Abstracts

日本分子生物学会 第28回

Assessing evolutionary position of red algae by multigene phylogenetic analyses: Are red algae and green plants genuine sister-groups?

アサクサノリなどを含む紅藻類は日本人の生活中で卑近な光合成真核生物であり、紅藻類の1種Cyanidioschyzon merolaeの核ゲノムの完全配列さえも決定されている。それにもかかわらず、真核生物系統樹における紅藻類の進化的位置は確定されていない。一般に、紅藻類・緑色植物は互いに最も近縁であり、共通祖先の真核細胞がシアノバクテリアの共生を通じて葉緑体を獲得したと考えられている。実際、翻訳伸長因子2(EF-2)配列の系統解析では紅藻類と緑色植物の近縁性が強く支持される(「紅藻類+緑色植物」説1)。ところが、翻訳伸長因子1?+チューブリン+アクチン配列に基く複数遺伝子データ解析では紅藻類と緑色植物の近縁性は全く支持されず、オピストコンタ・アメーバ(Op-Am)類との近縁性を示唆している(「紅藻類+Op-Am類」説2,3)。我々は、24遺伝子・10,000アミノ酸座位以上を含む巨大アライメントデータを作成し、最尤法により紅藻類の進化的位置を探索した。生成可能な全945樹形の尤度を網羅的に計算した結果、「紅藻類+緑色植物」説が強く支持されたが、紅藻類・Op-Am類間の近縁性も否定できなかった。興味深いことに、配列データからEF-2を除いた解析では紅藻類・Op-Am類間の近縁性を支持する樹形が最尤系統樹として選ばれたが、「紅藻類+緑色植物」説との対数尤度差10ユニット以下であり、2つの仮説が拮抗する結果となった。一方、EF-2とチューブリン配列を除いた解析では「紅藻類+緑色植物」説が再度強く支持される結果となった。我々の解析から、(i)チューブリン配列以外の配列を用いた解析では「紅藻類+緑色植物」説が強く支持されること、とくにEF-2配列を取り除いても結果が変わらないこと、(ii) 解析した遺伝子の中でチューブリン配列のみが「紅藻類+Op-Am類」説を強く支持することが明らかとなった。従って、紅藻類と緑色植物は真の姉妹群であると考えられる。

第5回クラミドモナスワークショップ

紅藻と緑色植物は真の姉妹群か?: 24遺伝子配列連結データによる解析

真核生物系統中において、紅藻類と緑色植物の関係はいまだに確定されていない。翻訳伸長因子2(EF-2)配列の系統解析は紅藻類と緑色植物の近縁性が強く支持される(「紅藻類+緑色植物」説)。ところが、翻訳伸長因子1α+tubulin+actin配列に基づく複数遺伝子データ解析は紅藻類と緑色植物の近縁性を支持せず、オピストコンタ・アメーバ類との近縁性を示唆している。我々は、24遺伝子・10,000アミノ酸座位以上を含む巨大アライメントデータを作成し、最尤法により紅藻類の進化的位置を探索した。紅藻類と緑色植物をふくむ7つの真核生物大グループ間で生成可能な全945樹形の尤度を網羅的に計算した結果、「紅藻類+緑色植物」説が強く支持された。使用した各遺伝子の進化情報を詳細に解析したところ、「紅藻類+緑色植物」説を極めて強く支持することが分かっていたEF-2に加え、αチューブリン(Tba)、βチューブリン(Tbb)の進化シグナルが他の遺伝子にくらべ大きく離れていることが判明した。そこで3つの遺伝子を排除し解析を行ったが、再度「紅藻類+緑色植物」説を支持する結果となった。また、Tba・Tbb配列はオピストコンタ類(多細胞動物+菌類)とディプロモナス類・パラバサリア類を強く結びつけるアーティファクトを引き起こすことが判明した。本解析の結果は、一貫して紅藻類と緑色植物との単系統性を示唆するものである。今後、真核生物大系統(「紅藻類+緑色植物」説のさらなる検証を含む)を精度良く探索するには、(i)より大きな連結データを作成すること、(ii)EF-2やtubulin等の「ハズレ者」遺伝子をシステマティックに検出・排除すること、が必須であると考えられる。