づいてみる。
(;<●><●>)
( <●><●>)
( <-><->)「――と、いう事なのです。高桑さん」
( <●><●>)「……私と、お付き合いしてくださいませんか」
 あ、終わっちゃった。

4 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:39:34 ID:EdVGtfZE0
 そのままシャツの裾を握りしめながら滑りの悪い金具みたいにぎこちなく頭を下げる若津。よく見たら若本漫画ぐらい目ぇ瞑って歯ぁ食いしばってる。 全然気づかれないから傘立てのあたりまで近づいて様子を窺ってみる。
 若津が頭を下げたまま、たぶん30秒ぐらいの沈黙。
:(;<●><●>):
 あ、息止めてるなアイツ。このままだと死ぬぞ。
:(;<〇><●>):
 赤通り越して青ざめてきてない?
:(;<〇><〇>):
 あー、死ぬ死ぬ。なんか手震えてきてるし。この場合だと救急車呼ぶの俺か? 俺なのか?

5 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:39:58 ID:EdVGtfZE0『――わかりました』
 おっ。
(   )「――ぷっ。頭、上げてください」
(;<●><〇>)「は、はい……」
 肩で息をしながら汗を拭って、その辺のセミより必死な感じが答えたのか、高桑は笑ってた。バカにする感じでもないし、むしろその必死さがおかしかったみたいな笑い方だった。
(   )「それに、今更『高桑』なんて呼ばないでくださいよ。いつもみたいに……」
 膝に手を付きゼエゼエとと息を切らす若津に、西日の中からゆっくりと歩み寄る高桑。 少し身をかがめた若津の前に、背伸びをした高桑。そのまま――
 (;<●(   )
( ><)「ビロードって、呼んでください。ワカッテマス君」
 キスしやがった。畜生。

6 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:40:20 ID:EdVGtfZE0
 高桑=ビロード=みつお。フランス人のハーフでめちゃくちゃ無難な名前にビロードなんて仰々しい部分が入ってるのは、曰く本人の母親の趣味らしい。 そんなこんなで俺の友人一号、若津ワカッテマスと友人二号の高桑=ビロード=みつおは無事カップルとして結ばれましたとさ。おめでとう。
( ^ν^)(……っつっても、薄々分かってはいたっつーか)
 だって最近3人で映画見に行くときも何故か俺を真ん中にするし。弁当食う時も絶対間に俺のこと挟むし。ゲーセンでヴンストやる時だって3台予約取ったら絶対俺のこと真ん中に座らせるし。なんなんだよ。じゃあこれこそ俺も仲間に入れろよ。そのキッスの輪の中に俺を入れろよ。
 (;<●(   )
 ていうか何しれっともう一回キスしてんだ。早くゲーセン行くぞっつってんだよこっちは。
∩(<●>(   ) ミ⊃
 あ何? もう行くから先行ってろ? 嫌だよ。バーカ。
∩:(;<●>(   ) ミ⊃
 違う? ああ窒息しそうだから助けてってこと? 嫌だね。そのキッスの輪の中に俺も入れてくれなきゃ助けねーし。

7 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:40:45 ID:EdVGtfZE0
 しょうがないから直射日光に当てられて若干熱を帯び始めた缶コーヒーをポケットにしまい、いつまでも若津にくっついてる高桑を引きはがす。 よく見たらこいつも爪先立ち必死すぎて足震えてるし。なんなんだよ。
( ><)「あれ、ニュッ君? 先に台取ってくれてたんじゃないんですか」
( ^ν^)「いやああんな面白いものが見れるとは思わなかった」
(;<●><●>)「さ……先に行けって言ったじゃないですか……」
( ^ν^)「くれたのがこれじゃあなあ」
 ポケットから生暖かいコーヒー缶を見せると、呼吸から服装まで何もかもめちゃくちゃな若津がついに頭を抱えた。逆にこんだけ失敗したからこそ告白が失敗したんだろうよ。元気出せよ。
( ><)「まあいっか……ていうかニュッ君ってコーヒー嫌いですよね? 僕が貰っていいですか?」
( ^ν^)「あい」
 プルタブを引いて真っ黒な液体を一気に流し込み、そのまま近くのゴミ箱に放り込む若津。うちの学校でコーヒーの飲み方がおかしいという事で有名なみつおと言えばこいつのことで間違いない。ただでさえこんなもの飲む奴の気が知れないのに、若津の事はもっとよくわからない。ふざけてるのかな。

8 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:41:08 ID:EdVGtfZE0
 とにかく涼める場所に行こうかという意見は一致。いつものたまり場のゲーセンに向かってるわけなんだけど。
( ><)∞(<●><●> )
 手繋ぐなよ。俺だけ仲間外れみたいじゃん。 いや、もう既に俺たちは三人組ですらないのか。二人組と一人。俺だけひとりぼっち。
( ^ν^)(……恋愛がいかに友情を壊すかの実証。なーんて)
 スマホをいじくりながらツイッターで筐体の空き情報をチェック。とっくにオフライン稼働しかしなくなったヴンストだけど、なぜかこの辺には熱心なプレイヤーが多くていまだに未練がましくオフラインプレイをするユーザーはここに集まってる。 書き込みの感じからすれば多分、空席はアリ。ただ時間も時間だから3人分の空きがあるかはかなり微妙。 いっそ2台だけ残ってたら二人に譲って帰っちまおうかな。なんて考えてたら、ふと前を歩いてた高桑がこっちを見ていた。

9 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:41:57 ID:EdVGtfZE0
( ><)「ニュッ君は、何にも聞かないでくれるんですね」
( ^ν^)「あー……?」
 高桑――ビロードは、いつの間にかワカッテマスと繋いでいた手を離し、こちらに向き直っていた。少しだけ西洋の血が入った薄い色の虹彩は日差しを嫌うように瞼によって覆い隠されていた。
( ><)「いいんですよ。気持ち悪いと思うなら、そう言ってくれて」
 そう言ってわざとらしく唇を拭って見せたのは、さっきの告白現場を見ていたことへの当てつけか。ビロードは前髪を払うようにしゃくった顎の先から汗が滴るのを拭いもせず、瞼を開いてじっとこちらを見つめてきた。
(  ν )
 ああ、いいよ。そっちがそのつもりなら、こっちだって本音で話してやるよ。 今までお前らのことをどう思ってたか。そして今、この状況をどう思っているか。お前たちをどうしてやりたいか。全部全部全部答えてやる!

10 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:42:18 ID:EdVGtfZE0
(  ν )「俺は――」
 思い切り、息を吸う。熱風が肺まで通ればそのまま一気に頭に血が上った。
(#^ν^)「俺は、卒業してもその後もずっとお前らと友達だと思ってた!! でも、でもお前らが付き合って、キスして結婚してセックスしたら俺とお前らは別々になるだろ!」
(#^ν^)「気持ち悪いとかそういう以前の話なんだよ、俺は――」
(  ν )「おれ、は……」
( ;ν;)「……お前らが付き合って、みんなで友達じゃなくなる、ッのが、いやだ……」

11 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:42:41 ID:EdVGtfZE0
 吸い込んで、頭に上った熱は、なぜかそのままぼろぼろとこぼれていく。握りしめた手には力を込めたままなのに、それをどこにぶつけていいか分からなかった。 足首まで熱くしてくるアスファルトは雫が落ちては染み込む間もなく蒸発していく。 泣いたらどんどん収まらなくなって、さっきまで静かだったセミがまた一斉に鳴き始めた。しばらくセミと一緒に泣いてみる。 あ、でもセミの鳴き声って求愛じゃん。 でもそんなに変わらないか。俺、二人のこと大好きだし。 ( ;ν;)「うう゛~~……」
(;><)「あわ」
(;<●><●>)「ああ……」

12 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:43:04 ID:EdVGtfZE0
 意外とこうやって大見え切って泣いてる時って冷静なんだよな。鞄も背負ったまま道に座り込んで頑張って泣き続けてみると、二人がおろおろし始める。
( ;ν;)「ぎっ……ぎもぢ、っわるいわけ、ない、じゃん」
 めっちゃいい感じの嗚咽も出てるし。
( ;ν;)「ずっど、ずっどすぎなんだったら、べつに、いい、っし……」
 汗なんだか涙なんだかわかんないので顔ぐちゃぐちゃだし。
( ;ν;)「でっ、でぼぉ、おれ、ともだぢでいだっ、いだい、がらぁ」
 全部言っちゃえ。自分が何言ってるかわかんなくなるまで。
( ;ν;)「おれも、びろーどっの、ごど、ずぎでぇ、わがっでますも、すぎだ、し」
( ;ν;)「ぎ、きす、したいしぃ……っひぐ、いっじょにぃ、ずっどいだい……」
( ;ν;)「お゛っ、おれ、へん、? きもぢわるっ、い?」

13 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:43:27 ID:EdVGtfZE0
 ぎゅっ。
( ><)「――ニュッ君」
 高桑が、俺の肩を抱きしめる。制汗剤の匂いと夏の太陽の匂い。
( ><)「はい、ちーんです」
( ;ν;)ズビ……  高桑が肩をさすりながら差し出してくれたティッシュでべちょべちょの顔を拭うと、何故か後ろの若津もハンカチを持って目に当ててくれる。ジュースに巻いてたやつなのかちょっとちべたい。
( <●><●>)「……そうですよね、ニュッ君はそういう人だってわかってました」
(つ□ν;)「なにがあ」グシ
( <●><●>)「いつまでも私たちと友達でいたい、そう言ってくれる人ですから。きっと私たちを拒絶することはないと思っていました」
( <-><->)「でも……」
( <●><●>)「……私たちが、ニュッ君を拒んだようになってしまった」

14 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:43:54 ID:EdVGtfZE0
 へたり込んだ地面がいい加減熱くて、立ち上がろうとすれば泣きすぎた頭がくらくらした。 それでも二人は、ちゃんと俺の手を掴んで支えてくれた。
( ><)「僕だって……ていうか、ワカッテマス君だって同じです!」
( ><)b+「もしも僕たちが付き合っちゃっても、友情は不滅なんです!」
( ^ν^)「やだ」
( <●><●>)「えっ」
( ^ν^)「俺だって二人のこと好きだったのに二人だけ付き合うのはずるいじゃん……」

15 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:47:18 ID:EdVGtfZE0( ><)「……確かにそうなんです」
( <●><●>)「ええっ」
( ^ν^)「だから俺も告白する!」
( <●><●>)「えええっ」

16 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:48:00 ID:EdVGtfZE0
( ^ν^)「若津、桑名……ワカッテマス、ビロード。ずっと俺と一緒にいようよ」
 俺は二人に繋いでもらっている手を強く握り、頭を下げる。何度もアスファルトにあふれた涙の後はもう乾いてなくなっていた。
( <-><->)「……とりあえず、聞くだけ聞きましょう」
( ><)「ふふ――だったら、返事はゲーセンでさせてもらうんです!」

17 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:48:49 ID:EdVGtfZE0

 高校最寄りの駅前、何年か前に出来たばかりのデカいゲーセンを通り過ぎ、パチ屋の通り抜けた先の汚ねえ看板がかかったゲーセン。ここが俺達のたまり場だ。 ここのウリはなんてったってヴンスト――銃型のコントローラーを用いる3vs3のPvPゲーム、「ヴンスリンガーストラトス」。 オンライン稼働が終わった中も秘かにファンが集うゲーセンにて同志による店内マッチングが行われる中、この辺りじゃ特にオフラインが活発なのがここだった。 ほとんどの客を駅前の店に取られた今、ここに来るようなのは間違いなくヴンストプレイヤーと言ってもいい。
 店内を見渡せば、ちょうど空席は3つ。財布から小銭とプレイヤーカードを用意すると、向かいの台に見知った顔があった。

18 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:49:12 ID:EdVGtfZE0
(´・_ゝ・`)「今日の学生連盟、なんか気合入ってるね」
 地味目のファッションにひなびた表情の大学生、Demi。
从 ゚∀从「おうおう、なんか吹っ切れたのか?」
 バサバサの銀髪のにコスプレかってぐらい長いスカートからだらしなく足を伸ばし、ガンコンをカチャカチャと弄ぶ女子学生(?)、†HEIN†。
(-_-)「……いいよ、始めようか」
 そして座席にうずくまるような独特のスタイルで銃を構えるのはこの店――いいや、恐らくこのゲーム最強の男、ドク。 あいつの持ってる年季の入った赤いプレイヤーカードは、初代ヴンスト全国大会優勝者の証だ。

19 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:52:13 ID:EdVGtfZE0

( ^ν^)「相手にとって不足はねえな」
 筐体にコインを流し、店内対戦モードを選択する。マッチング相手は、もちろん向かいの3人。
( ><)「僕ら3人がベストトリオだっていうの、証明するんです!」
 銃を模したコントローラーを重ねて持ち、自前のヘッドセットで前髪を上げたビロード。
( <●><●>)「……ええ、私たちは誰よりも愛し合っています」
 同じくコントローラーを構え、照準を画面に合わせるワカッテマス。
( ^ν^)「友情を超えた絆……分からせてやる」
 二人の間に座ってブリーフィング終了の文字へトリガーを引けば、勝負が始まる。

20 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:55:00 ID:EdVGtfZE0
選択キャラクター
TEAM RED( ><)…川 ゚ -゚) クール/戦闘スタイル:魅惑の音速ニンジャアタッカー
( <●><●>)…( ´∀`) モナー/戦闘スタイル:鉄壁のマッドフロントアシスト
( ^ν^)…( ^ω^) ブーン/戦闘スタイル:うなれ平手の純情インファイトアタッカー

TEAM BLUE(´・_ゝ・`)…o川*゚ー゚)o キュート/戦闘スタイル:慈愛で見守る執念ヒーラー
从 ゚∀从…(-@∀@) アサピー/戦闘スタイル:遠距離輸液のクレイジーアタッカー
(-_-)…( ФωФ) ロマネスク/戦闘スタイル:あらゆる闇から破壊を描くアタッカー

21 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:55:35 ID:EdVGtfZE0
――( <●><●>)『二人は索敵に回ってください。私は†HEIN†のアサピーかドクのロマネスクと遭遇した方のサポートに回ります』
――( ><)『ニュッ君は合流後は派手に動いて落ち枠使ってください、もし†HEIN†と当たったら多少無理してでも寄ってくれて構わないんです』
( ^ν^)『了解。キュート潰しはビロードに任せた』
 VC用のヘッドセットで状況を索敵情報を共有し、常に互いの状況を把握しながら相手を追い詰めるのが俺達みたいに特定のトリオを組んでいるプレイヤーの常套手段。 サポーター職を使うワカッテマスを司令塔とし、俺達は敵の位置や状況を共有しながら勝率の高い行動を選び勝利を掴む。 ヴンストは単なる個人のプレイヤースキル以上に、判断力と連携が問われるゲーム。 ビロードの『返事はゲーセンで』っていうのは、やっぱりそういうことだろう。

22 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:55:58 ID:EdVGtfZE0
 市街地を模したマップに各々が選んだキャラクターが表示される。 今回は俺がメイン火力、ゲームメイクのイメージとしてはワカッテマスが初動でチームに盾のサポートをかけながらビロードが居残ると厄介な向こうのヒーラーを先に落としに行き、それから高コストのアタッカーを落としながらこっちは生存ベースで回す。向こうのチームは高コストゆえの長期戦を嫌う節があるからそれを逆手にとってヒーラーを重点的に削って息切れを狙い、そこで一気に勝負を決める。
( ^ω^)
 俺の使うキャラクターはブーン。ルーキー向けと見せかけて、スキル構成でどこまでも化ける所と、ネットでいじられ続けてる変なダッシュモーションも気に入ってる。
川 ゚ -゚) ( ´∀`)
 ビロードが使うのはクー。わざわざ課金装備でメイド服スキンにしてるぐらい好きらしい。連射性能のいい魔法攻撃を主体としたキャラクター故の耐久の低さはあるが、それをワカッテマスの使うモナーがカバーしつつシールドをばら撒いて優位を取りながら戦う。 これが俺たちの基本スタイル。

23 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:56:22 ID:EdVGtfZE0
o川*゚ー゚)o 
 続いて敵チームのキャラクターとスキルセットが画面に表示される。
 ピンク色のロリータ服に大きなうさぎを抱きかかえたスキンで現れたのは、大会じゃ「居残りゾンビ」と名高いDemiのキュート。持続回復で自分や仲間の生存力をアップさせながらしぶとく生き残り、火力こそ低いものの各種スキルが厄介なうえに慎重なプレイヤーと相まってただでさえこいつの枠は死んでも残したくないのでいつも真っ先に狙われている。 
(-@∀@)
 真っ赤な称号と共に白衣をたなびかせるメガネのキャラクターは高火力アタッカーを扱わせれば日本、いや世界一と名高い†HEIN†の操作キャラ、アサピー。バカでかいレールガンで敵を一掃するロマンキャラだが、エイム難度の高さからMVPか戦犯のどちらかがアサピーの居場所だ。 ちなみに†HEIN†のユーザーネームの十字はWebでの事前登録者しか使えない特殊記号だからかなりの古参。

( ФωФ)
 そして、初期衣装・初期称号のまま装飾もなく立ち尽くす黒衣のキャラクター、ロマネスク。ただ一つ、初代大会の商品だった赤いプレイヤーカードを携えこの店舗にだけ現れるプレイヤー、ドクが最初期から使い続けるキャラクター。 使い魔を呼び出す遠隔ホーミング攻撃から長時間の詠唱を必要とする必殺級の大魔法を放つピーキーかつ高コストのスキルパックを使いこなすドクに姿に憧れたルーキープレイヤーのせいで、一時期オンラインに地雷すぎるロマネスクがあふれたことすらあった。

24 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 21:59:37 ID:EdVGtfZE0

 それぞれのキャラクターがマップに配置され、3カウントが始まる。ガンコンを構え、照準を確かめる。
( ^ν^)「……やるか」
 カウントダウンが終わり、真っ先に押したダッシュボタン。 
⊂二二二( ^ω^)二二⊃
 俺たちの戦いが、始まった。

25 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:00:08 ID:EdVGtfZE0

 スポーン地点の確認。湧き位置の想定で言えば多分ワカッテマスかビロードが最初に向こうと当たりそうだ。一応周囲の警戒を続けながらダッシュボタンを押しながら合流を目指す。基本的にチームの全員が一か所に固まるのは悪手だが、シールドサポーター込みの編成なら個々のPS(プレイヤースキル)が高いチーム特有のアタッカーが分散する動きを想定すると生存優位の立ち回りにもなる。
――( <●><●>)『ビロードの撃ち漏らしたキュート、落としました』
――(;><)『面目ないです、後ろのアサピーにがっつりやられたんです』
( ^ν^)『おk、アサピーいるならそっち合流する。俺が落ち枠使い切るまでアサピー引き付けるからワカッテマスはシールド撒いて逃げで』
 想定よりも早く交戦は始まっていた。右隣の席に座ったビロードがコントローラーを持った腕を下げたのが目に入る。
――( <●><●>)『わ、っかりました……ちょっ、と早く!走ってます!?』
( ^ν^)『走ってるよ』

26 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:00:36 ID:EdVGtfZE0
 試合が始まって40秒。早々にDemiのキュートを見つけたビロードだったが、俺たちよりも早く合流に成功した†HEIN†のアサピーに背中をぶち抜かれる。ビロードがリスポーンするまでの時間でなんとかアサピーとの相打ちを狙いたいが、その前にワカッテマスが倒されると俺の落ち枠(※)が無くなるので早々に合流したい。

※落ち枠……簡単に言えばこのゲームは決められたコストをチーム内で分け合い、キャラクターは死ぬと割り振られたコストを使用してリスポーンするシステムなので大きめのコストを持った人は早めに一度死なないとリスポーンで回復して仕切り直しとかが出来ないのでつらい。詳しくはそういうゲームのWikiとか見るとわかりやすいぞ。

27 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:01:21 ID:EdVGtfZE0               シールド           ↓(#-@∀@)つ   ((     一二三(つ;´∀`)つ<早く!!早く!!

三三 ⊂二二二(;^ω^)二二⊃<走ってるよ!!!

( ^ν^)『……見えた!』
 ダッシュボタンを握りしめていた左の中指をトリガーに添え、左右のガンコンを並べるようにかみ合わせて照準を目の前のアサピーに向ける。

28 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:01:50 ID:EdVGtfZE0

  \人从i⌒i ○○人__从_人___从人_从人__从_人从_人_从从人_从人/  <    |  |    ( ̄ ̄ ̄}. ( ̄ ̄ ̄ ヽ     / ̄/  ┌┐┌┐ > <     |  .\     ̄)  /    ̄ ̄`l  |  r─'  /    ││││  > <     |  ト-'  __/  〈_  ___j  |  └┐ |.     └┘└┘  >  <   !__ノ   (__人_ノ (___ ノ     .|_j     ○  ○ >  /Y⌒YW⌒Y⌒WY⌒Y⌒YY⌒WYY⌒YWY⌒W⌒WYY⌒YW⌒WY\

29 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:02:30 ID:EdVGtfZE0
 (#)^ω^)∩+           (×∀× ),-@-@

从;゚∀从「クッソ、豚がモロ来やがった! デミ公いったん下がっとけ!」
(´・_ゝ・`)「僕らで2落ちか。ドク、今日は前出ない方がいいかも」
(-_-)「あ……まー、そっか……」
 厚底の靴がシリンダーチェアを蹴る音がヘッドホン越しに聞こえる。しめた。

30 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:02:59 ID:EdVGtfZE0

――( <●><●>)『自爆技であえて特攻を仕掛けてくれるのは分かってました』
( ^ν^)『パッシブの継続回復がダルけりゃ一発でぶっとばしゃ良いんだわ』
 ブーンの高コストパックにのみ搭載された特権、それはダッシュモーションを維持した状態でコントローラー同士を突き合わせるコマンドで発動する突撃技――ライフの三分の一を消費する代わりに当たればほとんどのキャラクターを一撃で落とせるロマン技、ポケモンで言えばはらだいこ一致捨て身タックルだ。 ちなみに俺はこの技でこの店のコントローラーを2回弁償したことがある。

31 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:03:35 ID:EdVGtfZE0
――( ><)『このペースならロマネスクの落ち枠はないはずなんです!』
( ^ν^)『そういやロマネスクってどこに』
――(;<●><●>)『あー! あーー!!』
――(;><)『うえぇ!? ワカッテマス君!?』
――( <●><●>)『……ええと、北西の東京タワー方面にロマネスクで、そこにキュートが向かってます』
( ^ν^)『うまいこと落ちてんの誤魔化そうとすんな』
 画面左下のポップアップがワカッテマスがキルされたことを知らせる。残りコストはビロードかワカッテマスの分のみ。つまり俺の落ち枠は――無し。
( ^ν^)『……やるだけやるしかねー』
――( ><)『ワカッテマス君はニュッ君のサポートを最優先でお願いします、なるべくアサピーと合流される前にどっちかタゲりましょう』
――( <●><●>)『わかりました。ビロードはなるべく動き回って警戒を割いてください』
――( ><)『はいなんです!』

32 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:04:00 ID:EdVGtfZE0

現在の状況
TEAM RED(#)^ω^) 川 ゚ -゚)+ ( ´∀`)←リスポン待ち

TEAM BLUEo川*゚ー゚)o+  ( ФωФ) (-@∀@)←リスポン待ち

33 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:04:29 ID:EdVGtfZE0

一二三川 ゚ -゚)バシューン
 ミニマップに敵性反応はない。カメラボタンを操作して敵の姿が映らないか目を凝らす。ビロードが味方にしか見えない課金エフェクト付きのターボでマップを飛び回るが、ヘッドホンは静かだ。
――( ><)「待ち伏せされてる可能性もあります、そろそろバフ切れもありますし一回合流しますか?」
( ^ν^)「殲滅主義の向こうにしちゃ妙だ、もしかしたらそこ狙いかもしんねー。とにかく俺とワカッテマスで向こうの大魔王をやるしかねえんだ、続けろ」
――( ><)「あいー……あ!」
( ^ν^)「いたか」
――( ><)「いました、キュート! 退いていいですか?」
( ^ν^)「ダッシュで逃げつつ残りの二人も探せ、死なない程度に合流させないようにちょっかいかけろ」
――( <●><●>)「シールドはぎりぎりで掛けます。なるべく前に出るつもりですがこっちも生存優先です」

34 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:05:06 ID:EdVGtfZE0

 マカセルモナー          テッタイヨ  (´∀` )三二一  一二三川 ゚ -゚)
.          ┣¨┣¨┣¨⊂二二二(゚ω゚#)二二⊃==┣¨┣¨┣¨

(-_-)「んー……来た、タンクと豚。忍者は陽動っぽいから隙見てハインが潰して」
从 ゚∀从「チッ、隠密ヘタクソなんだよデミ公! 出損ねたぜ」
(´・_ゝ・`)「こっち優位だから怒らないの」
从 ゚∀从「チキショー、どんどんMVP率が下がるぜ……」

35 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:05:32 ID:EdVGtfZE0
 コントローラーを握る手に熱がこもる。タイムスコアは終盤戦、きっと次に向こうのキャラと顔を合わせて10秒もあればこのゲームの決着が付く。
――( ><)「恐らくもう向こうはロマネスクとの合流が終わってます、死角に気を付けてください」
( ^ν^)「おう、行くぞ」
――( <●><●>)「長期戦は分が悪いです。ニュッ君は私の後ろで最大限温存して特攻を」
(;^ν^)「はあ!? リスキーすぎんだろ! っつうか俺あのロマにドツキ当てたことねーぞ!?」
――( <●><●>)「そんなことは分かってます。でもやってください、そうじゃないと」
――(;><)「そうそ――だっ、ギャ! 逃げ道に思いっきりアサピーが上がってきてます!!」
(;^ν^)「あぁ?!」

36 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:06:00 ID:EdVGtfZE0
从*゚∀从「ギャハハ! モタモタ女みーっけ!」
(-_-)「いくよ……」

爪( ФωФ)∩|⌒l⌒|" ゴゴゴゴゴ……       ⊂二(`ω´ )二二⊃.               ̄  ̄
  (*-@∀@)つf二l____, キュイィイイイ……           一二三川;゚ -゚)

(´・_ゝ・`)「あれ? なんか僕も追いつきそうかも」
从 ゚∀从「おーおー勝ち確じゃねえか。行くぞーデミ公」
( ν )「――バカは――」

37 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:06:35 ID:EdVGtfZE0

(#^ω^)「どっちだお―――!?」
(;-_-)「っ……!?」

38 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:07:18 ID:EdVGtfZE0
  \人从i⌒i ○○人__从_人___从人_从人__从_人从_人_从从人_从人/  <    |  |    ( ̄ ̄ ̄}. ( ̄ ̄ ̄ ヽ     / ̄/  ┌┐┌┐ > <     |  .\     ̄)  /    ̄ ̄`l  |  r─'  /    ││││  > <     |  ト-'  __/  〈_  ___j  |  └┐ |.     └┘└┘  >  <   !__ノ   (__人_ノ (___ ノ     .|_j     ○  ○ >  /Y⌒YW⌒Y⌒WY⌒Y⌒YY⌒WYY⌒YWY⌒W⌒WYY⌒YW⌒WY\

39 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:08:20 ID:EdVGtfZE0
 (#)^ω^)∩+           (×ω× )爪


从;゚∀从「だあぁあああああ?!」
(#^ν^)「っしゃあああああ!!!!」
(-_-)「あ……盾来ると思ったのに、やられた」
(´・_ゝ・`)「あちゃ、油断したなー」

40 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:08:45 ID:EdVGtfZE0

 *TEAM RED WIN!*
 画面にリザルトが表示され、キャラクターの勝利エモートと共にヘッドセットを外す。
「「「っしゃァ!」」」
 歓声と、重なったハイタッチは三人分。
( <●><●>)「じゃあ結婚しましょうか」
( ^ν^)「まじで!?やったー!!」
从 ゚∀从、「ケッ、こっちもなんか賭けりゃーよかったな」
(´・_ゝ・`)「なんか結婚とか言ってるけどね」
(-_-)「……いいな、青春」

41 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:09:06 ID:EdVGtfZE0僕らの友情はオフラインのようですおしまい

42 : ◆roNfE3pWAc [] :2024/04/28(日) 22:10:00 ID:EdVGtfZE0あーすいません1レス目にオレンジ祭りでしたと記載するのを忘れましたオレンジ祭り登場作品です

43 :名無しさん [↓] :2024/04/29(月) 01:13:20 ID:sTtNScVk0乙乙>そのキッスの輪の中に俺を入れろよ。えっ!?ってなってニュッ君の気持ちがピュアで癒やされたと思ったらなんかバトル始まっちゃうしでもう最高だった式には呼んでくれよな!

44 :名無しさん [↓] :2024/04/29(月) 12:15:44 ID:72wQiDyQ0

45 :名無しさん [↓] :2024/05/06(月) 17:07:12 ID:kgKMwfVg0みんな可愛い着地点そこでいいのかと一瞬驚いたけど、この三人組にならよく似合った関係だと思った