単純小説14

131.『ループ』


配られたテスト用紙を見て驚く。

昨日やった数学のテストじゃないか。

そう言えば朝から変だった。

昨日と全く同じに母親に起こされ、同じように駅で友達と会い、

あの娘とすれ違ったけど挨拶もできず、

進展のない毎日、全く昨日と同じじゃないかと思ったがただの同じじゃない、

昨日をもう一度繰り返しているんだ!

だけど今回もこのテスト、同じにしか出来ない。

もし明日も繰り返したら今度こそはと思ってふと気づく。

まさかエンドレスにこの日を繰り返すんじゃないだろうな。

時間のループに入り混じまったんじゃ…。

「あれ?」

「先生」

「お前だけ何で昨日の数学のテスト?

何かの拍子に今日の英語のテストに混ざったんだ。しかしお前も早く言えよな」

                                         .BUNKOU 11.9-131



132.『腹話術』


「今日はこのマモル君といっしょに、お姉さんとみんなで交通ルールを学びましょう。

マモル君、よろしくね。ご返事は?…声が遅れて聞こえてくるのかな?

ご返事がありませんね。今日はご機嫌ななめですね。

それじゃまず信号機のことを聞きますよ。青信号は進め、では赤信号は?

マモル君、赤信号は?…ここは、みんなで渡れば怖くないと言って

マモル君がボケるところなんですが何も言いませんね。赤は止まれですよね。

みなさん、マモル君はまだ子供で、それも人形でなので許してやって下さいね。

ではでは次の問題、今度はマモル君、答えてくれるかな?」

「…巡査長」

「はい、署長」

「彼女のこれ、腹話術か?」

「ええ」

「詐欺じゃないか…」

                                         .BUNKOU 14.8-132



133.『二世帯住宅』


「こっちが家内で息子と娘、こちらが岡崎さんのご家族です」

「あの、こちらのご家族はご親戚、それともお友達?」

「いえ、まったくの他人ですが、いっしょに暮らしているんです」

「へ?」

「二家族で暮らしているんです」

「一軒家に!?」

「郊外に一戸建てを買うのはなかなか大変なので」

「それで共同で買われた?」

「お互い半額で買ったんです。一世帯分の設備や家財しかないので、すべて共有です」

「それは大変でしょう?」

「いえ、お互いが全くの対等なので不都合はないですよ」

「そうですか」

「多少ごちゃごちゃしますが、何でも比較がすぐに出来て、

迷わず人並み、世間並みに出来るから、逆に楽ですよ。どうです、お宅も?」

                                         .BUNKOU 11.6-133



134.『ランプ』


宅配で荷物が届いた。通販で何でも買える時代になったとは言え、こんなものも売っているのだ。

未使用の魔法のランプ。こすればランプの精が現れ、願い事をかなえてくれると言う。

値段は張ったが早速購入した。どんなに高くったって、すぐに元が取れる…はずだ。

万に一つ、ランプの精が不在の場合があるが、古いものゆえご了承下さいとある。それもまぁやむを得ないか。

しかし緊張する。何をどう頼むか。向こうがちゃんとこちらの望みを理解してくれるか。

思わず変なことを言ってしまわないか。ああワクワクドキドキする。

近頃は、これを眺めながら一杯やることが至上の楽しみだ。

玉にキズは、不用意に磨いてしまいそうになることだが…。

                                         .BUNKOU 12.9-134



135.『演劇』


「それではただ今ご覧いただきました劇につきまして、ご来賓の方に感想を伺います」

「いやー素晴らしいの一言です。驚きの連続といってもいい。

まず演出が斬新、こちらの思っているタイミングで会話や舞台が進まない。

こちらの期待をいい意味で裏切ると言うのか、独自な雰囲気をかもし出していますね。

また俳優陣も素晴らしい。変に演技をしない、と言っても自然の演技でもない。

棒読みにも思える感情を抑えたセリフ、つぶやくように話し耳を凝らしてもよく聞こえないリアリティ、

それが主人公の大げさでわざとらしい演技を浮き立たせて、この演劇のテーマを見事に表現しています!」

「褒めすぎじゃないですか。ただの小学生の学芸会の劇ですよ」

                                         .BUNKOU 12.9-135



136.『わしわし』


「もしもし」

「はい」

「わしだ、わしだ」

「おじぃちゃん?」

「ああ」

「どうしたの?」

「お前さっき、わしに電話したか?」

「電話?しないよ」

「事故にあったから、すぐにお金を振り込んでくれって」

「そ、それ、振り込み詐欺だよ!で、振り込んだの?」

「振り込んだ…」

「そんな!」

「やはり詐欺だったか…。あ、そうだ!お前、百万くらいあるか?」

「かき集めれば、何とか…。だけど何で?」

「す、すぐに振り込んでくれ。それで頼めば取り返してくれる人がいる。

老人会で紹介されたんだ。その道の専門家だ。早く、出来るだけ早く振り込んでくれ!口座番号は…」

「おじいちゃん」

「何だ?」

「しかし天国からよく電話できたね?」

                                         .BUNKOU 12.10-136



137.『行列』


何の行列だろう?北風が強い歩道に長い行列。

並んでいるのは、ほとんどが男性だ。

先頭を見れば何と、おもちゃ屋へと続いている。

どうやら店が満員で中に入れないらしい。

どうしてこんなに…ああそうか、明日はクリスマス、

父親が今夜サンタクロースになるために、冬空の下で寒さに耐えているのだ。

明日の朝、子供たちがくつしたの中をのぞいて喜ぶ姿を思い浮かべて。

だが、この物があふれる時代に子供たちはそんなに喜ぶだろうか。

大きな包みを抱えた男が一人、意気揚々と店を出て来る。

列が少し前に進む。なんともはや親バカサンタの列である。

ああ、しかし呆れるほどに寒い。え、私?私は何で並んだかって?

明日遊びに来る孫に、ちょっと…。

                                         .BUNKOU 12.11-137



138.『魔法のランプ』


「これランプ?古いのにいい値段が付いているね」

「魔法のランプですから」

「魔法のランプ?」

「ええ、こすればランプの精が現れ願い事を三つ叶えてくれます。信じれません?」

「ハハ、おとぎ話じゃあるまいし…」

「信じれませんか」

「それが本当ならなんであんた自分でこれを使わないんだ? 願い事が叶えばこんな骨董屋なんかやってなくても」

「使いました。自分の願いに二つ使って、最後に同じ魔法のランプをもう一つ出してくれって願ったったんです。

それがこれです。実は私、大富豪で、この店は暇つぶしでやっていまして。信じれませんよね。

ああそうだ、紹介しましょう、私の家内を、絶世の美女をいうことで…、おーい」

                                         .BUNKOU 13.3-138



139.『ランプの精』


骨董屋で見つけた古いランプを磨いていたら大男が現れた。

「おおっ!」

「驚くな。オレはランプの精。三つの願いを」

「か、かなえてくれるのか!?」

「いや、かなえてもらいたい」

「え?」

「オレの願いをかなえてもらいたい。たいした願いじゃない、ささいな願いだ」

「ぎゃ、逆では!?」

「確かに人の願いをかなえるランプの精もいる。世間ではそっちがメジャーだが、

しかしほとんどのランプの精にそんな力はない。とにかく願いを聞いてくれ。

長く狭い所に閉じこもっていたから、体がもう埃まみれで。

だからシャワーと、そして何か飲み物と食べ物を」

「わかったよ」

「か、感謝する」

「本当に願いは、その三つでいいんだな」

                                         .BUNKOU 13.1-139



140.『風』


「党首、圧勝です。過半数を超える勢いです」

「すると」

「ええ、わが党が政権党になるということです」

「ど、どうしてこんなに」

「風が吹いたということですか」

「風なんか、風なんか吹かなくていいのに!ということは、あれ、今度の首相は」

「もちろん党首であるあなたです」

「じょ、冗談じゃない。わきで文句言っているだけが好きなのに。嫌だなぁ…。そ、そう言えば、マニフェストにはなんて書いてあったっけ?」

「これですが」

「で、できるわけないだろ。こんなことをこんなにいっぱい書いちゃって…」

「…あなた!あなた!」

「…え?」

「すごくうなされてたわよ」

「あ、夢か、夢でよかった。もう少しでこの国の首相になるところだった…」

                                         .BUNKOU 13.1-140