単純小説12

111.『ネーミング』

「何か、お悩みですか?」

「いや、ネーミングを変えようかと思っているんだが……。

今の呼び名ではイメージが悪くてね、みんなうんざりしている」

「それは困りましたね」

「名前をおしゃれにして、それを行うのがトレンドの

最先端みたいにしたいんだ。弱いだろ、みんな、そんなのに……。

今はどんな感じの言葉が流行っているのかね?」

「今までにない斬新な言葉ですね。知的な感じで、

ちょっと意味がわかりにくいほうがいいかも」

「やはり横文字か」

「無難でしょうね」

「日本語も捨てがたいんだよな、心にグッとくるような、

寛容な気持ちになって、思わず払いたくなる…」

「いったい何のネーミングです?」

「消費税」

                                         .BUNKOU 14.10-111

112.『クリスマスプレゼント』

「坊やがクリスマスプレゼントを楽しみにしてるわ。

そろそろ買っておかなくっちゃね」

「買っておくって何を?」

「だからクリスマスプレゼント」

「サンタがくれるものを、なぜ?」

「ふざけてるの?サンタがくれるわけないじゃない。

サンタなんていないんだから」

「何を言ってるんだ、俺はずっとサンタにプレゼントをもらってたんだぜ。

クリスマスの朝にはいつも枕もとに置いてあった」

「だからそれはご両親が置いてたのよ」

「まさか…」

「アハハ、本気で言っているの?じゃあ、

どうやってサンタは世界中の子供に一晩でプレゼントを届けれるのよ」

「知らないのか。本当にいい子だけしかもらえないんだよ。

お前も、お前ももらえない口だったのか…」

                                           .BUNKOU 12.03-112

113.『インタビュー』

インタビューか、わしみたいなもんに聞いても何も面白い話はないぞ。

立派なヒゲ?いや、今はこんなに薄汚れてしまって手入れもしておらんが、

昔はそりゃ…まぁええか。え、わしが以前にやっていた仕事?

これでもな、子供にオモチャを配る仕事をしておったんじゃ。

配送業?まぁそんなもんじゃな。しかし世界中の子供たちにタダで

プレゼントするんじゃ、一年に一度とは言え大したものはやれん。

まぁ粗末なもんじゃな。昔は喜んでくれたが今の子供は見向きもせん。

時代じゃな、それでわしも失業じゃ。仕方がない。

今日は人通りがやけに多いな。何、イブ?

ああ、今夜はクリスマスイブか…。

                                         .BUNKOU 15.11-113

114.『パスワード』

彼の会社の上司です。彼のご両親に頼まれましてね、

言いにくいんだが、彼とはもう会わないで戴きたい。

ええ、あなたにはずいぶん彼の仕事をサポートしてもらった。

しかしもうあなたの力を借りなくても大丈夫だ。

わかって戴けますか。彼は真面目で将来有望な若者だ。

彼は今、あなたに夢中で、日常生活もままならない状態になっている。

ご両親も心配されています。もちろん私もだ。

しかし、彼が夢中になるのも無理はない。

才色兼備とはまさにあなたのことだ。

おしとやかでつつましく、気品がある。

確かに私もあなたのような人に会ったことがない。

そのようにプログラムされているからですかね。

あなたがコンピューターの中にしか存在していないなんて、

本当に残念ですよ。

ここにアクセスするパスワードを変更します。

彼が二度とあなたを呼び出すことが出来ないように。

私しか、私しか知らないパスワードに…。

                                         .BUNKOU 10.5-114

115.『高齢化』

老人に席を譲った。優先席だから仕方がない。

隣の婦人は寝たふりをして目の前の老人と替わろうとしなかった。

隣の婦人は70才位だろうか、無理もない。

私だってもう80代、できれば降りる駅まで座っていたかった。

今は70,80は働き盛りだ。

定年もほとんどの会社で90歳以上になりつつある。

この歳まで働けるということは幸福なのか、

それともこの歳まで働かなくてはならないと不幸なのか。

高齢化社会になって、その分、50代60代が若者化している。

50代の女性が平気で車内で化粧している。

60代の男性が携帯ゲームに夢中になっている。

社会は豊かになったのか、貧しいままなのか。

電車を降りる。前を疲れた背中の群れが流れていく。

私は思わず振り返った。

                                         .BUNKOU 10.7-115

116.『火星人来襲』

「火星人が来襲しています!都市の方はすぐにお逃げ下さい!」

テレビでアナウンサーが連呼している。

「何、このドラマ、妙にリアルね」

「よく出来てるんだが、今どき火星人来襲はないよな。

それにこの火星人、タコだぜ。タコ型火星人なんて発想が古すぎ」

「本当よね、これで宇宙人がリアルだったら、本当かと信じちゃうかも」

「昔、そんなことなかったか。アメリカでラジオドラマを信じて

本当にパニックになったって話」

「へぇ、今なら笑いものね」

「昔は人も素朴だったから信じちゃったんだな」

「しかしすごく凝ったCG映像ね。まるで本物みたい」

「あれ?他のチャンネルでも同じのやってら…」

「それよりタコ焼き買って来たけど、食べる?」

                                         .BUNKOU 10.6-116

117.『アスリート』

「われわれは誇り高きアスリートである。

アスリートの目指すべきものは何か?

そう、勝つことである。勝つことが最優先される。

必ず勝て!戦う以上、是が非でも勝たねばならない。

勝ったからどうだ、負けたからどうだという問題ではない。

たしかに勝てば称賛される。称賛と名誉、

そして大いなる報償が与えられる。負ければ非難、

今までこの戦いに費やした努力が全て無駄になる。

だが、ただそれだけのことだ。

勝ったからと言って何か出来るわけではない。

何かが変わるわけではない。戦いが終われば、

その時からまた次の戦いの準備が始まる。

われわれは戦い続ける。それが私たちの使命なのだ!」

「以上、党選挙対策委員長からの方針演説でした」

                                         .BUNKOU 10.7-117

118.『夢』

「みなさん、みなさんのそれぞれの将来の夢を聞かせていただきました。

マンガ家になりたい。歌手になりたい。プロ野球の選手、

お笑い芸人になりたい、などなど。大きな夢をふくらませているみなさんに、

こんなことを言うのはつらいのですが、みなさんの夢はかないません。

私はかって教師として、多くの生徒を社会に送り出してきましたが、

そのような夢がかなった人は一人も知りません。そんな見果てぬ夢を追いかけて、

一生を棒に振った人は数え切れないほど見てきました。

何万人に一人しか成功しないような職業を目指してはいけません。

私はたまたま教育評論家として大成功を収め、今やマスコミで引っ張りだこですが、

私は例外中の例外と思って下さい。みなさん、どうぞ堅実な人生を」

                                         .BUNKOU 10.10-118

119.『無理』

「社長、もうすぐ火星に到着です」

「うむ、感無量だな。わしが火星着陸を目指すと言った時、

お前たち社員全員が無理だと言った。覚えておるかね。

わしは怒鳴った、無理と言う言葉はうちの会社の辞書にはないと。

そしてどうだ。人類初の火星着地を、もうすぐ日本の名もない企業が達成する。

われわれの技術力を世界に示す時が来たのだ!いや、技術力ではない。

ものごとをあきらめずに工夫する知恵が、この偉業を達成した!

無理を無理と決めつけない、チャレンジ精神と改善魂…」

「社長、逆噴射が、逆噴射が効きません!」

「何!?」

「火星に、火星に衝突します!やっぱり無理は無理だったんだ!!」

                                         .BUNKOU 11.1-119

120.『博物館にて』

「先生、これは何ですか?」

「これはお金と言うものです。人がとっても大事にしていたものです」

「お守りみたいなもの?」

「いえ、使用するものです」

「どうやって?」

「昔、人は物々交換をしていましたが、物の持ち運びでは不便なので、

これを代用にして物を交換していたのです」

「欲しいものを下さいと言うだけじゃもらえなかったのですか」

「そうですね。みんな、出来るだけ多くの物が欲しいし、

見返りもなく物をあげたくないって気持ちが強かったんでしょうね。

そのために争いも多く起りました」

「それで、人類は滅びちゃったんですか」

「そうですね、その要因が大きいでしょうね」

「ロボットだけの世界に生まれてきて、わたし本当に良かった!」

                                         .BUNKOU 11.2-120