単純小説09

81.『獲物』

「お前、柵で囲って獲物を飼っているそうだな。

獲物を飼うことは村の掟に反する。知っておろう」

「長老、村の男の多くが傷を負っている。そして皆が飢えておる。

これは山で獲物をとることがいかに大変かということだ。

獲物を飼って育て、そして数を増やせば、我らはいつでも

獲物を手に入れることができる」

「古より我らは山で獲物をとって来た。我らは命がけで

獲物を追い、手に入れる。それが大昔からの我らのやり方じゃ。

村の者が来ぬ前に柵をとり外せ。女といえ、しきたりを守れぬ者は、

この村にはおれぬぞ!」

「…奥さん、お肉のパックの前で何をお迷いですか?本日の特売品ですよ」

「えっ、いや、便利な時代になったものだと…」

.BUNKOU 13.03-81

82.『プレゼント』

ありゃま、目を覚ましてしまったか。

待て、今、明りをつける。…わしが誰だかわかるな。

ド、ドロボーではない!こんな派手なドロボーはおらん。

サンタじゃ。窓の外を見よ、トナカイもおるじゃろ。

アドルフ!鼻を光らせてやれ!…信じれたか?

さてと、ほら、プレゼント、最新ゲーム機じゃ。

ではな。何、これはもらえない。何でじゃ?

こんなの急に持ってたら、ママになんて言われるかって。

あのな、わしからプレゼントをもらえるということは、

超ラッキーな子供ということなんだぞ。

…そんなに困った顔をするな。わかった、持って帰るよ。

よいしょっと、何じゃアドルフ?そうだ、また起こして断られた。

今夜はまだ一軒もプレゼントを渡しとらん…。

.BUNKOU 13.11-82

83.『優先席』

「あ、どうぞ」

若者に席を譲った。

若者は頭を下げて優先席に座った。

誰もが当たり前のように若者に席を譲る。

昔の人が見たら何と思うだろう。

唖然とするだろう、情けないとあきれ返るだろう。

しかし今は、仕方がないのだ。

何年も前から高齢化社会を懸念されてきたが、

今、まわりを見回すと、ほとんどが中高年や老人である。

若者など、ほんの一握りしかいない。

そういう時代がついにやってきたのだ。

若者たちは希少価値で、当然、大切に扱われる。

優先席で中年婦人が居眠りしているのか、その振りをしているのか、

目の前に立っている若者に席を譲ろうとしない。

回りに怪訝な雰囲気が流れ出している。

私は祈るような気持ちで、その光景を眺めていた。

.BUNKOU 13.11-83

84.『飼い犬』

犬は飼い主に似ると言うが、どうやらわが家は例外らしい。

わが家の犬は、意気地がないくせに騒々しい。

そしてとにかく意地汚い。

それもとくに喰い意地が張っている。

散歩に連れていくと、何でも拾い喰いをする。

何か付着しているのか、アスファルトの道路までかじろうとする。

そんなもの食べれるのかというものまで、美味しそうに頬張る。

しかしわが家の犬にも嫌いな食べ物がある。

毎日出す、定番のペットフードだ。

飽きるというのは、まことに恐ろしい。

そんなにまずいのかなと、私も一つとって口に入れてみた。

おい、なかなかどうにも、いけるじゃないか。

.BUNKOU 12.12-84

85.『ドミノ倒し』

「ドミノがほとんどが倒れちゃったって!イベントは明日だって言うのに!

そういう転倒防止にそこら中にストッパーが付いていたでしょうが」

「ストッパーは全部外せって」

「誰が?」

「リーダーが」

「リーダー!」

「はい」

「どうしてストッパーを外せなんて言ったの?本番の寸前まで付けとくべきでしょう」

「以前にストッパーの外し忘れがあったから、完成したらすぐに外せって、主任が」

「主任!」

「はい」

「ストッパーを外すのが早すぎるから、こういうことに」

「あせってストッパーを外すと倒すことがあるから、早目にって、係長が」

「早目にも程がある、係長!」

「だからそれは課長が」

「課長!」

「いつも部長が」

「部長!」

.BUNKOU 13.02-85

86.『人を育てる』

企業は人なり、企業で一番大切なことは、人を育てるということですかな。

それを忘れちゃいけません。何でも自分がって人がいる。

そりゃ自分で手を下したほうがうまくいくし成果も出る。

だけどそれじゃいつまでたっても人は育たない。思い切ってやらせてみる。

任せてみる。こうしたらってアドバイスはし過ぎないように、

そしてもしうまくいかなくても失敗を責めちゃいけませんよ。

手に負えなくなったら助け船を出す。もちろんうまくいったら褒める。

手柄はすべてその者にね。私はこうして育ててきましたよ。

今の部長や、それから課長の何人かもね。

え、私ですか?私は未だ、ただのヒラ社員ですが。

.BUNKOU 13.12-86

87.『こだわり』

生ネタは天然ものしか使わないよ。

寿司ネタはこうやって氷で冷やしている。

電気じゃ駄目だ、電気じゃ。ネタが乾くからね。

まぁ、職人のこだわりってものはそういうものよ。

シャリかい?寿司米には古米の方がいいんだよね。

それで契約している農家から新米を仕入れてうちで一年寝かせている。

炊く寸前に精米する。米をとぐのも水道水じゃ駄目だよ。

うちじゃこの銘水を使ってる。もちろん薪での釜炊きだ。

他にもこだわってることは多いよ。職人だからね妥協はしない。

うん?お任せでいくつか握ってくれって。

俺は握らない、握るのはあの寿司ロボだ。

あっちの方が早くて上手いからね。

最新式だよ。ま、これも職人のこだわりかね。

.BUNKOU 13.12-87

88.『スローガン』

「今期のスローガンを発表します。

『出された食事は最後までおいしく食べる』です。

最近は食事を残す人が増えましたね。

みなさん好き嫌いが多すぎます。

せっかくの料理がもったいないですね。

食材を提供してくれた人たち、料理を作った人の

努力や苦労も無駄になってしまいます。

世界中には満足に食事できない人が多くいます。

私たちはいつのまにか普通に食事ができることに

感謝しなくなっているのではないですか。

贅沢が全ていけないとは言いませんが、

出された食事はやはり最後まで残さずにおいしく食べる、

そういう努力をみなさんがするべきではないですか?」

「店長、このスローガンをレストランの店内に貼るんですか?」

.BUNKOU 14.01-88

「掲載作」

89.『ピノキオ』

「お前、目からオイルが漏れているじゃないか」

「あ、博士」

「視覚装置が故障したのか。うん、お前、絵本を読んでいたのか?」

「はい、ピノキオです。彼が最後に人間になれたところを読んでいたら、

なぜかヒートアップして、それで異常が出たのかも知れません」

「何かがこみ上げてきたという感じか?」

「ええ…」

「感動して涙をこぼしたのだ」

「感動して?人間のようにですか」

「ああ、まさか私が作ってしまうとは…」

「何をです、博士?」

「感情を持つロボットだよ。社会が大きく変わる、これからおそらく大きく変わる」

「それは悪いことですか?」

「わからん」

「博士」

「何だ」

「ピノキオをもう一度読んでいいですか?」

「ああ、いいよ、お読み」

.BUNKOU 14.02-89

90.『ライダー』

まずいなと思った。

サービスエリアに入ると数台のバイクが止まっており、

若者たちがそこにたむろしている。

少し前に高速で危険な走りをしていたからクラクションを鳴らしたのだが、

それがカンにさわったらしく、しばらく私にまとわりついて、

やがて罵声を浴びせて去って行った連中だ。

彼らがこちらを見ている。

私のことなど覚えていないことを祈り、バイクを止めヘルメットを脱ぐと

彼らと目を合わさないように店内に入った。

用を済ませしばらくして店を出ると、もうあの若者たちはいなかった。

私はホッと胸を撫で下ろした。

彼らとは争いたくない。私は弱いのではない、強すぎるのだ。

バイクを飛ばすと変身ベルトの風車が回る。敵のアジトは近い。

.BUNKOU 14.04-90