1. 開催日時 平成30年5月12日 14時~17時
2. 会場 奈良教育大学講義棟 201号教室
3. 参加者 計52名
4. 発表者からの発表 司会 今野勝幸(龍谷大学)
実践報告
“How Juku has been involved in teaching English in japan”
富田房敬(京進 / 名古屋学院大学院生)
1990年代から塾における英語授業の変遷について、また今後の塾での授業のあり方に関しての報告が行われた。1990年代においては、Direct Methodの普及に伴い「翻訳しない」、「視覚教材を使う」、「場面別の学習」といった考えのもと授業が行われ、続いてCommunicative Language Teachingの広がりに伴い、コミュニケーション活動を取り入れた教科書の作成が行われ、授業でコミュニケーションが取り入れられた。また、Multiple Intelligence(多重知能)理論を基にしたMIシートを導入し、一人一人の児童・生徒に適した授業づくりが心がけられてきた。現在は小学校での英語教科化に伴い、新しく作成した内容重視の教科書を使用した授業が行われている。一般的に受験勉強に特化したと考えられる「塾」においても、学校外で児童・生徒が実際に英語を話す力を伸ばそうと研究・改善が行われていた。
研究・実践報告
“Dilemmas faced in learning to teach English in Japanese Junior High Schools”
James Hall(岩手大学)
本発表は長期間参画した授業をethnographic approach(民族誌学的アプローチ)という研究手法を用いて分析した3人の中学校英語教師の「ジレンマ」について報告が行われた。18カ月間実際の教室や生徒の様子についての記録や授業のビデオ、そして授業者へのインタビューをもとに、主に2人の教師(教員A・教員B)の授業を分析した。どちらの授業も中学1年生を対象にした授業であり、ターゲットとなる文法は比較的容易なものであったが、授業に対しての生徒の取り組みは全く異なるものであった。教員Aは、文法事項や教科書の活動1つ1つに時間をかけ、丁寧に扱っていた。そのため、十分に理解できている生徒や集中できていない生徒は注意が散漫としていた。一方、教員Bは文法事項を比較的簡単に扱い、教科書活動もスピーディーに扱っていた。教員Bは、生徒が実際に英語を使う「場面」を意識し、英語を使う機会が与えられていた。どちらの教員もPresentation-Practice-Productionに基づいた授業を組み立てられていたが、授業の様子は全く違うものであった。長期的な授業分析は授業を俯瞰的に見ることができ、教室環境で起こっている事象に対してのアプローチを検討するために効果的であると考える。
発表資料
ワークショップ①
“English lessons in English: Small Talk and Gestures”
佐藤臨太郎(奈良教育大学)
高校の学習指導要領で「英語の授業は英語で行う」と規定され、中学校においても今後「英語」で行うことが求められる。では、なぜ英語の授業は英語で行うべきなのか。発表者は1)生徒が英語を話すため、2)言語の学習(習得)が起こるための多量のインプットを与えるために、英語の授業は英語で行われるべきとした。英語を話すのは生徒であるべきであるから教師はあまり話さない方がいいと考えられることもあるが、生徒に英語を話させるためにもまずは教師が使う英語を増やすことが大切だと強調されていた。英語で英語の授業を行うための手段として、Small TalkとGestureの効果的な使用が提案された。Small Talkを行う際には、1)面白く、2)授業の内容に関わっていて3)生徒とのインターアクションがあり、4)理想としては前時もしくは本時のターゲットとなる文法が含まれるものにする。Gestureには主に発話者の発話を促進したり、話者の理解を促進させたりする働きがある。Gestureは意識して使うこともあれば無意識のうちに使うこともある。英語で授業を行うためにGestureの役割を知っておくことは効果的であると言える。
ワークショップ
“Let your students enjoy sounds and rhythm of English!”
笠原究(北海道教育大学)
本ワークショップでは、英語の1)個別の音、2)単語レベルの音、3)文レベルでの音、4)音の変化について、児童・生徒が楽しみながら正しい発音を身につけることができる活動の紹介があった。”r”や”f”の個別の音を身につけるために、 (靜, 2006)に基づく「English あいうえお」の活用が提案された。児童・生徒が違いに気付きにくい”s”と”∫”の音については練習をしたうえで早口言葉で練習することも出来る。次に、単語レベルの音を身につけるために、音節(syllable)を意識させた練習方法「ポンポンパターン」の紹介があった。文レベルでの発音指導として、日本語のようにすべての音節に同じ強勢を与えるのではなく、英語では等間隔に強勢が与えられることに慣れさせることが大切である。ナーサリーライムズや早口言葉を練習に用いることも出来る。音の変化に関しては、音の結びつきにより音が変化することを意識させるために英語の歌(Hey Jude!) の活用が提案された。参加者全員でそれぞれの発音練習を体験することができたため、楽しく有意義なワークショップとなった。
5. 会を終えて
私自身、教員になって初めて参加する研究会であるということもあり、参加する前からとても楽しみにしていた。今回の研究会では、塾での実践や長期間の授業観察をふまえた授業分析といった私自身にとってはとても新鮮なテーマで実践&研究発表が行われた。ワークショップでは再度、インプットを与えることの大切さだけではなくどうやってインプットを与えるのか考える機会となった。また単純で飽きてしまいそうな発音指導を楽しく効果的に行うための練習を実際に体験することができた。それぞれの発表やワークショップの最中に、「自分の授業に1つでも多く取り入れよう」と思うことの連続であった。研究会をとおして今回もたくさんのことを学ぶことができた。ありがとうございました。
東川裕基(近畿大学附属高等学校非常勤講師)