リンク: Research Home|真核生物大系統の推定|翻訳伸長因子の進化 | オルガネラ進化|分子系統解析の方法論
真核生物の進化には、ミトコンドリアや色素体(葉緑体)などのオルガネラの獲得が大きく影響しています。
我々は真核生物の進化にオルガネラ獲得がどのように影響を与えたかを推測するため、オルガネラアゲノムや核コードのオルガネラ遺伝子を研究しています。
Lepidodinium属渦鞭毛藻類の研究
多くの光合成性渦鞭毛藻類は、クロロフィルaとcに加えペリディニンという特殊なカロチノイドを含む葉緑体を持っています。この「ペリディニン型」葉緑体は、細胞内共生した紅藻類を起源とすると考えられ、「2次葉緑体」と呼ばれています。ところが、渦鞭毛藻類の中には、ペリディニン型ではない葉緑体をもつ種があります。これらの渦鞭毛藻類は、もともと持っていたペリディニン型葉緑体を、細胞内共生を通してべつの藻類の葉緑体と取り換えたと考えられています。
我々は特に、Lepidodinium属渦鞭毛藻類のクロロフィルaとbをもつ緑色葉緑体の起源を詳細に研究しています。
Takishita et al.(2008)で行った8個の葉緑体遺伝子データに基づく解析では、Lepidodinium葉緑体はプラシノ藻類には近縁となりませんでした。その代わり、Chlorophytes、Trebouxiophytes、Oltmannsiellopsisと強くグルーピングしました。
この解析での問題点は、Chlorophytaの多様性を十分にカバーしていないことです。特にプラシノ藻類は多系統であるるにもかかわらず、2種しか解析データに含まれていません。従って、Lepidodinium葉緑体がどのような緑藻に由来するのかを調べるためには、よりChlorophytaの多様性、特にプラシノ藻類の多様性をカバーした系統解析を行う必要があります。
また、この葉緑体交換の過程で渦鞭毛藻類核ゲノムにどのような変化が起こったのか、退化緑藻核が残存しているか否か等を研究しています。
フォルニカータ生物群の系統解析
エクスカバータに含まれるフォルニケータ生物群は、酸素呼吸を行うミトコンドリアを持ちませんが、その痕跡器官を保持しています。これはフォルニケータ生物群の祖先細胞が嫌気環境に適応した結果、本来持っていたミトコンドリア機能のほとんどを失い「退化」した姿だと考えられています。
我々は、フォルニケータ生物群のミトコンドリア痕跡器官がどのような機能を持つのかを、核コードミトコンドリア遺伝子の網羅的探索から推定しようと試みています。しかし、これまでの研究ではフォルニケータ生物群の多様性は十分に把握できておらず、新奇フォルニケータ生物種の探索と系統関係の推測を主に行っています。
TKB055株のミトコンドリアゲノムシークエンス
エクスカバータに含まれるディスコバ生物群は「祖先型」ミトコンドリアゲノムをもっています。例えばディスコバ生物群・ヤコバ類に含まれるReclinomonas americanaのミトコンドリアゲノムの遺伝子数は、これまで知られているどのミトコンドリアゲノムよりも多い事が知られています。我々は、ディスコバ生物群に属する新奇真核微生物を培養しており、このミトコンドリアゲノムの完全配列決定を目指しています。この新奇生物種ミトコンドリアがR. americanaよりも多くの遺伝子をコードしている場合、真核生物系統樹の「根元」に最も近いと推測できます。
珪藻細胞内における窒素固定オルガネラspheroid bodyの研究
エピテミア科珪藻類には、spheroid body(SB)とよばれる細胞内構造が存在します。これまでの研究により、珪藻細胞内に共生したシアノバクテリアがSBに変化したと考えられ、この構造体は窒素固定を行っていると考えられています。我々はエピテミア科珪藻類のSBの進化的起源と窒素固定能を研究しています。
その他のミトコンドリアゲノムシークエンス
ハプト・クリプト生物群やストラメノパイルのミトコンドリアゲノムは、これら生物群内の系統関係を解明するためのマーカーになると考え、このグループに含まれる生物種からのゲノムシークエンスを目指しています。