連星ブラックホールからの重力波による

一般相対論の多角的な検証法の確立

(16K05347)

科学研究費助成事業データベース内:https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-16K05347/

連星ブラックホール周りの降着円盤から

Circumbinary Disk Accretion into Spinning Black Hole Binaries

Federico G. Lopez Armengol, Luciano Combi, Manuela Campanelli, Scott C. Noble, Julian H. Krolik, Dennis B. Bowen, Mark J. Avara, Vassilios Mewes, Hiroyuki Nakano

Astrophys. J. 913 (2021) 1, 16 (2021)

連星ブラックホールの情報を得る方法は,重力波だけではありません.単体のブラックホール(特に銀河中心にある巨大質量ブラックホール)周りの降着円盤からの電磁波放射は,我々にブラックホールの情報を(間接的にですが)もたらします.連星ブラックホール周りの降着円盤のシミュレーションを行うために,簡単ですが相対論効果をフルに取り入れた時空を構成しました.

28.連星ブラックホールからの重力波をどう取り扱うべきか?

Scope out multiband gravitational-wave observations of GW190521-like binary black holes with space gravitational wave antenna B-DECIGO

Hiroyuki Nakano, Ryuichi Fujita, Soichiro Isoyama, Norichika Sago

Universe 7 (3), 53 (2021)

連星系のパラメータ決定精度が悪い.軌道離心率が入った時にどうなるのか?相対論の検証方法として,何が適切なのか?まだまだすることはたくさんあります.GW190521を例として現状をまとめ,今後進めるべき方向を模索しました.「インスパイラル・リングダウン無矛盾テスト(?inspiral-ringdown consistency test)」をお勧めします.

27.ブラックホールなのか?中性子星なのか?別のものなのか?

Formation of mass gap compact object and black hole binary from Population III stars

Tomoya Kinugawa, Takashi Nakamura, Hiroyuki Nakano

PTEP 2021 (2021) 2, 021E01

GW190814の連星系の軽い方の天体は太陽質量の2.59倍のコンパクト天体です.よくある中性子星の質量は太陽質量の1.4倍,よくあるブラックホールの質量は太陽質量の5倍以上,ということで,なかなか不思議な質量帯「(lower) mass gap」に属しています.初代星の連星進化から,この連星系が作られるかを議論しました.

26.普通には作ることができないブラックホール?

Formation of Binary Black Holes Similar to GW190521 with a Total Mass of ~ 150M_sun from Population III Binary Star Evolution

Tomoya Kinugawa, Takashi Nakamura, Hiroyuki Nakano

Mon. Not. Roy. Astron. Soc.: Letters 501, L49-L53 (2021)

重力波の観測が進んでくると,今まで観測されていなかった質量のブラックホールたちが見えてきます.このGW190521は,恒星質量ブラックホールとしては重い質量のブラックホール2つの合体から生じた重力波です.合体後の質量から中間質量ブラックホールと呼ばれるこれもまた未知の天体が出来上がっています.連星系をなしていたブラックホールはいかにできたのか?軽い質量のブラックホールが合体してできた説と,初めから重い質量のブラックホールがあった説があります.後者に関して初代星の連星系進化から議論を行いました.

25.連星ブラックホールの起源は何なのか?

Chirp Mass and Spin of Binary Black Holes from First Star Remnants

Tomoya Kinugawa, Takashi Nakamura, Hiroyuki Nakano

Mon. Not. Roy. Astron. Soc. 498, 3946-3963 (2020)

初代星(Population III)は魅力的な天体です.この天体からなる連星系の進化によって連星ブラックホールが形成されると,現在観測されている重力波イベント(特に重力波初観測イベントGW150914のような質量を持つもの)の多くを説明することが可能です.今後の重力波観測で,より遠くからの重力波から情報を得られれば,より詳細にその天体の起源,さらには宇宙初期に迫ることができます.

24.第5次観測(O5)におけるKAGRAの観測に期待!

Black hole spectroscopy for KAGRA future prospect in O5

Nami Uchikata, Tatsuya Narikawa, Kazuki Sakai, Hirotaka Takahashi, Hiroyuki Nakano

Phys. Rev. D 102, 024007 (2020)

ブラックホールが形成される際に放射されるリングダウン重力波は,現在の重力波観測(O3)の感度ではなかなかうまく捉えられていない.次の!次の!観測計画でリングダウン重力波からどれくらいの精度でブラックホールの情報が得られるか?O5でKAGRAが目指して欲しい感度について議論した.

23.ブラックホールの壁はやっぱりないかも?

Searching for black hole echoes from the LIGO-Virgo catalog GWTC-1

Nami Uchikata, Hiroyuki Nakano, Tatsuya Narikawa, Norichika Sago, Hideyuki Tagoshi, and Takahiro Tanaka

Phys. Rev. D 100, 062006 (2019)

残念ながら,ブラックホールに壁があると仮定した際に放射される重力波の「こだま」はまだ観測されていません.見つかると,理論的に非常に大きな発展につながるのですが・・・.

22.とにかく複雑な軌道・・・

Eccentric binary black holes with spin via the direct integration of the post-Newtonian equations of motion

Brennan Ireland, Ofek Birnholtz, Hiroyuki Nakano, Eric West, Manuela Campanelli

Phys. Rev. D 100, 024015 (2019)

同質量程度の連星系(連星ブラックホールを主に)を成している個々の天体がスピンをもっていて(そのスピンの方向が軌道角運動量とそろっていなくて),十分に円軌道化していない(楕円軌道になっている)きわめて一般的な状況では,軌道は非常に複雑になる.ポストニュートン近似法を用いて軌道の時間発展を追いかけ,そこから放射される重力波波形を計算した.今後,重力波データ解析だけでなく,周連星降着円盤の研究などに用いられる.

21.ブラックホールの情報をどこまで引き出せるか?

Comparison of various methods to extract ringdown frequency from gravitational wave data

Hiroyuki Nakano, Tatsuya Narikawa, Ken-ichi Oohara, Kazuki Sakai, Hisa-aki Shinkai, Hirotaka Takahashi, Takahiro Tanaka, Nami Uchikata, Shun Yamamoto, Takahiro S. Yamamoto

Phys. Rev. D 99, 124032 (2019)

といっても,ブラックホールの中からではありません.リングダウン重力波を用いて,どこまでブラックホールの質量・回転パラメータ(スピン)の情報が抽出できるかを様々なデータ解析の方法を用いて試しました.それぞれの方法を比較することによって得意・不得意が明らかになり,より改善していくことが今後の課題です.

20.カーブラックホール周りの一般的な束縛軌道に便利!

“Flux-balance formulae” for extreme mass-ratio inspirals

Soichiro Isoyama, Ryuichi Fujita, Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Takahiro Tanaka

PTEP 2019 (2019) 013E01

前回の研究(Ryuichi Fujita et al., Class. Quantum Grav. 34 (2017) 134001)では,巨大質量ブラックホールの周りを運動するコンパクト天体の自己重力の一部(軌道に対して時間が経っても大きく変化しない部分)のみを取り扱った.これを拡張し,重力波が無限遠方へ伝わる,もしくはブラックホールに吸い込まれることにより生じる軌道の時間変化を導出する定式化を行った.過去の研究よりシンプルな方法となっており,また特別な状況である「共鳴軌道」に対しても適用できるようになった.

19.重力波多波長観測はすごい!

Multiband gravitational-wave astronomy: Observing binary inspirals with a decihertz detector, B-DECIGO

Soichiro Isoyama, Hiroyuki Nakano, Takashi Nakamura

PTEP 2018 (2018) 073E01

地上重力波検出器で,コンパクト天体連星系からの重力波がどんどん検出されている.しかし,まだ連星系のパラメータ(質量・スピン等)の決定精度があまり良くない.パラメータ決定精度の向上が相対論の検証につながっている.連星ブラックホールや連星中性子星からの重力波に対して,地上重力波検出器の性能向上だけでなく,異なる周波数帯域を持つ宇宙空間重力波検出器(B-DECIGO等)を用いることにより,パラメータ決定精度を劇的に向上させることができることが分かった.

18.効率の良いことをしたいけれども・・・

Comparing an analytical spacetime metric for a merging binary to a fully nonlinear numerical evolution using curvature scalars

Jam Sadiq, Yosef Zlochower, and Hiroyuki Nakano

Phys. Rev. D 97, 084007 (2018)

数値的にアインシュタイン方程式を解くことは,コンピュータの時間を多く消費する.一方で,解析的に時空を記述しようとすると近似が必要となり,厳密な意味ではアインシュタイン方程式の解ではない.ただ,後者はコンピュータの時間の消費量が少なく,さらにその時空上で長時間の降着円盤の進化等を見ることが可能となる.このことから,どれだけ数値的な解から解析的な近似解がずれているのかを調べておくことが重要であるが,両者は(一般相対性理論でよくみられる)記述している座標系が異なるために直接比較が困難である.我々は,座標に依存しない適切な量で比較する方法を提案した.

17.逆向きもしないと!

Note on Accuracy of the Post-Newtonian Approximation for Extreme-Mass Ratio Inspirals: Retrograde Orbits

Ryuichi Fujita, Norichika Sago, Hiroyuki Nakano

Class. Quantum Grav. 35 (2018) 027001

ポストニュートン近似の精度を以前議論したが,自転しているブラックホールの周りを自転と同じ方向に運動している天体のみを考えていた.もちろん,自転と反対方向にも天体は運動できる(忘れていた!).今回はその軌道に対して精度を議論したが,結論としては自転と同じ方向に運動している場合の方が高次の方程式を必要としていることが分かった.

16.忘れられていた?効果

Post-Newtonian templates for binary black-hole inspirals: the effect of the horizon fluxes and the secular change in the black-hole masses and spins

Soichiro Isoyama, Hiroyuki Nakano

Class. Quantum Grav. 35 (2018) 024001

連星ブラックホールは非常にシンプルなシステムである.この系からの重力波は,一般相対論の検証に有効であるが,非常に精密な理論重力波波形を用意しておくことが必要不可欠である.我々は質量比の大きい連星系の場合には,無限遠方に放射される重力波だけでなく,中心の大きなブラックホールに吸収される(また,その質量が変化する)重力波の寄与も考慮することが一般的であり,後者を無視した場合に理論波形の精度が悪くなることを知っている.同質量程度の場合も同様に後者は議論されているが,その効果を含めた理論波形が構築されていなかった.

15.軸を探せ!

Extracting the orbital axis from gravitational waves of precessing binary systems

Kyohei Kawaguchi, Koutarou Kyutoku, Hiroyuki Nakano, and Masaru Shibata

Phys. Rev. D 97, 024017 (2018)

軸はブレないに越したことはありません.重力波観測においても,連星系の軌道角運動量の方向(軌道回転の軸)が変化しない方が解析は行いやすいです.しかし,連星系を作っている天体の自転(スピン)の影響により,軌道面がくるくる変わる(歳差運動する)ことがあります.この場合には,軸の運動を特定すると重力波データが解析しやすくなり,また,データ解析から得られる情報の理解が深まります.

14.細かいことですが重要な・・・

Estimation of starting times of quasinormal modes in ringdown gravitational waves with the Hilbert-Huang transform

Kazuki Sakai, Ken-ichi Oohara, Hiroyuki Nakano, Masato Kaneyama, Hirotaka Takahashi

Phys. Rev. D 96, 044047 (2017)

連星ブラックホールが合体した最後に放射されるリングダウン重力波は,一体いつから始まるのだろう?ノイズの無い理論重力波波形でも,これには明確な定義があるわけでもなく,過去の文献にも様々な定義の仕方が提案されている.重力波データ解析において,リングダウンの始まる時刻(スターティングタイム)を定義し,より良い周波数の抽出ができるかを議論した.本研究では,連星ブラックホールの数値相対論の結果を用いているが,もし相対論におけるブラックホールが合体後に形成されない場合には,リングダウン周波数だけでなくスターティングタイムも相対論とは異なる値になることが期待される.

13.ブラックホールに壁があるかもしれない!?

Black hole ringdown echoes and howls

Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Hideyuki Tagoshi, Takahiro Tanaka

PTEP 2017 (2017) 071E01

もしブラックホールに反射鏡(?)のようなものがあると,ブラックホールに入っていこうとする重力波が反射され,またブラックホールの近くの時空の歪みにより反射されることを繰り返し,(山でするヤッホーのような)コダマの重力波が観測されるかもしれない.観測されたかもしれないという論文も存在する.我々は,より現実的なコダマの波形を計算した.これを用いて本当にコダマの重力波,さらにはブラックホールの壁が見つかるかもしれない.

12.より良い連星ブラックホールのシミュレーションを目指して

Post-Newtonian Quasicircular Initial Orbits for Numerical Relativity

James Healy, Carlos O. Lousto, Hiroyuki Nakano, Yosef Zlochower

Class. Quantum Grav. 34 (2017) 145011

連星系は重力波を放射すると,より円軌道になろうとする.このことから,連星ブラックホールの合体前の数値相対論シミュレーションでは,円軌道により近い状態(初期データ)からスタートさせる.初期データを構築する様々な方法があるが,本論文では弱い重力場・低速度近似(ポストニュートン近似)のもとで,連星系の軌道半径に応じて適切な速度を与える方法を解析的に考えた.そのデータをもとに連星の時間発展を追いかけると,従来よりかなり円軌道に近い運動を行うことが示せた.

11.巨大質量ブラックホールとコンパクト天体の連星系を取り扱う

Hamiltonian formulation of the conservative self-force dynamics in the Kerr geometry

Ryuichi Fujita, Soichiro Isoyama, Alexandre Le Tiec, Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Takahiro Tanaka

Class. Quantum Grav. 34 (2017) 134001

巨大質量ブラックホールの周りを運動するコンパクト天体からの重力波を考える際には,ブラックホール時空の摂動(乱れ)として計算を行う.この摂動には,「どのような座標系で見ても物理法則は変わらない」という一般相対性理論に含まれている原理のために,真の物理量(観測量)と座標に依存したものが含まれている.この「真の物理量」だけを抽出することに焦点をあてると計算方法が簡単になり,重力波を精密に理論予測する際の土台を築くことができる.

10.重力波多波長観測!

The status of DECIGO

Shuichi Sato et al. [including Hiroyuki Nakano]

Journal of Physics: Conference Series 840, 012010 (2017)

様々な地上重力波検出器(aLIGO, aVirgo, KAGRA等)の観測周波数帯域は,10~1000Hzの周辺である.一方,宇宙重力波検出器LISA計画は,m(ミリ)Hzの周波数帯域をターゲットとしている.電磁波での観測と同じく,重力波天文学を行う上では多波長の観測は非常に重要であり,上記の観測周波数帯域の間を狙って日本の宇宙重力波検出器DECIGO計画がある.2020年代後半にDECIGOの小型版であるB-DECIGO,2030年代にDECIGOを打ち上げることを目標としている.

9.連星ブラックホールの次に来る重力波イベントは?

The possible existence of Pop III NS-BH binaryand its detectability

Tomoya Kinugawa, Takashi Nakamura, and Hiroyuki Nakano

PTEP 2017 (2017) 021E01

「重いものは遠くまで見える」(注:重すぎると検出器バンドからずれてしまう)という重力波観測を考えると,連星ブラックホールの重力波の次には,ブラックホールー中性子星の連星系が期待される.重力波だけでなく電磁波放射も期待され,宇宙物理学・天文学への影響が非常に大きい天体現象である.Advanced LIGOとAdvanced VIRGOによるObservation run 2(O2)において,もしかすると1つくらいブラックホールー中性子星連星が検出されるかもしれない.

8.連星系の個々のブラックホールの回転軸がそろっていないと大変な運動に・・・

Spinning, precessing, black hole binary spacetime via asymptotic matching

Hiroyuki Nakano, Brennan Ireland, Manuela Campanelli and Eric J West

Class. Quantum Grav. 33 (2016) 247001

ブラックホールの回転(スピン)が軌道角運動量と平行(もしくは反平行)ではない場合,軌道面がフラフラする歳差運動が生じる.このことにより,連星系の運動の記述が複雑になり,時空自身も非常にダイナミカルなものになる.しかし,もしそのような系からの重力波が検出されれば,連星系のパラメータの多くを抽出できることになり,より詳細な一般相対性理論の検証が行うことができると考えられる.

7.KAGRAでリングダウン重力波→一般相対性理論の検証!

Gravitational wave quasinormal mode fromPopulation III massive black hole binaries invarious models of population synthesis

Tomoya Kinugawa, Hiroyuki Nakano, and Takashi Nakamura

PTEP 2016 (2016) 103E01

初代天体(種族III星)起源の連星ブラックホールの合体後にできるブラックホールからの特有の重力波(リングダウン重力波)は,日本の地上重力波検出器KAGRAを用いると,1年間に5.9~500くらいの重力波イベント(さらに星形成率や連星系の割合に依存している)が期待できる.また,リングダウン重力波によって一般相対性理論の検証が行える大きな信号雑音強度比(SNR>35)のイベントは,1年間に数イベントと予測される.

6.30太陽質量ー30太陽質量連星ブラックホールの起源を探る!

Pre-DECIGO can get the smoking gun to decidethe astrophysical or cosmological origin ofGW150914-like binary black holes

Takashi Nakamura, Masaki Ando, Tomoya Kinugawa, Hiroyuki Nakano, Kazunari Eda, Shuichi Sato, Mitsuru Musha, Tomotada Akutsu, Takahiro Tanaka, Naoki Seto, Nobuyuki Kanda and Yousuke Itoh

PTEP 2016 (2016) 093E01

世界で初めて検出された重力波であるGW150914は,太陽の30倍程度の2つのブラックホールからなる連星系からのものである.この「30倍」は衝撃的で,多くの研究者がこのようなブラックホールの起源を探っている.日本の宇宙空間重力波検出器計画である「Pre-DECIGO」(現在はB-DECIGO)が稼働すれば,その起源が,宇宙初期にできた原始ブラックホールか,初代天体の重力崩壊によってできたブラックホールか,現在の星に近いような天体の最終段階としてのブラックホールかが明確になるだろう.

5.佐々木ー中村方程式の性質と極限まで回転しているブラックホールの固有振動

Estimate of the radius responsible for quasinormal modes in the extreme Kerr limit and asymptotic behavior of the Sasaki–Nakamura transformation

Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Takahiro Tanaka, and Takashi Nakamura

PTEP 2016 (2016) 083E01

ブラックホール特有の重力波を求める際に,ブラックホール時空の摂動方程式を用いる.佐々木ー中村変換によって得られた方程式は,ブラックホールの事象の地平面近くや我々が観測する場所である「無限遠」での振る舞いが良いために,まさにこの重力波を求める上で便利である.さらに新しい変換を導入することにより,固有振動重力波の発生源の見積もりの不定性が,等価原理から予期されるものと同等であることを示した.

4.解析的な連星ブラックホール時空を数値シミュレーションに接続!

Inspiraling black-hole binary spacetimes: Challenges in transitioning from analytical to numerical techniques

Yosef Zlochower, Hiroyuki Nakano, Bruno C. Mundim, Manuela Campanelli, Scott Noble, and Miguel Zilhão

Phys. Rev. D 93, 124072 (2016)

連星ブラックホールの軌道間隔が近くなると,解析的な取り扱いの際に用いている近似が破たんし,数値相対論を用いる必要がある.解析的に用意した時空を初期データとして,数値シミュレーションを行った.一連の連星ブラックホール時空の記述により,降着円盤をこの時空上で時間発展させると,興味深い現象が見られるかもしれない.

3.連星ブラックホール時空の解析的な記述

Inspiralling, nonprecessing, spinning black hole binary spacetimevia asymptotic matching

Brennan Ireland, Bruno C. Mundim, Hiroyuki Nakano, and Manuela Campanelli

Phys. Rev. D 93, 104057 (2016)

連星ブラックホールの周りに物質が存在すると,降着円盤を形成し特徴的な電磁波を放射する.このような周連星降着円盤の研究では,解析的に連星ブラックホールの時空を記述しておくと,その時空上でシミュレーションを行うことができる.電磁波による間接的な一般相対性理論の検証に利用できるのではないかと期待している.

2.アインシュタイン方程式を解く際の近似法の一つであるポストニュートン近似の精度は?

Accuracy of the post-Newtonian approximation for extreme mass ratioinspirals from a black-hole perturbation approach

Norichika Sago, Ryuichi Fujita, Hiroyuki Nakano

Phys. Rev. D 93, 104023 (2016)

アインシュタインの一般相対性理論を検証するうえで,精度の高い理論波形の予測は必要不可欠である.解析的な計算の際には,低速度・弱い重力場近似であるポストニュートン近似がよく用いられる.このポストニュートン近似においては,ある近似のオーダーで見かけ上精度が良く見えることがあるが,一般的には高次にすればするほど近似が良くなることは正しいようである.

1.ブラックホール特有の重力波を検出することによって,どこまで事象の地平面に近づけるか?

How close can we approach the event horizonof the Kerr black hole from the detection ofgravitational quasinormal modes?

Takashi Nakamura and Hiroyuki Nakano

PTEP 2016 (2016) 041E01

アインシュタインの一般相対性理論におけるブラックホールで,宇宙に存在していると考えられているものは,質量と回転(スピン)パラメータで特徴づけられるカーブラックホールである.ブラックホールのスピンパラメータが大きい場合,ブラックホール特有の重力波は,事象の地平面のかなり近い所から放出されることが判明した.