単純小説11

101.『雨にも風にも負けて』

年がら年中エアコンをつけっぱなしで

メタボの体で何でもかんでも欲しがり

すぐにカッとなったかと思うとすぐにゲラゲラ笑っている

真夜中まで焼肉や揚げ物を食べ

あらゆることを自己中心に考えて

人の話も聞かず偏見で決めつけそしてすぐに忘れて

暇な時はいつもスマホをのぞき込みながら

東に病気の情報あれば急にサプリをバカ飲みし

西に疲労回復の情報あれば行ってマッサージ三昧

南で贔屓のチームが負ければバカ死ねと罵り

社会で喧嘩や訴訟があれば面白がってツイッターする

日照りの時はビアガーデン寒さの夏はサウナで一杯

みんなにデクノボーと呼ばれ

褒められもせず苦にはされて

そういうものにわたしはなってしまった

.BUNKOU 15.03-101

102.『デストロイヤー』

そいつは何でもかんでも、どんどんゴミにしちゃうよ。

まだ一度も使っていないもの、出来たての食べ物や新品の洋服や

新しい本だって、どんどんゴミにしちゃう。

人間が一生けんめい作ったものを、どんどんこわしちゃう。

小さなものから大きなものまで、プラスチックだろうが

金属だろうが何でもどんどんこわすよ。

こわされないものはない、それも一回も使う前にね。

地球の資源をどんどんゴミにしちゃう。

もったいないって、誰かそいつをやっつけられないかって?

だけどそいつは誰にも止められない。

信じられないだろうけど、多くの人が逆によくやってるって、

そいつをほめるよ。君だってきっとそうだ

そいつの名前?「品質」って言うんだ。

.BUNKOU 15.11-102

103.『ガラパゴス』

別に不自由していたわけではないが、

長年使ってきた携帯もガラケーなどと呼ばれて、

絶海の孤島ガラパゴス諸島に例えてそう呼ばれているらしいが、

何か取り残されてる感じで、さすがに私ももうとスマホに切り替えた。

そしてようやく指使いに慣れて辺りを見回すと、

もう誰も指なんか動かしてはいない。

「まだガラホ使ってるの?」

「ガラホ?」

「ガラパゴススマホの略だよ。指で画面をめくるなんて古い。

今は、こうちょっと目線を動かすだけで、その思いを感知して

見たい画面に移ってくれるんだ。スマホももうガラパゴス行き」

その最新携帯を見せてもらうと、私の思いを感知してか、

ガラパゴスのイグアナが長い舌を出していた。

.BUNKOU 16.01-103

104.『月旅行』

「見て、地球よ…」

「ああ…」

「ホント、青くてきれい…」

「宝石のようだ」

「あそこで暮らしてるのよね」

「ああ、いとおしいくらい美しい…」

「…」

「月旅行がこんなに身近になるなんて」

「文明の進化ってすごいわね」

「アポロの月着陸をテレビで見てた頃は、

まさか自分も月に来れるようになるなんて思ってもいなかった」

「それも格安で…」

「次の予定は?」

「昼食よ、ムーンベースで和洋中の食べ放題」

「食べ放題?」

「他に売り物がないのよ、このツワー、地球を眺めること以外、何にもない月面だもんね」

「まったく…」

「まったく、何よ?」

「いや、ズボンのベルト緩めておくかな」

「緩めすぎると、宇宙服から空気が漏れるわよ」。

.BUNKOU 14.03-104

105.『近未来』

情報があふれている。映像や音があふれている。

人々には、もはやゆっくりとそれらを見たり聞いたりしてる時間はない。

人生の時間は限られている。寿命は延びているが、それ以上に人生は急がしくなっている。

知りたい情報、知らなければならない情報が次から次へどんどん山積みにされていく。

早く見聞きして、早くこなす、早く処理する、早く、早くである。

そして出来れば同時にいくつかを行う。

たとえば食事をしながら妻の話を聞きテレビのニュースを見ながら届いたメールを確認するように。

本や新聞は斜め読みが当たり前、映画やドラマも倍速で見る。

そして小説はほとんどが300文字以内になった。

.BUNKOU 14.04-105

106.『超特急』

朝の通勤ラッシュ、快速列車の扉が閉まり、乗り損ねた人たちは地団駄踏む。

そんなに悔しがらなくてもいいのに…。

私たちはもうすでにすごく速い乗り物に乗っているのですよ。

私たちが乗っている乗り物、それは地球。

地球の自転速度はなんと時速約1700Km、

そして太陽の周りを時速約10万Kmで回っていきます。

そしてなんとその太陽系は銀河の中を時速約90万Kmで回っているといわれています。

そしてその銀河系はおおよそ時速200万Kmで宇宙空間を動いているといわれているんです。

だから私たちはすでに猛スピードでこの世を駆け抜けているというわけです。

だからまぁゆっくりと行きましょう。

上司「で、今朝、遅刻した理由は?」

.BUNKOU 14.01-106

107.『ポイント制』

それでは今回導入いたしますポイント制についてご説明いたします。

今までは過去の経歴などから判断しまして決定を行なってまいりましたが、

印象に大きく影響されるのではないかとか、

判断材料に偏りや抜け落ちがあるのではないかと、

以前から多くの不満があげられておりました。

今回、それぞれの行為に対しまして、

事細やかにポイントを定めることによって、

判断の公正化を目指します。

お手元の冊子をご覧ください。

それぞれの行為に対しての加点、減点ポイント数が記載されております。

これらはたえず自動で累積されて、最終、総合点におきまして、

プラスの場合、マイナスの場合の行き先が決まります。

ここまではよろしいでしょうか、エンマ大王様?

.BUNKOU 14.01-107

「2018年6月17日 掲載作」

108.『戦争』

「すると」

「はい」

「この世から戦争がなくなると…」

「はい、実際の戦争は今、全てコンピューター操作で行なわれます。

兵器の使用から部隊の行動まで、まるでゲームのように…」

「そうだが」

「では実際の戦闘も、実害を伴わないゲームで行います。

全てコンピューター上だけで行うのです」

「たとえば」

「国家間に戦争勃発の危機が迫ったとします。それぞれの国が

その戦いにかける資金と、勝利条件を入れます。そしてゲーム開始!」

「ゲームで決着がついたとして、負けたほうが素直に納得するかな?」

「その場合は、また戦争です、もちろんコンピューター上で」

「これがうまくいったら…」

「はい」

「確実にノーベル平和賞だな」

.BUNKOU 15.06-108

109.『政権』

「政権獲得に打って出るというんですか?」

「皆、何度も総選挙を経験している強者揃いだからな」

「確かに、国民の支持は、今の与党とは比べものにはならない、

若者を中心に最近は中高年まで評価は高いですからね。

と言うことは新党結成ということですか?」

「そういうことになる」

「皆がこぞって立候補したら、投票率は史上最高、浮動票はほとんどこちらに流れ込みますよ」

「それが狙いだ」

「しかし国政を任せて大丈夫でしょうか?」

「皆が長年つちかってきた対応力を持ってすれば、必ずやこの国を甦らせてくれるに違いない」

「いよいよアキハバラから国政への挑戦ですか、これを聞いたら彼女たち驚くぞ」

「問題は、センターを誰にするかだな…」

.BUNKOU 15.04-109

「掲載作」

110.『行列』

「これは何の行列です?」

「生まれ変わりの順番待ちですよ」

「生まれ変わり?」

「お忘れですか、以前にも何度か並ばれたはずですよ」

「また生まれ変われるんですか、じゃ今度も人間がいいな」

「あなた人間だったんですか。無理ですよ、また人間になるなんて、

そりゃすごい確率なんですから。宝くじに当たるようなもんですよ」

「あなた、前は?」

「亀ですよ、だけど亀になれただけでも超ラッキーなんですよ。

大抵は微生物とかそんなもんなんだから。生き物は山ほどいる、

命は全部いっしょ。何になるかはまったくの運次第」

先の方で怒涛のようなどよめきが起こる。

「どうやら誰かが人間に生まれ変わると決まったようです」

.BUNKOU 15.03-110