単純小説10

91.『ポイントカードはお持ちですか?』


「ご親切にありがとうございました。おかげさまで無事に

道を横断することが出来ました」

「じゃあ、おばあさん気をつけてね」

「待ってください。ポイントカードはお持ちですか?」

「え、何の?」

「エンマカードです」

「エンマカード?」

「良いことや親切なことをなされますとポイントがつくエンマカードです」

「いや」

「それではカードお作りしておきますね。今回の分からポイントがつきますよ。

このカードは見えませんが、また聞かれることがあったら、持っていると

お答えくださいね。あ、ラッキーですよ、今日はポイント2倍デーです」

「あの、ポイントがたまると、どうなるんですか?」

「エンマポイント、いつか最後のお楽しみということで」

.BUNKOU 14.05-91


92.『ロボット』

「今じゃ想像できないわ、ロボットのいない生活なんて」

「子供の頃じゃロボットと暮らすなんてSFとかの話だったんだからな」

「技術の進歩って、ほんとすごいわね」

「今じゃかかせないパートナーだ」

「ロボットが人の労働を全部肩代わりしてくれて」

「俺たちはこうして悠々自適に趣味や余暇に時間を費やせる。汗水流して働いた時代が懐かしい」

「涙もいっぱいこぼしたわ、先輩にいじわるみたいなことされて…」

「そうそう、働くことはやりがいもあったんだが、人間関係には悩まされた。俺も嫌な上司がいてさ…」

「タダイマ戻リマシタ」

「あ、うちの稼ぎ主が帰って来たわよ。あら、どうしたの?目が真っ赤」

「会社デ色々アリマシテ…」

.BUNKOU 15.02-92



93.『ポイント』


「ポイントカードのお返しです」

「あの」

「はい?」

「私のポイント、もうどれだけ貯まっています?」

「お待ちください。本日で97万…」

「そ、そんなに」

「毎度ありがとうございます」

「ポイントを使いたいんですけど」

「使いたいとおっしゃられますと?」

「今日の支払いに」

「申し訳ございません。お支払いにポイントはご利用できません」

「すると何か商品と交換できるんでしょうか?」

「ポイントと商品などとの交換は行なっておりません」

「するとこのポイントは?」

「ポイントはポイントでございます。貯めるということでご満足していただくものとして、

お客様にご提供させていただいております。ご理解いただけましたでしょうか?」

.BUNKOU 15.01-93



94.『スマホ』


ふと周りを見ると、全員がうつむいてスマホを見ている。

さっきのバスの中でもそうだった。

老若男女、ほとんどの者が外の景色を見るでもなく、

隣りと話をするでもなく、うつむいてひたすら指を動かしていた。

入ったレストランでも、みんな箸を片手に、寸暇を惜しむように

手元をのぞき込んでいた。情報の時代というが、

そんなにひっきりなしに見るべきものがあるのか、

メールを交わしているにしても、そんなにずっと書き込むことがあるのか。

と言う私もさっきまでスマホでずっと旅番組を見ていたが…。

「みなさん、お顔をお上げ下さい。それではご一行様、

ここで慰安旅行の記念写真を撮ります!」

.BUNKOU 15.05-94



95.『占い』


「すごく当たるんだって、その占い。田舎のゲームセンターに置いてある

コンピューター占いなんだけどさ、それがめっちゃくちゃ当たるって評判なのよ」

たまたまその町に行き、ふと見ると道路沿いにそのゲームセンターがある。

そう言えばと中に入ると、確かに占い機の前に行列が出来ている。

本当に人気なんだな、それほど当たるのかと並んでみた。

ようやく私の番が来てデーターを入れると、いきなり

「アナタニ、シフクノコーウンキガ、チカヅイテイマス」

至福の幸運期!今までさえない人生が続いていたが、

ついにとうとう来たか!飛び跳ねるような気持ちで外に出ると、

道路を私服のおじさんが運転する耕運機が走って来た。

.BUNKOU 15.07-95



96.『オーマイゴッド』


帰宅して入浴も夕食もそそくさと済ませ、テレビの前にどっかと座った。

いよいよ試合開始だ。世紀の戦い!この時をどれだけ待ち望んだことか。

実は試合はすでに終わっている。午後に生中継されたのだ。

だが私はいっさいの情報に耳を塞いできた。

録画番組をリアルタイムの思いで観戦するのだ。

さぁ見るぞ!予約しておいた番組を探す。

ない!ない!予約し間違えたのだ!

オーマイゴッド!神よ私をお助け下さい!!

すると厳かな声が響いた。

「お前は行いも正しく、長く信仰深い。見返りに願いを一つ叶えてやろう」

私はこうして試合を無事見ることができた、浮かぬ思いで。

なぜこんなことに願いを使ってしまったのか、どんな願いでも叶ったというのに…。

.BUNKOU 13.07-96



97.『恐怖映像』


それでは恐怖映像をごらんいただきましょう。

まずは回転寿司でのビデオです。

家族が楽しそうにお寿司を食べていると…

おわかりいただけましたか?

それではスローでもう一度、画面の右下をご覧下さい。

…ここです!このレーンの下に映り込んでしまった、

普通じゃありえない映像…マグロの横顔です。

恨めしそうにレーンを睨んでいます。

さて次の映像は、焼肉屋です。若者たちが乾杯…

そして映り込んでしまったのです、

映ってはいけない映像…、ご覧下さい。

スローでもう一度…店員が鏡の前を通り過ぎると…鏡に…

牛の姿…黒毛和牛でしょうか、はっきりと映っています。

目を剥く黒毛和牛、何かを言いたげです。

さぁ最新恐怖映像、まだまだ続きます。

.BUNKOU 15.02-97



98.『伝説』

「弁慶様、判官様をお止め下され。

この地を去り、大陸へ渡りて夷蛮の王となるなどと

そんな途方もない話に誰が従えましょう。

我らは皆、長旅に疲れ果てております。

ようやくこの蝦夷の地に安住の場を見つけたというに。

あの方をお止めできるのはもはや弁慶様しかおられませぬ。

何と、あの方の思うままにと申されるのか。

ついて行きたくない者はここに留まればよいと。

我らは誰もついて行きませぬぞ。

べ、弁慶様がついて行かれると。

分かり申した。その旨を皆に伝えて参ります」

義経と弁慶は蝦夷の地を旅立った、家来一同を引き連れて。

結局その地に残る者はいなかった。

源義経は大陸に渡りやがてジンギスカンになったと云う。

.BUNKOU 15.03-98



99.『後継者』


「ついつい口をはさんでしまいましてね。

ええ、もう引退して、倅にすべてを委ねているんですが。

だけど、どうにも頼りないところがある、

倅ももう五十過ぎなんだが、まだまだ甘い。

たいして苦労してないのも事実ですが、

今もって厳しさが足りないというか、

商売に取り組む意欲が足りない。

いろいろと目について、つい口をはさんでしまう。

どうしたものでしょうな、もう少し倅が

商売に真剣に取り組んでくれるといいのですが」

「息子さんには確か、成人されたご長男がおられるということでしたね。

そのご長男に商売を任かされて、息子さんも引退なされるといい。

きっと商売のことが気になってしかたなくなり、

真剣に取り組むようになりますよ」

.BUNKOU 14.04-99

「2017年10月8日 掲載作」



100.『UFO』

その夜、オラ、いつも通り仕事帰りで山間を飛ばしておったんだ。

すると目の前を二筋の光がツーと、そりゃま、ものすごいスピードで

西の山の方へ駆け抜けていったんだ。

オラ、そんなもの見たこともなかったもんで、おったまげちまってよ。

そっちへ追いかけたら、林を抜けた向こうにさっきの二つの光が止まっておった。

オラも止まって恐る恐るのぞくと、まばゆい光の中に二つの人影のようなものが動いている。

やがてその人影はオラの方に気づいて何かを叫び出した。

どうやら「UFO!」と叫んでいるようだ。

オラ慌てて自分の円盤を離陸させた。

やつらは最新のスポーツカーのライトの中につん立って、

飛び去るオラの円盤を呆然と見送っておった。

.BUNKOU 14.05-100