五
私は国家労働奉仕隊の就役する現場を視察し、その苦しき
労役に於て青年が欣然として労働する様を見、又彼等の語る
国民的意気と感激とを聞き、強く心に打たれたのである。又
三月二十二日第一期に奉仕終了者二十萬人が各地より伯林市
に入場する大行進を見た。伯林西部の大通タウエンチン街に
之を迎え、その隊伍整然、一歩乱れずして行進する雄々しき
姿をのぞみ、その肩にする輝かしきシャベルを見て、真に
「平和の戦士ここにあり」と絶叫せざるを得なかった。
私は人後におちざる日本主義者、国粋主義者である。徒ら
に独逸のものを礼賛するものではない。故に直ちに以てこの
独逸の国家労働奉仕制を日本に移入しようといふのでもなく
又之を移入するの必要もなからう。併しこの労働奉仕制の深
底を流るる貴き精神には、外国の事ながらおのづから敬虔の
念を禁ずる事が出来ないのである。労働を以て国家に奉仕し
以て国家の発展興隆に寄与せんとする熱烈なる国家精神を以
て、独逸国民は、物質的苦痛のどん底にあえぎ乍らも国家復
興の為めに努力しつつある。私はナチス制下に於ける独逸国
民の諸運動特に国家労働奉仕制を眼のあたりに見て誠に感激
に耐えなかった。遙かに祖国をのぞみて深く反省する所があ
った。重ねていふ、かくの如き国家精神労働精神の亡びざる
限り独逸国家は断じて亡びない、而して益々興隆して十年の
後には欧州の諸国は恐怖と戦慄に襲わるるであらう。
(了)