花粉や花蜜を餌としている昆虫にとって、花の上はえさ場であると同時に、クモのような危険な捕食者が潜んでいる場所でもあります。そのため、それぞれの昆虫は、捕食者に対する回避・ 防衛戦術を持っていると考えられます。訪花昆虫の中で、ミツバチのような色彩や形態を持つハナアブの仲間がいます。その中でも、ホソヒメヒラタアブやミナミヒメヒラタアブといったハナアブなどは、体サイズも小さく、ハナ バチのように針を持っているわけでもありません。 面白いことに、これらのハナアブは花に着地する前に、前後にホバリング運動を行なっています。なかなか着地しないため、これを「ためらい行動」と呼びました。
観察してみると、このためらい行動は、ハチは行なっておらず、一部のハナアブだけが見せることがわかりました。私はこの奇妙なためらい行動が、捕食者回避のための行動であると考えて 実験を行いました。その結果、ホソヒメヒラタアブやミナミヒメヒラタアブは、花の上にカニグモ(捕食者)がいる時には、このためらい行動の回数が少なくなり、花を避けていました。つまり、これらのハナアブは花の上に捕食者がいるかどうかを判断するために、ためらい行動をすることがわかったのです。
今は、見た目は同じ「ためらい行動」でも、捕食者回避とは別の意義を持つ可能性がありそうなハナアブの行動や、ためらい行動の回数が捕食者からの攻撃を受けることによって変化するの かといった学習効果についても調べています。
Tomoyuki Yokoi and Kenji Fujisaki.
Hesitation behaviour of hoverflies Sphaerophoria spp. to avoid ambush by crab spiders. Naturwissenschaften, Volume 96, pp195-200. (2009)