ミツバチに代表される昆虫類による農作物の花粉の授受は、生態系から人類にもたらされる重要な恩恵の一つです。人間の利用する全農作物の約75%は昆虫による送粉を必 要とし、このサービスを金銭に換算すると、全世界で年間約18兆円にのぼると推定されます。またミツバチは花粉の授受以外にも、ハチミツや蜜ろう、プロポリス、ローヤルゼリーと いったさまざまな生成物を我々人類に提供しており、貢献度が非常に高い昆虫です。
一般的に、ミツバチがもたらす効果は有用な側面が取り上げられることが多いのですが、ニホンミツバチによるレタス食害行動が近年、全国で相次いで報告されています。食害を 受けたレタスは正常に結球しないため、出荷に適した品質を維持できず、生産農家にとって深刻な影響が懸念されています。レタスはミツバチにとって非蜜源植物であり、訪れても 花蜜や花粉を採餌するわけではありません。セイヨウミツバチではプロポリスを作るために原料となる植物をかじる行動が知られていますが、ニホンミツバチはプロポリスを作らない ため、植物をかじる必要がありません。レタスかじり行動については、私が発表した観察報告(横井2005)だけしか存在せず、いまだに謎に包まれています。
私は現在、なぜニホンミツバチがレタス(非蜜源植物)を齧るのか、レタス含有成分がどのような効果を本種にもたらすのかについて、行動や生理的側面から解明を進めていま す。
レタスをかじっている最中の個体
かじられた箇所は黒く変色する。
秋時期のレタス畑
横井智之
レタスをかじるニホンミツバチ.ミツバチ科学, 26号 (3), pp98-100. (2005)
Tomoyuki Yokoi
Visitation and gnawing behavior of Japanese honeybee Apis cerana japonica to lettuce. Apidologie. Volume 46, pp489-494, (2015)
横井智之・田中千聡
ニホンミツバチによるレタスかじり行動の実態解明にむけて 昆虫と自然.52巻第8号,43-45, (2017)