論文名 労働に歓喜するドイツ青年2

出典 大阪朝日新聞 昭和11年6月8日

見出し 平和の武器"シャベル" 国民の栄誉"労働" 労働に歓喜するドイツ青年 2

著者 黒正巌

注意:

1. 新字体 旧仮名づかい 旧送りがなつかいとした。

2. 作業中につき 引用に注意

3. 民族差別の内容を含みます。

ナチスの主義、綱領、行動については多くの論難せらるべき点があるが、しかもナチスが極めて短日間の間にドイツを絶対的に支配するやうになる理由は先にも述べたやうに、ナチスが労働精神の尊重を高調することと、ドイツ国民の労働精神とが相対したこと、及び多年の社会民主主義的政治が国難の打破をなし得なかったことに存すると思ふ。勿論ヒットラーが天下に号令するやうになってからも財政経済状態は中々よくならないし、食糧の供給も円滑ではない。不平分子も多くあるが、しかしナチスは容易に権力を失墜するとは思われぬ。ドイツ国民はこと茲に至ってはいかんとも出来ないからとに角ヒットラーを押し建て、国民が一致団結して行くところまで行かうと決心しているものゝごとくである。

だから去る三月二十九日に行はれたヒットラーに対する信任投票は九八・八八%といふ世界記録を作ったのである。かくの如くヒットラーが国民大多数の信任を博しうる所以は、国民の欲求するところを着々と勇敢に実行したからである。いかなる政治家といへどもその主張を全部実行することの困難なることは今更いふを要しないが、一歩でも前進するを得れば国民は納得する。殊にドイツ国民のごとく十余年の間、経済苦痛を嘗め、藁一本でもつかまうとする状態にあっては、国民はすべて感激をもって政治上の指導者を支持せざるを得ない。私は過日の信任投票日の前後の模様を親しくベルリンにおいて目撃し、ドイツ人が宗教に対するがごとき感激と真剣さをもって政治にのぞんでゐるのを看取した。政治ばかりではない、ドイツ人何にあれ、国家的感激をもって事を処している。ここに述べようとする国家労働奉仕の如きは、国民が国家的感激なくして到底実行しうるはずはないのである。

ナチスが新に実行した制度は少くないが、昨年十月より実施せらるゝに至った国家労働奉仕制(Reichsarbeitsdienst)世界の労働史上、国家制度史上その比を見ないものであって、それは☆に青年に対して国家精神の涵養、労働精神の体得といへる国民訓育上の問題たるに止らず、将来国家の財政経済の指導原理に対し大なる変革を賷すものであると思ふ。最近この制度を研究するものも少くなく種々の方面から研究されてゐるが私は右の第二の意味に於て頗る☆大視すべきものであると信ずる。

国民が労働をもって国家に奉仕し、国家の発展に貢献すべきものであるとの精神はドイツ国民には古くから存在するところである。それは中世においても種々の形において実現され、かのフリードリッヒ大王のごときもこの国民の労働奉仕精神を利用して各地の開発を行ひ、農業を発展せしめドイツ興隆の基礎を作ったのである。殊に世界大戦後の大インフレーションによりドイツ国民は貨幣のナンセンスと錯覚とを了解し、結局人生の幸福はその需要を直接に充足するにあることを発見した結果、農業労働を根源的に重要なることを痛感した。

ここに於てナチスに属する人人は郷国の土地に有為の青年を定着せしめ、血と地(Blut und Boden)を守るべしと主張するに至った。シャベルの労働はドイツ国民の守護であり、青年の栄誉の奉仕とされた。この思想が発展して国家労働奉仕の実施となったのである。故に昨年六月に発布された国家労働奉仕法の第一条第一項には「国家労働奉仕はドイツ国民に課せられたる栄誉の奉仕である」と規程してゐる。また労働奉仕者のモットーとして「我らのシャベルは平和の武器なり」を高調し、しかもそれは単なる口頭禅に非ずして、現実に労働奉仕隊を就役するものはこれを確信し、これを絶叫し、労働奉仕隊に入隊することをドイツ国民の真の栄誉と考え、敢然としてこれに参加し、前途に耀しき光明を認めてゐることは、私の接見したるドイツ青年にして已に任意制度時代に奉仕を終了したる人の心からなる告白であり、またナウェン附近における労働奉仕隊の男子部および女子部を視察したる際の見聞に徴して明かである。

なおこの国家労働奉仕は国家社会主義の精神において行われ、国民共同体、真正の労働観念、手仕事の尊重を根本義とし、常に共同利用的労働の遂行を旨とし、従って同胞精神(Kameradschaft)の涵養を頗る重要視している。同胞精神はナチスにおいては非常に大切なものとされ、国民共同体は同胞精神の拡充によってのみ健全なる発達をみるものとし、今日のドイツでは、常にカメラードなる言葉が耳につく状態である。

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