単純小説02

11.『デジタル化の準備はお済みですか?』

20X5年7月までにアナログ人間の方はすべてデジタル人間に

変更していただきます。

20X5年7月を過ぎまして、まだアナログ人間のままでおられた場合は、

政府のすべてのサービスを受けることが出来なくなります。

それに先駆けまして20X3年度において、未だアナログ人間のままの

方には、政府が発行いたします、このアナログ表示シールを額に貼って

戴くことになります。

これらは任意に剥がすことが出来ませんのでご注意下さい。

なお自分がアナログ人間かデジタル人間か分からない場合は、

ほぼアナログ人間と判断して間違いないと思われます。

ご不明な点があれば政府デジタル化推進室、または最寄りの市町村まで

お問い合わせ下さい。

Bunkou 10.4.ー11

12.『外見』

「まるでファッションショーだな」

「ええ」

「よくこんなに美男美女が集まったものだ」

「実際、多くの者がモデルやタレントを兼業してます」

「昔とは大違いだな」

「歳も若いです。男性が三十代、女性が二十代中心ですから」

「地方でもこう?」

「そうですね、全国的にこの傾向です。

イケメンや美人はやはりどこでも人気を集めますから、

候補に選ばれやすいんですね」

「しかし、彼らで大丈夫なの?」

「それが予想以上に…。どこへ行ってもモテモテですからね、

みんなにチヤホヤされてるうちにすべて順調に行くみたいです」

「外国へ行ってもそう?」

「ええ、要はすべて外見ですか…。さぁ、もうすぐ国会が始まります」

Bunkou 10.4.ー12

13.『新聞』

高層ビルの隙間から射し込んだ朝陽が丘の緑を照らしている。

22世紀になってから、ずいぶん町に自然が蘇った。

だけど広い緑地を横切らなければならないから、新聞配達は大変だ。

それでも昔に比べればかなり楽になったそうだ。

今はこのエアースクーターに乗って新聞を配っている。

配ると言ってもビルの下にあるシューターにまとめて入れれば、

瞬時に全家庭の戸口に届けられる。

丘を散歩中の人から声をかけられた。新聞を一部渡す。

もちろん無料だ。今はほとんどのものが無料になった。

文明はここまで進歩したのだ。

だからもう昔のように紙面をにぎわす大きな事件や事故は起こらない。

人々は皆、心豊かに暮らしている。

だけど新聞はまだかかせない。

ペーパーレスの時代に新聞だけがこの形で残った。

新聞を毎日手にしないと、どうやらみんな落ち着かないらしい。

Bunkou 10.3.ー13

14.『ループ』

「ちょっと待ってくれ」

「おっさん、頭がどうかしてるんじゃないの」

「少しでいいから話を聞いてくれ。君に伝えたいことがある」

「他の奴にしてくれ」

「だから、君じゃないと意味がない。信じられないのはわかるが、

本当に私は三十年後の君だ。未来からやって来たんだ」

「いい歳して、ふざけるなよ!」

若い私は私を突き放すと人混みの中へ消えて行った。

取りつく島がないとはこのことだ。

どうして少しでも話を聞こうとしないのか。

無理もない、私も三十年前にそうだった。

そして彼も三十年後、若い自分を探しに来て、同じ思いをするのだろう。

いつまでこのループが続くのか。

いつか頑なな態度を改め、話を聞いてくれることがあるのか。

そうすれば未来は大きく変わるのに。

Bunkou 10.5.ー14

15.『忘れられる』

また忘れられている。いつもそうなのだ。

注文しても私の料理だけまだ持って来ない。

私より後に注文した客がもう食事を終ろうとしているのに。

最近は慣れて腹も立たなくなった。仕方ない、そろそろ催促するか。

ひどい時なんか催促しても、またそのことを忘れられて、

逆に後でウェイトレスに呆れられることがある。

こんなに忘れられるのは、私の影が薄いからか、押しが弱いからか。

それともただ運が悪いだけなのか。

今までの人生で、いったいどれだけこういうことがあっただろう。

順番を飛ばされる、数に入っていない、取り残される…。

私は今年で150歳になるが、

まさか天も忘れているんじゃないだろうな、私のことを…。

Bunkou 10.6.ー15

16.『手続き』

番号札をとって、もう3時間近く待っている。

混んではいるが、それほどではない。

一人ひとりに時間がかかるのだ。

要するに要領が悪い。

担当者が何度も立ったり座ったり、書類を探したり書いたり、

今の時代、パソコンで全て出来るだろうに。

私の前の担当者が客と世間話をしだした。

どういうことだ!人を待たせて平気なのか。

明らかな無駄話にはカチンと来た。

「いつまで待たせるのか!」担当者も客も唖然としている。

反省するでもなく、まるで私が少しの我慢も出来ず

すぐに切れる輩のように、こちらを見て嘲笑している。

私は番号札をつき返すと「もう、いい!」

そこで目が覚めた。奇跡的に生き返ったそうだ。

あれはいったい何の手続きだったのか?

Bunkou 10.6.ー16

17.『教育論』

「良くないと思ったら、すぐに叱るということです。叱るときは迷わず叱る。

自分は正しいか、相手がどう思うかなんて考える必要はありません。

ただし叱ったら後を引かない。叱った理由などをくどくど説明しないように。

良いことをした場合も、すぐにほめます。これも迷ってはいけません。

出来ればすぐに褒美をあげる。ほめた理由も簡単に一言で言って下さい」」

「先生、ありがとうございました。

それでは聴衆のみなさんにご感想を伺いましょう。どうでした?」

「参考になりました。明日から部下の育成に役立てます」

「教師なんですが、生徒指導に使わせていただきます」

「ありがとうございました。講師はイルカ調教師の潮田さんでした」

Bunkou 10.5.ー17

18.『新発明』

「異次元移動装置ですか…」

「好きな時にどこからでも移動できる」

「移動しても異次元って、真っ暗な穴の中みたいなもんでしょ。

そこへ行って戻ってくるだけでしょ。何かの役に立ちますか?」

「君、この間、あこがれの受付嬢から何かもらったんだって」

「え、いや、それがですね、彼女が頬をちょっと赤らめて、

折り入って話があるって言われて」

「それで」

「リボンのついた可愛い柄の箱を渡されて」

「プレゼントか」

「普通は、そう思いますよね。うれしくって飛び跳ねるような気分になって、

これはって尋ねたら」

「尋ねたら」

「忘れ物だから事務所に届けてって…」

「それで?」

「穴があったら入りたかった…」

「どうだ?」

「売れますね、これ!」

Bunkou 10.5.ー18

19.『操車場』

学校が終わると、私たちはいつも近くの操車場でたむろしていた。

そこはもう廃止された操車場だった。

コンテナや貨車が何台も放置されていて、

線路と一つになって錆びついていた。

私たちはいつもそこで暇をつぶした。

私たちがそこで何を話していたかはもう覚えていない。

ただ貨物駅のプラットホームに立って、

いつも旅立つような気分になっていた。

それが楽しかったんだろう。そのホームに列車が来ることはなかったが、

いつか私たちは本当に旅立って行った。

絡まった線路が離れて行くように私たちもそれから会うこともなく、

あの操車場も今はもうない。

新幹線がホームに入って来る。

ホームから垣間見えてた青空にも、もう夕闇が迫っている。

Bunkou 10.5.ー19

20.『別に…』

「どんなに拭いても、壁の汚れがとれないのよ」

「もう、上から何か塗るしかないな」

「塗ってごまかすのね…。何見てるのよ」

「いや、お前、今日の化粧濃いなって思って」

「ど、どういう意味よ」

「いや、別に…」

「塗るって言えば、外の塀、またペンキがはげてきたわよ」

「そうか」

「はげ出すと、何をしても止められないわね」

「な、何で、おれの頭を見てるんだよ」

「いや、別に…」

「十年も経つと、家のそこら中にアラが出てくるな」

「もともと出来が良くないのよ…」

二人で思わず、ゲームに夢中になっている息子を見る。

「何か用?」

「いや、別に…」二人の声がそろった。

Bunkou 10.5.ー20