ハナバチ(仔の餌として花粉や花蜜を利用するハチの仲間)の多くは、昼間は繁殖活動や採餌活動に専念していますが、夜にはほとんど活動をしていません(夜行性の種を除いて)。高度な社会性をも つ、ミツバチやマルハナバチ、ハリナシバチや一部のコハナバチは、日が傾くころになると、自分たちのコロニーの巣に戻り、夜を過ごします。一方で、単独性ハナバチのメスでは、営巣のために掘ってい る途中の穴や、越夜用の穴に潜り込んで一夜を明かします。社会性ハナバチの場合、オスはワーカーや女王と共に巣で越夜することができますが、単独性種のオスはメスが掘っている巣穴に入れてもら うことはできません。そのため、自分で夜を過ごせる場所を探すことになります。単独で越夜する個体もいますが、いくつかの種ではオス同士が一か所に集まって集団を形成し、夜を過ごす習性が知られ ています。この越夜集団を形成する習性は、ハナバチ以外にもカリバチの仲間でもみられます。夕方になると、枯れ枝や長く垂れ下がった葉に、大顎でかじりついているオスたちを見ることができます。彼 らは翌朝になるとその場を離れていき、再び夜になると同じ場所に戻ってくることが知られています。
これまで、このような睡眠のための越夜集団はオスのみが形成すると思われてきましたが、私は、南西諸島に生息するミナミスジボソフトハナバチを観察したところ、オスメス混在集団やメスのみの集団を 発見しました。「単独性種」がこのような集団を形成することは、コロニーを形成する「社会性種」の進化を考える上で非常に興味深い習性です。現在、本種を含むフトハナバチ属に着目し、集団の離散形 成メカニズムや、枝を咥えて眠る体勢を支える大顎の形態を種関比較することで、この不思議な睡眠集団の謎を解明しようとしています。
このような集団越夜行動は、ハチの仲間以外にもマダラチョウの仲間やトンボの仲間で知られています。日本では、リュウキュウアサギマダラがこのように集団で越夜(もしくは越冬)し ているのを見ることができます。
しかし昆虫類全般でみても、越夜習性や行動に関する研究はまだまだ少なく、これからも面白い発見が期待されます。
Tomoyuki Yokoi and Mamoru Watanabe.
Sharing of overnight site with Amegilla florea urens and Notocrypta curvifascia curvifascia in Iriomote Island. 中国昆虫 (2014) 27, 23-24.
Tomoyuki Yokoi and Mamoru Watanabe.
Female-biased sleeping aggregations of Amegilla florea urens (Hymenoptera: Apidae). Entomological Science. (2015) 18, 274-277.
Tomoyuki Yokoi, Naoto Idogawa, Tatsuro Konagaya, Mamoru Watanabe
The non-use of sleeping substrate by the sympatric bees, Amegilla florea urens and A. senahai senahai (Hymenoptera: Apoidea).Entomological News. Volume 126, pp138-143, (2016)
Tomoyuki Yokoi, Naoto Idogawa, Ikuo Kandori, Aoi Nikkeshi, Mamoru Watanabe
The choosing of sleeping position in the overnight aggregation by the solitary bees Amegilla florea urens in Iriomote Island of Japan. The Science of Nature (Naturwissenschaften) (2017)
ミナミスジボソフトハナバチのオスの越夜集団(5月頃に出現)
メスの越夜集団(6月頃に出現)
葉を大あごで咥えながら、寝る体勢をとる