論文名 労働に歓喜するドイツ青年4

初出 大阪朝日新聞昭和11年6月11日

見出し シャベルこそは国家興隆の原動力 労働に歓喜するドイツ青年

注意:

1. 新字体 旧仮名づかい 旧送りがなつかいとした。

2. 作業中につき 引用に注意

3. 民族差別の内容を含みます。

国家労働奉仕軍の経済的貢献

すでに述べたるが如く、国家労働奉仕軍は次の時代を背負うて立つ青年の精神的、肉体的訓練を行ひ、学校の教育、軍隊の訓練のなし得ないところを補ひ、もってドイツ精神に燃ゆる有為の国民を養成するにあるが、同時にその無報酬の労働により、ドイツ国家の窮乏を救ひ、経済的発展の根源たる農業生産力の増進を行ひ、国民に真の自由とパンとを与へようとするのである。

農業が国の基であることは古今東西の通用語であるが、今日のドイツほどこれに痛感している国民はない。私は今回の外遊において日本が何故に発展し、貿易市場を支配しうるかを十分に理解することが出来た。日本の農業は自然の事情にも恵まれているが、更に国際経済より全く超越し、農民が資本主義的営利心を離れ、労働に対してスポーツの如く熱中してゐることが、外国に見出し得ない強みである。およそ世界中の国民で日本人くらゐ安い米と安い野菜、果物、肉類、卵類を食してゐるものがどこにあるか、工場の労働者が安い労賃で働き。いはゆるソシャル・ダンピングをなし得るゆゑんのものは、この第一義的なる生活資料の低廉に存するのである。

これに反し、独逸人は食糧の獲得については誠に気の毒な状態にある。バタもパンも卵も自給自足できないのである。大戦前から食糧は外国から輸入してゐた。それが大戦後は賠償金の支払その他の理由によって十分に輸入することが出来なくなったのであるから、常に食糧は缼乏がちである。殊に領土が少くなり、国内だけでも約百万ヘクターの耕地を失ったのである。ゆゑに最近の食糧缼乏をもってナチスのアウタルキーの暴政によるものとするは事実は知らないものゝ議論である。実際食糧は欠乏して高価である、鶏卵の如きも多くはデンマーク、ハンガリー、フィンランドよりの輸入品であるが、日本貨にして一個十四五銭である。地玉は五十銭もする。他は推して知ることが出来よう。

右の如く食料を欠乏せることはいかに忍耐強きドイツ国民といへども生活上の不安とならざるを得ぬ。ゆゑにもしドイツ国家が更に発展しようとするならば何よりもまづ食料の増加を計り、国民の日々の生活を安堵せしむるのほかはない。農業復興(Reagraelsicrung)が朝野に高調せらるゝのは当然である。そのためには国民をして農業の重要性を理解せしめ、また耕地の拡張改良を計り、内地植民を断行するのほかはない。しかしこれは到底一個人のなしうるところでなく、殊に財政、経済方面の窮乏せる折柄であるから、国家も個人も従来の利廻り計算よりしては実行出来ないことである。この不可能を補うために国家労働奉仕軍は重大なる貢献をなしつゝある。ドイツ国内には今日なほ八百万ヘクター以上の土地が不可耕状態にある。これを労働奉仕軍の精神的訓練の副産物として可耕地とし、或は不良の耕地を改良しようとするのである。目下の計画では数年のうちに三百万ヘクターを開発する予定である。これが完成すれば、年々増加しつつある人口を暫らく養ひうるのである。もしこれが実現出来れば今日の人口約六千七百万人であるが、優に八千万人となりうるであらう、その時こそは世界が戦慄する時である。ドイツ人はこれを信ずるがゆゑに、大なる犠牲を払ってこれが実現に精根を打ち込んでいるのである。

昨年十月より本年の三月末までの労働奉仕はその大部分が農地開発、林業労働、農業及び産業労働に向けられている。僅か半歳の実績ではその成果の如何を論断することは出来ないけれども、過去における任意奉仕労働に徴して今後の発展は明かである。いはんやこれに参加せる青年が、真に労働の本義を解し一瞥もってシャベルをふるうことによって国家の基礎が一つ一つ積み上げらるゝを感激しつゝ享栄してゐるにおいては。

紙上筆をもってドイツ国家労働奉仕軍のことをものするも恐らくは読者は何らの感激を持ち得ないであらう。しかし私は眼のあたり青年の労働現場を見た。それは日本の専門の野外労働者でもなし得ないと思はれるほどの労役である。しかも顔面に笑をたゝえつゝ愉快に従事してゐる青年軍を見た時、私は他の国のことながら眸のおのづからうるほふのを知らなかった。私は羨望と感激にうたれたのである。更に三月二十二日の日曜日にドイツ全国の労働奉仕軍の除隊兵二十万人がベルリンに入城して来た。私はこれをチウエンチン街ケデヒンスキルへの前に迎へた。その厳粛にして隊伍整然たる行進を見、その肩にするシャベルの耀くのを見て凱旋する「真の平和の戦士」の前には頭の下がるを覚えた。

私はドイツの国家労働奉仕軍の制度をもって直に我国に輸入しようとするものでもなく、またする必要もあるまい。しかしこの貴い精神、国家のために労働を歓喜するドイツ青年の雄々しきこの姿が日本の青年諸君となることを念願してやまない。誠に国家の興隆は青年が労働に歓喜するところにおいてのみ見出し得るのである。=カットの写真はニュルンベルグでヒットラー総統の前を労働奉仕軍の行進=完=

(当時の紙面 pdf)

(6月7日 6月8日 6月9日 6月11日)